§ 絶対値 §

人の営みにはスケジュールというものがあり、中には、関わる人間のその後の人生を大きく決定付けかねないものさえある。

しかし、そうした契約上の期日の重大さを軽んじて酒や性や趣味を優先する快感を知れば、忽に身を持ち崩すものだ。

そういう類の人間は確かに存在し、その行動とはまこと愚かである。

私のことである。

メリーが私の論文に赤入れしてくるなんて

嬉しかった。

仮にこの論文が期日通りに提出され私のアカデミアとしての身分を担保してくれることになったとしても、こんな論文の内容なんて捨ててもいいってくらいその横に書き足された文字が、普段のとぼけスカした美人面からは想像できない殴りつけるような赤入れ文字が、私の脳細胞をイオンレベルで不全にする。

書かれている文字は総じて疑問か否定;この論文が私の倒錯した自己認識であることを認識している彼女がそれを:私を:拒絶していた。

メリーは私の取っておきの紅を勝手に水に溶いてこの文字を書いたのらしい、使い方は正しくないし、正しくない使い方で紅を減らされたことは普段なら大喧嘩のところだけど、今回に限ってはその紅はどんな口紅よりも蠱惑的。

メリーの隣を歩くことには、どんな男に言い寄られるよりも最高の価値がある。その彼女が、こんな風に、私に。

最ッ高ぉ……

出会ってから今まで、一度もそんなことはなかった。初めてなのだ、メリーが私に、こんなふうに殴りかかってくるのは。自惚れでなければ彼女とは出会ったときから双方向、その場でプロポーズしたっていい(昔は男女間でしか子供を作れなかったらしいじゃない?)くらいだったけれど、メリーは〝いいお嫁さん〟の枠を超えてこない部分があった。確かに今までも、細かな問いかけや疑問くらいはあったけど、今回のは全然違う。彼女の姿が消えてややも経ち、姿を探しに来たことは間違いないが、今ばかりは彼女の姿がここにないことが、恨めしい以上に美しいと思った。私の脳味噌をカラッカラに干乾びさせておいて、こんな形でお預けを喰らわせてくるなんて、ガチで濡れる。

空腹みたいにヨダレが湧いて、強ストレスに屈したみたいに奥歯が軋む。眼の前にチカチカ星が踊って私を馬鹿にしてくる。爪を咬む癖がぶり返した。ああ、ああメリー、なんて、あなたは、なんてッッ!

メリーが書き込んだ疑問には全てに回答する手札があるし、否定してくる言葉をそのまま跳ね返す魔法理論も持ってる。メリーの目を一般化するための仮説だって構築済みだ。でも、彼女の言葉一つ一つが、最高に私の芯を焼くの。私を疑い、否定し、そうやって自分の存在を私に押し付けてくる、彼女の精一杯の自己主張が、最高に下腹部に響く。

私が用意した手札と魔法を全てぶっ放したとしても、メリーには私では決して手にすることが出来ない不可避の弾丸を持っている。あらゆる術式で論理武装して、あらゆる回路で理路構築しても彼女の目をどんな理屈で陳腐化せしめても、それでも彼女のそれはただの一撃で私を殺す銀弾だ。その銃口は、いつでも私のこめかみに押し付けられている。

こめかみに銃を押し付けられた感触を錯覚しながら机の上で伸ばした指が、「常陸国風土記」のハードカバーに触れる。これがきっと「結界発生装置」なんだ。だって、私の理論の中にはこんな物、一行だって登場していない。でも彼女はこの、私が全く見向きもしなかった書物一冊から、私を撃ち抜く弾丸を作り出して、私に突きつけたのだ。この本には、何か秘密が込められている。

秘封倶楽部の、本当の目的。秘密の解剖と暴露。そして、そこに至るという二人の暗黙の終幕。でも、アプローチが違う。同じ道を歩いているのに二人は、右と左別々の方を見ながらだから。

逆なんだよ、メリー。私とあなたは、全部、あべこべなんだ……だから、ふふっ!

私は秘密の実在性を否定している、そのことが逆説的に秘密の確からしさをより強くするのだ。そして、メリーは全てをすっ飛ばして実在を直接観測する目で、私を疑っている。やっとその牙を剥いた、その弾を装填してセーフティーを下げた。指先に軽く力を込めるだけで、私の理論脳髄は、御釈迦だ。そうされないためだけに私は、この世の全ての実在性を問うて見せる。

メリーからの宣戦布告愛の告白ですっかりのぼせ上がった私は、骨董な天然植物パルプの紙に古風な光反射インクで書いている最中の論文の一枚を無造作に掴み上げる:彼女の書いた肉感的な手書き文字が、匂い立つように揺れている。紅は私の持ち物だったけど、この赤はもうメリーの血みたい。彼女の意志が私に向けられて突き勃っている。血にしては色が薄いなんて野暮は入り込まない。

メリーの初めて、私に向かって赤、白い繊維に滲んで広がっている。その赤色が、酷く、酷く酷く艶めかしく映る。

初めての……これってもう、メリーの処ッ血じゃん

会ったときにはもう処女じゃなかった、私もだけど、回春の切望が満たされると思うと、それは今すぐにと焦燥に変わった。彼女の書いた筆跡を舌先でなぞるように舐めると、びりびり電気みたいに体中が粟立って震える。女体の輪郭で反響した波が、中心に集まってくる。熱になって液になって、腹の下に降りてくる。メリーの股間の匂いを想い出しながら、彼女の赤色の倭文を舐め回して、書かれている私への抵抗がペニスみたいにヘソ下からせり上がってくるのを感じながら身悶えた。

ア、うっ……んっ

赤いインクをべっとりと唾液で溶かしてその倭文恋文を食べながら、堪らずに机のヘリに股間を擦り付けてしまう。熱い、めちゃくちゃ濡れてる。ぷっくりになってて、擦り付けると無機物の鋭さが心地よかった。

はっ、ん……めりぃ……っ

誰もいない部屋で、目に見えない誰かを誘惑するように腰をくねらせ、視線をあちこちに泳がせる。みてるんでしょ、メリー。どこかで、こんな風にメリーの恋文で性欲に餓え狂った私をっ!

紙を更に何枚か無造作に掴み寄せて、彼女の書いた文字を机の角に被せる。ぐずぐずに形の崩れた淫唇の形が浮かび上がる濡れ布を、その上から押しつけた。前後に左右に腰を踊らせて、セックス、これ、もう。

机の角は少しだけ私の腰よりも低くて、でもその差が余りにもちょうどよかった。脚をガニ股に開いて腰を落とした高さで、木製の角が、裂け目の上始まりに丁度よく当たるのだ。メリーがよく手をかけている辺り、ここに、擦り付けっ……!

オっ……あ、アっ……んんっ❤

<>の字に開いた脚で腰をヘコヘコと振り女の中心を机の角に捧げて身悶える。腰が止まらない。淫核から伝わってくる圧迫摩擦が全身を震わせ、走り抜ける電流は脳味噌から理性的な思考を剥ぎ落としていく。その下から現れたのは肉色の原色性欲、ただ下半身の満足を求めて粘膜の摩擦を求める下劣な動物性の真理。私はその、非理性的でありながら決して嘘を言わない、それでいて柔軟な拡張性をもった性欲というもののあり方が大好きだった。それに、気持ちいい。酒も薬も特殊な手続きも必要としない、インスタントで本物の陶酔。そして、それをくれるパートナーの存在。

メリー、メリぃっ❤

彼女のいない彼女の部屋で、彼女の名前を呼ぶ程に、くすんだ色の快感がせり上がってくる。メリーに触って欲しいのに、彼女はいない。メリーがいないからこそ破裂しないまま膨らみ続ける欲情が、快感を押し上げていく。

シャツの裾を引っ張り出して下から手を突っ込み、もう、ブラの下から直接乳房を自慰する。目を瞑って、メリーの大きな胸を想像しながら自分の胸を触ると、胸を愛撫しているようなされているときのようなとろけた感覚が広がった。もっと強く触ってほしいと願えば、指は私の乳首を触って喜ばせてくれる。

マン汁でメリーのラブレターが使い物にならなくなる度に、トイレットペーパーみたいに次の紙を掴んで股間と机の間に押し込んでは、またグズグズにしてしまう。ヌメ汁が止まんない。机に濡れ光沢が広がり、徐々に部屋には匂いが立ちこめてきた。彼女からねだってくることはあんまりないけど、私が求めると驚く位に求め返してくる。この部屋でメリーと一緒に蛞蝓になった回数なんて覚えてないけど、この部屋で私が一人オナってるのは初めてだった。

お預けとか、趣味悪いよ、メリーっ……いや、趣味、良すぎっ、んゥ❤

両手で自分の両乳首を触りながらガニ股に開いたアソコをヘコヘコと角に押し付けて、マヌケなダンスを踊って快感を貪る。

背と腰を弓なりに反らせてアソコにメリーの紙のざらつきを感じると、紡ぐべき言葉を見つけられないでいる喉が、泡立ちと共にくくっと鳴った。発情ヒーターで加熱された吐息と体液が、私の体から止めどなく溢れてくる。がり、がり、響きそうなほど強く淫核を机の角で自虐すると、稲光のような鮮烈な閃きがつま先から脳天まで突き抜けては股間に集まる。<>脚の中心、濡れそぼったクロッチの奥から、突き抜けるほどの潮を噴く。

んべっ……おっ……んぁっ、んっ、んっ、あっ……あえっっ❤

貴重なメリーの手書き倭文ラブレターが私に性的消費されていく;赦し難い蛮行だってわかってるのに、摩擦をやめられない。股間に感じるメリーの赤入れインク、本物の指が攻めてくるときみたい……ううん、それ以上、かも。

淫核への刺激を求めすぎて、脚だけでは支えきれなくなってしまう。でも乳首への刺激は惜しい。形振り構わず性感を求める余り、上半身を机の上に投げ出した、自重で股間に机の角を押し付けながら、机と上半身の間で潰れる胸の先端を、諦めずにこね回し続ける。つま先立ちとクねり腰で股間刺激を続けながら、潰れた胸でオナニー。倒れ込んだ机の上でまぶたを開けると目の前にはレポート……メリーの手書き文字。舌を伸ばしてそれを舐める。

いヒっ……ん、おっ……いいっ……角オナで腰ヘコ、とまんにゃい……❤おっン……!へぁっ、ほ、っッ❤奥に、欲しくなるうッッ❤

臍の下で沸騰している性欲が、いよいよ限界を超える。こんなのでは足りない。レポートを何枚か乱暴に掴み上げて、ソファーの上に転がり込むように倒れる。

スカートを捲り上げて濡れたパンツを脱ぎ捨てて、仰向けになった股間にメリーのラブレターを押し付けて、擦る。股のレポート用紙はすぐにふやけて破れたけれど、突き抜けて現れた自分の指をメリーのペニスだと思って淫裂に押し込んだ。レポート用紙を口の中に突っ込んでメリーの味を感じながら、子供もいないのに弄り過ぎて膨れ上がった乳頭を、ただ性行為のために潰して虐める。これがメリーのペニス指なら。

んっ、おーっっっ、んぉぁっ……はーっっ、はーーっ、めりー、めりぃぃっっ!もっと、お、もっろっっっ❤もっろ奥ぅっ❤

ソファーの上で膝を立て、つま先で持ち上げた股間に、指を埋める。親指でクリを潰しながら、中指と薬指をまとめて膣奥に押し込んで、欲しいところを押し潰した。メリーがもう憶えてる、私の殺し方。自分で撫でても丸わかりなくらいザラついてて、恥ずかしいくらい弱い。クリと一緒に刺激すると、バカみたいに感じる。ううん、バカ。

んもぢ、い……メリーと概念セックス、これぇ、今までで一番、クる……ッ❤はーーーっ、はぁぁっっ、はへっ、もっと、もっと私の実在を認めて……メリーの中に、私を突っ込んでッ!!❤❤❤

ぶしゅっ、ぶしゅっっ❤ザコいまんこが、あっさりマン汁鉄砲を放つ、自分の手にあたってなければ、部屋の何処かをしぶきで濡らしてしまったろう。これなら、ぶちまけるより後始末が楽、そう思ったらますます引っ込みがつかない。

メリーが噛んでくれていると想像しながら自分の乳房を押し上げて乳首を噛む。一方でマンコに突っ込んだ二本の指を、知り尽くした自分の弱点に宛てがったまま細かく震わせる。その振動がそのままクリに伝わるように親指を伸ばして指の腹を、剥けた肉豆に押し当てる。

相手もいないのに降りてきた子宮の入り口が、こっちも❤こっちも❤とGスポ苛めに忙しい指に向かって自己主張する。解る。子宮の左右で、卵巣が暴れてる。子作りしようって、今この場にいないメリーに、卵巣がプロポーズしている。種付懇願してる。子宮が開いて求婚してる。本人、今、いないのに❤❤❤

フッ、ぐふぅっっ❤ンぐ、ぉ、おッ!

オナ欲が高まりすぎて姿勢を保つ意識が薄れてる。ソファーの上で自分の指を迎えるみたいに腰ヘコブリッジしちゃっていたけど、それさえも保てない。片足はソファーの上に突き立てたままもう片方の足は床、体を斜めに傾げてまで股ぐらを全開に晒して、両手は股間と乳首ブリッジを支えるのは、快感によじれて反り返った肩と頭。

メリーの尻が毎日のっかってるソファーの座面の匂いを嗅ぎながらオナアヘ声が止められなくて、呼吸を制御できずにヨダレが垂れてくる。だってオホり続けて息継ぎしたらメリーのケツ汗臭が鼻を粘膜コスって肺を満たすんだよ、エンドレス媚薬注入じゃん❤

すーーーっ❤おっ❤おゔぉぉぉっ❤クるっ❤マンコにクるっ❤とめらんないっ❤

手だけが意識と関係なく機械みたいに動き続けて、勝手にオナニーを続ける。頭の中はここにいないメリーの顔を脳裏に描いてはそれがマン汁でふやけて消えて真っ白に白飛びするサイケ映像を勝手にリピート再生してる。脳味噌の中までがマン汁でタプタプになって、描き出される彼女の綺麗な顔がメス臭で魅力的になる。くちゅくちゅくちゅくちゅ自分のアソコが自分の意志とは関係のない自分の手で掻き回されて快感自動生成マシーンになっている環境音にかき消されて、脳内のメリーが何事か喋っているが聞こえない。これが聞こえたら彼女の居場所がわかるのだろうか。でもどうでもいい、私の灰色の脳細胞が今までの人生で収集し記憶してきたあらゆるスケベ画像を用いて、脳内メリーのスケベコラ画像を組み立てる仕事の方が、今は重要だった。何かゆっているメリー。〝もっと指増やすね〟?わかった、増やすね❤股間に突っ込んでいる指を二本から三本に増やした。

太っっとぉい❤メリーの指チンポっ、エグすぎるってぇぇ❤キくぅっ❤メリーとセックスしすぎてぷっくり盛り上がった肉、押し広げて❤奥キてキてぇっ❤もっとぐぼぐぼッて!

男は希少品だから買うと高い、安い男もいるけど質が悪い。同学年の男子は、男だてらに大学まで来てる良家の男子だから喰うわけにはいかない。本物のちんぽなんか数えるくらいしか入れたことのない穴に、メリーの指はもう憶えていないくらい入ってきている。私が当然メリーの中に入った数もそれと同じだけど、きっともう男のペニスなんか入ってもガバガバなんてレベルじゃない、スカスカだろう。今日日、異性間でのセックスなんて別になくても良い珍味でしか無いのだから。メリーの指だけ来てくれれば、いい。メリーの中にだけ入れれば、いい。女同士のセックスが一番気持ちいい。滅びかけの男とかいう遺伝病患者はもういらない。

ほら、メリー、私、いないかもよ!?本当は私なんて、メリーなんて、存在しないんだから❤だからメリー、私を、メリーを、この世界を、異世界も、それを全部ひっくるめた何もかもを、実証してみてよ!目で見たそれを、クオリアでなくて、吐き出して!脳味噌の中から〝実在〟を取り出して私にぶつけて殺してっ❤そして私を、最高のアクメさせて!実在の記号同士で絡み合って、二人で本物の衝突❤本物の摩擦❤本物の繁殖❤しよ❤❤❤

指先をくの字に曲げて、弱点を自虐して自分を絶頂に追い込んでいく;いや、自動絶頂装置と化した空想上のメリー指が、イかせようとしてくる。ぶしゃぶしゃデタラメに吹き出すマン潮を帯びた親指の付け根でクリトリスを滅茶苦茶に押しつぶしながら、指先は膀胱の裏、膣の天井、それに直腸に響く奥と子宮口、感じる全部をランダムに刺激してくる。全部のイきスイッチ、私のメリー指、全部知ってるっ❤

っっおっ❤絶対見つけるからぁっ!そしたら、んぉっ、そしひゃら二人で婦人科行こっ❤私の遺伝子あげるから、二人の子供作ろっ❤おっ、ん、ふひっっ❤メリー❤メリーっ❤探しに行くから、逃げるなよッ❤無理っコレ無理っっ❤おっぉ〜〜\⁄﹀\_╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/〜〜っ❤んぎ、っん❤んをっ❤イグ、それイグッ❤んぉ〜\╱﹀▔╲︿/〜無理っ❤まんこ無理っ❤イくっ、イくイグっイグっイグっっ……❤

トドメ。全身を反り返らせる筋肉を強張らせて、腰を天井に向けてヘコ上げて、両手に掴んだ弱点を、一気に、潰す。

っ〜〜﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿╱\╱︺▔╲▁︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿︿╱▔︺\/\︹▁╱﹀▔╲︿_〜〜〜〜〜ッ!!!❤❤❤

ビクンッッッピンッビクビクガクッガクッ

もう喉が発声を忘れて潰れた空気を押し出しているだけ、焦点の合わない目が震えてヨリ目になる。眼筋が無茶な動きをして痛い、網膜には白飛びした星が煌めいて、脳味噌には映像のない快楽の意味だけが爆発を続けている。突っ張った下半身の中心で、締め上がった穴が水鉄砲を飛ばしている。肉穴を勢いよく通過する飛沫が快感を引き伸ばしてアクメ波を断続させる。その度に、また、吹き出す。震える。へコる。

おっ……んぃ……っは、ぁっ……はーっっ、はーーーっ…………はぁっ、はあっ、はあっ……

淫唇が勝手にパクついて、いもしないペニスをまだ求めている。指を当てると、別の生き物みたいに、一瞬膨らんで、ひゅっと縮まった。ひりついた粘膜が、急激に冷えていく。吹き出し股間を濡らした淫液の飛沫は、股ぐらと太腿と尻肉の間ではらはらと乾いていく。

どさ。

ソファーの上に、崩れ落ちた。眼の前にいたメリーのような何者かの幻影が消えて、自分の両手は自分の手の中に戻ってきた。メリーの手は何処かに消えてしまう。

ああ。

声だったような、ただの呻きのような何かの音が喉から漏れ出た。寂しいのか、虚しいのか、楽しかったのか、気持ちよかったのか。全部がぐちゃぐちゃになった音。心臓から直接抜き出されたような溜息。

アクメの波が引き終わって消え去っても、ソファーの上でしばらく動けなかった。オーガズムの後に幸福感に漂うのは、二人でするときだけ。一人のときはいつもこうだ。急に襲ってくる寂寥、彼女が私を置いていくのではないかという恐怖。

視界はとうに戻っているが、泥酔したときのように意識が二重にブレたオーガズムの二次症状がなくなり、いつものように私の聡明な脳細胞が働きを取り戻す。世界がクリアに見えてきた。こうでなきゃ、私じゃない。

冷めきった溜息を深く吐き出して、私はソファの上で体を起こした。そのまま立ち上がって、彼女の部屋を見回す。

ぺっ、アホくさ……なんつーオナニーしてんだよ私……はぁ

口の中に残っている天然パルプ紙片を唾液とともに彼女の家の小さなキッチンに吐き出した。まだ洗っていないティーカップが置かれたままだ。長期外出のつもりは、なかったのだろう。

濡れた下半身が自然乾燥した嫌な感触を自覚したくなくて、下半身裸のままで彼女の部屋をうろつき歩く。今更何を探し回ったところで彼女の痕跡は前に来た時に部屋をひっくり返すくらいに探した。全然見つからなかったのはよくわかってる。風呂場も湿気を孕んだままだったし、洗濯籠には下着が放り込まれたまま。冷蔵庫には口のあいたミネラルウォーターもある。私が部屋に来たとき用の歯ブラシは、乾いていた。

口に含んだ天然パルプ紙なんて別に美味しいものでもない。大枚はたいて買い込んでイキって使ってみたけど、今はこの有り様だ。なんでこんな紙切れにメリーを見出したのか、自分でも頭が痛くなる。それがこの何か来る大きな出来事に繋がったのなら、その成否は歴史が評価してくれるだろう。

彼女が私を疑い否定し、その反証のために一人で何かをしにどこか―それが七夕坂という場所だろう―に行ったのだ。彼女にとっては結界を観測す見るという当たり前の行為だったとしても恐らく、彼女の外の世界即ち世界の殆どの部分にとっては、立派な儀式となる:何を祈る儀式だ。

レポートの切れ端は、まだ少し指に濡れて絡みついている。なんならアソコにも張り付いてるし、机の上でも下でもぐしゃって千切れてる。指先のそれにはメリーの書いた赤文字の紅が物悲しく滲んでいた。メリーの匂いどころか自分のマンコの悪臭が漂っているそれを、口に運び直す。ロクな味ではない。それでもこれが、メリーの残した私への倭文ラブレター。彼女が織り上げたミステリの織物を、私が全部解き直して台無しにしてやるのだ。

私はその紙切れを、飲み込んだ。

七夕坂:失われたその地名に何かが隠されている。常陸国風土記はそこにどう絡んでくるのだろう。

勝手に終わらせたりしたら、承知しないから

私の求める統一理論と、メリーが見る結界;この二つが同じものを指しているのだと見つけるまで、この活動は終わらせない。

§ 御濱降神事 §

これだけ人類が地球に理不尽な仕打ちを続けているというのに、地球は存外に人間を生かしておいてくれている。

核融合発電錬金術が実用化したものの、化石燃料の使用と温室効果ガスの排出が減っただけで、罪悪感を消し去ったエネルギー抽出によって大気圏内の物質片っ端から顕熱させることを厭わなくなり、温暖化の進行は二〇〇〇年代と変わらず平常運転中だ。気候変動は激甚日常:例えば日本では四季に加えて雨季が生じた。しがみ付くようにカレンダーの表記にだけ残っている夏季はすぐに雨季にバトンを送り、一頻り熱気を押し流すとすぐに秋季へ。湿度を残したままの冬季は年に幾度かの大雪を殴りつけて、やがて夏の薄皮の如き春季が訪れる。そうした変化は文字通りに地球規模:世界中で海岸線は変化し、枯渇と水害が極端化している。一方で人間は……適応していた:というか、植物とはかくも丈夫だったのかと、生産者の強固さに甘え続けている。今や砂漠は排熱の末に無理やり草原に作り変えられ、極地にさえ畑が耕され、人間は命脈を謳っている。

星って案外死なないのね

そりゃ人間よりは長生きだろうさ

星の神様に殺されるわよ

交通事故で死ぬより全く光栄だね

蓮子っていつもそんなこと言って、ちゃんと歩道歩くじゃない

わざわざ車道に飛び出して自殺ごっことかするわけないでしょ

えっ、しそうじゃない?

どういう意味だよう

天香香背男もとい、天津甕星が何の星の象徴であったとしても、それは地球のようなハビタブルな星のことを指さない。対照されるのは太陽であり、地球惑星が生きようが滅しようが甕星恒星には関わりがないだろう。

天香香背男と言えば邪神、その〝邪神〟が自称太陽神からのお仕着せであると言うことを脱がせても、天津甕星が星の神であることは揺らぎない;かの神を祀る神社が星を望む高台ではなく、海に臨んでいることは少々意外だった。果たして、星神ということさえ本当なのだろうか、今となってはそれを知る由もない。仮に、天香香背男が天津甕星であり天津甕星がその呼び名の通りであることを前提とする:メリーと一緒に暫定した。

で、見える?

地図にある海岸線とは既にずれていて護岸も間に合っていない海岸に臨んでメリーと、恐らく二〇〇〇年代とそう大して変化のない女学生の営みをしている:昔の大学生もこんな風に不思議を探しに旅をしたりした……のかな。

メリーは双眼鏡を構え、随分暴れる水平線の方へとまんまるく大きな目を向けている。昔は別に沈んだり顔を出したりするような性質ではなかったらしいが、今見る限りでは、水没している時期とぎりぎり顔を出す時期があるようだった:沖合の、小さな磯岩のことだ。

うーん、波が下がった時に一瞬だけ……やっぱり船を出さないとちゃんと見るのは厳しいんじゃ?スキューバでもする?

そうでなくて、結界……もまあ見えてないってことか

私には現象として顕在化した現象を見ることは出来る(それは五感の備わる人間であれば大凡だれにでも出来る)けれど、その根源を見ることは出来ない。〝根源〟……この世界に発生する現象に〝原因〟を見出すことは出来ても〝根源〟などというものの姿があることに、私はまだ信じられていない。その輪郭を描き出そうと獺祭のごとく数式を並べてみても、私の理論ではまだ、それは朧気な薄い姿として予想できているに過ぎない。実在性など、証すことが出来るのだろうか。

昔はもう少し顔を出していたのかしらねえ

結界が?

そうでなくて。

でも、メリーは見えるのだという。私のように饒舌に数式を並べ倒すことも、未踏の世界際の界面を意識することも、まして、実在性なんて言う言葉を弄してそれを問うことも必要無く、彼女の目には紛れもなくその〝根源〟が見えているのだという。結界。世界を結わう、界面を繋ぐ、境界を縫う〝根源〟。現象ではない。現象は、結界からもたらされる。メリーいわく、摩擦のようなものだという。結界は界面であると同時に門であり、摩擦という比喩を用いる程に異質であるのに、通過できる程に結合なのだと言う。信じ難いが、それは、現象ではなく存在なのだと。

羨ましい。どれほど私がその能力を欲しているのか、否、欲してきたのか、彼女はあまり理解していないようだった。私が妬ましさを露わにすると必ず「私だって蓮子のものが欲しいのよ?」とはぐらかすのだ。「だったら持っていきなよ、交換する?」なんて煽り返したら何故かいつの間にかラブホにいて、それが今の彼女との関係の原点だ。それからずっと、私は彼女の目を羨んでいる。

〝濱降神事〟自体は海に面する関東一円にあったみたいだけど

どうかしら、私は……この御濱降は他の場所のとは違う感じがするわ……

やっぱり何か、見えるの?

確かに、彼女の言うことも一理あるのだ。メリーは、確かに〝この世界の秘密〟の根源を視覚的に知覚できるらしかったが、それがどこにあるのかまではわからないらしい。視界内に収まっていれば見えるけれど、例え薄っぺらい壁であっても、その向こうにあって見えなければ、当然全く検知は出来ないらしい。ただ、根源が引きずり出した現象(音だの光だのオバケだの)については、普通の人間であれば知覚できるものだから、身近であれば察知できることがほとんどだ。問題はその結界がいつ、どこで現れるのかがわからないことだと言っている。奇妙なことに、これについては私が得意だった:彼女はその事を言っているのだ。

次に結界が現れるだろう場所の予測や、それがいつであるのかの予見については、私のまだ不完全な理論であっても十分役に立つレベルで弾き出すことが出来ていた。

だから私達はバディを組んで、その〝秘密〟を暴くことにしたのだ:それが『秘封倶楽部』。

いいえ。今はまだ

そっか

肩を竦めるように、さっぱりだわ、のジェスチャーを見せるメリー。正直、濱降神事そのものにはあまり期待していなかった:行事として新しいからだ。

当時行われていた濱降神事なんて、由緒書だけで見れば精々江戸時代までしか遡れない新しいものだもん:「秘密〟への索道としては弱い。ただ、由緒に残らないもっと昔からの歴史もあるんだってさ。ここで重要なのが、御根様。

あの磯の岩がどう重要なの?

神域としての磯、扱いはほぼ御神体だよ。そこまで視野に入れれば、江戸時代からの由緒は〝ただの名残〟だってわかる。メリーの言う通り、ここの濱降神事は他の場所のとそこが違う。

不思議な形をした立石とか、日の出日の入りと重なってるとか、そんなんじゃなくて、本当にただの磯岩が、どうして信仰対象になるのかしら

この辺り、ずっと昔には陸地にあったのかも知れないね。その頃には何か重要なランドマークだったのかも。

なるほど突拍子もない話ね

そう言って双眼鏡を覗き込んで再び海の方に視線を投げるメリー;その先には辛うじて水面に顔を出す岩が見え隠れしている。この地の人と文化がゾンビになる前、ここで行われていた濱降神事も、今のような形骸ではなく本当の信仰の姿だったに違いない。伝統を今に残すなどと叫ばれて形ばかりの延命を施された多くの〝祭〟は、記憶も、そして当然その本質も、失っていた。神輿を海に向ける理由も、海に顔を出した岩くれを崇める理由も、今となっては全く理解の及ばない心象行動だ。よしんばその理由:つまり旧キリスト教的な言い方をすれば奇蹟のようなものの由緒を知ったとしても、当時の人達のような敬虔さを以てあの岩に向き合うことは出来まいと思う。もう、失われているのだ。だから、ゾンビ。

御根様の姿は拝んだし、本体の方にもお参りしに行こうか

やっつけねえ

今はまだ。

〝まだ〟ねえ。じゃあ次は大甕神社ね

世の中が七夕だ七夕だと浮かれている日に、別のお祭をやってるんだって。なんか変わってるよね。宿魂石、まずはそれにお参りしなきゃ。

そんな痕跡を追いかけているだけで、メリーはそこから〝根源〟を見出す事がある。私は……それに甘えていたと言っても過言ではない。

今思えば、大甕倭文の伝説なんてものを探りにかかったことが、元凶だったのだと思う。

彼女は、失踪した。

§ 静 §

赤く焼けた空に、走る線路がくっきりと輪郭を引いている。輪郭線を延長した先に真四角に生える駅舎は、潔癖なまでに白。そしてそれよりも手前にはよく手入れされた草原が緑を塗り拡げている。ただ、この時刻では空の赤色がじんわりと漏れ出してしまっていた;昼間であれば、キュビズムらしい見事なコンポジションが拝めたのだろうが、何事にも寿命があるというものだろう。明日も晴れれば日の出とともに復活する無遠慮な原色の配置は、本来抽象化された姿だからこそ魅力的になり得るものだ;人知に解釈される以前の実体として存在してしまえばどれほどに無味乾燥としたつまらないものだろうか、と思い巡らせてしまう。今が夕暮れ時で良かった;もしそうした完璧なコンポジションが現実世界に実在しているのを目にしてしまえば、そんなものを敢えてカンバスに落とし込もうとするわけがないのだ。現実の世界に存在しないからこそ、抽出された記号の描き出す幻想は、美しくある。昼間に見れば、そのクソつまらねー風景、がこの視界いっぱいに広がっていたのだろうと思うとぞっとしない。それなら美術アーカイブで見る。

前にメリーと来たときは、こんなに気にならなかったのにな

失踪した妻を探しに来る男ってのはこんな気分なのかと思ったり、私は別にメリーの旦那ではないのでは、と思い直したり。なんだか複雑な心境を抱いたままここまで来てしまった。それでも彼女を探しに来ない選択肢は、なかった。メリーを探し出すということそれ自体もそうだったし、彼女を見つけ出さないことは、もっと大きな問題を引き起こす(私とメリーの関係という意味ではなく)ような気がしていたからだ。その予感の正体はわからない。ただ、メリーが「結界が、見えるわ」と何処か淋しげに虚空に視線を投げている時間に感じる、得も言われぬ焦燥感が、彼女が失踪してからずっと消えないままなのだ。

なにも、こんな場所じゃなくったって、よかったんじゃない?メリー

旧き良き時代の人の営みを懐かしみ再生と保護を叫んで、方法さえわからず生み出し直した歪なバケモノの子。それがこの自然文化保護区だ。

曰く「人の心にさかひたる、のちの世のさかしら心の、つくりみやびにして、まことのみやび心にはあらず」。歴史と文化の保護だかなんだか知らないが、かくあるべし、と外側からたいやきの如く型をあてられ、変質を避ける死に体の風景になど、文化も歴史もあったものではない。潮の匂いも、草の匂いも、するというのにこれほどの殺風景を意図的に作るなんて、人間は本当に愚かになってしまったのだな。そう思わざるを得ない。

旧常磐保存線を降りしばらく流したところで見えた風景に、我ながら期待しすぎていたのだ:その過剰な夢見こそ、この様な死んだ風景を作り出す原動力だったに違いない。そう思えば自らの内にもこの様な空虚な文化観念が住まっているのだと反省せざるを得ないところだった。

こうして保存されている文化というものの中に、「交際は男女間で行うもの」という風俗があったらしい。まだ性行為で自然妊娠する能力が人間に残っていたからだという。人間の生物としての生命力がまだそれだけ旺盛だったということなのだろうが、そのせいでパートナーの性が固定化されてしまうなんて、自然妊娠が可能な時代も良し悪しである。しかも今と違って世界の人口の男女比は半々くらいで女余りではなかったらしい。なら、好みの異性というものと出会える可能性があったのかも知れない。私は、メリーが相手で、メリーの相手になることが出来て、よかったと思ってる。それは人間から自然妊娠の能力が失われ、世界に男という性がほとんどいなくなってしまったから、与えられた幸運だ。昔は良かった、なんて退廃的な思想には同意できない;それはこの歴史文化保存地区についてもだ。

まあ人が生活している領域なら、幾らか人間的でしょ、多分

溜め息混じりに気を取り直す。こんな場所に、メリーは一体何用があったのだろうか。いや、わかっている:七夕坂だ。その七夕坂なる地名は、しかし今日こんにちとうに失われていて、現代の地名との比定は困難だった。私にそれをさせようというのがメリーの狙い、だとは思えなかった。私を否定して問い、あれほどに強く殴りつけてくる内容が、ただのリアル宝探しの依頼だなんて筈がない。その向こう側だ……多分。

お遊びでデバイス識別名にEmeraldと名付けているタブレットデバイスを開き、改めてこのあたりの地図を確認する。常陸国地区は自然文化保護区に認定されたせいで、このような無色透明な原色風景をはめ込まれてしまい、現実的にほぼ小綺麗な観光地と化している。観光地には観光地なりに古い歴史があったりもするものだが、この地区のそれはあまり感心しない形で作られている;断絶しているのだ、時間が。時間が断絶しているから、空間にらしさが生まれない。つまりそういうことなのだろう。何もこの地域には歴史がないなどとは思っていない。ここをこのようにした人間にその造詣がなかったという悲劇の遺跡なのだ。

宿くらい考えてから来るべきだったわね。うっげ、どこもかしこも高い……。メリー、持ち合わせは……って、いないんだった

そう、メリーはいない;メリーを探しに来たのだ。

守りたい風景とやらを邪魔しないよう景観に配慮した施設の並んだ、駅前から広がる一帯は観光商業地となっていた。歴史文化保存地区では、歴史ある町並みとやらは、その形相因を潔癖に維持するために極めて頻繁に質料因を交換されている。また新しすぎるものはない一方で、維持を阻害するものは歴史的であっても回避される。駅を出た目の前の道にはトランスポーターはないし、環境を汚染しうる古い化石燃料自動車もいない。全てが〝ちょうどよく〟調整されている。わざわざアスファルト風の素材を使用した舗道に白いステッチのような図式をプリントして視覚情報に依存した交通ルールの施行を維持し、走っているのは化学燃料を用いた自動車……と見せかけて、当時の輪行車両に形を模した手動制御のトランスポーターである。その走行量は制限され〝車は珍しいもの〟だった時期の光景を恣意的に作り出している。当然、移動範囲も制限されていて、関東からちょっと足を伸ばせば車で来ることが出来た、なんていう歴史も消されている。なんて、ばかばかしい。

これを見て何が嬉しいのか、観光客他人はそれなりにいた。本質を殺してまでこの時空に縫い付けた〝歴史〟的な通りをもう少し行き離れたところには、同様な宿泊施設もあるが、ご多分に漏れず観光地価格だ。手持ちが底をつく心配をしているわけではないが、だからって好き好んで高い金額を払いたいかといえばNOだった。この高い価格には地区の保全費用に回される税も含まれている;こんなゾンビみたいな風景の保全に金を出すことになるのも気に食わない。こんなことなら車でこればよかった、最悪車中泊でも……とは思ったが、恐らくこの地区には私の化石燃料車も侵入できないだろうことを思い出して頭を振った。自然文化保護区にガソリン車を乗り回すなんて、寧ろアーミッシュだろうに。

まあ、生活費アカウントから引っ張ればお金ははなんとかなるか……前来たときの宿が使えればいいのに

旧常磐保存線は観光列車だ、夕暮れ時とはいえまだ日が沈みきっていないこの時間で終電:私が乗ってきたのがそれだ。移動手段はこの辺で借りられるレンタカーになるだろう、このあたりで借りれば環境適合認証を得ている車が得られる筈だ。仕方ない借りるか、と思いながらタブレットデバイスの地図上を眺めて「実地検証地点」と書き入れた幾つかのポイントを確認する。これらはいずれも〝七夕坂〟の候補地だ。それと他にも幾つか、関係しそうなポイントを含んでいる。

前に来たときは、先に海を見に行ったんだった:今年はまた海岸線変わってるっぽいけど。今回は先に大甕神社跡は行くことにしていた。

でももうこんな時間だしなあ、明日にするか……うん?

終電は終わっている。まだ空に太陽が見える内に終電とは些か〝田舎〟の再現が極端過ぎて現実からも乖離しているんじゃないかと思わなくもないが、当時のことを私は知らない。さてその終電が行った後だと言うのに、とぼとぼとした歩みで駅から出てくる人物があった。ここは観光地で、終電が終わったとはいえ宿泊を決め込んでやってきている観光客はまだ駅前の観光商店街をたむろしている;そこに子供が一人や二人歩いていようと何ら不思議なことはないのだが、その姿が妙に気になってしまった。それが、小学生か精々が中学生の年頃に見える男の子だったからだ。

男?

家族連れの一欠片だろう。向こうからは悟られないよう、自然を装い、彼の姿の向う側にある何か(何も無いが)を見るようなフリをしながら、その子供の姿を追う。家族が仮にありそれを探して不安そうにしている、という素振りでもない。ただ、男性が、一人で歩いている:これはとても不自然な光景だ。

そもそも家族のある男であれば、一人外に放り出されるわけがない。常陸国風土記にこの土地のことが語られているような昔と違いもはや種内水平伝播のための貴重な外部装置と化した男性は、家族の中でも高価な奴隷として扱われる。十六歳で成人して独り立ちした後も社会からはそのように扱われる。優秀な女性に飼われるか、有象無象の女から種付人種として扱われるか、極端な人生を送る:男という性に主体性はない。このことは人権上の致命的な問題として国際社会で長く問題視されているが、私が生まれてきたときには既に問題として染み付いており、今以て全く解決の目処は立っていない。なにせ女余りの地球においては、男性を共有財産としてDomesticateすることは全世界の女性の利害に一致しているのだ。それなりの女に選ばれた男は喜んで女に付いていくし、女も男にありつけるなら男の主体性は死んでいた方が都合が良い。

年頃の男の子が一人だなんて……危機感ないのかな

この状況を「人間の技術は進化スキャンダル2.0へ至っている」とする論がある;つまり、科学技術によって男性との交配機会が極端に少ない問題を解決し、究極的には女性のみでミューラーの装置にも赤の女王にも抵抗できる力を得たという主張だ。もう一方で「これではこの星はいずれ滅ぶ、大切な問題だ」とする科学者もいる;どちらかといえば後者の方がコンセンサスを得ている。にも拘らずそれは問題として大切にされているのだ、人間とは救いようがない。

地球規模の人類種の話なんてどうでもいい、私にとってはメリーは男性だろうが女性だろうが関係なくて……しかし女性であることへの物足りなさというのは完全に払拭できていない;だって、下半身はやはり摩擦を欲してしまう。それは、私にとってのメリーがそうであるように、メリーにとっての私もそうなのだ。

さて、かの少年の方はと言うと、どうにも周りに関係者がいるようには見えなかった;あんな年頃の男性が一人であるているなんて、危なっかしいと言ったらない。

しかし、ここから盗み見ている限り、彼が男娼と見做されて声をかけられたり、あるいは有無を言わせず連れ去られたりしないのには、ある程度の合点が行くところがあった。まるで一人で歩いているのが自然で、人を寄せ付けない妙な雰囲気がある:遠目からでもわかるほどだ。焦げ付いて洗い落とせない寂寞のようなものが揺らめいている、影:そうだ、あの少年の影が……なんだか、駅前に歴史を気取ってわざとらしく配置された様々の興冷めオブジェクトたちとは、色が違って見えていた。彼の足元から伸びる夕方の長い影の中に〝姿を持った寂寞〟が蠢いているように見えるのだ。それは男性という遺伝病を持って生まれてきてしまった自身を呪う闇ではない、もっと別の、何か。

彼の視線がこちらに向いていない間に、こちらからの視線を悟られぬよう彼の影をじつと見ると、しかしその影は何の変哲もない影でしかない。気のせいか:目を逸らしてその影絵が視界の隅に追いやられると、途端に再び色合いが浮いてその影がまるで蠢くように見えてしまう。メリーの目を頼らなくても、私から見ても判るレベルに、嫌な感じがする。

それでも、だからって妙齢の男子が生活みのない土地で身一つ歩いている光景自体、公序良俗的にヒリついた印象を受けることに代わりはない。もしそうした〝危なっかしい〟男が好きな女が現れたとしたら、彼の纏う人に対する忌避剤のような空気も、役には立たないだろう。

世の中には見えている地雷を踏みに行く愚かな人間女がいる。

私のことである。

弁明するなら、メリーも無自覚にそういうところがある。自分の食指が動くということは、メリーにとっても同じだ:というのは、予てより何度も実証されていた。

あんなの、メリーだったらほっとかないだろうなあ……好み、似てるしなあ

なんて、パートナーと異性嗜好が似ているなんて何の理由を思い浮かべながら、私は彼の長く伸び既に人の形を保っていない影を、踏んだ。

§

ネェ、ボク。一晩おいくらか知ら。お姉さんと遊ばない?一晩付き合ってくれたら、たぁくさん、お礼をしちゃうわ。お小遣い、要らない?

えっ?

先に声をかけた人間がいた。金髪を揺らした長身のいけ好かない女、いかにも遊んでそう。美女と言うには冷ややかでキャリアウーマンと言うには派手すぎる、胸が強調され体のラインが浮く様なぴっちりしたワンピースにスケ感のあるショール。二の腕まで隠す手袋。鍔の縮れた丸みのある帽子と、何も入っていなさそうなハンドバッグ。白いストッキングに踵の細いヒール。時代錯誤な感じはこの土地には似合いかも知れないが、生の人間として歩いているには違和感が否めない。そして何より、見上げるほど背が高い。

コスプレじみた(とはいえ何かのマンガのキャラクターという感じでもない)女が一人でいる。男が一人で彷徨いているのもおかしな話だが、こんな女であれば女であっても話は違う:自然文化保護区にはどうにも場違いに見えた。少なくとも自然や文化を見に来たわけではなさそうで、だとすると最初から男を買いに来た好き者ということだろうか。繁華街以外にいるものなのだなあと、少し感心してしまう。それにしたって趣味が悪い、こんな虫の好かない恰好の女、同じ金髪ならメリーのほうが百億倍可愛い。

駅舎の方を眺めている少年から見れば、私も、そして女も背後から近寄る形だった。だが斜陽に伸びた彼の影に足を踏み入れた瞬間、男の子は何かを察したように振り返った。別に気配を消して近づいたわけでもないのだから察された事自体には何も驚くことはないのだが、それにしても距離がある。私が逆に驚いてしまったのは、少年が振り返ったときの反応が、背中に突然触られた子供のようだったからだ。但し振り返った先にいたのは私ではない。一足、ほんの一足、この女の方が先に彼に声をかけていた。そのタッチの差を女は振り返り厭味ったらしい笑みで私を流し見てくる。ごめんあそばせ:そう聞こえてきそうな、細い上弦月の目。薄気味悪ささえある。

サ、行きましょう?大丈夫、怖いことなんて、ひとつもないもの。フフ、期待してらしてね、うんとよくしてあげるから。その代わりに私のことも同じくらいよくして頂戴な。マァ、マァ。可愛らしいのね。お口もお手々も、お顔も声も、ぜぇんぶタイプだわァ。さあ、わたくしの贔屓の宿でよろしくって?それとも、もっと気の利いたところをご存知?

鼻につくなんて生易しい形容では及びもしない、不愉快極まりない口調、イントネーション、身振り、目付き。きっと吐いて捨てるほどに金を持っている上流階級の女。なんだか火の点かない和蝋燭のような女だった。

断られるなんてつゆほども思っていないのだろう、お前を買う、と宣言してからすぐに、口上じみた科白を吐いて彼をこの場から連れ出そうとする。私に、見せつけるみたいに。

女が、少年の手を引きながらもう片手をひらりと挙げると、流しのトランスポーターが止まった:乗っていくつもりらしい。女が半ば強引に少年の手を引きトランスポーターに載せようとする。体格差がひどい、女は見上げるほど大きいのに対して少年は子供の中でも小柄な方かもしれない、男という生き物をそう多く見たことはないのでなんとも言えないが。ともかく背丈にすれば倍以上の差があり……つまり、少年にはほとんど抵抗ができない状態だった。

ま、待て待て待てぇぃ

なんだこの口調。

我ながらおかしなテンションで飛び出してしまった。飛び出してどうするのかは、余り考えていなかった;大体、なんで飛び出したのだ。この男を取られたくなかったなんて、そこまで食い付いたつもりはない。ただ……なんか、この女はダメだろって感じがしてしまって。

女にトランスポーターの中に押し込められそうになっていた少年を、タオルか何かみたいに引きずり出す。

な、なんですの、あなた

悪い悪い、これ、私のツレなんだ

まあ。出鱈目を仰らないで。

「デタラメなもんか……えっと」(ねえキミ、名前、名前だよ)

し、静しずる……内藤静しずるです

ああシズル・ナイトウ、そうだそうだ。いっつもお前お前って呼んでるからど忘れしちゃったよ、ハハハ

背の高い蝋燭女は、ぬらりとした顔の下に明らかな不快感を埋設した表情で、私を見る。

失礼しちゃう。クネクネして根暗そうなひと。学生さん?

な、何がクネクネだよ、そっちこそ八尺様かっての

?

売り言葉に買い言葉、をしたつもりだが、背高女はきょとんとしたまま理解していなさそう。なに?を首を傾げて奇妙なものでも見るように私を視線で舐める。

八尺様、伝わってなさそうです

少年がひそひそと耳打ちしてくる。彼の表情もどことなく渋いのは、自分が渦中の存在となったからばかりではなく、私の発言の意図を知った上でそれが通じてない痛々しさを察したからだ。女はどう見ても上流階級、オタクミームカルタで会話できる相手ではなかった。

ふ、ふん。八尺様もわからないようじゃ、このあたりで男を買うなんて無理だね。さ、シズル、宿魂石を案内してくれる約束だったじゃないか、行こう

しゅ、宿魂石ですか?

そうだよ、前から頼んでたでしょ。三箇星ミカボシの〝合〟が来る前になんとかしなきゃいけないんだって。頼むよ姉弟〜

えっ、あの

そういうわけでオネーサン、私達はここで失礼するよ。

ばんばんと背中を叩きながら彼―シズルと名乗っていたが―の手を引く。女の顔を見ないように手を振り、変な勢いの笑み向けて、この場を離脱する。利害は一致しているのかシズルくんは私の引く手に抵抗はしなかった。いくら高慢そうな女とて、流石にこの状態で私を振り落として彼を奪取するような暴挙には出ない;女は不服そうな顔で私を見ながら、つい、と翻ってどこかへ行ってしまった。

終電が終わった後も観光列車の姿を眺めんと残る幾許かの客と、後始末をする鉄道公務員だけが残る人影のまばらな駅を一本離れ、女の影がなくなったのを見計らって歩みを止める。駅前通りからは一本、二本、と入った形になる、店舗こそ多いが行き交う人の数はぐっと少ない。沈みかけの日は加速し開けた通りから潜り込んだせいで低いアングルの日光は店舗に遮られている:ここはもう薄暗い。そこで私はようやく彼を振り返った。

で。こんなところで何してるの。男の子が一人で外歩いてたら危ないよ。

なんでですか?

なんで、ときたか……

今日日、真正面からそんなことを問われることなんてないので、つい面食らって一瞬黙ってしまう。

あー、観光地には旅の恥はかき捨てとか言って、旅先で性を買うのを楽しみにしてる人が結構いるから

おねーさんもそうなんですか?

そう。って、言ったら、ぶん殴られそうな顔してるね

殴りはしませんけど、不愉快ですね

おー、いい目。もしかして、まだ自分は生きるのに不利な方の性だって自覚してない系か?若くて、生っぽくて、可愛い:メリーのお土産にしたいくらい。

少年の目は相当に鋭かった。私に引かれてきたくせに、不審感剥き出しの、敵意にさえ見える刺すような視線。顔は……正直かなり可愛い。年齢のせいもあるだろうけど、やっぱりこれくらいの真ん中感が私は好み。うっすら出た喉仏とか、顎のラインの骨具合とか、男らしさが少しだけ出ているのもまたポイント高……なんだけど、その態度、もしかして本当に世間を知らないのか。

実際に声をかけこんな風に引っ張り出してどうするか、特に考えてはいなかった。買春女から助ける形にはなったけれど、正直買春くらい誰でもやっていることだし私も大して悪いこととは思っていない。一般的には貧しい男を助ける募金のようなものとして認識されているし、種が欲しいが男を飼えない中流以下の女にとっては、野良男を見つけて囲い込むのはポピュラーな方法だ。それだけに全く何故こんな風に脱出したのか理由がわからなくなっていた。

ただ……あの女はダメだ、という強烈な予感のようなものがあった。ジュードノ様付きの癲狂な巫女の形振りを見て以来、あっち側に近い感じの人間の雰囲気に、過敏になっていた:きっとそのせいだ。その予感が本当に信頼に足るかどうか、増してあの女がそうした存在だったのかを確かめるすべなどないのだが。

ナンパと言うつもりではなかったけれど……こうして彼を間近で見るに至って、それでもいいかなと思い始めていた。顔は好みだし寝るのにちょうど良さそうな背丈だ:メリーにも紹介したい、きっと気に入ってくれる。二人で人工授精してもいいが、精子がタダで手に入るならペットのいる家庭も悪くない。さっきの女には申し訳ないけど。

そういうつもりじゃないんなら……キミ、身分証は持ってる?

え?

身分証。市民カードとか、何かの免許証とか

そんなの、持ってないです

だよね。やっぱり家出かな

遠目から感じた妙な雰囲気であるとか、影が妙な色に見えたとかそういう話は全部抜きにして、彼に話しかけるのは確かに面倒なことだったと思い直すことになった。男娼でもないのに、身分証の重要さがわかってなくて、この対応?ちょっと普通の子じゃない。百歩譲ってここが新いばらき市駅西口の法境界な繁華街だったとしても、こんなわかりにくい子はいない。ましてここは縮約政策を取った政府が、それにも拘わらず直々に潔癖なクリーン化が推し進めている自然文化保護区だ。公的権力が、ホームレス一人彷徨かせる筈がない。

迷子でなければ、家出でもした?このあたり、身分証不携行でキミくらいの子が一人で歩いていたら、多分あっという間に補導されるけど……それでおうちに帰るの狙ってる?

いえ、違いますが

ここからお巡りに連れてかれても、面倒な説教を小一時間聞かされたうえでほっぽりだされるのは多分新いばらき市のどっかだよ。ここいらはともかく、新いばらきのお巡りは教育がよく行き届いててキミみたいな子の事情をよく理解してくれているから、連絡先なんか言ってもワタリはつけてくれないからね。

家出じゃありません、僕はただ用事があって来たんです。

用事ねえ。この辺、身分証なしで長時間滞在できるような施設はないし、下手なセンサーに引っかかったらすぐにお巡りが飛んでくる。寧ろよく今まで見つかってないね。仕事してないのか、警察。困ってるなら、協力してあげようか?

用事なんてものは方便だろうが、我ながらなんて悪そうな話口だろう。さっきの女の方が真正面からいった分マシに見えるじゃないか。まあ、私の方も下心があってのことではある、弱肉強食。

別に困ってません。一人でも大丈夫です。

残念だけどキミくらいの歳の男の子がこういう場所に一人でいるのを〝大丈夫〟と見做すかどうかは、キミ自身の裁量ではないんだよね。身分証があって、十分な年齢を証明できるなら一晩中でもここにいても文句は言われないと思うけど

……ここは、そんな恐ろしい場所なんですか

えっ、ま、まあ、普通はそうでしょ。恐ろしくないために、そういう仕組みがあるんだよ。

本当に世間のことがわかっていないのか。もしかして、元々は相当いい家の箱庭で飼われてた子だったりする?社会生活を営んだことがあれば、身に付く感覚な筈だ:男が搾取される側を常とする不利な性であることも含めて。

まだ陽があるから忘れがちだけど、もう終電無いんだよここ。車やトランスポーターの進入も制限されてるせいで、このまま明日まで、ここは半ば閉ざされた空間になる。今の時間はまだ見回り緩いけど、ここは新いばらきの市民公園ホームレス居住地とかじゃないんだ。……一番近い機能都市まででもかなりあるけど、徒歩で帰る気?

いえ、帰るつもりはありません。やることがありますから

じゃあ何処かに泊まるんだ?

まあ、そうなりますね

だから私が手助けしてあげようか、って言ってるんだよ。身分証なしで泊まれる場所なんか、知っているの?私と一緒に行動してれば、キミは無事この土地に残留できるってわけ。そうでなければドロップアウト、用事は果たせない。

おねーさんはなんか……怖いので……別の人にします

あー、私みたいに〝ものわかりがいい〟人、そんなにいないと思うケド?別の人にお願いして、もしその人がまともだったなら、見返りなしに助けてくれたり、泊めてくれたり、交通費を出してくれたり、するわけないでしょ。まともな大人なら、公的機関に連絡して然るべき対応をするものだよ。まあキミがそれでいいっていうのなら、止めないよ;勇気を振り絞ったの家出の旅路は、残念、ここでおしまい。お巡りに連れ出されて……いや、新いばらきの警察なんて身分のはっきりしない人間それも男をどう扱うかわかったものじゃないけどね。男ってのは、不幸だよね

今の私、完全に悪人である。公権力にしょっぴかれそうなのは私の方だ。

だから家出じゃありませんって。それに野宿でもなんでも、方法は……

自然文化保護区を舐めてる?昔の牧歌的な時代をわざわざ再現しているなんてバカみたいな性質上、身分証があればセキュリティは都市部より緩いくらいだけど、身分が不明な人物には異様に厳しいんだよ。そう、ちょうど今のキミみたいな人物だよ。イマドキの小中学生は自然文化保護区のこと、学校で習わないのかな

身分証が彼の手元にあるのなら確かに宿泊施設が利用できるだろうが、家出にわざわざ身分証持ってくるなんてロックじゃないしね。今まで運よく(悪く?)検出されなかったにせよ、早晩身分不明の男子が彷徨いていることがセンシングされ、この土地の警察がすぐさま保護誘拐しにくる筈だ。旧常磐保存線の登りはもう終わってる;そんな駅に、こんな歳の具合の子供が一人でいるなんて、訳アリに決まっていた。家出ではないと言うが、十中八九、広義には家出だろう。身分証がないのは、下手をすると市民ネットに登録さえされていない可能性はある。もしそうだったら……ちょっと面倒くさいな。

実は私も旅行者でね:このあたりはどのお店も〝配達エリア外〟だから……今夜、ちょっと困ってたんだよね

配達……?

言葉を反芻してから、一瞬目を見開いて、顔を赤くする。

お、女の人ってすぐそういうこと言うんですね!

そうだよ?

なんだよ、可愛いな。めっちゃムラつくじゃん。

でもこれくらいの隠語の意味はわかるんだ。全く世間知らずのお坊ちゃまってわけではなさそう。しかし、それにしたって奇妙な言動だ。

ま、キミがなんでこんなところに一人でいるのかなんて詮索はしないけど、お巡りさんに補導される方がいいってなら、無理にとは言わないよ

それは、困ります

少年は、小さく言って俯いてしまった。

……困るんです

そんなにしてこの土地に残りたい理由まではよくわからないけど、流石にここまで悪人ムーブすると罪悪感が勝ってきた。男娼買春なんて都市部じゃちょっと値の張るだけの普通の娯楽みたいなものだし、それ自体はなんとも思わないんだけど……本人に自覚がないってのはちょっとね。

私はいよいよ、お手上げ、と両手を小さく挙げるポーズを見せて、白状する事にした。

ああ私ってば悪人にはなれないね。いや、可愛いから許す、の延長なので悪人ではあるのだけれど。

ああ、わかった、わかったよ。悪かった、ゴメン、ちょっと苛め過ぎた。キミ、可愛かったからさ。私はただ宿代を安く上げたいだけなんだ。一人で泊る観光ホテルより二人で泊まったほうが安い宿のアテがあるから、そこに泊まりたかっただけ。ついでに男が抱けるかもって思ったら悪心が湧いちゃった。でも、そういうのナシ、ヤらない、約束する。私はリベラルだからね、男性の権利の平等には賛成なんだ。うん。

じと、と悪いものを見るような目。さっきまでの鋭い目もいいけど、そうやって人を疑ってるような目も、その可愛い顔には似合うなあ……ってだめだめ、そういうのしないって。しかし最近の小中学生って受け答えしっかりしてるんだなあ。

悪かったってば……。実際、どう?キミにとっても悪い話ではないと思うけど。この辺は自然文化保護区で観光地化してるから、統合旅館業法の施行後に出来た女の子の店とかラブホは結構厳しくチェックされる:宿泊した人間の認証とかね。でも……改正前からずっとある施設では、そうとは限らない。後出しの法制度ってことになるから、ある程度のお目溢しがあるんだろうね:地域性もあるし。で、知ってるいいホテルがあるんだ;多分、私が名前を書けばキミはスルーだよ。私は、安い宿に泊まりたいだけ。キミはこの土地で安全に夜を明かしたいだけ。

さっきの女とまるで同じことを言っていないか私?

こんなところにいるリスクは全部ぶちまけたつもりだけど、それでもここに残らなきゃいけない理由があるのだろうか。本当に何か用事があるのだとしても、彼は彼で身分証を持っていないと言うから怪しいと言えば怪しい。訳ありには間違いないのだ。

そういうの、ナシでよければ……お願いします

わかった。約束。しないよ。

ワケアリの少年:じゃあ、私は?訳ありと言うほどではないが、他の人には説明がしづらい旅行である。言いづらいわけではないが。

もうこうなったら可愛い男子と茶飯添い寝だけのストイックコースで我慢する、この辺の宿は高過ぎてかなわない。

彼の素性は不明なままだ、彼と一緒にいると身分証に黒バツが一つ付くかも知れない……けど、まあいいか。なんとなく、本当になんとなくだが、悪いことにならないような予感があった;それは今までの秘封倶楽部フィールドワークの経験上で得た悪い経験の蓄積だったかも知れないがともかく、愚かな人間私には余り危機感は響かなかった。

助かった。今まで旅の計画において手抜かりなんかしたことはなかったが、それは単にメリーの分もきちんと準備をしなければと思っていたからだ。一人で来るからと持ち前の計画性のなさが大暴れした結果、ホテルの手配もしていなかったしましてテントなんて持ってきてもいない。彼に野宿なんて無理だと言い放った手前、用意の手落ちを見せるわけにはいかなかった。なんとかホテルに滑り込まなければ。メリーは、どうやって夜を過ごしただろうか。

私はタブレットデバイスを開いて、彼の眼の前にホテルの位置を示す。件のラブホテルは地図アプリへの情報提供を拒否しているので、そこには何も書かれていない。これを見せても……変な疑念が湧くだけだったかも。

こ、このあたりにあるんだよ、ホテルが。駅前のどっかでトランスポーター借りて……だ、大丈夫だよ、ここのレンタカーって移動範囲制限されてて遠くに行けないようになってるから、誘拐とか、出来ないって……

何墓穴掘ってるんですか

……キミにここでツッコまれたくはなかったなあ

§ ホテル §

さあここだよ。安いから、なんとかここに泊まりたかったんだ。キミのお陰で泊まれそう

このホテルでは、代表者一人が身分証を出すが目で見るだけで特に市民ネットへのID照合はしていない:それは調査済みだ。名簿にだけ宿泊者全員の名前を書くよう指示されるが、多分この情報は何にも使っていない。古いホテルだからこういう用途の抜け穴になっていることは界隈では有名な話だった:何より、安い。宿泊を安く抑えるために少人数で利用する客が跡を絶たないために、普通の客とすれ違うことがあるせいで、逆にラブホテルとしては使いにくくなっているという本末転倒な具合だ。宿自身も、一般客が泊まることを黙認している。メリーと前に来たときにもやすいという理由でここを使った。結局ラブホテルとして活用した形にはなったけれど。

このホテルは既に半分ラブホテルの体ていを捨てているのだけれど、設備そのものはラブホテルのままだ。設備の更新さえされている;恐らく登記上も旧風営・旅館業・消防三法には適合する状態なのだろう。でも新しい統合旅館業法には恐らく適合していない部分があるから、マップにはのっていない。常陸国地区の旅館組合の会員としては名前が上がっていなかったが、きっと何らかの理由で隠然とした立場でも持っている宿なのなのかもしれない。旅館業というのは何処かでヤクザなものなのだろうと想像だけは出来る;細かい事情までは知らないが、そういう点ではいつ廃業になってもおかしくない宿だった。

お名前をお願いします

今どきラブホテルの受付に人間を使っているなんてのがそもそも珍しい。これから性行為をしますって宣言を他人に申請するようなものだ。受付の人の顔はこちらからは見えない、でもまあ向こうからは見えるようになってるんだろうなと言う想像はつく。

彼が宿泊者名簿に書いた名前は「静内藤」:フリガナ欄には「シズルナイトウ」と書いてあった。さっき名乗っていたのと同じ名前だ。この土地常陸国地区でなければ気にしないが、この土地に限って言えば、「静」の字は作為的にすぎる:一方で偽名かペンネームにしては冴えない。自然に呼べる名前でありながら偽名であると見せる、いいライン偽名を使うものだと感心してしまう。まあ、行き摺りには違いないのだから、細かいことはどうでもいいのだけど。

静しずるくん、ね。でも十六歳成人済みは……無理ない?十二か三でしょ?

関係あります?

ないけど。

そう、年齢は関係ない、名前もどうでもいい、エッチしない……のは、ちょっとだけ惜しくなってきた。この年になると無意味に生意気に振る舞うというのは、男の子でもそうなのらしい。が、強がり方が女のやり方と少し違うので新鮮だった。

名簿に名前を書いて部屋を指定する。オフシーズンだからだろうか、部屋は幾つかの中から選ぶことが出来た。

どれがいい?

ど、どれって……いわれても

ムチャなフリだったのはわかってる、私から見てもまともに選ぶのは難しい。なんでホテルの室内にメリーゴーランドみたいな馬が置いてあったり、小学校の用具室みたいな設備があったり、電車内みたいなレイアウトだったり、中国の豪邸みたいに無闇に絢爛だったり、するのか。いやラブホテルだからなんだけど……ラブホテルでも結構変わった部類の方だったのでは……?

これ、で

りょーかい

モジモジしながら静しずるくんが選んだのは、その中でも比較的普通そうに見える、ちょっとゴージャスなビジネスホテル、みたいなレイアウトの部屋だった。解る、まあ無難だよね。

ちなみにメリーと来た時は、全面鏡張りの部屋だった。

エッチはしないんだから、恥ずかしがることないのに

わ、わかってますよ

手続きを終え入るべき部屋の鍵が渡されると、道案内のライトが点灯する。いこ、と手を引っ張ると……緊張しているらしい、不意に、想像以上に強く手を握り返された。

意識はしていなかったのかも知れないが、男の子の、小さいのに硬い手が自分の手を強く握ってくる。さっきまでのツンケンした態度とは裏腹の、不安だとか緊張の心持ちが漏れ出して、その手が自分に縋っているのだと思うと、下半身に仄熱い熱の塊が生まれるのを感じた。彼に握られた手に、汗がにじまないか心配になってしまう。リードしなきゃいけないのに、そんな風な様子を見せられたら〝リード〟を超えてしまいそう。ワナつきそうな体を律し、奥歯を強く噛み締めて廊下を行いてエレベーターホールへ。

大きなホテルではない、エレベーターホールといっても一台の昇降を待つだけの空間に小さな椅子が置いてあるだけの質素な空間だが、照明が丁度いい。暗すぎないが明るすぎず、ムードを押し付けられていると言うほどではないのに、エントランスからは随分と奥まった人目のつかないところに来たと思わせる様な奇妙なバランスがある。手は、まだ握られていた。誰に見られるというリスクもないのに、純粋に不安感から、私の手を強く握ってきている。俯いて、こちらを見ないまま、手だけが幼気いたいけを残した依存心を隠していない。

や、ば……

彼が選んだ部屋は五階だった。

彼が、選んだ、部屋。

ごくり、喉がなりそうになるのをギリギリで抑える。

エレベーターが降りてくるまでの時間、言って精々六階程度の高さを降りてくるまでの僅かな時間だと言うのに、妙に長く感じられてしまう。部屋に入って、彼を安心させない限り、私の方がマズい。振り払ってしまえば問題自体は解決するが、それはそれでなんだか負けたみたいで悔しい。心臓が暴れている。緊張ではなく、狩りを前にした、これは武者震いに近い。

彼に掴まれていない方の手の、爪をつい噛んでしまう。そうしないと堪えきれそうになかった。彼は俯いているが、そうであってくれてよかった;私、今きっと、すごい顔をしてる。

私の妻にメリー以外はないけど、それとこれとは別。メリーにも男欲はある、そんなことはよく二人で話しているから間違いない。お互いにどこかから精子をもらってくるってのも、家族の形としてはいいねなんて。男の趣味、似てるし。そう、この子、多分メリーも好きだ。私以上に、こういう子が。

ちくしょ、可愛いな、男って

理性はある、私には強い理性が。頭でっかちと半ばバカにされるように言われて生きてきた意地もある。彼とはしないって約束で来た、宿代を浮かせるためだけだ。でも。

どくどくいってる、しんぞう。

深呼吸を、聞こえないようにゆっくりと、深呼吸を。

エレベーターに乗った記憶がない、いつの間にか部屋には着いていてその間のことをもう覚えていなかった。理性の手綱を握りしめるので精一杯で、それ以外のことを記憶に留める精神的な余裕がなかった。

ここだね

はい

ラブホテルなんてメリーと死ぬほど来ている、今更施設に緊張なんかするはずがない。それなのにこの緊張感、自分でも予想していなかった。

初めてメリーとラブホテルに来たときの、あの感覚だ。法則も定理もなく公式なんか知らない領域に、立てるべき明確な式とその先に導き出される値までの道筋がはっきりと見えたときの、誘い出され操作され、抗うことのできない走性と快感。それと同じフェロモンが人体から匂い立ち、相手と二人の肉体を絡め合うときにより強く発生するという暴力的な真理。それが眼前に転がっている、期待感。メリーと一緒にラブホテルに来て、この麻薬の快楽と味と依存性を知った。今でも続けている。

そして、記憶だけを保ったまま精神のやわらかさと体の新鮮さだけを過去に遡って、もう一度その麻薬をヤるようなきらきらとかがやく抗い難いものが、そこにあった。

男とラブホ来るの、初めてなんだよね

そう、ですか

まあ、入りなよ

扉を開けて静しずるくんを部屋に送り入れる。その声のトーンが、コミュニケーションの意識を失いかけ、低く鳴り、カラカラに乾いていたことに、私は気付いていたのに修正できなくなっていた。部屋の敷居を跨ぐ彼の姿……いや、股間を見たときに、強いと自認していた私の理性は、メリーが指摘していた通り脆く崩れ去る。男の生態なんてよく知らない私でも、その意味は、知っていたから。

彼のズボンの前が、膨らんでいた。

§

結構、普通の部屋みたいですね

彼の言う通り、部屋は比較的普通の設えだ;わざとらしく雰囲気づくりをしてもいないし、ケレンな遊び要素もない。ビジネスホテルの一室を、少しだけ二人用にして雰囲気を出すための電飾があるだけだ。あと、自動販売機。今どき平面ディスプレイでのアダルトチャンネルなんて見る人がいるのかわからないが、映すことも出来るようだった:無料らしい。公共WWWワイヤドから見る限りでは、このホテルはどの店からも配達範囲外と表示されていたが、このホテルの内側からは幾つかの業者から派遣が可能らしい。メリーと来たときも「いや絶対怖いでしょ」と笑っていたっけ。

露骨に安堵の色を見せながら部屋の中に進んでいく静しずるくん、心做しか足取りが慌ただしく落ち着かなげだ。私の手を握っていた若々しいのに長い指は、今は私から離れていた。急に、寂しさが吹き込んでくる。

ベッドはまあ一つですけど、普通っぽくてよかった

ええ

お風呂とトイレも……普通のです

そうだね

普通、普通、と連呼して、普通ではないものから目を背けているのがバレバレだ。テレビ台の下で存在感を見せるグッズ自動販売機には言及しようとしない。光源は普通だが妙に赤系に偏ったライトが照っているのも見えないふりをしている。風呂を見たのに、妙に広い床面積にも気付かぬ素振りで出てきた。ビジネスホテルのベッドにはこんなに広いベッドヘッドボードはない、そんなところにティッシュも置かないだろうが、それにも触れていない。普通、普通と、自分に言い聞かせて回っているのだ。

……かわいいな……

頭の中で巡っている言葉はそれだったが、胸の中で暴れているのは苛つきにさえ近い、ムラムラとした情欲だった。性行為になんて興味ないですよ、と見せているが立ち居振る舞いが下手くそすぎてそれに失敗している。膨らんだ彼の股間をもう見てしまっている。その痛々しいいじらしさが性欲と直結しているのを、そしてその当事者が紛れもなく自分だということを思うと……堪らない。

普通に宿泊できる施設みたいですね、こんなのラブホテルだなんて―

ねえ。シャワー、先に浴びていい?

彼の言葉をわざと遮るように尋ねる:ほんの少しだけ、語気をゆるく。その変化を、静しずるくんは敏感に感じ取ったらしい。息を飲むようにして普通連呼ゲームを止めた。

あ、は、はい、どうぞ

一緒に入る?

はっ入りませんっ

そ。と彼に小さく流し目をしてから浴室に入る。

彼の言葉ではないが、比較的普通な部屋で助かった。浴室がオールシースルーな部屋だったら、逃げ場なんかなかっただろう。更衣室に入り後ろ手に扉を閉めて、私は深い溜息を吐いた。

男って、こんなにムラつく存在だったっけ?

吐いた息が熱い。全身に熱が籠もり、心臓が過剰に血液を循環させている。もう一押しあれば、肌は汗ばんで顔色も変わってしまうことだろう―いや、もしかしたらもう。

わかっている、興奮、しているのだ。

脱力して扉に背凭れる。そのまま崩れて座り込んでしまいそうだった。

私、濡れて……

違和感を確かめようと指を差し入れると、汗とは違う湿気があった。

男娼でもないあんな小さな子供にまで、女の体は反応するのか。現代、社会は既に人口の維持に男を必要としていない。女同士での人工妊娠は抵抗なく普及しているし、ヒト種の総体自身が意志を持ったように男という性の生産を抑制し、〝性〟を廃止しようとしているように見えた。今日日、男を得ることは既にただの装飾でしかない;男は女にとってのアクセサリーなのだ。だのに、いや、だからこそなのか:男を求める女、自然妊娠を望む女というのは消えずに残っており、それを望む女の持つ男性欲は強烈にゴシップ化されている。

それを、自分のカラダで、体験してしまうなんて。

男と歩くのなんて、初めてじゃないのに……!

拙い、と思った。

静しずるくんを見ていると、見ているだけで、自分がサルの延長としてのニンゲンであることを、異性と番うことの本能さとその残置を、思い知らされてしまう。身の破滅を顧みずに男を買い漁る女の気持ちを、少しだけ分かってしまいそうだった。

これじゃあ、駅前で見たあのいけ好かない女と、何も変わらないじゃない!

別に、あれは〝ムードなんか〟ではなかった:そう自分に言い聞かせる。彼は不安に思って私の手を掴んでいただけだし、私は最初こそそういう選択しもあるとは思っていたけど、しないと伝えてそのつもりでここに来た。あんな子供相手に、欲したり―

―欲したり、してるんだ……

彼の手が掴んでいた指に、自分の劣情の証愛液の感触が重なった:匂う指先をぼんやりと眺める。子供らしい怯えと、大人にさしかかった指骨の硬さが、同時に流れ込んできたものが、今でも私の指に見えない火傷痕のように残っている;メリーのそれとは比べるものではない、別のものだ、これは。どちらも、火を点けるのには十分だというだけ。

あんな小さい子相手に、正気なの、私?前に商売男を買ったときにも、こんなにならなかったのに

極端な女余り時代で、女のカラダの方にも変化があったのだ:そう言い訳を立ててみても、どこかで慙愧の棘が苛んでくる。男と言ってもこんな子供だ;年齢はわからないけど、下手をすると十は違う。そんな彼相手に、手を掴まれただけで、意識してしまうなんて。自分の理性はその程度のものだったのか、と。

それに、私にはパートナーメリーがいる。

互いの細胞から人工妊娠するでなく、どこぞの男からタネを貰ってくる形で家族を作るのも互いに気にしないメリーと二人で決めはした。そのときには先にタネを貰ってきた方がママってことにしようね、と言い交わした事実だってある。それでも、こんな風に男に欲情することになるなんて、思ってなかった。本当に女という生き物にも変化が生まれているのか……それとも、私が単に男好きだったというだけなのか。

手を開いて指を伸ばし、着いてもいない指輪でも眺めるみたいに、静くん男性の男の感触をじんと残したままの指に視線を落とす。見慣れた自分の手だというのに色も形も、剰え温度さえも違って見える。自分のものではないみたい。今は、メリーの手ではなくて……男の……

掴まれていた手、感触の残る人差し指を、舌で舐めた。

なに、して……

自分の指だとわかっているのに、じゅん、と、してしまう。

濡らした指でアソコに触れる。既に湿っているぱんつの上から、ぴり、と鋭くて甘い感触が抜ける。すぐにそれを脱ぎ捨てた。服も全て脱いで、浴室に飛び込む。

ダメだってば

ぐちゃぐちゃに整理なんてつかないまま、取り乱す心臓を押さえつけながらシャワーの栓を捻る。季節崩壊後の六月、既に茹だるほど暑い外を歩いてかいた汗を、水のシャワーで流そうとしたが水道水は冷たくもない。常温でぬらぬらと肌に絡みつくような水ではろくに洗い流せそうにない:汗も、情欲も。温度設定を上げた、火傷ギリギリに熱いシャワーは不快にぬるい水より遙かにましだった。叩きつけてくる熱が、混乱したままの頭と心臓に心地良い。

古く黄ばんだ樹脂の浴槽に立ち、壁に手をついて熱い湯を体に浴び続ける。コレくらい熱くないと、体の中の方が熱くて意識してしまう。年季の入った浴室の壁、落とし切れてないシミと残ったカビの跡を目で追いながら意識を逸らして、冷まそうとするが無駄だった。熱を誤魔化そうとしても意識をそらそうとしても、まるで月星とのAPI通信時に瞼裏にそのアステリズムが浮かび上がる時のように、目を閉じて脳裏に描き出されるのは恥ずかしそうに俯いた静しずる少年の姿。庇護欲?母性?正体はわからない、ただの男性への性欲ではまったく説明のつかない粘着質な感情が、まるで肉質にへばりついた脂肪のように、性交欲求の周りにべっとりとまとわりついている。

したい

ラブホ備え付けの、ありきたりな匂いのボディソープで体を洗う。スイッチが、入っていた。匂いの気になる場所を、自然と念入りに洗ってしまう:首筋、胸の周り、腋、足、それに股間。泡立ちと流水を感じながら、洗い立てた肌は心做しか鋭敏になっている気がする。

確かめてはいけない中身を見るべく箱を開くように、私の指は股間へと伸びた:それを止める理性が機能しない。

あッ

シャワー中でもはっきり感じられるヌメり、踏み込んだ私に取り付いてくる罠のように爆ぜて焼き付けてくる甘い電気刺激。反射的に漏れる鋭い喘ぎを、慌てて口を抑えて隠そうとする。大して厚くもない壁を一枚隔てた向こうには、彼がいる。エッチはしないなんて約束、きっともう焼き切れてる。彼、どんな気分で待っているだろう。きっと、どうすればいいのかわからなくてまごつきながら、愛らしくソワソワとしているに違いない―それとも、一人でシちゃってる?

ぞわっ、と下半身が内側から総毛立つような感覚が走る。まだ〝男〟になりきってさえいない発育途中の男性の蕾が、私を相手に、それを綻ばせようとしている。

そんなことない。あんな上等な男が、手つかずであんなところを歩いているわけがないじゃん。きっとどこかの上流家庭内で、仕込まれているはずだよ。初物な、もんか

自分の期待が男の処女性を奪うことに向いていると気付き、それを否定するように自己弁解するが、もう遅い。入ったスイッチはそのまま壊れてしまった。私に男の衣装を着せてから責めてくるメリーの気分がわかってしまった。そして、だとしたら、受ける側の感覚は……。想像して、指が、股間で動いてしまう。

クリが充血して自己主張している。メリーが〝おとこのこみたいだね〟と煽ってくるクリが、勃っていた。メスの気持ちでも、大きくなるんだから:反論を口の中で転がしながら、でもなんとなくクリを避けて触ってしまう。女として、少年という性を、貪る準備。肉芽の代わりに、下で緩んでいる穴の入口の溝を覆い撫でる。

メリーがいなくなってから、私、オナってばっか……

一人で勝手に前戯に耽って、でも今はオナニーじゃない:男に媚びようとしてる。劣等種男なんかに。洗って綺麗にしたばかりの淫裂が、すぐに下劣な牝汁で潤いを取り戻してしまう。彼に、静しずるくんに、こうやってされたら、私はどうなってしまうだろう。あの膨らんだズボンの下に隠された、男性器をここに触れさせたら、どんなになってしまうだろう。

金を出して遊び男とセックスしたことくらいはあるが、そのときは〝こんなものか〟と実につまらない感想だった。これならメリーのほうが百倍上手だし、気持ちいいし、気持ちよくしてあげる気持ちよさがあるって。でも、今は違う。する前から、肉が腐って落ちるくらいの強烈な劣情が下半身を溶かしている。本番になれば全く違う結果に襲われることは、目に見えていた。

セックスの、男とのセックスの準備なんだ。そう思うと、摩擦なんかより、その事実を噛みしめる脳髄から、勝手にアクメ波が襲ってくる。ツンと腫れ上がったクリ、ぷっくり膨らんだ淫唇、どれに触ってももはやヌルヌルで、どう触っても腰が砕けそうに甘い麻痺が包んできている。このシビレにかまけて、滅茶苦茶に陰部を弄くり回したい。少年の皮膚に張り出した骨の上に舌を這わせて、高さと低さの上手く混じり合わない声を聞きながら、男の体匂に溺れて、崩れて揺蕩いたい。

したい

静しずるくんと

セックス

セックスしたい

頭の中を乱反射する言葉を、もう宥めるのをやめた。

シャワーで体を改めて流し、しかしこれ以上の身だしなみに気を揉む余裕はなくなっていた;体を拭き、髪を乾かす。どうせ脱ぐけど服を着て、メイクを直す。これ、戦化粧だ。

更衣室を、出る。

あ

おまたせ

静しずるくんは、部屋のソファーにちょこんと腰を下ろしたまま小さくなっていた。私が出てきたのに気付いて、振り返る。部屋は私がシャワーに入ったときと何も変わっていない、荷物の一つさえ片付けられておらず、そのまま。ずっとそうして待っていたのか、緊張で動けずに、これから起こるかもしれないことを想像してその期待と不安に縛られて、馬鹿みたいに不動になっていたのか。私にくれた視線を直ぐに剥がして、手持ち無沙汰を殺しきれぬ様子で床のあちこちに視線を泳がせている、どうすればいいのかわからずに混乱しているのか。

かわい、すぎる

冷却器は捨てた。

私は、私の方を務めてみないようにしている静しずるくんの背後から、気配を隠すこともなく近づく。ソファーの背腰に立ち彼の項うなじに視線を落とす。振り返りこそしないが、きっと彼はそれを察している。ソファーの背凭れ、彼の背中がある辺りに手を置いて大きく息を吐いた。彼の背が、それに気付いていることを喋っている。

はっ、と彼は何か気付いたように跳ね立ち上がった。

ぼ、僕もシャワー……

いいよ、浴びなくて。汗かいたキミがいい

逃さない。そう言うと思ったから近づいていたのだ。

更衣室に向かおうとする彼を捕まえ、その小さい体を持ち上げて、ベッドに放る。女の私でも持ち上げられる、小さくて細い、か弱い男。ああ、喉が乾くみたい。

わ、ちょっ……おねーさん……っ?

ベッドの上に投げ出された体を立て直し、上半身を起こした静しずるくんの前に座り込んで塞がる。狼狽えて私を見上げる静しずるくん。

彼の視線を浴びたまま、寧ろその視線を好都合に、ジャケットとシャツを脱いで上半身をブラだけにする。その姿を見せるようにしばらくそのまま彼の方を見つめると……彼は恥ずかしそうに顔を俯かせた。彼が逃げるように視線を逸らせ落とした先に、外したブラを放る。

っ

顔、上げてよ

少しだけ、語気を強めて言う。怒っているわけではないが、そう思わせるくらいがいい。怯ませて、喰う。

そ、そういうのは、ナシって、言いましたよね!?

顔は上げたが視線は極力私に向かないようにしながら、怯えた声を上げる。それでいい。

ほんとは、静しずるくんだって期待、してたんでしょ

べ、別に、してません

ふうん?じゃあここには別の生き物が住んでるのかな?

ほら。すぐに逃げないから、こんな風に正体を掴まれちゃうんだ。もう私の手は彼の膨らんだズボンの真ん中を捕らえていた。男の体が性欲に嘘をつけないものだと言うことくらいは知っている;彼のそれは、言葉が裏腹であることを正直に体現していた。

男の人と夜過ごすのなんて、別に初めてじゃないんだけどサ

両手を伸ばして彼の両頬を包むように挟む。そっと視線をこちらに向けさせる。「目、閉じないで」私の顔か、胸を、見せる。

キミを見てると、初めてみたいにドキドキ……ううん、ゾクゾクするんだよね。ココが。

体の小さな彼が座り込んだ前で腰を上げて膝立ちになると、股間が彼の顔の高さに丁度いい。彼の前でスカートを持ち上げる、ぱんつは、さっき洗濯して浴室に干しっぱなし。

っ

見て

目を逸らそうとした静しずるくんを、制止する。私の強い語気に、彼は不安そうな表情を浮かべる。でも、それはすぐに消えた。私の剥き出しのアソコを見た彼の顔色は、面白いように変わっていた。

女のココ、見たことある?

あ、あります、それくらい

ある、と答えた割にその反応は余りにもウブ;知識だけはあるが慣れていない分、初めてよりも淫らさを理解している反応だった。ぞく、と彼の視線が股間から体の芯に突き刺さったような感覚が走る。電流は自慰の時の何倍にも感じる、ただ、見られているだけなのに。経験の浅い男に、自分の性を押し付ける愉悦を、知ってしまう、憶えてしまう。

じゃあもっと見て。……これ、どう?

どう、って言われても

いいよ。汚いとか、気持ち悪いとか、グロいとか、正直にゆってみて?

彼の顔の前で、陰毛を撫で分けて、潤んだ割れ目に指を乗せて、人差し指と中指で左右に開いて見せつける。どう?答えを強要する。言葉を選んで狼狽えている少年の様子を上から見ているだけで、ゾクゾク脊髄内を快楽信号が弾けまわる。お腹の下が溶けてしまいそう。

そ、その……えっち、です……

ふうん。えっちに、見えるんだ?

私の言いつけを守って目を離さないまま小さく頷く静しずるくん。膝で一歩近づくと、いよいよ彼の吐息が粘膜を撫でる。

やば……

直接触られているわけでもないのに、彼の体温を含んだ息が濡れた淫裂を滑るだけで響くような快感が恥骨を叩く。もっと刺激をと腰が勝手に揺れて、彼の鼻先が触れてしまいそう。いっそ、そうしてしまおうか:彼の頭を掴んで、その小さい唇に幼いのに通った鼻筋に、蜜を秘めて崩れかけている充血女陰を押し付けて擦るなんて、どうだろう。メリーなら喜んで吸い付いて来て、逆に私が悶えさせられるのだけど、彼はどうするだろう。

思いついてしまった欲求を抑えて、私は彼の股間に手を伸ばした。まだ半ズボンを履いたままだけれど、その中央はもう隠し果せないほどに膨らんでいる。その先端に指で触った瞬間、静しずるくんは小さく声を上げた。子供らしい可愛らしい声の中に、今まさに〝男〟に変化しようと残響のある太さが生まれつつある、声。

いい声だね

そう言うと、恥ずかしそうに口をへの字に結び直してしまった。そんな初々しくて可愛らしい仕草が余計に劣情を掻き立てる。

……勃ったからって、するわけじゃないんです、男は

女だってそうだよ。バカにしないで

はァ?……わわっ

いよいよ彼を、押し倒した。上から被さるんじゃなくって、ここは少し優しく、横に並んで。ベッドメイクされたままのシーツの上に、二人で横になる。彼の短い髪の毛を指に巻くみたいに弄んで、首、肩、脇腹。股の間。まだ、大きい。体を触られる感触と、眼前の乳房で目のやり場に困り、白黒している静しずるくん。

静しずるくんさ。オス相手の生殖本能と、可愛いメス相手の愛欲と、両方煽ってくるのって……反則だよ?

だから、そういうのはナシって……

理由が欲しいなら、宿代:ここのぶん、私が出してるから。泊まる場所なんて頼んでないって言うなら……やっぱりキミを買うよ:私、キミと、したい、セックス。

お金の話を出すのは少し卑怯だったかも知れないけど、静しずるくんもきっとあと一歩の踏ん切りがついてないだけ;あと少し、手を引いてあげるだけでいい。

男ってだけでこんなに欲しくなるなんて、思ってなかったんだ。でも、男ってだけじゃ、こんなに無理やり欲しがらないよ

……でも……

キミがシたくないっていうなら無理にヤる気はないけど……静しずるくんがシたいって言うなら、私は……嬉しいな

キス。しちゃった。柔らかい唇、男のものとは思えない。歯並びまで柔らかい。舌先で撫でてあげると、男らしい太い声で可愛い「ん」が鼻から漏れてくる。ダメだって、それ、マジで下半身にクる……❤

私の下の動きに、静しずるくんはたどたどしく応えてくれた。唾なんか口から垂れたっていいんだよ、って教えるように唾液を接合部から押し漏らすと、彼の動きも少しだけ大胆になった。静しずるくんの小さい舌が私の口の中にも入ってくる。彼の私よりも少しだけ高い体温の唾液が流れ込んできた。甘い。

彼のシャツの下に手を差し入れて肌を触る。滑らかで熱い。くちゅ、ぴちゃ、と小さな水音が鳴るくらいの口同士のえっちを、彼はもう拒否らなかった。頃合いかな、と思って口を離す。「あ」と空気の多い惜しみ声を漏らして、舌が名残惜しく伸びた。紅潮した顔で、どろりと唾液を零す。荒い息、弛緩した上半身、充血したままの下半身。ふたりとも同じ。

……どうかな?

彼は、少し伏した目で、こく、と小さく頷いた。

§ 少年性愛 §

脱ごっか

上半身を起こして、両手を前に出すように広げて彼にも体を起こすよう促す。素直に従う静しずるくんのシャツのボタンを外してあげる。自分でできます、と小さく呻いたけど無視。チラチラと私の胸を見たり見なかったりしながらされるがままにシャツの胸元を私に委ねている。彼のボタンを一つ一つ外しながら、偶にキスの不意打ちを降らせると、驚きながらも応じてくれる。小さくて柔らかい唇を重ねる回数が増えていくほどに、彼の舌も大胆になってくる。息が大きくなって、私の唇を迎えるときの口は最初から開かれるようになっていく:私の舌を迎え入れる準備。

かわい❤

やめて……ください

いいじゃん。可愛いんだから

シャツの布地は、触れば解る、上質なものだった。ボタンもよく見れば、貝殻を使った様な構造色の煌めきを秘めていた:これはほぼ宝石だ。やはり彼の出自に興味はあるが、今は問うまい。最後のボタンを外し終え、袖から腕を抜くように促す。Tシャツを脱がせるといよいよ白い肌があらわになった。まさかブラでもしていやしないかと思ったが、流石にしていなかった。女であっても、労働者階級ではなく知的生産階級か、或いは上級市民の女でないとこんな白い肌のニンゲンはいない。腕も、関節周りに男らしい骨っぽさはあるが筋肉が少なくて細い。年齢的な幼さのせいもあるだろうが、手首なんか私より細いのではないか。一見して男とわかりはするものの、男か?と思って見ると疑わしくなってしまう。そんな中性的な……可愛らしい肉体が、ラブホテルのベッドの上に、少しばかり煽情的な照明に彩られて描き出された。

女にはあまり浮かばない鎖骨から、乳房のない薄い胸板。肋骨のぶん少し長い胴。ヘソ周りの曲線は男でも女でもないような絶世のラインをしている。こっちも、と下半身も促すと。恥ずかしそうな顔をしながら半ズボン、それにぱんつも脱いで……

ちゃんと男の子もしてるね。好きだよ

顔を真赤にして俯く。

私も脱ぐね

ぱんつは履いてないし、スカートめくって見せてたから今更だけれど、脱ぎ捨てた。これで、お互いに全裸。

えへへ。これからセックスします、って感じだね

……っ///

ちゃんと見ていいんだよ。それとも本当は、女の体なんか見慣れてる?

そ、そんなわけないじゃないですか

ふふ、だよね

とはいえ流石に、見ろ、といって差し出すと少しだけ恥ずかしい。遠慮が不要になった少年の目は、恥じらいながらも露骨に私の乳房に向いている。乳房全体に、特に先端に、ちりちり彼の視線を感じる。今度は私が恥ずかしがる番だった。

おねーさんのおっぱい……すごく大きい……手で収まらない

蓮子、だよ。私の名前

蓮子さん

静しずるくん❤

あはは。恋人みたいに名前を呼びあって、可笑しくなってしまう。でも彼は笑ってなくて、顔を真赤にして真顔のまま、私のバストを見ている。男ってやっぱ好きなのかなあ、おっぱい。男にはついてないもんね。普段はブラで潰し気味だから、いきなりおっきくなったように見えたかも知れない。そして、それが彼の性欲に拍車をかけているのは明らかだった。

もう、そんなまじまじ見てェ

ぇう

見られてるだけだと、逆に恥ずかしい。触ってよ

静しずるくんの手を取って半ば無理やり触らせる。さっき、私をあれだけ狂わせた熱い指と掌が、胸に埋まった。最初は遠慮がちに、そしてすぐに無遠慮に、彼は胸に乗せた手で撫で指で揉む。ヤり慣れてるメリーと違ってセオリーがなく、たどたどしい。その行為の初々しさと愛撫のもどかしさが、逆にたまらない。相手を気持ちよくする最短ルートなんか知らなくて、自分がヤりたいようにしかわからない;それでも相手にも快感を得て欲しいと苦戦している様子が、いじらしくて可愛い。そしてその思いやりのような化けの皮を被った性欲が彼の下半身でバカ正直に勃起を維持している様が、余計に私の劣情の熱を深い内奥に沈めてくる:メスに、される。

お互いの女陰に快感を与え合う、同形のGive―Giveが大前提のレズセックスとは違うんだ;下半身でよだれを垂らしてぐずぐずに煮崩れる淫裂が思い知る。

私の意思なんか無視して好き勝手に食い散らかして欲しい;静しずるくんのことを肉食獣のように性の獲物に仕立てたくせに、男を前にした私女は、後ろ暗い欲望を臍の下に孕みつけていた。

胸、触られてるだけなのに……こんな感じる……違う、感じてるんじゃなくて、欲しくされてる、みたい

快感が押し上げられて絶頂に近づくのではない、とめどなく燃料を注ぎ入れられて、着火の瞬間の恐怖期待に震えさせられている感じ。相手のことがわからない、わからないことが、こんなにも気持ちいいなんて。そしてそれは、静しずるくんも同じみたい。

私の胸を、やり方もわからないまま好き勝手に触り回しながら、彼の下半身は前後に揺れていた。股の間で男性器と、陰嚢がふるふると揺れている。ちっちゃい男の子のおちんちんって、こんなに可愛いんだっけ……?

女を気持ちよくさせる触り方、教えたげる

彼の手を取りって一度胸から外し、改めてその掌に、指の股に、指の関節に、触る。細長くて綺麗な指……なのに関節が張ってて、女のそれとはぜんぜん違う。これ……〝男〟だ。その鋭角な膨らみに、少し硬い指先に、性を感じてしまう。これが、女としての私を求めて触れようとしている。静しずるくんの体を見ると、当然乳房なんか膨らんでいない。線は細いのに腰のくびれは女よりもなだらかで……おしりは少し大きいけど、脚はやっぱり膝や踝には角張ったものを感じる。可愛い外見はしているけど、男なんだ。彼の、カタい指が、女の私を求めてる。そのやり方がわかっていない。なんて……ああ、なんて―

頭の中、滅茶苦茶に、される……

自分よりきっと相当若い少年を手引する:庇護欲:支配欲:所有感:優越:包容:母性を引き摺り出される一方で、男という存在に組み敷かれその欲望全てに流されたい:耽溺:隷従:敗北欲:奉仕心:依存:牝性を浮き彫りにされてしまう。こんな心理が矛盾なく同居できるわけがない、支離滅裂で、滅茶苦茶な感情が、脳味噌をハングアップさせる。彼に対してどんな気持ちでいればいいのか、このセックスをどう泳げばいいのか、わからなくなる。

おっぱい全体を包んで揺らすみたいにしてほしいな。うん、そう……それくらい。男の子には物足りないかも知れないけど、女を焦らすつもりで

は、はい

今、静しずるくんに、すごく〝シてほしい〟って思ってるから……すごくいい感じだよ、すごく焦らされてる

言葉選びに困って、顔を赤くして黙ってしまう彼の様子が堪らない。食べたいし、食べられたい。本当はもう準備なんか要らないくらいになっている;濡れそぼったアソコを晒して〝いれて〟って指示すればきっとお互いすぐにイけるし、私のリードで終わらせられる。でもそれじゃつまんない。このちっちゃい体で、私をイかせて欲しい。

私の言いつけを素直に守って、バスト全体を撫でたり揺らしたり(きっと男にとってはつまらないだろう)愛撫を続けてくれている。抱きしめてごろごろ転がりたいくらい可愛い。でもそうやって胸の弱点を避けて刺激されて、どんどんバストが貪欲になっていくのが感じられる。彼、筋が良いのかも。私の表情とかをおっかなびっくりに覗き込みながらなのに、行為はちゃんと上手。

ほんとに女の子とシたことないの?上手じゃん。すごくドキドキしてきた。正直言って、今すぐ挿れちゃってもいいくらいだよ。でも、もっとえっちになろ?

私が耳元でそう言うと、彼の腰がもどかしそうに揺れた。勃起したペニスがぴくぴく震えて、刺激に飢えているのが見える。でも、彼の両手は今は私の胸のものだから、ダメ。

おっぱいの横のとこ、好きなんだ。そう、その辺。優しく触られると、弱い。地味でごめんね

いえ

でも……ん、すごい、きもちいよ。ドキドキ、やば。私をエッチな気持ちに、キミがしてるんだよ?

いえ、と言っているけれども、その顔の切なそうなこと。今すぐペニスをどうにかしたいに違いないけれど、それを我慢している顔:見ているこっちの理性が削られていく。

さきっちょは……私へのトドメだからね。おちんちんでイくのと同じくらい、最後だよ。それ以外なら……もう、静しずるくんの好きに、おっぱいイジメていいよ

蓮子さんっ

静しずるくん❤

私の制限付き許可で、彼の手つきが変わった。きっとすごく揉みたかったんだろう、急に私のバストを触る手に力が入り、掌で乳房全体を圧迫したり、指先が埋もれるくらいに押し込んだり、掴んで揉みしだくような動きに変わる。彼の乳愛撫で圧迫された内側に、熱点が生まれる。腋の下から横乳にかけての性感帯で十分に焦らしてくれたおかげだった。

あっ……ん、じょ、上手っ……もっと、つよくッ

い、今の揉み方、ヤバ……子宮にキタぁ……。これ、胸だけでイかされちゃうかも。こんなに可愛い少年が、こんな切なそうな顔で懸命に私の胸に愛撫をくれる;私の指示通りに、でも期待より上手に。乳肉の奥に生まれた淫熱が、液体になって体中を駆け巡っている。胸肉しか触られていないのに、全身が茹だるくらい興奮してる。アソコがまだか、まだか、と刺激をせびってヨダレを垂らしていた。

へ、変な声でちゃう、ゴメン。んっ、あ、す、すごい……思った以上っそうやっておっぱい揉まれるの、好きっ❤静しずるくんの触り方、好き、かもっ❤

彼は切実な焦りに走らされているような嗜虐を煽る子供の顔で、私の乳房を一心不乱に触っている。触り方はどんどん大胆に、激しくなっていく。肉に押し込んだ指先で乳房を握ったり、掴んだようにして上下に揺さぶったり。胸の奥がジリジリ気持ちいい。乳肉に張り巡らされた乳腺が、快楽神経に塗り替わる。深いところまで押しつぶされたり、引っ張られたり、揺すられると、乳房が巨大で少し鈍いクリトリスになったみたいな、丸い快感が波打って押し寄せる。脳味噌が乳肉快感をそのまま子宮に流し込んでくる。おっぱいを触られているだけなのに、どんどん欲熱が臍の下に溜まっていく。彼とおんなじ、腰ヘコまで後一歩。

イイっ、よぉっもっと、もっと私のおっぱいイジメてっ……強く、ぎゅっっって……あっ、んっ!はーっ、はぁっ、マジっ、マジで好きっ、キミの触り方、私にキくっ❤

は、はいっ

私の言ったとおりに、乳房に指を埋め込むほど強く握り、下から上に押し付けて持ち上げるみたいにして、バスト全体を深いところまで強く刺激してくれる。おっぱい肉に指が食い込んで十箇所からびりびり脳味噌に刺さる。ヤバ、い、男の子の指、好きっ……❤小さくて細くて可愛いのに力強くて、あっつくて硬い指が私のおっぱいを潰してる。ぎゅう、ぎゅう、と手が乳肉に押し込まれる度に、私の腰が動く。もうダメ、彼とおんなじになった。焦れ過ぎてマンコに刺激欲しすぎる。自分を胸愛撫で焦らすように言ったのは私自身だ、でもこんなに覿面に追い詰められるなんて。

私の胸を揉みしだきながら、彼の半開きになった口から辛そうな吐息が漏れ、顰め眉の表情は彼の我慢も限界だろうことを映し出している。太腿をすり合わせて腰をヘコヘコ動かし、空気相手でもいいからおちんちんに刺激を求めてる。卑猥かわ過ぎるっ……❤

はっ、はっ、はーっ、はあぁっっ❤ほ、欲しくなりすぎるっ❤もう、いいよ、最後っ❤おねーちゃんに、トドメ、頂戴っ❤乳首、触ってっ❤ぷっくり膨らんでキミに触られたいって自己主張してる乳輪と、えっちに勃起してる乳首、もう、いいやっ乱暴に、潰すみたいに触ってっ❤お口で噛んで、吸ってっ❤❤❤

か、噛んでいいんですか?

イイよ。でも……私、だめになっちゃうかも……❤

ダメ、って?

してくれたら、わかるよ。……引かないでね?

そう言って、でっぷりとした乳房を下から掬い上げるように持ち上げて、静しずるくんの顔の前に晒す。乳アクメ寸前に充血して、団子みたいに膨らんだ乳輪と指くらい勃起した乳首が、彼の唇に触れた。静しずるくんが、口を小さく開けて舌を出して小さく舐める。

ふ、ぁンっ❤

ぴりっ、小さくても強い快感ショックが乳首からおっぱい全体に伝播する。ぱつぱつに張り詰めた乳輪と乳首が、快感で更にスケベに自己主張してる。すっかり性器と化した乳首を見て、私の喘ぎ声を聞いた静しずるくんは、その肉突起を摘み掴んだ。そして指先で潰したまま指の間で転がすようにされると、乳首から快感火花が飛び散る。私の目の裏から後頭部にかけてハジケて、意識フラッシュが白く閃いた。これ、イッて……?

かくっ、かくっ、腰が前後に揺れながら、シーツに淫唇ヨダレをたらす。これ、だめだ:性的に弱いはずの男の子をリードするつもりが、先にイッてブザマ晒すやつ……❤乳首だけでアクメ顔見せちゃうやつ……❤❤❤

私の下半身が不自然に動いているのを見た静しずるくんは、一気に乳虐の手を強めてきた。

んうっ❤おっ、つ、強っ❤乳首責め容赦なっ❤ぐにぐに乱暴に潰されるとおっおぉぉ〜❤❤❤乳首潰れへビリビリくるぅっ❤❤❤んもぢぃっ❤ショタに乳首責められるのキくっ❤❤❤子供に焦らさせた乳腺、マジヤっべぇっっ❤❤❤感じすぎて乳首からマン汁出るっ❤❤❤

ビシュッ!

乾いた布を勢いよく液体が叩く音が響いた。私のマン汁だ。その飛沫の意味を知っているのか、静しずるくんはそれを見てからは今度は無遠慮に私の胸に歯を立ててきた。乳首と乳輪を噛み潰し、剰え乳房のあちこちに吸い付いて齧りついてくる。今や乳房のどこもかしこも、性感帯になっている。乳首だけでなく横乳の性感帯もひりひりするくらいあらゆる刺激を快感変換している。

悪い、ね❤パートナー本命妻とのセックスで、潮吹き、クセんなってるんだ、私。慣れてるから、遠慮せずに弄って噴かせていーよ❤

れ、蓮子さんの、おっぱい、美味しいです❤乳首コリコリしてて、エッチな味がします……匂いもっ❤こんな簡単にイッてくれるなんて……嬉しいですっ❤

ぉヒっ❤ち、違うんだ、これ……キミに簡単にイかされたわけじゃなくてっ……んをぉッ!?噛んでいいってゆったけど、言ったけどらめぇっ❤今乳首んぅッ❤今乳首そんな風にっ、えっちな赤ちゃんプレイみたいに乳首されたらッ❤舌で舐め回されながらチクチク噛んだり、おほぇっっッ❤鋭く噛み潰したりッ……したりゃあぁっっ❤❤❤

ブシュッ、ビシッ!

ヘコッ、ヘコヘコッ!

おっ……んぉぉっ▔\_⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿_/❤イッックぅっ❤❤❤胸イきっ❤乳首イきっ、んぉ……キメまくっちゃ……❤うっ❤可愛い、可愛い少年にキュンキュンしてたハズなのに、リードしてたはずなのに、自分をイかさせて、めっちゃきもちぃぃぃっ❤

マン汁とまんねっ❤腰ヘコ終わんねっ❤ショタガキ相手に発情サカって自滅、ブザマすぎっ❤ブザマすぎて、きもちいぃっ❤

アクメで仰け反ってしまい、せっかく静しずるくんがヨくしてくれてる愛撫から外れて、後ろに倒れ込んでしまう。ベッドの上で仰向けになったが、刺激を求めて勝手にパクつくマンコがヨダレをだらだら流しながら私の意思とは関わりなく腰を持ち上げる。大股を開いたままつま先でツンと突っ張って、マン潮まみれのパクつき陰部を彼の眼の前に晒す。さっき見せたのと具合が違いすぎる。彼の手で、でもココに触れることなく派手にアクメをキメたあとの、品性下劣な女性器映像。

ぴゅっ、ダメ押しの断末魔潮がブリッジ状態の股ぐらから小さく弾けた。彼の顔に飛んだかも知れない。

れ、蓮子……さん……

さっきまでリードしていた女性がいきなりエロ豚に変貌してイき潮噴いてひっくり返っているのだ、少年には意味がわからないだろう。でも、これが女社会の厳しさってやつだよ★

ごめんね、先にブザマにアヘイキしちゃってぇ❤次はちゃんと静しずるくんもヨくしてあげるから

彼のペニスは、ヘコヘコの空気オナニーで我慢に我慢を重ねた結果、先端から先走りがとろーりと糸を引いて垂れて、寂しさを訴えていた。乳イきで気分が最高潮になっている私は、ベッドの上に崩した体を捻って彼の方へにじり寄り、寂しそうに限界を訴えているペニスに口を寄せて、キスをした。

わ、ふぁぁ……❤

よく我慢したね、こんなに辛そうにしてるのに

カウパーの匂い、すごい。皮の内側に我慢汁を湛えている可愛らしいおちんちんに、二回、三回、と口吻して唇をすぼめ、皮と生肉幹の間に滑り込む。舌を差し入れて、彼のカウパーをちろちろとかき混ぜて味わった。

静しずるくんはこんなに我慢させてたのに、おねーさんはおっぱいだけで勝手に仰け反り潮吹きアクメしちゃった、責任を取ります❤

えい、と彼の軽い体をひっくり返して、仰向けに横たえさせる。左右の太腿を割って体を入れて、腕を絡めてがっしりホールドする。静しずるくんの可愛らしいおちんちんの姿と、エッチな匂いが鼻先に絡みついてくる。恥ずかしがって股を閉じようにも、脚の間にはもう私の体がしっかり入り込んでいる。太腿もガッチリ捕まえていて動かない。

えっ、や……こんな格好、恥ずかしい、です

覚悟しろぉ?❤私ばっかりブザマなアヘ声出してアクメしてたなんて、許さないんだからね❤これから蓮子おねーちゃんが静しずるくんのことヒイヒイ言わせちゃいまーす❤

ひっくり返した彼の股ぐらは、今は私の顔の真ん前。綺麗なお尻の穴と可愛いふぐりが。お尻の穴から陰嚢の生え際に繋がっている会陰のライン(蟻の門渡りっていうんだっけ?)が、こんな可愛い男の子のものとは思えないくらい生々しくて、スケベ。きっと彼自身もこんなところは見たことがないだろう。キミのココ、すっごくエロいよ、って写真でも撮って見せてあげたい。そのまま上って、柔らかい玉袋に目をやる。

これが男の金玉かぁ……前に男買ったとき、こんなのしなかったからなあ

鼻先を近づけると、他の場所とはなんだか違う臭がする。股のあたりの匂いが他の場所と匂いが違うのはメリー女でも当然なのだけど、男の子の匂いって女と違っていて、これはこれでムラつく。でも、若い子だからなのか、男娼は綺麗に洗いすぎなのか、この子の匂い……キツくて、好き。早く舐め回したくなる。ちゅ、と会陰から陰嚢にかけて何度かキスすると、ふにふにした陰嚢がゆったりと動いて、可愛い。そのまましばらく玉袋にキスしたり舌先で舐め回したりして、きっともう限界だろうけど、更に焦らしてあげる。

玉袋を舐める間、わざと彼の太腿に頭を預ける。髪の毛で太ももの内側を撫でるように動かすと、彼の脚全体が震え、それに応じて勃起したペニスが上に跳ねる。先走りの粘糸が彼自身の身体に滴る。可愛い。

蓮子、さ、んっ

おちんちん触っちゃ、ダメだからね

ぅぅ……

自分の乳首なら触っていいよ❤

えっ

「男の子だって、乳首は感じる(らしい)んだから」

正直男の肉体のことは細かくは知らない:エロ動画で見ただけだ。男と寝たことはあっても、細かい話を聞くようなわけでもない。男の乳首が女と同じように性感帯なのか、あれが女のスケベ心を煽るための演出なのか、確かめる機会なんてほとんどないのだから。でも、私が言うと彼は素直に自分の乳首を触り始めた。

こ、こう……ですか?

自分が気持ちよくなるためだけに、触っていいよ❤私にしたときみたいに、乳輪なぞって、乳首撫でて、たまにつまんで

私の胸を愛撫してくれたときのやり方を、そのまま自分にしている。彼が本当に感じてるかどうかはわからないけど、本物の若い少年が、私の指示に従って乳首自慰をしているリアル光景は、えげつない程のポルノだった。しかも体をひっくり返されて、ちんぐり返し状態で固定されたまま。彼は伏し目がちに自分の乳輪と乳首を触っている。

だ、ダメでしょ、これ……少年エロすぎる

彼からは見えない位置で、自分の腰が揺れてしまう。イッたばっかりのアソコがまた要求してる:今度はマジの挿入を。

待ってよ。先に彼を一回イかせてからじゃないと

男欲を抑えるよう自分に言い聞かせ、金玉の脇を遡っていよいよ竿の付け根へ。そこには立派な林が茂っている;もしょもしょの陰毛が、綺麗で幼い少年のカオに見合ってなくてエロい。メリーの陰毛が思ってたより濃かったときくらい興奮する。

彼の股の毛の中に鼻先を突っ込んで匂いを嗅ぐ。匂いらしい匂いというのはないのだけど、うっすら香る体臭の中に、何故か強烈に下半身に響くものがある。匂った時に吸った空気が鼻を抜けた瞬間、それは股間に深々と突き刺さった。途端、淫毒を生成し始める卵巣、それを全身に送り出す子宮。

いい匂い、する❤

そんな所、嗅がないで、ください……

業種的にはサービス業の男娼は、女が望まない限りは女に自分の股間の愛撫なんてさせない:逆ばかりだ。一度だけ興味があってしたことがあるけど、こんなに興奮しなかった。あのときは気まずかったな。でも、今はぜんぜん違う。この子の股間、サービスしたくなる❤似てるのは、女同士のセックスの時の、相手を気持ちよくしてあげたいという与えるタイプの性欲:男に対してこんな風に思うなんてこと、あるんだ。もしかすると、男と女の性交が普通だった時代はそういうものだったのかも知れないけど。

陰毛の茂みに鼻先を突っ込んだままその奥の陰茎の付け根に下を伸ばすと、その匂いが舌と喉にダイレクトに触れる。鼻からと違って、断然暴力的。

んお……く、クる……ッ❤

これ、女の、本能?

口の奥が、強烈にのどが渇いた時のように、きゅんっと疼いた。口に、入れたくなってる、この匂いの元。

陰部の脇から唇で、彼のチン毛を喰む。口に含んだ毛の一本一本を舌で舐めると、その匂い成分が脳味噌をボコボコに殴りつけてくる。性感帯に触れていないのに、えげつない中毒性の、体中の神経を鋭敏にして、鋭くなった感覚を快楽溶液に漬け込んで、感覚が変わる:五感が内向きになって深い無意識が手に、一方で目に見える刺激は色と音が結合して文字として読めて気持ちいいその魔性の何かが、口の中肺の中、脳髄を満たして子宮が揺れる:気持ちよくて色鮮やかな幸せ―もう辞めた筈のあれを思い出してしまう。

メリー女とするのとは方向性が違う。安心感と言うよりは暴力的な快感。包み込まれるのではなく殴ってくる多幸感。今では娯楽的コミュニケーションとなり果てた女同士のセックスと違って、これが、生殖本能に訴えかけてくる性欲の正体だろうか。今まで買った男では、知ることができなかっただけで。

蓮子さん、そんなとこ、舐め、るんですか……?

そうだよ。気持ち、よくない?

くすぐったくて、むずむずして

ここに、響いちゃう?

ひゃぅっ……!

太腿を抱える腕から手を伸ばすと、体が小さいから容易に届く:このままこの可愛いペニスを扱くことも出来そう。彼のモノに人差し指で触れ、下から上へそっとなぞりあげる。とろとろに溢れてる我慢汁で、もう竿の所々が濡れてる。ぴくんっぴくんって跳ねて、滴りを落とした。可愛い。もう少しイジメてあげようと指を上下に何度か往復する。あくまでも指一本だけ:根本から中程のなだらかな膨らみ、くびれて、ぷくっと張った愛らしいエラが皮に包まれたなだらかなラインを、上へゆっくりと、そしてまた下に向けてゆっくりと。

はっ、はへっっ……れ、蓮子、さ……んっ……〜〜〜っっ❤

彼の脚が、私に抱えられたまま、伸びた。小さい体で腰を上に持ち上げるように反らせる動きが伝わってくる。そして。

びゅっ、びゅうっ、びゅるっ!射精した。

腰をへこって持ち上げるタイミングに合わせるように、勃起したおちんちんの先端の皮の隙間に覗く可愛らしい鈴口から、震える度に真っ白い精液が吐き出されていく。アクメの瞬間に上げた可愛らしいイき声、射精中の可愛らしい顔、射精ポンピングの度に跳ね上がる可愛らしいおちんちん。でも、その度に吹き出す精液の量は全然可愛らしくない:雄々しいくらいに図太い飛沫が、彼自身の身体に白く撒き散らされていく。

びゅる、どぶっっっ、びゅっっ!

わ……す、すご

生殖のための本能、遺伝子を相手に押し付けるために、生殖相手に自分の一部を注ぎ込む機能だと思うと、その白い液体の噴き出し流れる程の量は、とても雄々しく見えた。とぷ、とぷ、と歯切れ悪く吐精を続けるペニスに、うっとりと見入ってしまう。やがて根本が脈打ち竿が跳ねても精液が飛び出さなくなった。男のオーガズムの終幕らしい。でも、彼のペニスはまだ固く反り返ったまま小さく自己主張をやめていない。まだ出来るって、訴えてるみたい。一方で静しずるくんの表情は息も絶え絶え、真っ赤になった顔と今にも泣き出しそうな表情、徒競走でもしたあとみたいな荒い息遣い、恥ずかしそうに私を見ない目、小動物にさえこんなにかわいらしい生き物はいない。勢いよく噴き出した精液はその可愛い顔にもかかっている、自分自身さえ汚す男の果て様に自分で戸惑っているみたい。

こんな可愛い男の子でも、しっかり雄なんだ……雄……

子宮が、疼いた。

今すぐこのおちんちんに膣でキスしたい。中に入れて、一番近いところで感じたい。

指で少し撫でただけで、気持ちよくなってくれるなんて

ごめんな、さい

謝らないでいいよ。さっき私だって、おっぱいだけでイッちゃったんだから。エッチでちゃんと気持ちいいのは、偉いんだよ

言葉遣いこそ丁寧だけれど世間知らずでどこか生意気なところがある静しずるくんが、えっちではあまりにも素直で、そして泣きそうな顔で「ごめんなさい」という姿に、またも殺されかける。

私自身が性欲で身を捩っていると、彼の腰がまたヘコヘコと動き始めた。勃起したままのおちんちんと相まって、まるで射精する前と同じくらいに興奮しているのが伝わってくる。女のアクメは波が長くて、一回イッた後はしばらく要らなくなってしまう。人によってはイッた後に同じように愛撫されると、気持ちよかったのに急に腹が立ってくるなんてこともあるらしい;私はそこまでじゃあないけど、メリーって少しそうかも。それに比べて、目の前の男子ときたら……射精したそばから、また。

今イッたばっかりなのに……男の子って、すごいね

見ると、何かを必死に我慢する表情のまま、彼はまだ右手で自分の乳首をいじっている。

……乳首、気持ちいい?

彼は小さく頷いて、静しずるくんは恥ずかしそうに目を瞑って顔を背けた。荒い呼吸を抑えるつもりか、声を抑えるつもりか、左手は口元を押さえているのが余計にそそる。

もう理性ダメだ、この子、食べたい……おちんちんだけじゃなくて、この子全部を子宮に入れたいじゃん……

蓮子さん、僕……

大丈夫だよ、一回イッたからってやめないから。入れたいよね、おちんちん?

私も限界。膣から子宮まで、マン汁でずぶ濡れなのにカラッカラに渇いたみたいに欲しがってる。正直、ペニスの挿入で満足できるか疑問。こんなちっちゃい肉棒を入れただけで、こんなに深い底の知れない飢餓感が満たされるようには思えなくて。だからってやめる気にはなれない、1ミリでもいいから彼の体を私の体内に入れたい。

静しずるくんの太腿の拘束を離してセックスの体勢に移行しようとしたところで、彼の体が跳ね上がった。彼を仰向けにして腰の上に上に跨ろうとしていたが、不意に押し返されて逆に私が仰向けに倒されてしまった。その上に彼の小さい体が乗りかかってくる。

わわ、せ、積極テキぃ〜❤

私の下腰にさえ跨りきれていない、彼の膝の高さでまたがるなら、ウエストが精々だ。そのまま倒れ込んだところで私の胸の間に頭が突っ込むくらいだろうか。でも、私を押し倒し返したときの力は女のそれではなかった。小さくても筋肉の質が違うのだろう。太古、女とは違い漁猟や肉体的な労働の主担当だったという男という生き物の、性質だろうか。こんなに小さくて可愛いのに、芯には男という性が通っていることに胸がときめいてしまう。それに、彼が不意に見せた積極性にも。体格で全然劣っていても、虚勢であってもそれをもろともしない姿勢を見せる、男の子のいじらしさの、なんて美味しそうなことだろう。

ちっちゃい肉食獣ってカンジ……ツヨそうなのに、可愛い

ぼ、僕だって、男なんです。子供扱い……しないでください

子供じゃん❤

子供相手にマジのセックスしてるの、私なんだけどさ。

仰向けにされたまま、彼のしたいだろう動きに合わせ、取りたそうな体勢を促す。上に乗っかってもその先にどうするのかよくわからなさそうだったので、彼を降ろして、彼の体を脚の間に置くように股を開く。M字の間に相手を置くような感じ。太腿で彼の体を挟み込むだけでも静しずるくんの小さい体はそれだけで不自由になるだろうけど、これなら彼でも私の中心にアクセスできる。

いーよ❤蓮子おねーちゃんが全部受け止めてあげるから、好きにヤって?❤

仰向けに寝て股を開いて無防備な姿を晒す。彼によく見えるように、大きく開いた股の真ん中の割れ目を両手で左右に開いてみせた。さっき彼に一度見せつけたけど、一回派手にイッた上に今もこんだけ濡れてるって自覚があると、思ったより恥ハず……。

ほら、獲物だよ❤男の子が獣になって食らいつくのに恰好の、無防備な獲物……❤

股を開いて彼の視線を受け止めているだけなのに、股間が勝手にヒク付いているのがわかる。腰を持ち上げて左右にゆっくり揺らして煽り、彼がそこに滑り込んでくるのを誘っている。

いよいよ可愛い肉食獣クンが飛び込んできた。無策に上にのしかかろうとしたから、持ち上げていた腰を少し低くして、彼の腰回りに脚を絡める:自分の中心を、彼の中心に、丁度いいように。前のめりに飛び込んできた彼の両手が私の腰の左右に着地して、私の体というより私の下半身に覆いかぶさる位置取り;私と彼の体格差なら、これがちょうどいい筈。

いれるトコ、わかる?

わ、わかります、それくらい……!

少しだけ上擦った余裕のない声で私を……見ない。恥ずかしがって視線はくれないみたいだ、彼の可愛い顔を見ながら挿入を受けたかったけど、残念。

静しずるくんの勃起ちんちんが間近に迫っているのを、私の淫裂は理解していた。捻れ上がるほど膣がうねって淫汁を絞り出し、一方で入口は餓えるほど求めている肉棒を迎えるべくパクついている。穴の上で淫核は肥大していて、すぐにでも彼の目の前でクリ自慰を始めてしまいたいくらい。

静しずるくんが腰をもう半歩進めて、ペニスの先端を、私の濡れ穴に宛てがう。さっきまで散々に穴を見せつけていた甲斐あってか、彼の先端は迷うことなく膣口へ向かっている。

蓮子さん、いれ、ますよ

いーから、はやくちんちん、入れて❤

静しずるくんのセッティングした腰の位置が動かないように腰を浮かせて彼の挿入を待つ。もどかしい。下腹部が切なすぎてムカついてきている。彼の挿入を待たずに腰を押し出して、ペニスに食いつきたい。私の方が肉食獣になって彼を貪りたい。でも違う、私は、食べられたいのだから。挿入一瞬の欲望に負けて、これ以上彼のアグレッシブさを殺したくない。ショタくんの必死なセックスを体に感じながらイきたい。

早く❤早くっ❤まんこがストレスで歯ぎしりしてる❤

先端が、触れた。

そのまま進んで

でも……

いーから❤えいっ❤

挟み込んだ踵で彼の尻を押して、彼の腰を引き寄せる。挿入もされてないのに既に搾精動作に入っている膣はキツく締まってしまっていて、彼のペニスを押し返してしまっている。でも、それを更に抉じ開けて入り込むように促した。更に腰も寄せて、彼の股間を前後に挟む。

にゅっ、と肉棒が膣に押し込まれる感覚が走った。膣に、彼の形を感じる。皮は入口のキツさに引っ張られる形で剥き去られている。こんなの、なんでわかるんだろ、私。これが雌の本能?

お、ぁっっ…………!!

いただきまぁす❤

びゅっっ。

んふ❤

は……ヒっ、おっ、ま、また、でちゃ……❤

剥けて裸になった亀頭が飛び出して、ダイレクトに膣粘膜にしゃぶりつかれるような感覚で、静しずるくんはあっという間に射精してしまった。膣内に、絶頂吐精ポンプの脈打ちリズムと、精液が注ぎ込まれる感覚が伝わってくる。射精中のおちんちんが、すごく弱いらしいことがわかった。男の人はみんなそうなのかな。射精中に膣を締めたり、脚で腰を揺すらせたりすると、静しずるくんの顔が苦しそうな気持ちよさそうな、ああ、女がアクメ中に更に奥でイき重ねてるときの、あんな顔をしている。

あれー?子供じゃないちんちん、入れた瞬間に、終わっちゃった?でも、射精だして終わりじゃないでしょ?ほら動いて❤

は、へ……ふあぁ!?

脚と腰を使って彼のペニスに、まんこをしゃぶりつかせる。射精中に腰をうねらせて、前後に揺らして、もっともっと刺激を加えると、射精ポンプの痙攣が終わらずに続く。

膣に感じる注がれた精液の水感。これが彼の遺伝子情報満載の子作りお願い水だと思ったら、愛おしくて堪らない。膣がうねってごくごく飲み干して子宮に送り込んでるのが、自分でもわかる。

昔はこれで本当に妊娠することがあったらしい。今の男の精子は生殖能力がほとんどないらしく、精子から子供を作ろうと思ったら、精子から科学的に核を取り出して人工授精しないと妊娠なんか出来ない。今なら体細胞から人工授精する方が安上がりだから、一部の好事家しかしないみたいだけど。自然妊娠があった昔は、意図しない妊娠を防ぐためにちんちんにゴムカバーをかけてセックスしてたっていうんだから、なんだかバカバカしい。けれどラテックススーツでドレスアップしたちんちんって……可愛いかも。

やっ……しゅっご……蓮子ひゃん……っ❤まら、イきまひゅっ……❤

いいぞ❤いっぱい、いっぱい、おねーちゃんのなかで射精せっ❤妊娠させる気で射精せっ❤セックスで妊娠とか、今の男じゃ無理だけどね❤

ふあっ、あっあっ……うご、動いちゃ……うごかにゃ……❤おちんちん、おわんないっ❤気持ちいいの止まんなくってっ❤

また射精でる?いいよ、好きなだけ、せーしびゅーびゅーしていいんだよっ❤ほら、もっと射精させたげる❤❤❤

膣を締めたり緩めたり、腰を前後に振って膣壁にちんちんのさきっちょを擦り付けさせたり、前後に動かして膣襞でおちんちんのエラを引っ掛け撫でたり、膣奉仕してあげると、あっという間にまた可愛い声を上げて射精した。商売にしてる男より早いけど、それがまた、堪んない。私がイかせてるって感じがして、男にとっては早くイッてみせるのがやっぱり一番の牡仕草じゃん?

また、大量の精液が膣に注がれる。それにしてもこの子の精子、多い……射精っていうより放精って感じ。商売男の精子はやっぱり客の女に射精しまくってるから一回ごとが少なかったんだろうか。さっきもあんなにいっぱい射精したのに、今もお腹の中にすごくたくさん注がれている。膣が呑みきれずに逆流させてしまって、接合部から溢れ出した。

膣の中にどくっ、どくっ、一回一回の吐き出しが塊、まるで本当のポンプの水圧みたい。これ全部精子だなんて、すごい。もしかして、顔が可愛くって女の子みたいな劣等オスだからって、とにかく数で戦おうっていう負けオスの生殖戦略の名残なのかも。今となっちゃ強いオスも弱いオスもなく、全員妊娠力ゼロなのに。男ってつくづく可哀想な生き物だなあ。

膣の中でペニスが脈打つ間隔が長くなって……やがて収まった。ペニスそのものは勃起したままだけれど、一旦射精は収まったみたい。

うわぁ〜、三回目なのにすっごい……❤男らしいよ❤おちんちん射精、かっこいいぞ❤

流石に三回も射精して、静しずるくんは後ろに尻餅をついた。ずるり、と抜け去った小さなペニスの姿からは、あんなに大量に出した本人だとは全然思えない。肩で息をしながら、恥ずかしそうに目を逸らす静しずるくんの前で、圧迫感さえある下腹部を撫でる。張り詰めた膣道からは、軽い圧迫だけで精液が溢れ出す。

すっごぉ❤こうやったら、まるで私が射精してるみたい❤精子のおしっこ❤❤❤

臍の下を更に強く押すと、びちびちと音が鳴るくらい大量に精液が溢れ出た。一体どれくらい入っていたのだろう、次から次に流れ出てきて、元から入り切らなかったシーツの上の精子溜まりに落ちる。ホテルの硬いシーツの上でこんもりと膨らんだゼリー状の精液溜まりが、強烈な性臭を放っている。

やっぱこれ……ぜんぜん違う……

シーツの上に広がる精液ゼリーの姿は、前に買った男のそれとは全く比較にならなかった。そもそもその時の男の精子は膣に全て収まりきって、こんな風に溢れ出すことなんかなかった。あの男娼の雄種は、私の腹の中で私の雌に食い殺されて消えたのだろう。でも、今股の間で積み上がっているものは、全く違った。同じ精液とは思えない力強さを感じる。白の不透明度も強くて透けて見えないし、匂いも凄い。

これ……メリーに、男の種、持っていけるかも……❤

二人の遺伝子からではなく、種牡の遺伝子を混ぜた子供を二人の子供として育てる、それもそれで夢の形。生殖能力のある男なんて、それこそどんな宝石よりも貴重だ。

湯気さえ立ちそうな精液溜まりをうっとりと眺めていると、静しずるくんがまた寄ってきた。

おっ?

蓮子さん、僕、まだ……

まだ出来るの?すっご……マジで男らしいかも❤

猫か何かみたいな甘え顔に恥じらいと性欲のトッピングがまぶされた絶品のカオ。こんなの見たらなんぼでも股開いちゃうよ。しかもすっごく性欲強めじゃん、可愛いおちんちんがまだ全然ガッチガチ❤ナシなんて言っといてすっごいヤりたがり❤

四つん這いで私の上に乗ろろうとする彼の体を引っ張り上げて、乳房の上に顔を乗っけさせる。目をまん丸くして驚く静しずるくん。あんなに膣内射精なかだししといて、おっぱいくらいで恥ずかしがるなんて初うぶなんだから。おっぱいの上でまだアクメ余韻の波に揺られている彼のふわふわの毛質の頭を撫でると、目を細めて乳首に吸い付いてきた。ヤバい可愛い。

いいよ。いっぱい、シよ❤

§

安いホテルのシーツは湿気を吸うと途端に肌触りが悪い。ラブホのシーツがこれだと正直途中から気が散ってしまう。せっかく気持ちよくイッて相手の体温を感じながら眠りに落ちたいのに、ベタベタと絡んでくるのはセックスの相手ではなくてシーツだなんてのも興ざめだ。このホテルのシーツも例に漏れない:安さを目当てに選んでいるのだから偉そうなことは言えないのだが、余り気持ちがいいものではない事自体を否定することもできない。シーツの不快感を避けるように、余計に静くん相手に絡みついてしまう……が、照れた彼はついと遠くに体を動かしてしまう。

無駄にふかふかとした枕に埋まって動きたくないのに、体は不快を避けたくなる;いよいよ私はベッドから起き上がった。クーラーはどうなってるの?シャワーでも浴びようか。

起き上がった私を何処か心配そうな表情のまま視線で追いかけてくる静しずるくん;でも私が全裸なのを見て目を逸らした。さっきまでヤってたんだから当然じゃん。私は冷蔵庫のボトル水を取り出して、飲んだ。半分くらいまで減らしたところで、キミも飲むかと聞くと「飲みます」と答えたのでこのボトルを渡そうとすると、拒否された。

あ、新しいのくださいよ

半分じゃ足りない?

そうではなくて

今更。間接キスなんかどうでもいいくらい結合したでしょ

……言い方、デリカシーなさすぎません?

仕方なく新しいボトルを投げる。ナイスキャッチ。結局彼も半分くらい飲んで、ボトルを脇に置いた。

そういうのナシって、言ったのに

ゴメンって。でも、静しずるくんも途中からよさそーだったじゃん?もっとしたい、なんて❤

おっ、おねーさんだって、強がってたくせに途中は声すっごかったじゃないですか!

そうだね、認めるよ。男とするのなんて久しぶりで燃えちゃったし、静しずるくん、上手だったから。またシようね

うう

そう言って枕に顔を埋めて逃げた。

彼は、全く未経験ではないものの、今どきあんなきれいな体の男なんて見ないというくらいの、所謂〝上物〟だった。高級男衒なげんでもなければ、あんなに綺麗に手入れされた男体なんて出会えないだろう。家出前はよほどいい生活をしていたに違いない。ワケアリの少年には間違いないのだが、一体どんな理由があって一人で外を彷徨いていたのだろうか。

……でも、経験が少ないにしては、感度が抜群だった。本当に、逸材ってやつ?

なんだよう、まだシたりない?不満そう

僕は……女の人に、いいようにされて悔しいんです

私だって、おっぱいなんかでキミにいいようにイかされたけど、別に悔しくないよ。いいエッチが出来たってことじゃん。それに、それって相手に失礼だよ?

それは、わかってます。ごめんなさい。でも

言うか否か迷ったように口を数回小さく動かしてから、彼は自信なさげに口にした。

男は、ちゃんと、強くなきゃいけないんです。女の子のことを守らなきゃいけないから。言いなりになんかなってたら……

あー、静しずるくんってカオ可愛いから想像してなかった。そういう考えの子だったかあ。……でも、それができたら、この世界にはもう少し男が残っていただろうね。

男という種族が減ったのは、男から繁殖欲が薄れたからだ。その昔、そう、この国が縮約宣言をするもっと前とかそれくらいの昔だ。男がまだ人口の半数程度を保ち種としての冒険的な意欲の機能を担当していた時代には、まだ男は肉体的な強さを社会的な強さに転嫁しており、その権利意識と義務感の両面を有していた。風土記ほど古い時代のものではないが、彼の言う〝男は女の子のことを守らなきゃいけない〟なんていうのは、相当に過去の宗教だ。宗教と称したのは、それが歴史や記録にも残されており、生殖に不要とされ致命的に数を減らした今でも男にはそうした思想で自己を保っているものも少なくないからだ。男という種族がその信仰を未だに肉体に宿していることは、彼の股間の膨らみに顕れている。

そして女だって、その時代から連綿と続く性欲を、完全に捨て去ってはいない。現代では男から獲得する必要のない遺伝子をそれでも男の肉体に求めたり、男を家族の中に飼うことは、或る種のステータスとして女の本能に残っていた。数を減らし貴重品な嗜好品となった男への欲求は、そうした形で生存している。

女の人だらけになったって、僕は

そういう復古的平等主義、私個人としては嫌いじゃないんだけど……キミは、それを言うにはちょっと、可愛すぎるね:諦めた方がいいよ。

可愛いって、言わないでください

嫌なの?

嫌です。

どうして?可愛い方がいいじゃん

可愛い男じゃ

誰かを守れないって?それは自分の弱さを、属性の弱さにすり替えてるだけだよ

メリーがいなくなっただけで何も手につかなくなった自分。たった数週間で音ねを上げて、見つけられる望みなんてほとんどないのに飛び出してきた。そんな自分のことを棚に上げて、こんなことにも説教するなんて、最低かも。

セックスの時って社会の仮面とか誰も気にしてないと思うよ:少なくとも私は気にしないかな。少なくとも、えっちのプレイ内容には関係ないと思うけど。別にセックスの時にドM野郎でも、世界を救う勇者が、いたっていいと思う。むしろキャラ的によくない?

普段からあんな感じなんです、僕は。か、かわいく、たって

可愛いって言われ慣れてないのか、その形なりで?

不思議な子だ、世間知らずというか、他人との関係性がまだうまく確立できていないんだろうか。家ではよっぽど箱入り扱いされていたに違いない。

でも、悔しいって相手の前で口にできるのって、結構えらいと思うけどね。普通言えないよ、相手に向かって悔しいなんて。

そう。メリーでさえ、あれだけの赤文字を書き入れたまま消えた。あの疑問と否定を私に直接ぶつけるのではなく、一足飛びに自分の正しさを証明するためのエビデンスを取りに行ったんだ。そして、私も……いつもそうだったのだ。メリーの幻視(幻覚という意味ではなく、本当に幻想を見出す)の目に私は嫉妬しているけれど、それを真正面から伝えたことはない。でも態度には出ていたろう。あんなものは実在的ではない:彼女を否定し続けてきた。今回に至っては、論文に著してまで。私、欲しいものが手に入らないからって、否定しようとしてる。その気持をきちんと相手にぶつけることなく逃げて。

私さ

彼の事情に興味が湧いた、純粋な好奇心だ。セックスしたからではない……こともないかも知れない。だって、こんな男をみて興味が沸かない女なんかいないだろう、今どきあんな男がいるなんて。でも、彼の口はまあまあ硬そうだから、まずは私の方から暴露しちゃおう。私の方には別にやましい事情なんてない、変わった事情があるだけだ。私が先に開示すれば、彼も何か言ってくれるかもしれない。連絡先とか……は、流石に下心か。

常陸国には〝失われた日本の原風景〟なんてものの観光に来たんじゃなくて、もっと別のものを探しに来たんだ。もしかしたら〝失われた日本の原風景〟が関係しているのかも知れないけどね。探し物の手掛かりが風土記なんて古典なもんで困ってる。

ふどき……常陸国風土記?

へえ、知ってるんだ?私はそういう類の趣味をしていてね、今回はちょっと重たいフィールドワークってわけ。前に来たときは撮れ高があんま良くなくってさ、大した事ないななんて思ってたら、バチが当たっちゃったみたいで。

何を探しに来たんですか

興味ある?

別に

あるんだ。

歴史好きの子か。それにしても変わった趣味だ、人のことは言えないけれど。もしそうだとしたら、特定の家庭環境とは、確かに相容れなさそうだ。高等教育を受けさせていい家の女に嫁がせると考える人間もいるし、男に教育なんか受けさせてもいいことがないと考える人間もいる。親が後者の場合は、専門知識が必要な分野に触れることさえ許さないこともあるそうだ。身の回りに男はあんまりいなかったからよくわからないし、私も大学まで来た身だから周りにいる男はそうではなかっただけで、どうもそういうものらしい。もしかして、それで家出?……そんなことを、あれこれと私が邪推しても仕方がないか。

探しに来たのはお生憎、歴史的なものじゃない。前にここに来たことがあるって言ったでしょう、その時一緒に来た人がいたんだ。恋人……なんてお互いに言ったことはないけど

恋人がいるのにこんなことしたんですか

それはお互いOKってことになってんだよ。女同士だし

不潔

いいね、年頃の男の子らしい反応だ

なんですかそれ

年頃の男の子の生態なんか私は知らないけど、それっぽいことを言って、湿っぽい布団に潜り込んだ。シーツの湿気は全然抜けていなくてただ冷たく肌に貼り付いてくる。彼の小さい体を横から見るように横たわると、言外に眼のやり場に困ると訴えるみたいに顔を背けられた。

その人、いなくなっちゃったんだよね、忽然と:所謂失踪ってやつ。その人が常陸国風土記を残していったの。何の意味もなくただ読んでただけかもしれないけど、私への何かのメッセージだったのかもしれない:彼女が読むような本じゃなかったからね。そうされちゃったら、来るしかないじゃん。私を探してみろって言ってるとしか思えない。仮にそうじゃなくても……私はそうしないわけがないことを、彼女が知らない筈がない。彼女とここに来たのは、ちょうど一年前。その時も、御根様を拝んで、宿魂石にお参りした。

大変……ですね

ふふっ、行きずりでセックスした相手に、パートナーが失踪したなんて言われても、困っちゃうよね。

だいぶ困ります。

ゴメンゴメン

でも、キミの言う通りなのかも。私に、彼女を守ってあげる力っていうか、何ていうか強さみたいなものがなかったから、彼女から信頼されてなかったのかも。今更だけどね。

困らせちゃったかな、やっぱり、こんな話。彼は賢明に返す言葉を探している。でもきっと見つからなかったんだろう。私だって、困る、こんな話されたら。

……見つかるといいですね

ありがと

返報性に訴えて自己開示から相手の情報を引き出そうとする試みだったはずだけれど、いつの間にかそうではなくなっていた。身の上を喋るのはこんなにも気持ちが楽になることなのか。この感じはメリーに何でも話すようになってから覚えた感覚だった。

いつからだろう、私が一人で生きていくことができなくなったのは:間違いなくメリーと出会ってからだった―いや、一人で生きていくことができなくなったなんて言うのは嘘で、元々一人でなんか生きていける人間じゃなかった。欠陥だらけの失格人間だったのを、メリーの隣にいる間に矯正されたんだ。昔のように一人の殻にこもっていた頃であれば、自分のことなんて誰に話さなくても平気とそのまま腐らせて死ぬまで抱えていただろうに、こんなふうに……誰かに共有しないと耐えられなくなってしまっていた。何か想いがあって動いているという事実を、誰にも聞いてもらえないことが耐えられない。自分の理由を誰かに知ってもらわないと、不安で仕方がない。この脆さが人間の〝まっとう〟なんだと、メリーがいきなり隣からいなくなって、思い知ってしまう。それも、こんな子供にぶちまけることになるなんて。

メリー。あなたがいないと、私はダメだ。

絶対に見つけ出して……本気で殴ってもらおう。もしかしたら、殴っちゃうかも。

さて、行きずりの仲だし、ついでにもう一つおねーさんの秘密を教えたげよう

いえ、いいですけど

まあまあ。人助けだと思って、聞いてよ

人助け……ですか?

キミ結構いいジト目をするよねえ

秘密だなんて子供騙し。そう言いたげな目が私を見ている。子供騙しではないのだけれど、私にもこの機能の原理は解明できていない;しかるに、これはよく当たる子供騙しと言っても反論の余地はなかった。大空APIが返す時空情報を適切に読み取るこの能力を、私は今子供を釣るために使おうとしているのだから。

さてどこから話せば少年の興味をひくことが出来るだろうと小首を傾いでいると予想外にも彼の方から言葉が切り出された。

さっき〝合〟って言ってましたけど

ああ、よく聞いてたね。まさにおねーさんの秘密、それなんだ

はあ

そう、合だ。私にとっては宇宙は現象の一つでしかなく研究の主体ではない、平たく言えば専門外なのだが、それでも一つの仮説があった。メリーがどうしてこの星合を控えた日に、〝七夕坂〟なる忘れられた地名を頼って訪れ……私をそこに招いたのか。

私、空っていうか星を見たら時間がわかる特技があるんだ。

六分儀とか使うやつですか

うん、似たようなものだね;でもそれは使わない:目だけで十分だから。星が時刻を教えてくれる、でも場所がわからないとダメ。月が場所を教えてくれる、でも時刻がわからないとダメ。月と星の両方見えていれば……なんとかなるってところかな。だから、夜行性なんだ。

魔法かなんかですかそれは

そうかも。どうしてわかるのか、わからないから。わかるということだけがわかってる、魔法みたいなものなのかも。そして私はこの能力に絶対の自信がある、きっと間違えたことなんてないんだ。でも、幾つかの地上の地点で、経緯度がわかっているにも拘らず、月星が返す時空がズレることがある。最初は計算ミスかと思ったんだけど、どうもそうじゃないっぽくてさ

どうしてそうなるのかわからないことを、〝再現性がない〟とするのは極めて自然な反応であることはわかっている;私自身、数のアカデミズムに身を置いている立場としてそれを言われると辛い。だが、かの領域における限定的な文脈を捨て、全く一般的な言葉の上での意味としての〝再現性〟という字面を捉えるのなら、私の目が見る月星は、時空をほぼ例外なく再現するのだ。この再現性について検証をすることを恣意的に捨て、それを前提として扱ってしまうことの妥当性を問うことは、もうやめていた。その上で私は〝例外〟の方を問おうとしている。私の目が何らかの特殊性を持っているのだとしたら、例外の正体を解き明かせばそれは一般化出来るのかもしれない。

私の興味は、私の目の出力が時空を指すことの再現性ではなく、特殊性から一般化への拡大の方に傾いている。そもそもを言うのなら、私の目について、こんなものを解き明かしたところで何になるとも思っていない。世界に埋め込まれた秘密を解き明かすのに利用できるのなら利用するという程度のものだ。私の目は、私自身にとってはあまりにも身近で当たり前のもの。私にとっては、〝目〟よりも〝世界の秘密〟の方が重大な問なのだ。それこそが秘封倶楽部である。

私の目の真性を証明していないのに、それを用いてこの世界の秘密を解き明かすとしたら、その秘密には不確実性が残る。アカデミックに言うのならそれは愚かな活動だが、私の哲学はそこにはない。数は、私の目と同様に道具に過ぎない;私が道具を使って示したいのは、客観的な真理ではないのだ。いや、真理を欲しているのには間違いがないけれど、真理というものの前提が科学とは異なる。真理とは、観測者パラメーターが全て固定的である場合にのみ存在しうる幻想だ。この世には観測者が無数にあり、固定的なパラメーターなど無い。従ってこの世界に真理など存在し得ないのだ。あるのは、複数の観測者の世界間にある相対的で不確定な仮の点だけである;実在性なんてものはない、と言い換えても構わない。科学……いや、世界というのはそもそもパーソナルなものなのだと、私は考えている。世界や宇宙は空間的に競合し、唯一時系だけが一方向に流れているという前提は、私にとってはまだ仮説なのだ。

そしてきっと、メリーにとっては、結界と異世界の実在感こそが、私の大空APIと同じなのだろうと思う。私とメリーの間にも、決して真実なんて言うものはない。そもそも同じ時間が流れているかだって怪しいものだ。

七夕坂とメリーが記した土地が何処なのか、ようとして知れていない。坂、と銘打たれているのだからと手に入る古地図を頼りに名前の付いた勾配地を虱潰しに回ろうとしていた。私自慢の推理力をもってしても、虱潰し以外に方法が無いように思えていた。手がかりがなさすぎる。

それでも私は、私がメリーを探すなら、私はメリーを見つけることが出来ると信じている。私も彼女も実在していないのだとしてもそんなことは関係がない。私とメリーは、それぞれが互いに小さな場を有した主格が生む場の干渉によって生じた不確実な点なのだ。すなわち、私がいて、メリーがいるということは、その干渉点は不確実な点として確実に存在している。干渉を続けることが、存在を強固にする。

まあつまり、空を見ていつもははっきり分かるパラメーターが、そういう場所では不正確になるんだ;そういう場所に限っては、月か星、どっちかが偽物みたいに振る舞う。

今日日、誰でもn(≧0)台を持っている携帯型情報端末にはほぼ確実に時計アプリ高精度クロノメーターがビルトインされている(でもメリーとの待ち合わせのときには何故か見えなくなる)。但し、秘封倶楽部の活動では一次標準認定天文台との接続が減る、もしくは全く圏外となる場所でのフィールドワークが多いので、その間はデバイス内の独自時刻系をはめ込む形になり看過できない誤差を生む。確かにその誤差が私の目の観測結果との差を生んでいる可能性は否めない。それを織り込んだ上で尚、そうして大空APIが返却する時空が手元の時計との間に極端なズレを見せる事があり、私はそれを、今は「優先度の低い秘密」としてバックログに送っていた。優先度が低いというのは必ずしも危険性が小さいという意味ではない;単に、解決の糸口が見えないことと、実際にはその危険性に抵触したことがないから、取組の優先度低に整理していると言うだけの話で、私の中ではその不可解さは特級に違いなかった。

そして、それは今、姿を表している。この場所は、私の目が役に立たない特殊性の箇所だ。月と星の両方がはっきりと見えている夜でさえ、腕時計との差は振れ幅を孕んで数分にも及び、経緯度の誤差は正直よくわからない。

この土地は、何かがおかしい。どこを歩いて見ても、差の大小はあれど、何れも狂っていた。

メリーは、何かを言いたくて私をここに導いている筈だ。

この辺は、顕著。特に……月。あの月、本物?存在しない月と姿の違う星空を、誰かが空に描いていない?このあたり一帯の星空が、意図的に書き換えられているとしたら……むしろ、そうとしか考えられない

えーと、陰謀論者の方でしたか

ちがう、ちがうの、ちょっと待って、弁解の機会を頂戴

別にいいですけど

別にいい、が〝弁解してもいい〟なのか〝それ以上言わなくていい〟なのか確認するまでもなかった。私が弄し始めた胡乱な推理を少年は、訝しげな目を隠すこと無く私に向けている。無理もない、今脳内に渦巻いている〝設定〟は、余りにも胡散臭くて現実味に欠いている;その匂いは既に漏れ出しているのだ。

星を地上から投影しているなんて、プラネタリウムじゃないんですから。この土地がドームの中に閉鎖されていると?バカバカしいですね

でも、トリフネが運用されてた頃は、トリフネの中はそんなだったのかもしれないよ。それに、今だからこそ、この地上には天上の光を錯視的に歪曲させる何らかの力があるのかも

仮に天体配置の作為錯視パララクスの濫用があるとして、誰がそんなことをするんですか

わからない:でもそれがメリーの足跡なんだ、きっと

メリー、というのがお探しの方の名前ですか

そ。

パララクスと言った?そんな言葉が子供の口から出てくるとは思わなかった。見かけ上のアステリズムに歪みがあるとしたときに〝パララクスに異常がある〟とは、確かにそうした目を持っている私なら思い至る、だが普通は……そうだろうか?常識を知らなかったり妙に鋭かったりするこの男児に、どうにも興味が湧いてきてしまう。両方の意味で。

風土記については、メリーがいかに難解な謎掛けを私に残したとしても、残した手掛かりが全く的外れの妨害情報であるはずがない:必ずそれは、ヒントである。私にはそれを疑う権利がない。七夕を、それを七夕坂と呼ばれる何処かの地で観測することが、何らかの鍵……彼女の能力をして言うのなら、そこに結界根源が訪れ現象が投射される筈なのだ。きっと、いや必ず何かが起こる。いつも二人で見ていたその不思議事件に、今回は少し障害があるだけ。私はいつも通りに、プランク並の頭脳を回して(メリーは真に受けて真正面から突っ込んでくるので最近は控えていた冗談だが)、鍵を探す。メリーを、見つけてみせる。

といっても、私の能力の真正性を彼に説明することもやはり難しい、実際に示してみるくらいしか方法はないのだが、生憎ここでは〝誤報〟が激しくてそうもいかない。時間くらいならばわかるのだけど、場所がズレて返却される以上は差が小さく見える時間も疑うしか無い。

とにかく。彼女が常陸国風土記を私に残したことと、これはきっと何か関係してる。ここはどうしても私の六分儀が狂う;私はこの土地を、どうにも疑っているんだ。疑っているということは、特殊性を認めていることと言っていい。何かが強制的にアステリズムを狂わせているんだ。ここは、何処だ?星、いや月あれは、何だ?

ここは、この世ですよ

ああ、そうだね。多分。そしてこの世で誰かが、〝真の七夕〟をやろうとしてる

真の七夕?

〝合〟だよ

まさかアルタイル織姫とベガ彦星が本当に合になる出会うなんて言うんですか

もしメリーがここに来たのなら、今年に限っては妙な胸騒ぎがする。きっと〝ここでだけは、それが起こる〟んだと思う。

幾らなんでも、月間ムムーとかの読み過ぎでは?次には、世界が滅ぶとか、死者は生きているとか、地球は平面だとか、言い出すんじゃないでしょうね?

あーいや……流石にそこまでは……言わないよ。この辺なら、そんな特殊な天体ショーも観測できるかなあとか、メリーも見に来てるんじゃないかなあとか、天津甕星と倭文神がキスするところ、みたいなあなんて

へぇ

やっぱり目が冷たい、無理もない。こんなの、いつもならメリーにだって呆れられてるやつだ:昨日今日会っただけの人に陰謀論者と言われても何も反論できない。現に言っていることのほとんどはレトロな陰謀論と同じなんだから。

私は、まあそういうわけだから、とどういう訳なんだか判らない締め括りを放り投げる。極言すれば、彼に納得して貰う必要はないのだから。ただ行動の理由くらいは知っておいて貰いたいくらい。これを聞いて彼が何か自分のことを話す……かどうかはさっぱりだけれど。

ふとベッドの上から投げ捨てた視線が、人を映さぬよう高い位置に小さく刳られた窓が、そしてその窓枠に切り取られたかの月の姿が目に入ってきた。

あの月……そうだ、あれだよ

はい?

GPSの位置情報と、月の教えてくれる位置が違う。ここはかなりだね。でも、こんな小さい窓じゃあ、判るものも判らないや

精神病棟みたいに小さいラブホの窓からちらりと覗いた月の姿に、強烈な違和感を感じた:誤報を返す月だ。身一つねじ込めそうにない真四角の小さい窓に切り取られた月では物足りないと身を乗り出して覗き上げる。まるで安っぽい潜水艦アトラクション。ろくに掃除されていない古いガラスの窓は月の姿を霞ませている。〝誤報〟がそのせいであればいいのだが、生憎私の六分儀はそうしたノイズには滅法強い。この地域の月が、誤報を返すことは既に想定済みだったが、振れ幅が異様に大きい:詳しく、見たい。

ねえ、この辺で一番月が見やすい場所、知ってる?

僕も旅行者なんですけど

「そうだったね(本当に?)」

駅から離れればそれなりに空は開けているんじゃないですか?それこそ大甕神社に行けばそれなりに登ることになりますし

そうだね。明日の夜も晴れっぽいし、明日の夜は天体観測でもするかなあ

神社は夜は入れないでしょうし、月を見るなら誂え向きの場所がありますよ。ほら、ここ

静しずるくんはモバイル端末の地図アプリ上の一点を指して言う。地図の表示上では〝ミツキ〟と書かれていて確かに開けている。衛星画像に切り替えると、入り組んだ海岸線にへばりついた小さな平地があるのが覗える。ここからそう離れていない、日が高いうちならピクニックにでも誂向きな道行きだろうが、日もくれた今その道がどうなっているのか部外者の私には、勿論彼にもわからない。

そんなところまで行かなくても、空が開けてさえいればいいんだけど……

ここは自然文化保護区だ、高い建造物は撤去され新築も禁止されている。その辺を適当に流し歩けば空が開けている場所など幾らでも探せそうなものだ。が、引っかかるところがあった。会ってからずっと受け身だった彼が、場所を提案してきたからだ。親しくなれた証拠かもしれないし、そうであるならきっと見晴らしが良さそうという情報をくれたことには素直に乗っておいていいだろう。もしかしたら馬鹿みたいに見えた私からの開示に効果があったのかもしれない。道もあるみたいだし、わざわざ変に険しい場所に行くよりはいい。

何より、月に直接問い質したい。

……いや、行ってみようか。そこ、確かに気になるね。明日の予定はそれだ。

今から行く、なんて言い出さなくてよかったです

今はほら、魅力的な星が眼の前にいるからさ

バチッ、と静しずるくんを見る。期待した顔とはちょっと違う表情をしていた。

おねーさん、モテなさそうですよね

え……マジ?

§ 宿魂石 §

この宿魂石は天香香背男(天津甕星)が変化したものだという。建葉槌との戦いで負けそうになった天香香背男がこの岩に変化した所それは見る見る天に向かって生長し、それを脅威に思った建葉槌が蹴っ飛ばして粉砕;これが天香香背男(天津甕星)の最期なのだという。石に変身した理由もよくわからないし、敵の大将の最期としては間抜けが過ぎる。同じ様な会話をメリーとして、メリーも苦笑いしていたのを今でも鮮明に思い出せる。

静しずるくんが、エスコートしてくれた。宿魂石というか大甕神社自体は来たことがある、道もまあ憶えていたけれど、「明日暇?おねーさんとデートしない?」と聞いたら快諾してくれた。いや割と無理矢理だったかも。

本当は前に来たことがあるんだ。あれは静しずるくんを逃がすための方便でさ

じゃあ来る必要なかったんじゃないですか?

いや……また来たかったのは、間違いないんだ

メリーは依然行方不明、彼女の置き手紙ラブレターを手掛かりにここまでやってきたものの、常陸国地区にさえ入れば彼女が見つかるなんてわけでもない:かくして現存しない地名〝七夕坂〟を探し回ることになった。

メリーとここに来たことを、思い出していた。過去の記憶の中に今の彼女に至る手がかりがあるかどうかは正直自信はなかったが、縋るような思いでの再訪だった。明確な手掛かりへの予感はなかったものの、漠然とした連絡を、だが感じていた。この地を指さし〝七夕坂〟などという忘れられた地名をここに見出そうとするのなら、私にとっては他のどの地域の七夕祭よりも、この場所がそうだと思っていた。

七夕坂についての手がかりは、大学にいても全く見つからなかった。勿論常陸国風土記が何を意図してメリーの部屋に置かれていたのかもさっぱりだ。それは一旦横によけ、こうして改めて宿魂石を見上げてみる。全く殺風景な美観に切り揃えられていた線路風景とは違って、大甕神社の周辺は荒くれた自然が、生々しく残ることを許されている。これが自然や文化の生き残りだから、と尊重されているというよりは……腫れ物にでも触るように、クリーン化の手順を実施していないだけのように見える。旺盛に伸びた木もあれば枯れた木の株もそのままにされている。岩に登るために穿たれた鎖に見る人間の傲慢さも、まるでそのままに残されていた。脇にある小さな社も新築されたり美化されることなく雨風にさらされた自然な傷みを残しており、岩と、それを抱く木々と、荒々しく残された雰囲気が、聖別された空間に充溢し……封鎖されていた。

見上げる宿魂石の見事さは今以て威容に他ならないが、かといって神聖な山を望んだり、神々しい不自然さを秘めているほどではない。見事な岩だというだけだ。この岩が神体として崇敬されていた時代、その頃の人々はこの岩に対して一体どのような感情を抱いていたのだろう。この岩が、一体何に見えていたのだろう。敗北した神の死体に、それほどの畏敬の念を抱くだろうか。祟を恐れる旧き日本の文化は認めるにせよ、この宿魂石を祀らねば祟るといったものとして扱っているようには感じられない。

こないだ友人と来たんだけど……と思っていたけれど、そんなことなかった。もう去年の話だ。

年に一度とは、七夕みたいですね

皮肉ってる?会えていないのよ

今年はまだ会えていない、ですね

そうであることを祈るわ。でも、本当に、それがタイムリミットな気がするんだ。

大甕神社にまた来たかったのは、もといこの岩くれを改めて見直したかったのは、彼女の部屋に残されていた常陸国風土記が決定的なヒントに違いないと思っているからだ。静しずるくんも素直に付いてくるのは意外だったけれど。案内しろといった言葉を律儀に守ってくれているのだろう。可愛い。

以前、メリーとここに来て、いくつかの所謂パワースポットを巡り、しかしその時には結界らしきものを見かけることはできなかった。〝イクチ〟の話で少し盛り上がり、ジュードノ様の手がかりを興味深く見たくらいだ。帰って特に変わったことがあったでもない、その後に湯殿山にジュードノ様そのものを探しに行ったり、新説・義経伝説をでっち上げたり、秘封倶楽部の活動は継続していた。今更また常陸国に来ることになるとは思ってもみなかった。

タイムリミットが本当にあるのかないのか:すなわち、私がメリー探しなんかに来なくても彼女はひょっこり帰ってきたのか、あるいは探しに来なければ永遠に失うことになるのか、それはわからない。いずれにしても、私はこの場所には来るつもりだった。

私は、生半可な〝祈り〟という言葉が嫌いだ。だから、人事を尽くしに来た。それでも駄目なら、私は、メリーを失うのか?

宿魂石……これが天津甕星の残骸ってのは、改めて、やっぱり変な感じだよね

残骸って……まあ、そういうことになりますけど。別に放射線を発してるとか、隕石だとかそういうんじゃないようですけどね。ただ古くてデカい岩って言うだけで、呪物と言うには物足りない

デカい岩ってまあそれだけでも信仰の対象にはなったと思うけれど、大甕層のすぐ後ろの赤沢層だって、同じくらい古いし、山体そのものだもんね。この岩がなんで特別視されたのかは、なんとなく腑に落ちないところはある。それに倭文神がこれを蹴った破片の一つが御根様ってことは、宿魂石と御根様ってが地下でつながっているって話と矛盾してるよね

どっちも本当じゃないんでは?ただの伝説ですし

結構夢のないことを言うね?

あなたが今言ったことでしょう。ごく一般的な見解です。

ツンツンしちゃって可愛いんだから。大甕伝説をただの伝説と言い放つ静しずるくんの後ろ姿を見ていると、彼の言動にも拘らず、宿魂石を見上げるその眼には下らないものを見るような色合いは全くない。むしろ、どこか愛おしいものであるかのように目を細め、その口元はほんの僅かに綻んで見える。彼の顔はただの無表情であるのかもしれない、その無表情から何らかの感情を読み取ってしまうのは、私自身の感情の発露だろうか。この岩くれはメリーとはなんの関係もないだろうと想像しながら、安堵している自分が、潜んでいるのかもしれなかった。

静しずるくんは、宿魂石の伝説:岩が天に向かって伸びるなんてこと、あると思う?

普通に考えればないでしょうね

相変わらず塩対応なんだから。わかったよ、じゃあ普通じゃなければ?私は地下に押し込められていた岩が急に押し上げられるような急激な地殻変動、もとい、地震があったんだと思ってるけど

私がもっともらしいが、もっともあり得ない詰まらない説を話していると、静しずるくんは宿魂石の麓にある社を見、打たれた鎖をなぞるように視線で追い、その頂上の方へ視線を送って目を細める。そして脈絡の無い言葉を口にした。

船山古墳の出土品として保管されている金銅製沓こんどうせいくつ、見たことありますか?

え?実物は流石に。写真くらいなら

急に何を?金銅製沓こんどうせいくつなんて、こんな年の少年の口から出てくる言葉とはちょっと思い難い。

船山古墳のある地域はこの常陸国地区と同じく歴史文化保護対象になっている。船山古墳はヤマト政権と争った独立の政権と言われる磐井の史跡だ。彼の言う金銅製沓こんどうせいくつは、船山古墳から出土した金属製の沓くつ。くつ、と言っても普段履くものではなく、死者を古墳へ葬る際に身に付けさせる副葬品で、底板に対して二枚の金属をくるっと丸めて円筒形にするように作られているらしい。

金の沓てつのくつといえば、倭文神が天津甕星にとどめの一撃を入れた際の装備品でもあるのだけど、副葬品として認知されていたその装身具が天津甕星の伝説の中に現れる意味はよくわからない。

私が、それがどうかしたのかと問うと、少年は私の方へ視線もくれずに言った。

金の沓てつのくつって、ロケットの噴出口みたいな形してますよね

ボソリとだけ口にした少年の言葉は、余りにも衝撃的なものだった。金の沓てつのくつを、ロケットエンジンのノズルスカートだと?

……キミ、今なんかすごく面白いこと言ったね?

天へ伸び上がっていった岩、金属の円筒を用いた爆砕、砕け散って四段つに分かれて地上に落下した伝説。それは、紛れもなく、宇宙ロケット打ち上げの姿だ。

単にそれだけでも十分に面白い観点だが、天津甕星が日本の古来の神としては珍しい星神だという点はそれをより一層印象付ける。それに、天香香背男はヤマト政権に楯突いた悪神だというのに日本書紀に「国津神」でも「土蜘蛛」でも「国栖くず」でもなく「天津神」として記されている。それは本当にそうだったから?

磐船伝説は日本には複数存在する。だが、ロケットを彷彿とさせる描写まで備わっているものはない。この地に降りてきただけで、ここから旅立とうとしたという描写は見つからない。でもこの土地は、天香香背男は、違う。天と、繋がり続けていた。

宿魂石はロケットだったって言いたいの?

そういう〝見立て〟じゃないですか、それこそ巨岩を船に見立てて磐船って言うみたいな。この岩は人工物ではなくて地下から迫り上がってきたカンブリア紀の花崗岩って判明してますし。

投影する元があったってことなら、驚くポイントは同じだよ。当時、ロケットが、あったってこと?

さあ

この子、やっぱり少なくとも普通の子供じゃない。ただの子供の口から出てくる言葉じゃないものがぽんぽんと飛び出してくる……何者?本当にただあのへんを彷徨いていただけの子供?彼が言う用事って、なんか尋常のことではないのでは?私はやはりジュードノ様の巫女の姿を、そしてその最期を思い出してしまう。

彼を見ると、後ろ手に指を絡めた姿勢で静かに宿魂石を見上げている。驚いて声を上げている私のことなんて何も気にしていない。私の方をチラ見た彼は、まるで私の驚きなどどこ吹く風の様子で、言った。

人探し、見つかるといいですね

な、なんだよう急に。言っとくけど、キミと寝たくらいで浮気だなんだって騒ぐような仲じゃないんだ、お互い男を買うことはお咎めなしってことにしてるしね……あっ

私は今、さしずめ妻に家出されて慌てて探しに来た男ってところだ:女だが?妻の痕跡を追って、彼女と最後に過ごした日のことに思いを馳せて。そうだ、あの日も大甕神社ここの例大祭に来て、浜降神事を見て……そう、そうだ、浜降神事。

大甕神社の浜降神事と船渡御にだけある「御根様を回って、帰還する」という他のにはない特徴を思い出した。それは。

……戻って来る……星を、回って?

ぞくり、背筋に嫌な寒気が走るのを感じた。私は何か、とんでもなくまずい道を、歩かされているのでは。

メリーに?それとも、この少年に?

何かが、やめろと叫んでいる。内側で、頭蓋骨の中ではなく肋骨の内奥から、それに触れてはいけないと、警鐘をガンガン鳴らしている。冷や汗が噴くくらいの不穏な不安、恐怖と言っても近しいかもしれない。でも、それ以上に興奮していた。下腹部が熱くなる。息が荒くなって、その恐怖が血中に混じって体中を巡る感覚を思い出す。それは、一瞬じゃなく、長時間続く絶頂の、予感だ。

何かが、ある。触れてはいけない秘密が。メリーがきっと手を伸ばしたのはこれで、私を疑い否定し、そして殴りつけてきた理由はきっとここにある。そしてその秘密と彼は、つながっている。ジュードノ様の前で喜悦のうちに蒸発したあの癲狂の巫女を見ながら、絶頂したあれを、思い出してしまう。

彼はその鍵を持っているのかも知れない。なんてものを拾ってしまったんだ、私は。なんて素敵なものを。生唾を飲み込む。

私は彼に、問うた。

七夕坂って……知ってる?

§ 七夕坂 §

今はもう通常の流通取引では交換使用できない形而下銭が何枚か引っかかっている:小さな賽銭箱。物理貨幣なんて今や円形の金属片でしかない。縮約政策の一環として物理的な貨幣形而下銭の流通の停止が宣言されたときに形而上銭との交換手続きをし忘れた残骸なんかを、稀に投げ入れていく人もいるのだろう。古い本では、賽銭箱とは角金具がつき上部がすのこ状に開いた立派な木製の箱として描かれているが、これは小さなポストのような姿をしている。賽銭という慣例が失われかけた頃に増えた、小型で耐久性のある金属製のものだ。だが、その耐久性をねじ伏せるほどに、忘却というものは力強いらしかった。防錆処理では防ぎきれなかったのか、虫食いのように穴の空いた……むしろ穴のほうが多い無惨な姿になった姿からは、元々ポストのような形だったことが辛うじて解るくらい。兌換能力を失った銭の不法投棄先となっている朽ちた箱と、その貨幣は生長した錆で仲良く結合しようとしていた。中には虫が住まっているような有り様で、この箱がある意味で崇敬を表現するための道具だったとは到底思えない。

天津甕星あまつみかぼしの死体とされるこの巨大な岩宿魂石にも、今はもの寂しい崇敬の残骸朽ちた賽銭箱が寄り添い立つだけだ。杭打たれ鎖を垂らされ、人間によじ登られるようになった頃から、それはもう宿命付けられていたのかもしれない。

七夕坂ですか?おそらく、蓮子さんが探している七夕坂は、知りません

静しずるくんも、その中に一片、形而下銭を投げ込んだ。祈りとも取れないこともない小さな瞑目を見せてから、彼は応えた。まず返答があった事に驚いたが、微妙な言い回しだった。どういうこと?

私が探している?七夕坂は、複数あるってこと?

七夕坂とは、おそらく特定の一つの地点を指していたものではありません。例えて言うなら、新田とか、松の下とか、そういった地名です。なので、どこか、と問われて一番近い七夕坂を教えることは出来ますが、それが蓮子さんの探している土地かどうかはわかりません。現に、七夕坂を名乗る土地の痕跡は複数残っています。

確かに〝◯◯坂〟という地名を虱潰しに探すといった方法に訴える前に、常陸地域内に幾つかの「七夕坂」の痕跡は見つけていた;だが、どうにもそれが求めているもの―メリーの痕跡―とは思えなかったのだ。七夕坂という地名は既に散逸しており、現在読み取れるのは元の七夕坂から持ち帰られて各々が名乗っているだけの地名だと、私は判断した。だから「オリジナルの七夕坂」がどこかにあるのだと、それを探さねばならぬと、いう顛末になったのだが……彼の言うことが本当であれば、そもそもが無駄骨である。何より、メリーが確実に「オリジナルの七夕坂」を目指していたのか疑わしい。彼女は彼女の信じる七夕坂へ向かったのだろうし、私は……彼女と見解を同じくすることを試されている:私の思い込みではなく。

例えば静しずるくんが知ってる七夕坂は?

旧アカハニ地区の七夕坂です。案内はできますが

いや、そこは調べが付いてるんだ。キミが言う通り、多分探してるところじゃない。

頷く静しずるくん。タブレットデバイスを持ち出してアカハニの七夕坂を図示しようとしたが、私が既に知っていると応えたので手を止めてしまい直した。

〝七夕坂〟って、どういった性質の土地だったの?

タナバタ行事の際に天湯河桁あめのゆかわたなと通ずるための土地を指して各地に残っているもの、と考えてます。

天湯河桁あめのゆかわたな、なるほど

なんなんだ、この子。これが私の上で可愛い顔で射精してた男の子なの……ってそういうのは一旦脇に除けるとして、だ。

彼の言うのは、天湯河桁あめのゆかわたなを単に神格や当時の人称としてだけではなく、川に設置された機織り場もしくは役割とも捉えている。棚機津女たなばたつめが布を織り捧げるのが神格としての天湯河桁あめのゆかわたなだとは不明だが、機を織るという神事があったことはおそらくカタい。そしてその祭場が天湯河桁あめのゆかわたなと呼ばれるようになり形骸化したというのは、ありうるスジだ。

仮に天湯河桁あめのゆかわたなが神事の祭場を指すのなら、それは折口信夫の説を採るに等しい。川に機織り場を設置するなら平たい川辺のほうが都合がいいのだが、そうではなくわざわざ坂にしたのには何らかの理由があったとして、それが何故なにゆえであったにせよ、坂や崖めいたところに懸造のように天湯河桁あめのゆかわたなを設置していたその場所を指して七夕坂……棚機坂、と呼んでいたということだろう。確かにそれならば固有地名ではなく(彼の言う通り、例えば村内など狭いフォーカスにおいては固有となるが)、一般的な特徴を指しているに過ぎない。ある村でのタナバタ行事の際に棚機津女たなばたつめが神事に務める場所全般を指し得る。

天湯河桁あめのゆかわたなね。そういうのに興味があるって言ったの、本当なんだね;よくそんな細かいところまで調べてる。タナバタ……乞巧奠きっこうでんと混同される前の、棚機津女たなばたつめが水辺で神に捧げる布を織る行事とか、その際の禊とかいう文脈のやつだね。なるほど、狭義の固有地名ではなくて、土地の特徴を示した呼び名だってことか。それに

そして。この可能性は考えたくない一心で無意識に排除していたが、七夕坂が固有値名ではない可能性に触れてしまえばいよいよ避けるわけにはいかなくなるスジが存在する:すなわち〝坂〟という言葉の性質である。〝坂サカ〟は〝境サカ〟と同じである。下手をすると「天湯河桁あめのゆかわたなを平地に設置できなかった傾斜の厳しい土地」という条件さえ機能しなくなる。神事に際して神域と人界を区切る境サカを指しているだけの可能性があるからだ。広い平坦な川辺で天湯河桁あめのゆかわたなを展開できる場所でさえ、神事においては神と人の〝境〟がある。となれば、タナバタ神事のあった人の営み全てに「タナバタサカ」は存在する。

坂は、境かもしれない……

単に文脈なく〝七夕坂〟と切り出されたものであれば、その可能性も十分にありますね。常陸国風土記という背景は、余り絞り込みになりません

そうだね

もう、〝七夕坂〟という漢字そのものが不適切な可能性が出てきた。棚機は七夕ではなく、境は坂ではない。

メリーは、人世と神世の結境界を、タナバタという言葉に乗せて察していたに違いない。そこで何らかの現象が発生すると、彼女なりのアンテナで察したのだ。だが、それは「どの地点」だ?

……七夕坂に、現代の七夕祭は余り関係がなさそう:それは同意かな。いやはや、静しずるくんのおかげでハレーションしちゃったよ:これはまとめ直しが必要だ。

現代の七夕なんて、みんな空を見上げてはいつも通りに離れ離れになっている織姫と彦星を見て安心するイベントですよ。本当に織姫と彦星が寄り添うことを祈ってるんでしょうかね?皆さん性格悪すぎませんか

し、辛辣ゥ……

私が彼女を失うことに肝を冷やしながら大慌てで常陸国に駆けつけるのに、一生で一番くらい秘封倶楽部まとめを急いだ:だがそれは見事水泡と帰した。メリーの見立てた、タナバタサカの禁忌を読み解かなければならない。彼女が一人で、その扉を開けてしまう前に。

天湯河桁あめのゆかわたなは、織物を捧げるべき神であり、その織物を作る祭壇であり、禊の場であり、ってところか。

どれがどれの形骸かはわかりませんが、恐らくは。

天湯河桁あめのゆかわたなの〝湯〟の字は彦湯産隅ひこゆむすみに並んで、角凝つのごりの名に連なる系譜の目印だよね。古代氏族の倭文しとり氏も、この角凝つのごりを頂いている。私は、建葉槌たけはづちは建豊波豆羅和気たけとよはづらわけと同一だと踏んでいるけどね。

開化帝ですか……欠史八代に触るとはっきり言って怪しさしか出ませんけどね

まあ、裏付けは一つもないから、これについては陰謀論ってことで認めとく。でも、そうすると不思議と、織姫・彦星の伝説と、建葉槌・天津甕星の伝説が近づいてくるのは確かなんだよね。欠史八代、何処に行ったのか……興味あるよねえ

完全に右向きスピ系陰謀論ですね

あはは。面白いじゃん、そっちのほうが。どう?地球人に必要な技術を教えたあと宇宙に帰った、みたいなの

苦笑いする静しずるくん。でも彼の言った宿魂石ロケット説は私の心を掴んで離さない。正解ストライクとは考えていないけど、何か本質に掠ってるんじゃないかという予感が拭いきれないでいる。同時に、静しずるくんに対する見方は、もう不可逆に変わった;ただの家出少年ではないという疑いは、今は確信に変わってる。

多段式ロケットの再現呪物としての宿魂石、星を巡り戻る類感魔術としての船渡御。

タナバタサカという字面から土地を探すのは諦めたほうがいいかもしれない。それでメリーの意図が探れるのなら追求する価値はあるが、おそらく字面に意味はない。メリーの目と、私のことを否定するために結界顕現の現場を押さえようとしていることを考えるのなら〝坂=サカ=境〟説の方が望みがあるように思えた。

(結局メリーが見たい、非「非実在」性を示すための結界を、私に見つけ出せって言うことね。ああ、問題がクリアになって助かるわよ、メリー!)

口に出さない心中までも皮肉の言葉で溢れてしまう。実際、これ自体はいつもの秘封倶楽部でしかない:違うのは、二人が別々に活動していることだけだ。

メリー。境界さかは、結界あいとは違うのよ。超えてはいけない、ものなの。わかっている?

メリーの目は天性のものだ。それ故にか、彼女には自分の目に映る境界と結界の区別を安易に捉えている傾向がある。一度渡っては戻れないサカ、離合往来を前提としたアイ、その二者を区別する意識が低いように思えて、これまでの秘封倶楽部の活動でも肝を冷やすことは多かった。異界に足を踏み入れたとき、あれが純然たる結界であったからよかったものの、そうでなければ戻ってこれなかったかもしれない。見えないより、見えるメリーにリスクを承知しておいて欲しい。

タナバタサカが祭事の一時的な禁足地であり巫女役の女性である棚機津女たなばたつめ以外の侵入を禁じる意味のものであったなら、それを安易に開き踏み越えようとするメリー(いつものとぼけた調子でふわふわと歩いていくに違いない)を止めなければならない。

そんな形で私を否定して、そんな方法で異界ゆうれいの実在性を証そうったって、その後はどうするつもりなのよ……!

タバコを咥えようとしたが、屋外に来るときは持ってきていない:自然文化保護区では青空の下での喫煙こそしょっぴかれる。小さく舌打ちをしてしまった。

それとも。彼女にとっては本当に、その二者に差などないのだろうか。

希望的観測としては、乞巧奠と関係ない以上タイムリミットは七月七日ではなくなった。あくまでも希望的観測だけれどね。取り敢えず……今夜の月を見てから考えるかな。どれくらい時空がズレてるのか確認しよう:何かの手掛かりにはなるかもしれない。アカハニの七夕坂はいいや;その代わり、昨日言っていた場所、案内してくれる?

§ ミツキ §

虫が多い。尋常ではない。

夏のうだる暑さへと上っていく緩やかな坂道に、夜空が降りてくる。自然文化保護区には地上の光源が少なく、星や月が輝く夜空は地上よりもよほど明るい。月は高く輝き、散りばめられた星も一つ一つが都市部とは比べ物にならないほどくっきりと煌めいていた。だが、この綺羅は:私はこれを疑っている。

いつもならメリーが横にいて、実際に現場で大きな働きを担うのは彼女の方だ。改めて思うが、だからといって足踏みしていても仕方がない。メリーが常陸国風土記に関わりのある事象、タナバタサカと呼ばれる場所に何等かを見出し、結果として私への問いとして投げかけられている。

そこは「ミツキ」とよばれる場所であった。坂と坂の間の踊り場のようなこの平地に寄り道することなく、そのまま坂を登り続ける道がみえた;その道を登るとどうやら、某という旧村社に至るらしい。それはそれで興味がないではないが、今は構っている暇はなかった;月の覗く空で、問い糾さねばならないのだ。そして、ここより下の坂は、ない。

ミツキと銘打たれた場所は、山と言うには少々低いが、ただの坂というにはそれなりの勾配をもった坂の二つがつながり合う、合間の平たなところにあった、らしい。今はこの場所を挟む二つの坂の内、前半はすでに海に沈んでいる。

結構距離あるかと思ったけど、思ったより近くて助かったな。〝ミツキ〟ってのは、昔の地名なのかな

ここは水場に面した山間やまあいの平地として親水公園のようなものだったらしい。一応は人の手が入って維持されていたような形跡があるが、今はいずれも遺跡のように趣のある姿になっており、管理は公園施設の維持ではなく朽ちていく時間の保護の方に切り替えられていた。

夜空を照らす輝きは、神秘的でありながらどこか生命力を感じさせ、夜というのが次の朝への再生を予言する世界のもう一つの姿だと思わせる。一方の足元には岩場という名詞との区別を失いかけていた石畳に足をついて片方から延びた橋が、何に架けられたものなのか最早判らないままもう片足の着地を失って傾いている。岩場然と荒れた石畳は平面を維持しておらずお転婆に凹凸を謳歌していた。温暖化の恒常化によって旺盛に繁る草木は恐らく当時とは品種が異なろう、それは人の営みからこの地を覆い隠そうとするように両腕を天へ地へ野放図に伸ばし、しかし人と同じく海岸線の変化の恐怖に震えている。この地はかつてはもう少し内陸にあったらしいことを承知している;だが今は進入した海に陸地を削られ、親水公園は臨海公園に公園は遺跡に変容していた。平たい土地は海の恰好の餌食なのだから。

む、虫が……多いですね。夏ってのは……うえ、口に入った

隣には例によって静しずるくんがいるのだが、不思議と彼が行く軌跡には様々な夜虫がついて回った。子供の血気を察した蚊が群れているのかと思ったが、そればかりではない。人の気配は避けるだろう他の多くの羽虫が彼の周りにまとわり付き、それどころか予見したかのように行く先に地虫や甲虫が顔を出す。駅前で見たときにどうにも人を遠ざける雰囲気を感じたが、どうやら虫にはやたらと好かれるらしい。

……のだが、少々度が過ぎる:彼が気の毒なほどだ。

えーと、夏っていうか、キミ、何か持ってる?炭酸ガス発生器とか、樹液の匂い噴霧器とか

嘘っぱちの月と偽物みたいな星々が、私を追い返そうと見下ろしてくる;それらの道行きを照らし、星空へ昇る危うい階きざはしが朧げに浮き上がる……の横で、羽虫の音がみるみる膨らんでいた。びちびちと体に虫が当たる音が喧しいくらい。昔の資料映像とかでよくみた、養蜂家のような姿になっている;しかし蜂ではなく余すところなく夜行性の虫であるし、彼には虫用のチェインメイルはない……ちょっと近寄らないで欲しい。

……平気?

全然平気、です

そうは見えないけど

日中もそれなりには虫は活動している筈だけれど、昼間にはこんな状態ではなかった。もし駅前でこんな風になっていたら、声なんかかけなかったろうし、あの変な女だって寄ってはこなかっただろう。

これはその、体質みたいなもので

体質……?

特段体臭がきつかったとか足が臭かったとかそういうことはない、それは実証済みだ。炭酸ガス濃度はわからないけど。

蓮子さんの〝六分儀〟みたいなものと思ってもらえれば

それ自体は拒否しないけど、それにしても……難儀すぎない?

この中に毒を持った虫がいるかどうかはわからないけれど、彼の周りに虫が集まることで私の周りからはいなくなっている……ような気がする。まるで誘虫灯だ。彼には気の毒だけど距離を取って歩く。

まあ……さて、文化の死骸なら、ゾンビより断然いい。ははあ、ミツキってのは風土記に登場する地名じゃないか。なるほどね

携帯を見る。マップアプリには史跡記号とともに「ミツキ」とだけ書かれているが、レビューも説明も何も無い。◯◯坂を虱潰しに巡る計画は頓挫したが、来てみればここもいわば某坂だった。道程に望む星々の営みは素晴らしく綺羅びやかで、光の粒一つ一つが呼吸して生きているかのように盛んだ。昼間に見た線路付近の無味乾燥な自然図とはまるで異なる。月も、まるで星々の輝きを纏ってわざとらしいほどに生き生きとした存在感を空に示していた。

携帯電話の画面をオフにして、改めて周囲を見渡した。

昔、イクチと、イクチをこの海へ招き入れる結界についてメリーと調査に来たとき、海岸線を望む神々の残滓の多様性と古い海岸線:そして海への畏怖を見た。その頃からさえ、この地の海岸線は書き換わっている。それは紛れもなく人の横暴に因るものだが、海沿いの平地には変化と適応のサイクルが付き物でもある;この地には恐らく、その中で河童や夜刀神と言ったものが見出されたに違いない。かつて人の営みだったものの名残が現象神として残っているものだ、と私は考えている。この地の「草木石くさきいわの類を誅つみないて」、人は歴史にこの地を編入したのだ。そして、この地は再び変化を迎えている。神の如き力を手にした現代人の手によって神話は書き換えられ、今は縮約運営の対象に選ばれている:翻弄、人の思うところ恣である。

所謂〝邪神〟ってのが、環境破壊の悪影響を擬人化したものって可能性、私は結構あり得ると思ってるんだよね。メソポタミアのフンババとかも、杉の過剰な伐採による環境悪化を描いたものって見方もあるし。人の手が入りすぎたことで川が氾濫したり崖が崩れたり疫病が出たりするものを、邪神が住まうと表現してその土地の特殊性や先住民に罪を被せた、みたいな。それでも殺しきれず信仰っていう形で残り続けてる神様っていう存在はさ―

§ ファイアフライ・フェノメノン §

そういって静しずるくんを振り返ると、先程迄の虫のかたまりは忽然と形を潜めていた。さっきまでの不快感を伴う狭蝿な音も忽然と聞こえなくなっており、身の回りにあるもの全てが突然質量のある闇に沈んだかのように静寂に包まれた。その静止した闇の中で今、彼は粒状の光に包まれ小さな体の輪郭を夜の闇に音もなく眩く浮かび上がらせている。な、なに?

―今のキミの有様みたいなのを、指すのかも知れないね

彼の体に当たり散らしていた羽虫も、遠巻きに彼の姿を迎え得ていた地虫も、全てがその光を遮らぬよう外側に侍り音を厭い、静しずるくんと彼を抱く輝燐光斑を祝福しているように見えた。光粒の群はよく見ればそれら一つ一つがやはり虫であった。黒い甲虫がその腹に柔らかな光の源を抱き、そのままに飛翔浮遊して静しずるくんの周囲に大量に漂っている。

蛍ですね

……この辺、川なんかあったっけ?蛍がいるにしては、海に近すぎる気がするけど

海に近すぎるというか、人に近すぎる。蛍光達の、静しずるくんに対する集合具合はある種異様である。まるで、彼の姿を明るく照らし出すために集まっているかのようだ。先程まで光りなんかしない大量の羽虫に集たかられまくっていたのだ、その延長だといえばその通りだが、それなのにと言ってもその通りである。

人間がホタルという虫の光に対して抱く感情は、ただの光源としてではなくどこか隔絶された特別視を含んでいるように思う。現にこうして、原因不明に蛍の光に抱かれる彼の姿を……私は美しくもどこかで畏ろしく見ていた。

確かに自然分化保護区に指定されて以来、一度はこの土地では滅んだ蛍という昆虫を、政府が直々にこの土地へ再移植したという事実はある。だがこの土地の種ではない蛍を無理矢理に定着させようとして失敗したというニュースも見た記憶があった。この土地に蛍という昆虫が生き残っている事自体に、違和感がある。彼の周りにいる蛍の、静くんヒトとの間に設けられた微妙な距離感。

そして、違和感とは、真実である。だが、その真実性を明かすに足るエビデンスがない。私は一旦それを口に出すのをやめ沈黙することにした。

この蛍の群も、キミの体質なんだ?

ええと、まあ

他の虫がいなくなった

ええ……そうですね

静しずるくんだけでなく私共々を遠巻きにして集まっている蛍が、地上に注ぐ月と星の光を乱している。その蛍たちの光が目に揺れる度に目の奥にちりちりと擦れるような感覚が生じ、風邪を引いたときのように熱い。目の奥から額、首の後ろまでがじんじんと熱っぽい;大空APIを読み取ろうとする私の目がデータ落ちを検知して補正を試み、結果として過負荷になっている。おかしい、別に星を見ているわけでもないのに―

ぐ、

光が暴れている:視界の中を。この光は本当にこの辺り一面に舞っているのか?それとも私の視神経に注入された誤情報なのか?月星から流れ込んでくるはずの時空情報が通っていない、代わりに蛍の蛍たる情報で上書きされた何かの信号が、目の裏を通って脳に刺さってきていた。まるで頭の血管の中を何かの蟲体が無理やり通過しているような、虫という意味が映像だけではなく触感として、神経を通過する。嫌悪感と痛覚が全身の血管を駆け巡った。

この蛍、どうにかできない?ちょっと……その、眩しくって

あまりにも急性で人体のスペックを無視した眼精疲労と、本来備わっていない脳器への過負荷が、強烈な頭痛を招いた。私は慌てて空を見るのをやめて手で目を覆い、地面を向いて目を閉じる。瞼の裏に焼き付いているのは、普段であれば星空の姿、だが今は……周囲を飛び交う無数の蛍によってめちゃくちゃにかき乱された光の群だった。小さい頃、目を閉じても瞼の裏で飛び交う光を目を閉じたまま追いかけていた、あれの深刻なやつだ。瞼の裏に残る光を追いかける遊びを口にしたとき、目に見えていないものを目で追いかけてはいけないと叱られたのを、思い出した。それだ、それのバチが当たったような、後ろめたさが付きまとってくる:脳喰い虫ユスリカのように。視覚情報が羽虫で覆われている。虫が見えるのではない、虫が見えているという情報で私の認識がジャミングされている。

ほ、蛍って、こんな、こんな……星じゃ、ないのに?

頭の痛みは目の奥から頭蓋の深い中心のあたりへ移動してきた。側頭部から全体に向かって表皮を無数の虫脚が這い回っているような感覚が彷徨い、やがて視覚をツブしに来ている。〝私が月と星を見るのがそんなに都合が悪いのか?〟頭蓋内圧が跳ね上がって脈打つ感覚が痛みとなって凹凸を描く、本当に脳みそが膨れ上がって頭が内側から外に破裂しそう。だがこれは、あるいは実情報を撹乱するべく流し込まれた大量のダミーデータトラフィックであり、この苦痛はその情報過負荷でパンクしそうな神経の悲鳴かもしれない。閉じて見えない筈の目の奥にぷつ、ぷつ、といった感触が浮かび、破裂した血の漏れ出すようなシルエットが浮かぶ;ただしそれは赤色ではなく蛍光グリーンの光を暴れさせていた。閉じているのに、眩しい。頭蓋内の内圧がどくんどくんと脈打つように膨らんでいく錯覚。

頭の中を虫の群れが飛び回っている、頭蓋の内側に足を乗っけてぶら下がり、皮質の上を彷徨いている。細い血管を身を捩って押し通り……その腹は緑色の炎のような光を宿している。光の束が意識を押しのけ、腹がチカチカ光るのに合わせて目の奥が明滅して……全身の筋肉がそれに合わせて……私の意思とは関わりなく動いてしまう。ダメだ、これ、ダメだ……!

ねえっ、静しずるくんッ……!蛍をっッ!!

もう大丈夫ですよ

静しずるくんの声が聞こえた。地面に視線を落としたまま、固く瞑り潰した瞼を弱めてみる。さっきまで目を閉じていても眼前ゼロ距離を飛び回っていた蛍はいつの間にか遠くに去り、目を開いてみても光の粒が幽か残っているだけになった。

おねーさんが叫ぶからみんないなくなりました。

そ、そう……きれいだったのに、残念だよ、はは……

あれほどの濃密だった蛍合戦は今や枯れ、散り散りに消えていた。ああなったのはどうやら私だけだったらしい、静しずるくんには特に視覚にバグが潜り込んで苦労していた様子はみられない;まるで遠くに去った蛍を惜しむかのように奥に視線を投げている。

さっきの映像は、一体何だ。星見のエラーではない、それよりもよっぽど攻撃的だった。まるで滅び移植された蛍達の呪怨、あるいは情報を窃視しようとした私への偽の星空からの攻性防壁?常陸国風土記に綴じ込められた違和感真実の主張?あれがヌケでないとするなら、蛍が私を黙らせようとしてきたのだとしか思えない。星のもたらすエラーよりも、強烈な攻撃性が、遅効性の恐怖のように体を駆け巡り始めた。

今の、キミの仕業だった?

〝今の〟?蛍が集まってきたことですか?虫が集まってくるのは僕の体質なので僕の仕業と言えますけど

キミが蛍を呼んだんじゃないの?

蛍ばっかり集まってきたのは初めてです。あんなにも集まると、蛍の光も狭蝿うるさいものですね

……そう、だね

蛍の群れが引き起こした異常な現象ファイアフライ・フェノメノン、私の脳の中の幻想だったのか?日本書紀に登場する〝蛍火の輝く神〟という言葉が脳裏を過よぎった。そして静しずるくん方を見る。私もメリーも趣味柄そういう人物と居合わせることが少なくない;メリーがいたらあの瞬間〝結界の姿が見える〟と、あの歌うような声で、聞けたのだろうか。そしてなにより。

まさか、彼は何かの、何かだと言うのだろうか。

これとも寝ちまったよ、オイぃ

この土地は私の目とつくづく相性が悪い。この土地の呪は、私一人の力では、到底無理に思えた。隣りにいる彼も、ただの気の弱い少年どころか尋常の存在ではなさそうだ。……可愛いことには何の違いもないが。

こんなものとエンタングルメントを得て私は、どうなってしまうのだ。

秘封倶楽部の活動中に遭遇する幽霊たちは、大体いつもそうだ。こういう手合は本質的に、私人間という存在に興味がない。無興味とは、敵意未満の留意であり、敵意以上の害意である。

流石に今回は……生還が危ぶまれる、かな……?

なんとしてもメリーを見つけて合流しないと、この常陸国から無事で帰れないような気がして、気が急き始めていた。

§ 御岩山 §

薩都神社:この土地の土蜘蛛が滅ぼされて静神社が名神大社になるまでは、静神社よりも有力な神山だった……ってことは、建葉槌たけはづち云々よりも歴史はいくらか古いってことだね。

誰に言うでもなく独りごち、天体観測に丁度いい空間がないかと見渡した。

賀毘礼かびれの高峰に祀られた速経和気はやふわけも、常陸国風土記にしか登場しないのに天津神との記載が許されている。天津甕星あまつみかぼしもそうだけれど、奇妙なものだ;この土地には大和政権の意に反しても咎められない理由か、あるいは力があったんだろう。しかし沢山殺した後の発言〝幸さちなるかな〟が〝薩都〟の由来とは随分と血腥い伝説だ。

この辺ともなれば露骨に山中である:街灯など当然ないが、私の目は月や星の光の下では妙によく冴える、これだけ燦然と謳う星空の下でなら、町中の街灯とさして変わらない。この場所もミツキと同じく、嘗ては人の出入りがあったのだろう場所を、無理に歴史文化遺産として保存しようとし、結果として保存できたのは時間の方だけだったという場所だ。賀毘礼かびれの高峰を参る人も昔はいたのだろうが、信仰を基盤としながら人の手によって維持管理されていた遺構は、無毒化された潔癖な『歴史文化保護』の名の下に人の手を拒絶されたことにより、唯の廃墟と化している。

私はさてと神さびた山道上の構造物に腰を下ろす;見上げれば空はよく見えるし、ここからであれば都市部を見下ろすことも出来る絶好の場所だ。

でも、隣に静しずるくんはいない。勿論メリーもいない。また一人の天体観測。

ごめん静しずるくん。キミを信用していないわけじゃないんだけど

先日の蛍の群による怪異ファイアフライ・フェノメノンで痛い目を見た私は、一時的な恐怖心から彼を連れてくるのを避けてしまった。静しずるくんに悪意があったとは思いたくなかった(≠思えなかった)けれど、夜の活動ではまた彼が蛍を呼び出してしまっては月星の観察どころではなくなるからだ。それに、今日に限っては彼は彼で用事があるのだという。都合が良かったと言うとちくりと良心が痛むが、先日ミツキで天体観測どころではなかったことは彼も気にしているようで「今日は別行動にしましょう」と進言してくれた。

さて、準備は整った。この土地の月と星に、問い糾そうか。

一人できたことは目的ではないが、わざわざこんな歴史ある山道にきたのには理由がある、つまりは予てからきちんと観測すべきと考えていた、この土地から見た月と星のアステリズムを望むためだ。ミツキでそれをするつもりだったのだが、なんとなく避けてしまったのは静しずるくんとここに来なかったのと同じ理由である。

眼前に広がる文化の死体の姿、空に見える生々しくも胡散臭いアステリズム:それらを歪に縫い合わせた時間生死のパッチワークを、ありのままに目に焼きつけ脳裏に保存し瞼を落とす。脳に焼き付けた映像を瞼の裏に投影し、あたかも目を閉じているのにそれらの光景が見えているように自己暗示し、そしてそのまま、瞼の裏に埋め込まれた二枚目の瞼だけを引き摺りあげるように開く。瞼の肉の間でずるずると擦れるように硬い膜が引き上げられる感触が走る。目を閉じたまま第二の瞼を開いたとき、そこに見えるのは月と星から返却された時空のRAWなレスポンスだ。

レスポンス内容を、暗算する。私の脳が大空APIのレスポンスをどの用に解釈して時間と空間に解像しているのか、私自身理解していない。だが、それを差し置いても。

なんだ、これ……月が

瞼の裏に描き出されたレスポンスの内容を、私の脳は上手くデコード出来なかった……出来なかったに違いない:そうでなければ、おかしい。

いない……?

今夜は暦の上では新月などではない。私の感覚、というか通常の月齢的には昨日が満月だった:つまり新月まであと二週間はある。だと言うのに、私の幻目には新月のごとく月の姿が映らなかった。ちょうど月影が失われた辺りには、周囲の星の光さえ吸い込むほどの虚空がぽっかりと口を開けている。そうして見渡せば、月のあった虚空を取り巻く星星の位置さえ、どこか不安定に思えた。ノイズを孕んだように振幅して安定せず、輝きは小さくゆらぎを見せている。この星達は、本物だろうか。

慌てて現目を開いた。現目の光学情報が訴えてくるのは、ミツキで見ようとした時に辺りを燦然と照らしていた光の姿そのものだった。星の姿も何食わぬ顔で元の輝きを取り戻している。ここまで不正確な情報を掴まされてしまうと、私の目などそもそも何の能力もなかったのではないかと自分を疑ってしまう;この土地にいる間に限っては、その通りなのかもしれないが。

この土地のパララクスの乱れが、これほどだとは思っていなかった。場所がずれる、時間がブレるどころではない、場所情報はエラーであったし、時間通知は二週間ズレていることになる。

この土地は、やはり何かがおかしい:……私がおかしいのでなければ。

もう少し、観察するか

これがこの土地だけのズレではないことは承知している:常陸国文化自然保護区で全体的にズレがある;だがここは著しく激しい。このズレをもう少し詳細に分析すれば、常陸国で発生しているエラーが何故なのか、なにか解るかもしれない。ひいては、この場所を指定してきたメリーの意図に近づけるかもしれない。

私はもう再び現目を閉じ、瞼肉の中に埋まる幻目の瞼を引き摺りあげ、第二の目で空を見る:月のない空、星が嘘の空、時間が誤っている空、空間が歪んでいる空。現目ではパララクスが乱れ、幻目では加えて月が失われる。これは、何だ。

ベガとアルタイルは、何処にある……?

もはやタナバタと七夕(乞巧奠きっこうでん)に関わりがあるかどうかはわからなかったが、その二星の位置も念のため確認しておく。どの程度ズレがあるのかによっては、手がかりになるかもしれない。この二星の合は、私は何かのサインだと踏んでもいる。静しずるくんが言った通り、ベガとアルタイルが合になるなど通常ではありえないが、私の目が巧く機能しない原因が、パララクスが何者かに恣意的に乱されているからだとして、もしベガとアルタイルのアステリズム大三角が想定外だったならそれは、この土地をして七夕坂であると示そうとしているメリーの資料に何らかの意図があることの裏付けになる筈なのだ。

でも、最終的にはタナバタサカをちゃんと見つけてから考えるしかないなあ

二週間の誤差があるのだとすれば、七月七日にも二週間の誤差を含んで考えるべきだろうか。ここの上にも下にも坂はあるが、賀毘礼かびれの高峰がタナバタサカであるとは考えていない;正確な位置を見出して、メリーを見つけ出さなければならない。そこに横たわる二週間という巨大な誤差を、どう扱えばいいだろうか。

六分儀なんか使わなくてもすぐに分かるくらいに特徴的な夏の大三角形は、幻目からでも容易に見つけ出すことが出来た。そのアステリズムに向かって、大空APIを叩く。大空APIのレスポンスが、第二の目から頭の中に流れ込んでくる。普段ならこれをうまく時間と情報にデコードできるのだが、この場所ではそれが膨大なエラーを返すことは承知の上だった。だが。

返却は……うっ!?

レスポンスの情報量サイズが異常に大きい、明らかに意味をなさないスパムで肥大化している:これ、まともじゃない。それを無理にデコードしようとする脳回路が悲鳴を上げ始めた。目の奥が熱い;受信情報が大きすぎて処理系の伝達経路がパンクしかけている……いや、パンクしていた。強烈な眼精疲労とそれにトリガーされた片頭痛が突然襲いかかってきている。月だ、黒く抜けた月の不在空間が、周囲の情報のエラーを誘発して、レスポンスサイズを肥大化させている。こんなことは初めてだった。

なに、これ……止めないと、レスポンス受信、止め……っ

問合せ処理を途中でキャンセルするなんて、今までやったことがない、やり方も知らない。眼底から繋がる血管が破裂しそう、眼球の中でチカチカと光の錯覚が踊り、頭の血流が暴走して頭が締め付けられるような激痛が襲ってくる。頭の中が意味をなさない意味で満たされていくのがわかった。

や、やばい、これ、どうすれば

急に体が重くなりその場にへたり込んでしまう。もう第二の目は閉じているにも拘らず受信してしまったエラーレスポンスの処理が停止できずに頭痛が収まらない、頭痛が酷すぎて吐き気まで出てきた。バグがあるってわかってるのに突っ込んだ私が悪いのだけど、こんなことになるとは。座り込んだまま、目を閉じて間違っても空を見ないように地面に顔を向ける:苦痛が収まるのを願って。

これ……治るかなあ。治んなかったらヤだなあ

静しずるくんの呼び出した蛍の群も、私の目にとっては十分に相性の悪いものであったが、この場所から望む星空はそれを上回る悪さだった。蛍の光を大空の星々と比較することは流石に烏滸がましいが、両者の光が私の網膜越しに投入してくる情報の質は、いかにも似ていた:不自然なくらいだ。とはいえ、いずれもまともな情報を返却してくれはしない。

あの蛍は偶然にそうした光の群を作り上げただけかもしれないが、とかくこの星空だ:人智を超える何かにアクセスしている自覚はあった。例えば肉眼で太陽を見つめてしまうと網膜に障害を負いかねないのと同じように、あの星空をまともに眼球に受け止めるには何か不可逆な影響が心身に出るリスクがあるように思えた:そしてそれは重々承知しているつもりだった。だから起こってしまったことそのものに対して後悔はないが、この心身症が治らなかったときのことを考えると、少し気が滅入った。こうして月星に突っぱねられてぐったりと座り込んだままになっている私を見て、自殺志願者か何かみたいね、と言うのはメリーである。結界のありかにふらふらと寄っていくあんたに言われたくないよ。

スパムまみれで肥大化したエラーレスポンスのジャンク部分を剥き落として行った残りに……辛うじて夏の大三角形の虚像があるのがわかった。それによればやはりアルタイルとベガの位置が、明らかにおかしい。二つの星が、天の川の中に入り込んでいた。まるで二人で対岸同士から入水自殺するみたいに。

はは……やっぱりね……

現目に見える(つまり普通に見える)アステリズムは、変更されている。第二の目から見えかけたこの異常なアステリズムが、おそらく今の本当の姿だ。本当?本当とは何だ。パララクスが掻き乱されアステリズムが崩れている普通の星空か、それとも私の目に映った本当に星合をなそうとする異様な星の動きの方か。メリーはこれを、追いかけようとしていたのかもしれない。私にもこれを追いかけることが、出来るか?

いずれにせよ、今は、動かない体を休めて……回復を待つしか無い。

私はいよいよ座っているだけでも辛くなり、空を見ないように二重の瞼を閉じきったまま、もはや参道とは呼べない程凹凸し合間から草を生やす地面に転がるように横たわって、頭痛と倦怠感が去るのを待とうとした。

§ 水蛭子 §

幸い頭痛は少しずつ引いてきていた。脳なのか能力なのか、どっちなのか私自身にもよくわからないが、エラーレスポンスに無駄に大量のリソースを奪われていたのが原因らしい。処理が終わってしばらくもすれば落ち着いてくるものだったのだろう。もう少し落ち着いていれば、頭痛と不快感は落ち着くかに思われた。

まったく、酷い目にあった。全量問合せでエラーあるとあんなことになるなんて……この辺ではもうやめておこう

目を閉じていたから近付かれていることに気づかなかった。

ずる……ずる……なにか引きずるような音があったのに、聞き漏らしてしまっていた。背後に何か蠢くものの気配を感じて振り返ったときには、既に遅かった。細く伸びた何かが、私の脚に絡みついていたのだ。

えっ

残る頭痛を押して無理に起き上がって避けしようとした。飛び退くこと自体は出来たのだが、脚にへばりついたそれが伸びるように一緒についてきたので意味がなかった。横になっている間に何かが引っかかってきたらしい。頭痛かったんだから放っておいてほしいのに:なんてある意味高慢な感情が湧き上がったが、脚に伸び絡みついている物の形を見て凍りついた。

それは液体ともゲル状ともつかない不定形な有り様をしていた;フィクションに登場するスライムのようにも見える。それには体温があり、まるで粘膜のような潤った表皮を備えて、剰えゆっくりと脈打っているのだ:呼吸か鼓動を続けているかのように。何より、異様なのは、その色合いと質感だ。スライムと評するには、それもまた異なっている。

な、なに?

それは血色を帯びた黄白色をしていて、同時に表面は湿り気を帯びてヌメっていた。私は身体を捩って、不快に生ぬるく柔らかい蔦のようなものを振り払おうとしたが、それはまるで意思を持った動物のように巻き付いて、外そうとする動きに抵抗してくる。細長い何かはよりきつく締まり、それどころか新たな分肢を伸ばして巻き付いてきている。不定形ではあるが延びた形は蛸の脚のような形を持ち、それはただ外部からの偶然によって引っかかったのではなく、明らかに意思を持って私に絡みついてきていた。伸び上がるゲル状の塊は私の脚に回り込んで巻き付く動きを繰り返しながら、じりじりと上ってくる。

ちょっ、何これッ!?

ずる……ずる……

このゲル状を維持しながらも、まるで肉塊と表現することを禁じ得ない。しかもそれにはまるで髪のような毛が所々まだらに生えており、またよく見れば(見るべきではなかった)ある一箇所に瞼らしい切れ目や、鼻や口のような穴を備えた膨らみがあって、伸ばしてくる分肢以外に根本から四肢のような突起が出ているのがわかった。それらの特徴は時々刻々と位置と姿を流動させていて、ヌメる人肌質感のあちらに現れたりこちらに移動したりと忙しない。全体としては蛞蝓のように横たわっているが芋虫のように脈打っており、しかし形は不定形で敏捷な粘菌のように枝分かれした部位を長く伸ばしたり丸めたりしている。一言で言い表すのなら〝肉スライム〟。私に絡みついてきているのはそうして伸ばされた肉腕の一部だった。不快感極まりない形状だが、それ以上に想像したくないものを、どうしても想起させる。

それは体の一部だったもの(だが今は遠く離れた姿に成り果てているもの)。人、だったもの:だってそれは、明らかに人の形をしていない。しかし個別の部位に限って言えば、まさしく。

これ、人間、なの……?

形状はともかくとして、端々に現れている個別の特徴は、人間のそれだった。だが、全体としては決して人間ではない:こんな形をした人間がいて堪るものか。なんて、忌々しい姿か。

人とは認めたくないが、一度そう見えてしまえばそれは、形がぐちゃぐちゃに崩れ流動性を持った人間の体としか見えなくなった。頭部らしい顔面の痕跡は常に移動しており、腕なのか脚なのかわからない突起は無数に伸び縮みしたり分岐したり、ちぎれては本体に融合し直したりを繰り返しているが、人間と思しきパーツがバラバラに流動しているのが明白だった。私の脚に、今や腰回りにまで巻き付いて来る伸びた何本ものゲル状の腕は、細く伸びた人の腕のような形にも見える。これが人体か、人体を元に生まれたなにか別のものだとしたら、この肉スライムに特徴的に備わっていないのは、骨だった。

骨がない人間……水蛭子ひることでも、言うのだろうか?

ねえ、離して、ねえったら!

目の前の肉塊スライムを人とは決して認めたくはないが、人としてコミュニケーションが取れなければ言葉が通じない。離せ、との言葉は、無人の文化死骸の石床に響き渡り何の抑止にもならなかった。足を引き抜き離脱しようとしたがそれは余計に悪い結果をもたらしてしまう:転んでしまった。肉スライムは私の転倒を見逃さず、肉ゲル本体から更に多くの腕を伸ばしてくる。

ずる……ずる……

魔法あれ、使えるか?時空情報のはっきりしない、この場所で

魔法あれは、確かにこんなこの世ならざる者に、効果がある。だが、対象が時空情報の不正によって眼前に顕現している存在で、かつ、今自分がいる時間と場所が正確に把握できている時にしか効果が現れない。別にファンタジーゲームの攻撃魔法みたいなものではない;敢えて当てはめようとするなら、アンデッドモンスターに蘇生アイテムを使うと倒せる、のようなものだ:それも成功確率が低いタイプの。加えて今は、相手の正体もわからなければ、今いる場所も時間もよくわからないのだ。スマホの時計も位置情報も、私の目が通常取得する情報に比べれば誤差が大きすぎる:そして今はその目が機能しない。この水蛭子ひるこ(仮)が何者なのか、全くわからない。意図も、私に何をしようとしているのかもわからない。

それでも一か八か対象に向けて時空問合せを叩きつける。

「な、『汝、何時なりや』……っ!?」

水蛭子ひるこ(仮)の姿は電波混線したノイズ混じりの映像のように一瞬姿をチラつかせ動きを止めたが、すぐに取り戻して動き始めてしまう。ダメだ、やっぱり条件が揃ってない。水蛭子ひるこ(仮)は明らかにこの時空に存在していていいものではない:自分の現在時空がはっきりすればおそらくイニシャライズは機能するのだが、肝心の自分の所在がわからない。

APIを叩き、またもエラーが返却されたせいで、落ち着いてきていた筈の頭痛が増す。この土地とあまりにも相性が悪い。

くそっ、最悪ッ

巻き付き伸び上がってくる不快な肉触腕を手で剥ぎ取ろうとするが、精々私の腕程度しかない太さなのにやたら力が強い。ヌルヌルとした表面の感触と吸盤がついているようには見えない形に反して、引き剥がそうとしても強靭に貼り付いて引き剥がせない。それどころか高く盛り上がったゲル状の肉塊からは気色の悪い腕が追加で何本も伸びて既に私の踝を捕まえ、みるみる登ってくる。

ひっ……

まずい。秘封倶楽部の活動をしていて〝まずい〟ものと鉢合わせたことは、何度もある。はっきり言って毎回毎回死線だったと思っている。けど、それらのいずれも〝まずい〟ものと物理的に接触することは辛うじて避けられていた。北海道で大蛇に襲われたときも、山形で旧神に見まみえてしまったときも、鏡の中から夫妻神の逃亡劇を見ていたときも、様々の結果として物理的な接触はしていない。唯一物理的な接触があったのは、メリーが持ってきたクッキーと筍だが、これは所詮クッキーと筍だった。しかし、今私が置かれている状況は今までで一番、まずい。

水蛭子ひるこ、この世に痕跡を残せなかったことを、恨めしく思っているの?

水蛭子ひるこは、伊弉諾・伊弉冉夫妻の第一子でありながら船に乗せて捨てられ、淡島あはしまと並んでこれを始祖とする氏族は存在しない。信奉する神社は存在したらしいが、歴史としては断絶し空想上の存在と成り果てている。

神とは超越的な存在として人間に求められるかたちで作り上げられ、しかし人間の理解が及ぶ姿でしか存在し得ず、しかして神とは人間でなければならない。矛盾に満ちている。水蛭子ひること淡島あはしまはその矛盾に相当に早い段階で曝され、その矛盾のあり方をもろに喰らった存在だ。

信仰は残っているんだから、ワガママ言わないでよっ!

信仰は残っている?どうだろうか。古代の神は今日日ほとんどが信仰など残していない。信仰があったという痕跡を鑑賞するエンタメがあるだけだ。神や妖怪などという存在を人間は忘れていて、もはや真に思いを馳せたりはしない。神社があれば信仰だなんて、まさしくゾンビそのものだ。鳥船神社を思い出す。誰からも忘れられ、それでもミニ生態系さえ作り上げた人工楽園に、果たして神はいたのだろうか。神など、不要なのではないか。

気の毒だとは思うけど、私には何もしてあげられ……はっ?

始祖氏族をもたず、この世に痕跡を残せなかった、その積年の大願を晴らすというのなら……水蛭子ひるこが望むことは明らかだ。

ずる……ずる……

や、やめてよ……?

女から声をかけたから出産に失敗した?だったら今の世界を見たら神様はひっくり返るだろう。男なんかいなくても赤ちゃんは作れるし、女同士なんだから当然女から声をかけるものだ。残念だけれど、それは原因じゃない。責任転嫁もいいところだ。だがこの国での人類の閉塞感が、女性体細胞核同士を用いた体外受精における奇胎発生率の上昇と男性発生率の低下が、これだとしたが?

私のよからぬ想像を言外に肯定するように、水蛭子ひるこ(仮)の触腕は数を増して私の体を捕まえる力を強くしていく、いまや膝から下は肉スライムのぶよついた感触の固まりの中に埋まり込んでいた。埋まった脚を引き抜こうともがくと、肉ゲルは不定形に伸縮して一層に密着度を増して深く呑み込んでくる。靴やソックスを履いていた筈の脚に、

直接ヌメった生温い感触が触れているように思えた。すっかり呑み込まれて見えなくなった膝下がどうなってるのか、想像するのが恐ろしい。

人間のテクノロジーはお前の不幸を乗り越えようとしているんだよ!諦めて忘れられてくれないかなあ!?

そうだ。人間は今、神を必要としていない。子作りの方法を神に指南される時代じゃない。水蛭子ひるこの伝説は悲劇としてしか読むことが出来ないけれど、その悲劇の多くは今、完全にではないにせよ人間自身の手で回避することが出来る。水蛭子ひるこの無念があるとしたらそれは、既に晴らされている。

水蛭子ひるこ自身が自らの不幸を呪って悪神と化していない限り。

タイプじゃないんだってば、あんたみたいなのは!!

渾身の力で腕を剥ぎ取ろうとする。痛い、強烈にくっついていて、引き剥がすにはまるで自分の肉ごと削ぎ落とさないといけないような固着力だ。それがもう何本も、私の体に貼り付いている。スカートの下で太股に巻き付き、もう見えないがおそらくソックスの下に滑り込んできている。シャツの下に、ブラの下に、入り込んで素肌に吸い付いていた。

絡みついて捕縛する吸着分腕の他に、まるで細く長いいびつな手指のような形を先端に持った分肢が私の肌を撫で回し始める。表面がやはり何かの粘液でヌメっていることは変わらず、それが撫でた私の肌にはべっとりと粘液の残滓が塗りつけられている。男の精液を思い出すその粘液が、いよいよ手腕まで絡め取られて身動きが封じられた私の体中に塗りつけられる。生温くてぬらぬらとした感触が全身に広がり、私は気持ちの悪さに総毛立つ。

ずる……ずる……

やめて、ってば……!ま、マジなの!?

§ 胚種広布弾 §

仮に地球外生命体だの未確認生物だの宇宙人だのが発見されたとしても、それが自分ヒトに対して生殖行為を持ちかけてくるなんて実際にはありえない。好意的に捉えたとしても侵入者=イコール敵判定からの攻撃か、餌認定されて捕食されるのが精々だと思う。なのに、このブヨブヨした水蛭子ひるこ(仮)は、明らかに私の服の下に入り込んできている。まだ意図はわからない、何なら餌として捕食される方がマシだ。

なんとか抜け出す方法……は……

手に届く範囲に崩れた石床の破片があった:と言っても礫にも満たない石だ。藁にも縋るとはこのこと:握り拳にも満たない小さな石をの角を立てて、脚に絡みついてスカートやソックスの下に入り込んでくる肉質に叩きつける。案の定、という言葉は使いたくなかったけどあまりにも想像通り;柔らかい液体のような体には全くダメージがなさそうだった。石を放り投げる。火でもあれば違ったのかも知れない。

ライター持ってくるんだったなあ、畜生!

こんなことなら隠れて喫煙して条例違反にでしょっぴかれる方が遥かにマシだ。誰にともなく毒吐いて、もう一度肉スライムを剥がそうとする。何回やったって同じだった。

ここは自然文化保護区だ;きっと監視用のカメラかセンサーが機能してる。私がまともでない状態なことは、管理会社か何かにきっと伝わっているはず

淡い期待を抱きながら、下半身をすっかり奪われようとしている体を左右に転がすように動かそうとする。水蛭子ひるこ(仮)の力は想像以上に強くて、体を捻り転がすことさえできなくなっていた。脚は柔らかいのに強固に固定され、ばたつかせることさえもできなくなっている。下半身は水蛭子ひるこ(仮)によって地面に固定されたような状態、やがて柔らかく不気味にぬらついた人肌のスライムが、徐々に腹と背を登ってくる。下半身では靴も靴下も乱暴に剥ぎ取られていた。

だれかー、助けてくださいー!誰かー!

この期に及んで無駄に理性が働いていた私は、必死に叫ぶと言うよりは助けを求める声を誰かがキャッチしてくれるという「社会的な機能」を期待して声を出していた。幾ら人間が人間味を失った現代であっても、助けを求めている人間の存在を認めても見殺しにするような常識は出来上がっていない。このバケモノを見かけて震え上がることはあったとしても、どこかに通報くらいはしてくれるはずだ、と。

誰かいませんか!監視カメラの向こうのあなた!監視AI!ちょっとすみませんけど、治安出動お願いできませんかねェ!?

声を張りながら水蛭子ひるこ(仮)が登ってくるのに抵抗する。へその凹みを何かと勘違いするゲル腕が、細めた先端をへその中に差し入れてきた。ヌルヌルした粘液が注ぎ込まれて、ぐちゅぐちゅヌメった窪みを何本もの細い先端が穿る。自分でだってそんなに触らないヘソの穴の中めがけて、うねうねと動き回る細い感触が入り込んでくる様子は純粋に気味が悪い。この軟体指が私のヘソを何と勘違いしているのか、想像したくない想像が働いてしまう。だって、ありえないでしょう、これが、人間私に、だなんて。注ぎ込まれたヌルヌルの液体が潤滑液みたいになって摩擦を打ち消され、泡と音を立てるように細かに蠢く肉撫でが、ムズムズ不思議な感覚を植え付けてくる。

これ、本当に〝形がない〟だけの、ヒトだったら……?

私の疑いは最悪のものだったが、今の状況を説明するのには一番辻褄が合う。合ってしまう。

精々もがこうにも、既に数え切れないほどの触手が太腿に脹脛に足首に巻き付いていて動かすことも出来ない。それどころか私の脚を開かせようとする力が加わっていることに気付いた。

ひっ!さわんないでよ!キモいんだよ、あっち行け!おーい、誰かいませんかぁ!?

ずる……ぐちゅっ……

声だけで肉分肢の動きを制止できるわけもなく、骨もなく柔らかい肉塊でしかない姿からは想像できない強い力で股を開かされてしまう。ヘソを何かと勘違いしている程度だから不能なんだろうと踏んでいたが、そんなことはないらしい。明らかに狙ってる。

ふ、ふざけないで、マジでタイプじゃないんだって!鏡見てから出直してこいよ、不細工っ!!誰か警察呼んで下さい!

手近にある石を掴んで肉塊の本体に投げつける。無意味な抵抗っぽいけど、何もしないなんて気が収まらない。

手に届く範囲の石が終われば何かのゴミ、小石、砂、なんか適当に手につくものを何でも投げつける。手で体を引っ張るようにして後ずさろうとしてみるが、やはりびくともしない。肉塊本体から伸びる肉指が増えて、いよいよ上半身も捕まってしまった。

キモい、マジ無理!!絶対お前彼女いないだろ、そんな顔でそんなふうに強引しか出来ないんじゃ無理もないね!

もう投げるけるものは声しかない。誰かがこの声を聞いてくれれば喧嘩か何かかと思って通報してくれるかもしれない。声にでも何にでも怯んでくれれば時間稼ぎにも―

んぃッ!?

人間の指をそのまま長く引き伸ばして関節を消したような気味の悪い触腕が首にまで巻き付いてきた。変な声が出てしまったのはその不気味な形を目の前にしたからではない、その先端から爪のような形の細長いものが伸びていて、その先端が首の後ろを鋭く突いたからだ。

突いた、といえば聞こえはいい;明らかに、刺さった。

ぶよぶよした肉塊から伸びる不定形と定形の中間のような触手からこんな鋭利なものが飛び出してくるとは思っていなかった。身動きが取れない今の私の喉元に、その鋭い突起があるということは……生殺与奪が握られているということだ。首筋に何かが刺突された感覚がじんわりと熱く感じられている。

動けない……どうやっても、逃げられない、畜生

這いずる肉スライムは……水蛭子ひるこの体は、数多伸ばした不定形のゲル触手で私の体を地面に押し付けたまま、本体らしき塊を私の開いた脚の真正面あたりへ引きずり動く。目とも鼻とも口ともつかない、抉れた肉穴の並びが、私の方を真っ直ぐにではなく不自由な斜めに回った。視覚というものがあるのなら、それは私の体を品定めしているに違いない。

犯される、だがその後でどうなるのか想像ができなかった。私を母胎として維持するような高度な活動ができるようには見えない。ただ穴に肉を挿入する本能だけがあるのだとしたら、それに満足した後はどう扱われるのか想像できない。そのまま放って置かれるのならマシだ、それこそ餌として食われるのか、穴に挿入する行為そのものが目的を忘れていて、体をぶち抜かれるかもしれない。あの鋭い食指を性器と勘違いしてさえいそうだ。あんなもの突っ込まれたら、きっと。

死ぬ。

それ以外の選択肢はあっという間に塗りつぶされた。

秘封倶楽部の活動を続ける中で、こういうことになるかもという危険性は常に感じていた:言葉の上では。でもどこかで、本当に意識の片隅に、こびりついて絶対に取れないシミのように「自分だけは大丈夫」という無根拠な思い込みがあった。自分はなにかの物語の主人公で、その伴侶として誰もが目を引く金髪の美女を連れていて、物語の道中で危険な目には遭うけど最終的には酷いことにはならずに切り抜けられる。

そういう星の下に生まれたのが私なのだと。

ったいなァ!?殺すの?アァ!?喉かっ切って殺すつもり?いーよやってみなよ、ド不細工のクソバケモノ!

失理の旧神も、大蛇も幽霊武者も逃亡中の夫婦神も結界省の役人も、どれも私をどうにかすることなんか出来なかった、出来なかった!なのに!!

でも今は、その伴侶がいない。

星は本当のことを答えてくれない。

声を上げても誰も聞き届けてくれない、歴史文化保護地区にも拘らずここには監視カメラの一つも備わっていないらしい。それに誰も通りやしない。

唯一の同行者は、私が自分の意志で連れてこなかった。

いつの間にか、私の手の中には何一つ残っていなかった。常に備わっているものと信じ込んでいたあらゆるものは、いつの間にか私のそばから何一つなくなっている。

いつ?

いつ、どの選択肢を間違ったんだ?

なんでこんなことに?

どうして?

どうして?

どうして?

お前なんかの好きにされて堪るか!殺すんならさっさと殺しなよ!食べるの?犯すの!?生憎、あんたみたいなのじゃ孕めるものも孕めそうにないけどね!

私の啖呵を聞いてか聞かずか、水蛭子ひるこ(仮)は私の首筋を突き刺した触手を私の眼前にぶらつかせる。ゴム製の人の指を引き伸ばしたみたいなグロい触腕の先端についた爪とも針ともつかない硬い組織があり……その先端からは液体が滴っていた。スライムから分泌されたぬらぬらした液体だろうか、それとももっと別の―

ふギッ!?えっんおぉぉッッ!?❤

不意に、脳味噌が直接殴られたような衝撃:閃光:爆発する―快感。突然襲い来る下半身の痙攣、反り返る背筋、蠕動して収縮する膀胱、捻りれ上がる膣。多幸感。こ、これって……

ぶシュッ!ぶしゃっッッ!

〜〜\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/〜〜〜!?❤❤❤!?❤?❤?❤❤❤

い、イってる?

何もしてないのに、いきなり?なん、で?

顔面に力が入らなくなる。瞼が落ち、頬肉が緩み、鼻の下を垂らしながら、バグった眼球操作が焦点を狂わせて、目玉がひっくり返りそうになる。心臓がショックを受けて跳ね回り、頭蓋の中でフラッシュが点滅した後、ゆっくりと暗幕が降りてきていた。下半身は掴まれたままなのに脳が勝手に全身に反り返り命令を出したせいで、全身が痛い。だが開かれた脚と腰には少しアソビがあったせいで、がくっ、がくっ、と上下に波打ちながら何かの液体を噴き出してしまう。い、イキ潮、だ。

っ????ぁえ!?っ?❤ぁ?んえ……ッ!?❤

信じられないけれど、イってる。体中に襲いかかってきている感覚はアクメ以外の何者でもない。しかも、かなり強烈なやつ。メチャクチャ気持ちいい。

ぴギッッ❤ッおおおおッッッ❤

確かに触手は肌の上を這い回ってはいるけど、性感帯なんてどこも触られていない;気持ちが悪いばかりで、触れられたことでの快感なんて1ミリもなかった。それどころか、首に何か凶器を刺されて、もしかしたら毒を打たれたかもしれないとい……毒?

これ、ど、どくぅッ❤毒じゃ、なヒぃっ❤

一瞬だけまともな思考を巡らせることができたが、すぐにまたオーガズムが降ってきた:組み立てていた思考が破砕される。いきなり、降って沸くように前触れなく突き抜けるオーガズム。愛撫や挿入で徐々に高まっていく性感の果てにある絶頂ではない、登り坂を登らずにいきなり頂点だけが、突然ブン殴ってくるような暴力的な法悦。

イッっおッ❤あーーーっ❤な、なに、ごりぇっッ❤

徐々に膨らむ快楽と違い、心も体も備えることが出来ない。イきそう、イきそう、と全身に走り抜ける甘美な電流の到来を予見してそれを抱き留めるある種自分の体とのコミュニケーションを、ばっさり否定されている。イく、ではない、イった、だけがある。

拒否していても否応なく、備えの有無にも関わらず、まるで体の内側から鞭打たれるような問答無用の絶頂が、稲光のように勝手に体に現れる。脳が勝手に強制的に絶頂を命じる、不可抗力の瞬間沸騰アクメ。

んぇ❤あっ❤イく、イッでるッ❤勝手にイくぅぅッ❤

しかも、連続。止められない、抵抗もできない。陰部は快感を感じる暇もなく、まるで雷光に遅れて音が聞こえるが如く、先にイって、後から強烈な快感に焼かれた。捩れ上がる膣、苦しげに震えて汁を搾る淫唇、みるみる内に膨れ勃つ淫核。どれも、外部の性感刺激にありつけず、内側から刺し殺されるようにアクメ反応を示してしまう。

っほぉッ❤うァぁっ❤なにもっ❤なにもじでないのに❤

ジョッ!ジョバッ!

潮なのか尿なのかわからない、勝手に持ち上がって波打つ腰と勝手に締め上がって震える女陰が、勝手に液体を噴出している。快感によって充血したのではなく、絶頂の既成事実に追いつくために勃起したクリトリスが剥き出しになっている。なぜ自分が勃起しているのか理解しないまま空気の感触にさえ敏感に震える淫核が、まるで無人セックスのように波打つ腰の頂点で天を指している。

我慢とか耐えるとか備えることもできない、気持ちいいからイくのではない、イけと脳が全身に命じる不可抗力の絶頂。アタック0の最大快楽が、その後からやってくる。

イぐっ❤勝手に腰ヘコるッ❤こりぇ、なひ?毒らろッ?

刺し込まれた針から滴ってた、あの液体だ。媚薬?そんなんじゃない。これ、死ぬ。イき死ぬか、イき死ななくても絶対脳神経が壊れる。脳味噌がこれを覚えちゃったりしたら……四六時中いきなりアヘりだして社会的に死ぬ。

水蛭子ひるこ(仮)に手も足も拘束されて、自分自身では指一本として自分の体を触ることが出来ない。水蛭子ひるこの触手でさえ私の体を撫で回したり粘膜に触れたりもせずただ私を拘束しているだけ。なのに、好きな人とムード満点で弱点を責められ続けた甘美なクライマックスの、その最後の部分だけが、一切の接触無しに、突然爆発するのだ。耐えられるわけがない。

ガクッヘコっヘコっカクカクっ

イっでるっ❤勝手にぃッ❤何もしてないのに、私の体勝手にイってる、強制自動アクメッ❤おわんにゃっ……またイクっ❤イクって言ったらのーみそ勝手にイクっ❤イッたらイクって言っちゃう❤言ったらイクっ❤虚無に迎え膣しゅるぅっッ❤

セックスと勘違いした体がバグって、マンコ挿入受付ムーブで腰を動かしてしまう。膣壁摩擦への過剰な期待、絶頂への後付け反射。オスを誘う忘れられたダンス。

目が見えない、アクメフラッシュが視神経を占有している。声が出ない、いや出ているが、理不尽アクメを訴える快楽の苦痛を喘ぐばかり。膣がうねり続けて痛い、充血しすぎたクリが痛い。でも、終わらない。

こんにゃにょ、こにゃのむぃ❤イき終わんないっ❤なんいもひてないのに、かってにイッぐぅ❤おほ、お、お、おぉぉっ❤とみぇてぇ、全自動アクメとめひぇえ❤死ぬ、脳味噌マン汁で溺れゆ❤💢

それでも私の体は勝手に絶頂を繰り返す。一切の接触なく、まるで呼吸するかのように植え付けられた「絶頂しろ」の脳信号を吸い、快感と喘ぎと汁を吐き出す。

はぢけるっ❤とっけりゅ❤アタマ終わるっ❤まんこイくしかわかんなくなりゅっッッ❤❤❤イき終わってぇっ❤おにぇがい、イくのおわっひぇ❤あたまおまんこっ❤ぶっ壊れてる❤💢まんこも脳味噌も全部、イくたんびに腐ってく❤イきっぱなしゾンビににゃりゅぅぅっ❤

びしゅっびゅっ

かくっかくっ

んイっ……❤イグ❤いっひぇるがらあっ💢

びくんっ、びくんっっ!

へ……ぁ❤

ぶしゃあっ、じょばばっっ

んお、おおおおおっ❤も、らめ、ぇ❤💢

尿道なのか膀胱なのか、一体どこにそんな量の体液をため込んでいるのか、自分でも狼狽えるくらい股間からスプレー噴射を繰り返している。脳が連発する絶頂命令に反射するように、背が反り返り持ち上がった股間からいつまでも自動噴霧されるイき潮。不随意な絶頂反復が体内の内分泌も筋収縮も、ぶち壊している。呼吸さえ難しくなってるのに、オーバーフローした絶頂処理が苦痛にさえイき快感を擦り付けてくる。

おッ❤イ……く❤イッでるぅッ❤んおおおッ❤💢おわっでぇッ❤イくのもうおわっでえぇッ❤💢イッ……おあィッ❤勝手にイくのヤぁッ❤💢自動アクメもうイヤなのに、キモチイイの止まんないぃ❤

アクメ脳汁でじょばじょばになった頭、大脳皮質にマン汁が浸水して、脳のしわひとつひとつが全部まんこになったみたい。目に見えるもの耳に聞こえるもの、肌に触れるもの全てが、アクメの結果になってる。感じてからイくんじゃない、イってから圧縮された絶頂快感に押し潰される。イく。イってる。イく、イく。イく。

勝手にイって勝手にぎもぢくなりゅっぅ❤まんこキツいッ❤指一本触ってないのに、イき痙攣でまんこキツいっっ❤オッ❤んほぉっっ❤まんこイくまんこイく勝手にイくまたイくずっとイくイく、イクイクイクイクイクっっっ❤❤❤

意識が溶解していく。過剰なアクメが脳のダメな神経同士を結線して気持ちよくなっちゃいけないものまで性欲にしてしまう。目から入ってくる光の束でさえ、脳イきの材料。耳から聞こえる音でさえ恍惚で、鼓膜の振動にさえクリオナみたいな快感が走る。

やびゃい……❤これぇ……覚えちゃいけない快楽経路、開発されちゃってる……❤知っちゃいけないやつ、わかっちゃダメなやつ❤だってこれ、痛みまでバグってて……❤

ガンっガンガンっごりっ

余りにも強烈な快感とアクメ波に、体が不随意な痙攣を繰り返している。眼孔の中で目がそっくり返りそうになるのを必死にこらえると、ヨリ目が戻らない。呼吸が足りなくて犬みたいにだらりと舌を垂らしながら、ひっきりなしに襲ってくるアクメの波濤にもみくちゃにされていく。快感の逃がし先がなく、それに快感に飢えて飢えて叫びだしてしまいそうな狂乱を、アタマを石畳にぶつけながら耐える、いや耐えられていない。これは行きすぎた快楽で至った異常行動かも知れない。地面に頭を叩きつける衝撃が、脳までクリトリスにする。

ガンゴンッぞりっ

おっ❤んおお〜〜⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/❤❤❤じぬっ❤イぎじぬっ❤

もう監視カメラが見ていて誰かが助けに来るとか、声を聞いて誰かが通報してくれるとか、救助の可能性は頭の中からすっかり消え去っていた。怒濤に断続するオーガズムは神経接続を中断させ思考を破砕し理性を溶融させている。

未来を想像する知性は吹き飛び、イってる最中はもう、イってることしか……イってるせいで気持ちいい、その僅か数秒の世界でしか生きられなくなっている。その数秒が、ただ延々と繰り返され、連続絶頂の無間からは苦痛が急速に透明化されていく。ただただ甘美な須臾法悦の世界に沈没していく。

ほ……ぁ、ぁ……イっ……ヒ❤はへ……っ❤…………おっ❤イぐ…………❤

ビクッ、ビクッ……へこっヘコッ

水蛭子ひるこはただ私が溶けていくのを見ている。全身が、脳味噌が、精神全部がまんこになって、絶頂快楽が常態化し、私が骨がある以外は同じ存在になるまで、ただそこでふるふると不定形の体を揺らしている。

私がどんな風に煮崩れようと、物言わぬ淫汁噴水に成り果てようと、知性のない肉塊の前ではそれ以上の意味を持たない。そのことが、なんだかとても救いに思えてきてしまっていた。

おっヒ……❤ら……め……❤そんなろ……わらひは、めりーを、みひゅけるんら……❤んヲっッ……❤とけひゃ、らめ❤

毒を扱う捕食者とは、得てしてこのようなものだ。毒を用いて、獲物が毒でダメになるのをゆっくりと待ち、抵抗がなくなったところで満を持して捕食に移る。今まさに、それだった。私は毒の効能に打ちのめされ、抵抗の意思を失っている。溶け残った残り滓のような意識だけが辛うじて肉体と精神を接続している。

接続された僅かな精神が考えるのはしかしもう、尖った肉突起や熟れ崩れた粘膜にセルフ欲情する浅ましい意味の陳列;全く理性を取り戻す余裕がない。

はーっ……はひっ、はへっ、はーっ❤はーーっ❤フッ……ひ……はーーっ❤

股間から噴き出した飛沫が石畳に液拓を記している。足首を地面に固定されたまま腰を高く持ち上げることは許されているせいで、股を開いてブリッヂしたままアクメを続けている。打たれた媚毒薬の効果はまだ続いている。だが毒アクメに破綻させられた心身が戻らない。尿なのか愛液なのかわからない、強制即イキで搾り出されたような噴き潮は水蛭子ひるこの体にもかかっているが、この肉スライムがそれをどう思っているのかはわからない。

はひっ…………❤ふひへ……っ……ぉぉっ……❤おわんにゃ……んへ……❤おぉっ……❤

そんなことよりもイくのが気持ちいい。気持ちいい地獄から出たくない。フルオート絶頂で磨耗していく心身を感じながら、そのままイき続けて削れ消えたいとさえ思う。尿道を何かの液体が通り抜けるのが気持ちいい。身勝手な絶頂がそれを気持ちいいことにしてくれる。何もかもが気持ちいい。何もかもで、イける。

ガンっゴンッがすっ

石畳に頭を打ち付け続けていると、いい加減にしろと言わんばかりに水蛭子ひるこ(仮)が触手を首に巻き付けてきた。窒息アクメを教え込まれるのかと思ったが、どうやら首を振り続けているのが気に食わなかったらしい。頭部も固定されて体の可動部のほとんどを動けなくされてしまった。

股を開いて腰を持ち上げたまま身動きがまったく取れない。もし私に元の理性があったなら感じていただろう羞恥心は、もう沸いてこなかった。それよりも。

や、やら……っ❤💢もっろ、アタマまんこっ❤💢もっと脳味噌オナニーさしぇろぉっ💢💢💢❤アタマかち割んないとできねえだろ💢❤💢💢

私は本当に頭蓋骨を割るつもりでいた。脳味噌に直接衝撃を加えてイき死にたかった。きっとその瞬間の絶頂の深さは格別なのだろう、もう死んでもいいくらいの快感の中で死ねるなら死んだっていい。ううん、死にイきたい、果てイきたい、潰れイきたい、爆ぜイきたい、絶えイきたい、終わりイきたい!

何も触れることなくオーガズムを繰り返すアソコが汁を放ひり続け、膣摩擦物の挿入を求めて腰が上下に暴れる。その腰回りに巻き付く肉触腕の締め付けがキツくなった。腰を振って僅かにでも逃がしていた快楽欲求不満が、逃げ場を失って洪水する。

耐えられない、耐えられない、耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられないっっっっ💢

ん~~~ッッ💢や、べろぉッ💢邪魔しらいれッ💢きもぢいの、逃がせなくてえぇっっッ……ツラっ、い、イッ……ぐ、いっぎだりにゃぐ、にゃへぅゅっ❤💢イッッグ❤まんこぉ❤もっろまんごぉぉぉ~~ッッ❤💢❤💢❤💢

絶頂し続けているのに性的欲求不満が高まり続けて収まらない。不満足が怒りに近い感情にかわっていくが、それでも脳からの絶頂命令は途切れない。

心臓の一拍一拍が爆ぜるほど大くて、その一拍一拍の度にアクメの頂点が脳を突き刺す。それを追いかけるように体がイき痙攣して、いよいよ体力が限界を迎えようとしている。

しかしそうして自由を一切失い、アクメの体表出さえ出来なくなったところで、それまで毎回毎回が爆発のように感じて悶えていたアクメが、持続的な炎のように静かに深く心身を灼くものに変わっていく。

へっ……❤はっ❤ふーっ❤ふーっ❤おっ……❤

わかる、これは毒の効能が薄れたのではない、体が、終わり始めているのだ。体の自由を完全に奪われることがトドメになるなんて思ってもいなかった。もしかして、頭を強く打ちすぎたから?それも、いいかも……❤

は、へ……お……ぁ……っ、~~っ……❤へぁ……っ❤

絶頂の絶叫に咽が焼け、連続絶頂で噴き出す体液も搾り尽くされもう出ない、絶え間ないイき痙攣で腰を振る体力もなく、仮にここで解放されても逃げ出す力はない。護身ではなく狩猟のための毒の、その毒たる所以が、現れていた。

もう、動けない。目の前にいるバケモノに嫌悪感もない。もうどうでもいい。キモチイい絶頂の波に揺らめくこと以外、何も考えられない。

性交どころか接触一つなかった淫裂が、独りよがりにじゅぶじゅぶ蠢いて、断末魔のようなマン汁を垂らしている。死にたくないと手を伸ばす別の生き物のように、融け解れた淫唇が挿入を求めてうねっていた。乳首はトドメを待つように腫れ上がり愛撫を期待している。何も入っていない膣は窒息死寸前で空気を求めるように苦悶のイき締めを続けていた。何より、脳味噌はいもしない性交相手の幻影を網膜に描き出している。

ぁぇ……めりー……❤めりー、さがしてたんらよお?えっちしよ、ねえ、もっとしよ、えっちぃ❤

そこにいるはずもないメリーの姿が、拡張現実みたいに現れる。えっちすぎる爆乳美女、私の奥さん。結構意地悪な責め。イきたいのにイかせてくれなくて、イってるのにやめてくれないのなんかそっくり。同じようにメリーにもしてやろうと思ってもうまくできない。そう、今それをしてくれてるのはきっとメリーだ。メリーなんだ。

ありぇ、しずるくんじゃぁん❤ふぇ……イかせてくれるの?うれしい❤

メリーの豊満ボディがモーフィングして、ほっそりした可愛らしい男の子の姿に変わる。えっ、彼こんなエグい責めかたしてくるの?そんなの、おねーさん、夢中になっちゃうじゃん……❤メリーと静しずるくんの姿を交互に行き来する愛おしい幻覚に身悶えながら、精神を焼き尽くさんと燃え盛る絶頂の炎に任せて、私はいよいよ意識を手放してしまった。

§ 穂多留比 §

何か騒がしいと思ってきてみれば、まさか蓮子さんがここに来ているなんて。しかしそれよりもあれは―

……胚種広布弾の成れの果て日孁呼が、こんなところに?

しっかりと確認は出来ませんが、あれは日孁呼ひるこですね。懐かしい、という言い方は少し語弊がありますが……見かけるのはいつぶりでしょう、こんなところにまだ生き残りがいたなんて。

日孁呼ひるこがいるだけなら何も問題はなかった、ただ珍しいと思うだけでしたが……蓮子さんがそこにいることには、そしてきっと行われていた行為には、何故か僕は体中の神経節が煮えるような感覚に襲われました。急に、この、怒りにも似た感情に、飲まれてしまって。

食い尽くせ

僕がそう声に出すと、突如何処からともなく現れた夥おびただしい数の羽虫、地虫、蠕虫、長虫、甲虫たちが、瞬く間に日孁呼ひるこの体を取り囲みその表面に取り憑きました。蓮子さんの体だけは避けるように言いつけますが、他所の被害はまぬかれません。すぐに柔らかいものを舐めるような、啄むような、吸い付くような、挟むような、掘るような、小さな小さな音が、しかし幾千も幾万も重なり、グロテスクな咀嚼音の大合奏となって辺りに響き渡り始めました。

虫達は日孁呼ひるこの体を一斉に食べています。

美味しくないですよね。すみませんがそれでもお願いします

毒を持つものは代わりに毒を用いてもよいと伝えると、幾らかの虫は毒での攻撃に切り替えたようです。

巨大な胡麻団子と見紛うくらいにびっしりと虫に取り憑かれた日孁呼ひるこは、悶えるように暴れます。不定形の体を薄く伸ばしたり高く盛り上げて形を変えたり、或いは虫達を巻き込むように体を折り曲げて表面を内側に巻き込み代わりに内側を外側に捲り返して抵抗しますが、それをも改めて覆い尽くす大量の虫が絶えず攻撃を続けます。

やがて虫に小さく食い千切られた小さな小さな傷口は、それ同士が繋がるように内肉に裂け目を掘り、抉れた穴は大きく広がって埋まらなくなり、折りたたまれる肉ゲルは蟲体に寄って飽和して内からも外からもあらゆる場所で食い進められていきます。裂けたり抉れたりして戻らなくなった半液体の肉は、瞬く間に出血を始めました。血が好物の虫達は更にやる気を出して、出血する傷口を広げるべく更に食い進んで内部へと侵入し、気の早い者は産卵を始めました。虫の卵の数は数え切れません。しかもそれらはすぐに孵化し、波打つほどに生まれた幼虫もまた旺盛に肉を喰い始めます。

辺りに響く咀嚼音は、こんな小さな虫たちが鳴らしているとは思えないくらいに大きく、辺りに小気味よく気味悪く響き続けています。

僕は、苦という概念を持つかどうかさえ怪しいのたうつ肉に歩み寄り、恐らく目鼻口なのだろう辺りを見下ろして、言葉をかけてみます。

穂多留比ほたるびです、大人しくして下さい。もしかして香香瀬織かがせおが高天原から帰還したんですか?……答えろ

ヒトの手の形の維持をやめた元の腕を日孁呼ひるこの顔のような場所に宛てがい、肉を掴み千切って切り落とすように持ち上げます。力を失いかけている肉ゲルは、溶けた餅のようにずるりと顔面の表層だけを細く伸ばしました。口らしき穴だけを下に落としてやったので、答える気があるのであれば答えるでしょう。目玉のなり損ねのような歪な球体が肉の中から露出しましたが、光を集めてはいないようです。高等な肉体から作り出された下等な生命、これほどグロテスクで哀れな存在は、虫の世界にも類を見ない。

僕からの問いかけにしかし返事はありませんでした。そもそも、もう言葉を解していないようです、無理もありません。骨も脳も、恐らくは意思も持たないその肉塊は、のたりのたりと瀕死の体をのたうち回らせています。苦しい痛いという言葉と意味を解さぬまま、しかし苦痛を感じているのでしょう。これも元はこの星での使命を全うするために、改造された生き物です。骨と脳を失ってなお立速日男たちはやひをに助けを請うてこの辺を彷徨うろついていたんでしょう;彼だももう、この世にはいないのに。

はあ。ダメですね、もういいです。えーと、美味しくないかもしれませんが、栄養は満点なんで、どうぞ使って下さい。

僕がそう伝えると、虫達は更に狭蝿ざわめいて肉ゲルに群がります。潰れたり半液体の肉の中で窒息することを恐れません。数で勝ち、その後に同数以上の卵を産んで増えればよいのですから。イザナギの言葉を真に行うのは、ニンゲンではなく僕ら。それが彼僕等の生存戦略です。貪欲過ぎる食欲と繁殖欲は、まさに播種もしくは播種時の交配相手にぴったりだったんでしょう。

そうして僕も作り出されたわけですから。

体中を噛み千切られる苦悶の余り、日孁呼ひるこはようやく蓮子さんの体を捨てて逃げ出そうとします。しかし動きは緩慢です、なにせ体の至る所に虫を飲み込んでしまっているのです;自由の効かない部位はしかも自分の組織を食べ続けています。日孁呼ひるこは液体にも見える軟体からしかししっかり液体の血液を噴き出し、徐々に力を動きを遅くしていっていよいよ動かなくなりました。だらり、と柔らかく溶けたゼラチンのように形を失い溶けて広がっていきます。どうやら息絶えたようでした。

日孁呼ひるこ……今まで潜んでいたのに急に現れるなんて。蓮子さんの通信を嗅ぎつけたのか、それともいよいよ帰還が……?

息絶え潰れ溶けたものを確認すると、それはやはり日孁呼ひるこでした。死体になったとしても、この特徴的な形状を見間違えるわけがありません。これは、高天原と呼ばれる別の星から、この地球へ胚種を蒔くために送り込まれた胚種広布弾。香香瀬織かがせおが、この星に置いていったもの。

僕には高天原の星系の文明がどの程度進んでいるのかはわかりませんが、本格的な播種船が到着するまで間もなくでしょうか。この星からメッセージが送られて来たことで、高天原はこの星に対する胚種広布が済んだと踏んだはずです。

僕はこの星を飛び立つ前の香香瀬織かがせおの言葉を思い出します。必ず帰ってくると、使命を信じた真っ直ぐな人でした。真っすぐでそして、愚かな人でした。美しい人でした。美しくてそして、不運な人でした。胚種広布弾としてこの星に流れ着き、この星のヒト種と交配して生まれた存在。生存と生殖に、成功してしまった、美しくて不運な存在。僕と、同じ、残留物。

この星の生き物が、徒いたずらに他の星に通信など試みたりするから

香香瀬織かがせおがこの星を去ってしばらく後:この星の現行暦の上で言う一九八三年、この星から高天原へ電波という形でメッセージが発信されました。受信後に最短で返信すれば二〇年程度で戻ってきたでしょう。でも、受け取った文明の方には友好の意図はなかった。太陽よりも圧倒的に寿命の短い恒星に依存する文明は、滅びを予見して他星のテラフォーミングと移住を計画していたそうです。日孁呼ひるこも香香瀬織かがせおも、そのための存在でしたから。彼等の目的が変わっていないのなら、彼等が再びここに戻るとき、それは友好的な交流ではなく侵略的な入植となるでしょう。

アルコールの分子式と一緒に〝Toast乾杯〟なんて、呑気なメッセージを送った結果が侵略だなんて……ヒトとは実におめでたい生き物ですね。

僕にはこの星を飛び立った香香瀬織かがせおがまだ生きているのか、高天原の星系の文明がどういったものか、この星の文明が他の星の文明に食われてしまうのか、わかりません。もとい、知ったことではありません。僕はただそのいっときに生じるチャンスを利用するために今も生きて待っているのです;手段は問いません、何だって利用します。

香香瀬織かがせお。あなたがこの星に戻りたいように、僕にも戻りたい場所があるんです。

幻想郷への扉を再び開くことが出来るなら僕は、香香瀬織かがせお、あなたのことさえ、利用します。

日孁呼ひるこの体は、まるで死後腐敗して液化する過程の倍速再生の如くみるみる形を失い溶けて赤黒い血溜まりのようなものになって地面に染み込んでしまいました。この星に日孁呼ひるこがまだどれほど生存しているのかはわかりませんが、どうやら蓮子おねーさんの通信に誘引されたのはこの個体だけだったようです。

僕の目的から言えば、別に日孁呼ひるこがこの星で胚種広布活動をしていようがいまいが関係はありません。こんな場面、放っとけばよかったはずでした。でも……日孁呼ひるこが蓮子さんと交配しようとしているのを見て、つい……ムカついてしまって。

この短気が計画に悪影響を及ぼさないか、急に不安になってきました。日孁呼ひるこが香香瀬織かがせおと通信している可能性ははっきり言ってゼロですが、ああ、なんて早まったことをしてしまったのでしょう。僕は……ヒトに近い身体性を獲得してしまったせいで、ヒトの生殖欲を、持ってしまったようでした。これはただの性欲で、人の言う某といった感情では、ない……筈です……。

日孁呼ひるこが溶解してすっかり消えてしまった後には、大量の性的な液体の飛沫と、気を失ったままの蓮子おねーさんがいます。まだ意識を取り戻す様子はなさそうです。かすかにではあるものの呼吸はしていて生きてはいるようですが、体の状態は痛々しくて見ていられません……嘘です、目を離せません。見ていて、堪らなく興奮します。こんなに、ヒトになってしまうなんて。身体性とは、恐ろしいものです。

蓮子さん?蓮子さん、生きてます?

死んでるとは思ってませんけど。

察しのいい人、というか普通の人ではないとは思ってましたが、あっという間にここまで浸透してくるなんて。タナバタの持つこの土地特有の意味を言外に察して日高見道ひたちに来た人は他にもいたけれど、星の光がねじ曲がっているなんて荒唐無稽おおあたりを言い出す人は初めてでしたから。

蓮子さん、あなた一体、何者なんですか。

§ 小康 §

目が覚めましたか

う、ん

まだ頭がふわふわする。酔っ払ったときみたいに、視界が動きの後から追い付いてきて、認識はさらにもう半コマ遅れる。まだ体の熱が冷めきっていない、呼吸をして肺から押し出されてくる吐息が自分の肌よりも熱い。

静しずる、くん?

大丈夫ですか

これみて、大丈夫って、思う?

いや……まあ……病院でも行きますか?

大丈夫。

なんですかそれ

静しずるくんは小さく呆れたような溜息を吐ついて水蛭子ひるこ(仮)に剥ぎ取られた衣服を拾い集めて私に渡す。男という生き物が登場する女性向けのフィクションなんかだと、男が自分の着ている上着を一枚脱いでかけるものだけれど、それをするには彼の背丈は小さい。彼が手渡してくれた衣服を確認すると、多少傷みはあるが十分着られるものだった;これなら変に男のものを着ているよりもいい。代わりに静しずるくんは「ふ、拭くものは……ありますか?」と恥ずかしそうにハンカチを差し出してきた。自分のものもあるけど、有り難く借りておく。

気を失うまでの記憶しかないが、その限りでは水蛭子ひるこ(仮)に侵入されてはいない。寝ている間にされた可能性もあるけれど。

股の間が気持ち悪いが、異物感があるわけではなかった。その感覚が事実と結びついていることを願いながら、もう乾きかけている股間を拭う。

自販機コンビニに水売ってるかな。この時間は停止してるかな

僕が買ってきますから、安静にしてて下さい

自販機コンビニを探しに行こうとする静しずるくんの手を掴もうとするが間に合わない、ただぎりぎり彼のシャツの端を摘まんだ。

歩くくらい出来るよ、私も行く

でも

一人に、しないでよ

ふた回りは小さい静しずるくんに寄っかかるようにしながら歩く。やはり、違和感はあるが異物感はない。それでも決して平常とは言い難い下着の上から、そのあたりを押さえてみる。あるのは精々自慰の最中でやめたときのような、中途な違和感と……それが過剰に鋭敏になっている具合だけだった。内側には自分の指さえ入ったような残感はない。

自分よりも小さい相手に支えられるという姿勢にははやり無理があり、私は結局ほとんど自力で歩いていた。歩けなくなるような消耗は、体力の点だけ;怪我もないし、どこにも痛みもない。ただ、〝熱〟だけが。

あのバケモノがキミなら、こんなところで現れたりしない

……どうでしょうね

以前。常陸国地区の歴史には奇妙な東西の〝結界〟があり、その秘された部分の痕跡がここから東北地方の山岳地域にまで及んでいるのを見た。メリーが見抜いた結界の境界を通り抜けた先に、現代あるいは歴史上の日本という枠組みでは到底捉えきれない巨大な神性の存在とシャーマン、そしてその旧神の瀕死を見たのは、まだ記憶に鮮やかだ。ジュードノ様の正体を軽々しく掠め見ようとした代償を、私もメリーも確かに支払った。あのときの感情を私は未だに言語によって細分化できていない。

畏怖、それも安い形容だと嗤わざるを得ない;感情言葉はそれを示しているようでいて同時に罠のようにも感じている、その意味に束縛された対象は実体から引き剥がされていて真意には程遠いものに思えているからだ。

圧倒的な神性を前にしたときのあの、身を裂き心を変容させるほどの情動は、感情というものがただの脳が描き出した電気回路の意味出力結果だとの言では説明のつかない自己破壊的な作用を有していると思い改めるのに十分だった。ジュードノ様に捧げられた癲狂のシャーマンは、狂っていたのか、狂わされたのか、今になってはもう知る術はない;だが彼女の自己は既に、まるで放射線の前に切り刻まれた染色体のように焼き潰されていた。あの様は、説明が付かないことを受け入れなければ、説明が出来ない。

メリーはその目によって、そうした破壊的な作用を認識の中に入力しつづけている;秘密に曝露し続ける彼女は(もしかしてわたしも)無事、なのだろうか。

今、目の前にいる、少年。小さな人間の姿をした神妖かみさまの力の大きさが、その姿形に依るとも限らない:我ながら危うい道を歩いている。

なにか?

ううん。可愛いなって

……はあ?

全ては、メリーのためだ。

探さなければ見つかるものも見つからないという努力の話ではなく、探すという儀式が手続き的な意味を持つと信じている。その些細な差が蝶を羽ばたかせる筈だ。目の前の少年が、抗えない力で私を破滅させることになろうとも、私は踊らなければならない。メリーのために。

本当に変な人ですね。僕があのバケモノをやっつけておねーさんを助けた、なんて優しいストーリーを想定してるんじゃないでしょうね?

してるけど

本気ですか?あれが僕の手下か、僕自身だったとしたらどうするんですか

さっき言った通り。もしそうなら、キミはここに現れない方が都合がいいはずだよ

人工物の〝無粋さ〟を潔癖に拒絶した歴史文化保存地区では自販機コンビニさえ数が制限されている。設置する場合には隣接の自販機コンビニとは一定間隔開けなければならないと条例で定まっているが、この僻地ではその間隔の距離さえ行けば設置されているとも限らない。いざ見つけた自販機コンビニの光のなんと頼もしいことだろう。

あっ

どこか痛みますか

静しずるくん、自販機コンビニの認証通らないんじゃ

あー……そう、ですかね

どうやって買うつもりだったの?

そういうと、金属製の物理貨幣を見せてくれた。お賽銭箱に入れていたものと同じだ。いまどきそんな物をたくさん持っているなんて。ネットで調べないとそれら一枚一枚がどれくらいの価値を持つのかわからないけど、きっと書いてある数字がそれにあたるのだろう。一〇〇円……一〇〇円?百枚入れても水なんか買えないじゃない。彼が一〇〇円玉と呼んでいた貨幣は、彼の小物入れの中に数枚しか入っていない。昔はこれで飲み物が買えたのだろうか。

自販機コンビニじゃ、もうそれ使えないよ。

結局私が支払処理をすることになったけれど、まあ仕方がないだろう。家出少年……ではないのだろうが、やはり一般常識の欠如……欠如なのか酷い遅延なのかはわからないけど現代的な感覚でないさまは、著しい。

結局ボクが来た意味ありませんでしたね

水を買うためだけに来たんならね。一緒に来てくれてありがと。キミが本当はここに何をしに来たのかなんて知らないけれど

荒れ放題の公園遺跡の片隅で水を口にして、ようやく落ち着きを取り戻せそうだった。あのバケモノは何だったんだ。私は何をされそうになっていたのだ。思い出すだけでもガタガタ震えだしそうだ。同時に、記憶の欠片に僅かに触れるだけでも、下半身がざわめき直そうとするのを感じる。

種は植えられていません……信じるかどうかはお任せします

信じるよ。

やっぱり変な人ですね

「それにぃ……水蛭子ひるこ(仮)が静しずるくんと関係あるのだとしたら、どのみちもう静しずるくんとはエッチしちゃったしねぇ〜❤」

うっ

軽口こそ叩いて見せているが、背筋が凍ると同時に何故か笑けてしまっただけだ。恐らく剃刀の刃の上を歩いている、今。夏も盛りに蒸し暑い筈の空気を、何も感じない。痺れて閉じていた。

言葉を交わせるというのは逆に恐ろしいものだ。山の旧神にしろ、水の大蛇にしろ、逃げ落ちた夫婦神にしろ、意思の疎通とは程遠かった。それ故にこちらの想像する恐怖を否定する要素もまた無く、恐れれば恐れるだけ恐れを受け入れる存在であった;これは救いに近かったのだ。眼の前の少年にはその気配はなく、言葉をかわすことが出来る。現代社会的な常識は欠けているが、倫理観や良心、善悪の判断については人間の尺度と同じ範疇に収まっているらしかった。ただそうしてくれているだけかもしれないが。

でも、その事実が、内にある恐怖そのものを疑念で包みこんで正気を霞ませてくる。

あれは日孁呼ひるこ:恐らく蓮子さんがご存知のヒルコと、大まかにはには同一のものです。

名前なんてなんでもいいよ。あれは、なんなの?まさか本当に人類始祖の語られぬ第一子だなんてわけではないでしょう?

あれは、播種装置です

ハンシュ……?なにそ

れ、と聞こうとしたところで、急にさっきのクラみが再発した。前触れもなくいきなり泥酔したみたいに意識がフワついて、気温が変わってる訳でもないのに蒸し暑く感じられて汗が吹き出す。水は飲んだ、結構たくさん。だのに熱中症か脱水症状か、もしくは貧血かみたいな……ちがう、これ……

静しずるくん

落ち着きました?帰りましょ……

§ 後遺症 §

かくんっと膝から力が抜けて崩れた。咄嗟に手を伸ばした先には、地面ではなく静しずるくんの体。穴のあいた風船に息を吹き込むように力が抜けて脚が立たなくなり、唐突に崩れそうになる体を静しずるくんの両肩にしがみついて支えてしまう。

ごっ、ごめん、なんか……変、かも

腹の底から、寒気を伴う水位が迫り上がってくるように、それは突然再現された。下腹部、肺、心臓、そして頭の中;燃えるように熱いのに身の毛がよだつ予感を浮かべた液質が体の中を満たしていく。全身の血管を駆け巡りながら灼き、石でこすったように剥き上がった神経に、その毒が触れる。染み込む。

や、やだ……これ

蓮子さん?

その感覚を知っている;さっき、教え込まれた。抗うことが出来ない、暴力的な甘さ。地獄みたいな幸福感。再生される記憶はまだ新しい。

ぶしゅっ

ガクガクっ

やだよ……もう、たくさんだってば……

っ!?

声が震える。過度な悦楽を、体はそれを苦痛を伴わない恐怖と捉えていた。

快感の結果の絶頂ではなく、絶頂が生み出す快感。そして、その無間。

さっきので……終わったんじゃないの?もう消えたんじゃないの?もう治ったでしょ……?

がた、がた、ガタガタガタガタ

股間が液体を噴きだした。遅れて、甘ったるい陶酔が全身を巡る。体には幸せな虚脱、理性には震え上がる恐れ……を、瞬く間に期待感が塗り潰していく。がたがた体が震え始めたが、これはもう、体の深部で始まっている証拠だった。まだそれを客観できてしまう、意識がまともであることが逆に怖い。

ああああ上がってくる、だめ、だめだめだめだめ……来ないで、来ないでもう来ないでもう十分だから……もうっ―

震えが大きくなっていく。全身が痙攣して、脚が不随。単独で動かしたこともないような筋肉が勝手に捩れて……クる。

っぁ!❤ッッ❤﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿/︺▔╲▁︿_╱\︿︹︿ッ!!❤❤❤

蓮子さん!?蓮子さん!

文字通り電流に踊らされているみたいに、体が不随意に痙攣してしまう。余計なところには力が入って暴れるのに、膝は笑い腰は抜け、股間は弛んでアンモニア混じりの潮を吹き散らかす。弛緩した顔面は苦痛と快楽の両方に歪み、目が眼孔の中で勝手に回る。

静しずるくんの両肩に手をついて杖のようにしないと立っていられない。膝が溶けて緩い。自然に左右に開こうとしてしまい、開けば風通しのよくなった股間をブザマに前後に振ってしまう。

む、ムリ……❤い、イく、イくッ❤おっ……ん❤

間違いない、さっきの毒だ。ぶり返したのか……それとも、まさか静しずるくんが……?

イく……まら、イ……ィぐぅツ❤やら、これやらぁっ❤イグ❤イグ、イグイグまらいぐ❤

うっ、日孁呼ひるこの毒が、まだ残って……?

日孁呼ひるこにされたときは衣服を剥ぎ取られたが、まるでそれが紳士的な対応だったと思えるくらい、ズボンの股間がぐっしょりに濡れていた。勝手に開く股の間から、小便まで漏らしている。

尿道を液体が通過する感覚が何百にも膨れ上がって、それがまた絶頂を誘った。飛沫を撒き散らす恥ずかしい股ぐらを、静しずるくんの目の前に晒している。腰を振って踊り、彼の小さな体に抱きついてしまう。溺れて浮き輪に縋り付くみたいに、強く、強く。そうしないと、怖かった。肌の下で彼の肉が蠢いている、その摩擦さえ。

おッ❤~~~ッ❤

びしゅっ、ばしゃっ

バカみたいに股間から液体をまき散らし、その勢いがズボンとぱんつの中で撥ね散る感覚が伝わってくる。布地にべっとり滲みた牝汁が、ここまで匂ってきていた。静しずるくんの鼻にもきっと、この匂いは届いているだろう。

おーっ❤んい~ッ❤マンコイく、マンコイく、勝手にイく、男の子の前でオート発情してっ、強制アクメ、クるっ❤またクるまたイく止まんない、マンコ勝手にイく、勝手に気持ちくなって、勝手にイくっ❤

何もしてないのに勝手にアクメをキメて腰を振る、恥ずかしい悶え姿。でも止まれない。唇を噛んでも食いしばっても、勝手にイく。むしろ力めば力むほど体の心が絶頂の電流で痛手を負う。

い……ッ、ぐッ❤ぉっ、んぉ~~っ❤見ないでっ、静しずるくん、イきヘコ見ないでっ、見……み、っ❤おほぉっ❤イグ、イグイグイグイグっっ❤❤❤

恥ずかしい:そう考えた瞬間、まるでその言葉が形を持って快楽神経を突き抜けるみたいに、また。

さっきの肉触手は私の四肢をしっかり拘束していた。そのせいで膨れ上がった性欲と増幅した性感へ接触刺激が与えられることはなかった。それが地獄のようなもどかしさであると同時に……救いだったのだ。接触なく焦れ尽くした末に与えられたかもしれない地獄を、今、感じている。自分の体を虐める事ができる自由が、私に牙を向いていた。

はーっ……はーっ❤ご、ごめんッッ❤っね……また、毒……んォっ❤ぶり返して……いイってるっ❤私、今度は静しずるくんの体でコスって……っ❤んぉ、オォおぉぉッ❤❤❤静しずるくんの体でオナニぃ、とまん、にゃ、ふっ、ふっ、ふーっっ、ろまんにゃいぁぁはへぇぇッ❤

れ、蓮子さん、しっかりして、ください……っ

アクメで抜けた腰が倒れ込まないように必死に彼の体にしがみついたまま、ぶるぶるアクメ痙攣で震える。ぐずぐずに溶けた穴が、摩擦を求めて発熱していた。本来ならあの肉スライムの挿入を自ら求めるための毒が、今は無関係な少年に欲情する媚薬になっている。媚薬なんてものじゃない:目の前で開幕牝敗北をキメる、受精装置化改造。

ごべんねっ❤キモい女のアヘ面みせひゃっへぇ……ッ❤❤❤目の前で、自動アクメ姿みせへっ……おっ❤ハズいのクるっ……余計感じる、全自動ヘコイキ人形になってるとこ……見られて、またイグッッッッ❤イヤなのに、イヤなのにイくっっ❤

毒のせいで限界まで膨れ上がった乳首が、吐息に撫でられるだけで絶頂中のクリトリスみたいになっている。噴き汁にまみれた当の淫核はギチッ❤ギチッ❤って張り詰めて小さいペニスみたいになっている。その敏感肉突起を、目の前の少年の体にコスりつけて、初めて丸めた布団に体を押し付けて達したときみたいに意識を明滅させてしまう。快感で張り詰めるのを通り越し、度を超えた絶頂と疲労で弛緩にくたびれた喉はケダモノじみた低音喘ぎを垂らし続けてしまう。

お〜〜〜……ッ❤んッ、ほぉーーーっっ❤イグ……ぅ……❤なにじでもイグぅっ❤いぎだぐにゃいのに、まらいぐぅぅっっ❤おっ、お、おおおおおおおおー/︺▔╲▁︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿/ッッッ❤

ガクッ、ガクンっ

絶頂という既成事実から逆流してくるフルテンの快感値は、天井に張り付いたまま降りてこない。頭の中で細い繊維質のものが途切れる音が聞こえるような気がする。切れちゃいけないものが、頭蓋の中で、切れちゃってるような。細い糸が千切れるような、気泡が破裂するような、細かな幻聴が頭の中に反響して、その度に七色の光がギラギラと鋸の刃みたいに鋭いで襲いかかってくる。目の奥で極彩色の剣山が生まれて目の後ろに突き刺さるような感覚、それは痛みではなく高輝度の快感になって脳裏に水晶の摩天楼のような絵を刻みつけてくる。

まずい、これ、まずい。でも……イイっ❤

んもぢぃ❤❤❤イくのイヤなのに、幸せぇっ❤イグ……っ、またイグぅっ❤殺ぢでっ❤キモぢよすぎて幸せしゅぎて、もう辛いのぉっっ❤❤❤

蓮子さん、しっかりしてください!ああ、どうしよう、日孁呼ひるこの毒が、こんな劇症になるなんて……毒を抜かなきゃ

気の毒に私の体液でべしょべしょになった静しずるくんが、神妙な顔で私の顔を覗き込んでいる。やだ、よ、こんなぶっ壊れた顔見ないでよ。そう思ってるのに、体が勝手にむさぼりにいってしまう。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ❤キス、いっぱい。

その一方で、私にマンズリ棒として扱われて絡みつかれた彼のものが固くなっているのがわかった。ちゃんと、男、してる。そう思っただけで、子宮の底が絶頂レゾナンスを激化させる。

おちんちん。

おちんちん……

おちんちんだァ❤

ぶしゅっ!ヘコヘコっ

布越しだっていうのに、勃起したおちんちんの姿形を感じたら、それだけでまたイってる。ああ、この毒、こんな風にして、自分から求めさせるための毒なんだァ❤あの肉触手、メチャクチャ気持ちよさそうだったもん……❤静しずるくんのも、がっちがちで……想像しただけでまた軽くイくッ❤

蓮子さん、病院ンッ!?

やら。びょーいんなんかいかにゃヒいッ❤セックス❤セックスしよ❤

えっ、っちょっ

静しずるくん可愛い。男の子のおちんちん欲しい。あんな肉スライムの触手なんかじゃなくって、彼とセックスしたい。

彼の手を掴んでおっぱいに触れさせる、ちがう、握らせる。彼の指を自分の胸に押し込むみたいにすると、どさくさに紛れて彼も指に力を入れるか躊躇してるのが伝わってくる。揉んでよ、掴んでよお❤彼の細いのに男の子してるえっちな指ごと、自分のおっぱいを揉み潰す。肉の奥でぷちぷち気持ちのいい泡が弾けて、その音が子宮に向かって響く。

ちゃんとおっぱい苛めてて❤

じっと彼を見ると、静しずる君は恥ずかしそうに目を背けながら、遠慮がちに胸肉を揉んでくる。

全然たんないっ💢もっと激しく💢❤発情おっぱい肉、ちゃんとぶっ潰して💢❤

快感欲しさに声を荒げてしまう、びくっと身を縮めてから、彼の指に力がこもった。指先がおっぱいの奥に深く突き刺さって、乳肉の底にある快楽カプセルを潰してくれる。

おっ❤❤❤それイイっおっぱいイグ❤もっろ、もっろ潰しへっッ❤❤❤

ジーンズの上から彼の股間に触れると、布越しにはっきりと解る勃起ペニスの形。手で撫でる度にびくびく跳ねてて、めちゃくちゃ我慢している。

はーっ、はーっっ❤ああぁ〜、もうガッチガチじゃあん❤えへへ……ね、シよ?ここでシよ?❤

蓮子さん、だめ、ですって……!

しよ、ねえ、しよ、して❤イきつづけてて、おまんこツラい、のぉっ❤❤❤

ぱんつの中に手を突っ込んで、グチョ濡れになったアソコを引っ掻き回す。指が触れただけで感電失神するくらい気持ちいい、でも、でも本当に欲しいところに届かない。イき続けてるのに、本当に疼いて飢えている最奥に。静しずるくんの手は私のお願い命令通りにおっぱいを潰し続けている。牛乳を搾るみたいに乳首全体を握られると堪んない、その度にミルクじゃなくて下半身から飛沫が飛んだ。

おまんこ❤おまんこキてっ❤イきまくっててメチャクチャ締まっ……ッ……て、るっ❤イっ……❤てるのぉっ❤おまんこ何にも入ってないのに、ギュウギュウおしぼりしちゃってる❤イき締まりしてるっ❤キツいの、ねえ、おまんこイってて震えてキツいのぉっ❤はやぐっ❤はやくおちんちんでおねーさん助けてよぉっ💢❤ココぉっ!💢❤💢❤

ぱんつといっしょにズボンをズリ降ろし、身動ぎする度にクリが引っかかってヤバい股間を静しずるくんの前に晒す。下腹部、陰毛、ヒクつく淫裂、敏感になった太腿、ぐっしょりぬれたぱんつの中身あちこちから、濃縮されたマン汁の糸が伸びる。彼の目線が、伸びて揺れる淫粘液の滝に釘付けになっているのが解る。一緒に、シャツもブラもたくし上げておっぱいを彼の顔に押し付けた。

ぞくぞくっ、ブルッ……びくっ

それだけで、また軽イき。早く欲しい、飢えまくってギチギチにヨジレて汁を垂らしてる膣の中に、彼を入れたい。

ほらぁっ、獲物だよぉ?スケベな毒で骨抜きになってる、食べ頃の獲物っ❤大丈夫だよ、ここ誰も来ないって。私があんなに助けてってゆったのに誰も来なかったんだから、ここでセックスしててもへーきだよっ❤もう、イってるっ❤からぁっ❤おまんこ多分すっごいからぁっ❤せっくす❤せっくすっ❤

そ、そんなわけには

いいじゃん❤最初からイッてて負け確のザコメス、食べちゃお?ちょっと穴の中にちんちん入れるだけだから❤膣内で漏らしちゃってもしょうがないから❤

彼の前で膝立ちになり、それでもなお背の低い彼の股間に潜り込むように頭を下げて、静しずるくんの股の間に頭を突っ込んで、逃げられないように腰をしっかり捕まえる。股間の中央の膨らみを、口で啄んだ。布の奥で固くなっている長い形をズボンの布地の上からなぞりつけるように、唇でなぞって前歯で擦る。彼の腰が、もどかしそうに揺れた。

ここが屋外だということを全く気にする余裕がない、そんなことよりせっくす。彼の目の前で仰向けにひっくり返ってパンツとズボンを脱ぎ捨てて股を開き、見せつけて煽るように……いや単に自分が我慢できなくて、彼の目の前でマンズリしてしまう。絶頂状態が継続しているアソコは少し触れただけでもイソギンチャクみたいに肉を伸ばしたり引っ込めたり蠢いて、淫汁を噴水する。彼に、飛沫がかかる。

はーっ❤はーっっ❤あーもう💢❤意気地なしっ💢❤💢❤こんなイきっぱなしの食べられ待ちメスが目の前でヘコってんだぞっ❤💢❤💢おっ、おおお\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_ッ❤ヘタレぢんぽぉッ!💢男見せろよっ💢勃起してがちってるちんぽぉっ、ちんぽに、に素直になれよっ💢せっくすしろぉっ💢💢💢ちんぽ入れろよぉッ💢💢💢

あわ、わ……わ、わかりました、からっ!

仰向けに転がる私の上に、小さい体で覆い被さってくる静しずるくん。アクメ波にさらされ続けて既に限界心拍してる心臓が、期待で突き抜ける。

クるっ、セックスくるっ……性交、交尾、受精っっッ❤

腰を浮かせて、来る肉棒に迎え舌みたいにクリとラヴィアを寄せる。

これで我慢して下さい……ッ

くキゅッ!?❤

ぱつぱつに充血して張り詰めた、小さい男性器みたいに勃起しっぱなしのクリに、何か奇妙な感覚が触れる。仰向けになったまま彼にのしかかられていて、何が当たっているのかわからない。わからないけど、これは……おちんちんではない気がする。それは、クリトリスに巻き付くみたいに取り付いて、細かく上下に揺れている……まるで、男性が自慰するときにペニスを扱くみたいに。

おっっッ!?こ、こりぇっっ、な、なにっ!?

ここからでは見えないけれど、いくら勃起してるとはいえクリトリスが男性器のように大きくなるはずがない。精々指先サイズの突起に、細い何かが絡みついている。それを感じられるのは、再発した淫毒が感覚を鋭敏化させているからだ。細い少しザラついた感触のものが肉突起に巻き付いて、それも一本や二本ではない、何本もの細い感触が巻き付き絡みつき、全体として一つになって、クリトリスを扱いている―クリオナホみたいに。

んヒィッっ❤おっ!んぉっ❤❤❤これなにッ!?にゃにヒいィッ❤❤❤クリっ❤クリしゅっご、おおっほぉっっ❤❤❤イっ、お……おーーーーっ、おおおおーーーっっ❤❤❤クリシコやっべぇっっっっ❤❤❤イグ、イっっグぅぅっっ❤❤

毒、抜きますから

静しずるくんが、ヒっ❤し、してるの、これぇっ!?

日孁呼ひるこがあの肉触手を極細に紙縒ってクリに巻き付けたらこんなふうだろうなと、それ以外に想像しうる経験も記憶もない。案外感触がそうなだけで、普通に指で触られているだけなのかもしれないけど、首をもたげても静しずるくんの顔と鎖骨、肩が見えるだけだ。彼の目は私の方を向いたり恥ずかしげに目を逸らしたりを繰り返している。顔を真赤にして、少しだけ開いた口から小さくても熱い吐息が漏れている。羞恥なのか興奮なのかわからない、でも可愛らしい顔を私に向けていた。

ごれ静しずるくんなのっ?ォッ……❤静しずるくんの手マンなのッ💢❤

こ、これしか、方法が……

このクリ愛撫が、彼の仕業だということははっきりしたけれど、何をされているのかは全然わからない。とにかく……今はとにかく、気持ちいいのが、全て。他のことはどうでもいい。

クリすごっ❤んひ❤!おっ❤おっ!んおーーーっ❤!ふーっっ、ふーーーーーーっ❤イく、すっごいイく……ッ❤クリイき終わんないっ❤静しずるくんのクリシコヤバいのっっ❤これっ❤こんなのっ❤こんな手クリ知らにゃいっ❤腰、浮いちゃうのぉっ、クリオナホお迎えしちゃうっっ❤❤❤おっっ❤おおぉおぉーーーーっ❤ホおーーーーーっっっ、おーーーーっっ❤!イきボタンになってるっ💢クリでイッてるのか、イッててクリ燃えてるのか、わかんにゃいぃっっっっ❤おおぉッ❤おぁ……イく、またっっ、い、んいーーーーっっっ💢

ヘコッ、ヘコッ

仰向けのまま腰を持ち上げて、無意識に膣に入ってくるはずの感触を迎えに行ってしまう。その度に肉芽全体に締め付ける様な感触と、上下に擦り上げるような刺激が走り、絶頂重ねしてマン汁を噴水してしまう。

はへっ……っ❤オっ、はひーーっ❤💢ひーっっ💢んっ……おーーーーっっっ❤い、グぅっっ❤❤❤

何度イッてもしかし、絶頂のSouldOutは訪れない。それを思い知らせるかのように静しずるくんのクリトリス苛めは続いていた。〝毒を抜く〟と言っていたけれど、私はただ彼の愛撫に追い詰められながら絶頂を繰り返していればいいのだろうか。毒が消えるのが先か、私の正気が削れ消えるのが先か、わからない。

あの……こ、ここなら、中には入らずにイッてもらえると思います……っ

解像度が高すぎるクリトリス刺激、細い糸のような感触がクリの包皮に潜り込み根本を絞ってくるのが解る。それとは別に細い糸の断面先端を束ねて寄せた平面のような感覚が、クリの先端に触れる。これが日孁呼ひるこじゃなく静しずるくんの仕業だとしても、きっと同じ様な肉出来マニュピュレーターが私の淫裂の上で暴れているのだ。そしてそれを操っているのは他でもない静しずるくん。

まっ、まって、まってっ❤それ、多分ダメなやつ……静しずるくん勘違いしてる、それ

微細な凹凸がクリの先端でしょりしょりと弾ける;その感覚が、だんだん強くなる。押し付けられてる❤クリに、ブラシみたいなしょりしょりが、つよ……く……っ

それダ、んぎいいいいいいいいいーーーーーーーーっっっっっ❤ダメだがらッ❤これ、しちゃダメなイき方らがらぁっっ💢❤おっっ……ンおおおおーーーーーーーっっっっっ❤💢❤

手や指ですれば間違いなく痛みに変わる筈の苛烈なクリ責めが、しかし全く痛くない。痛みが代わりに変換されたみたいな激烈な快感がクリトリスから膣の傍を通って子宮を締め上げ、そのまま全身に走る。脳からの運動指令に誤読された快感電流のせいで背筋が勝手に仰け反る。自分では力を入れられないのに、実験カエルみたいにビクビク体が勝手に跳ね上がる。潮吹きも止まらない。ブレインアクメは継続中。

えっ、でも、これなら女性性を侵害せずにたくさんオーガズムを得られるかと……

しゅるっ💢❤それ女の子の大事なおちんちんだからっ💢❤尊厳侵害ぃしゅるのぉっ💢❤んおーーーーーーっっ❤んぎ❤あああーーーーーっっ❤❤オーーーーっッ❤おほおおおっっっ❤こんなイき方してたら、イッ、女の子減るッ❤

勃起して張り詰めた肉芽が、ブラシ触手で磨き上げられていく。ブラシは先端を擦りまくった後、徐々にクリ竿を降りて側面を摩擦する。ひとつだと思っていたクリブラシはふたつ、みっつと増えて、勃起して腫れ上がったクリを側面三方向から挟んで容赦なく震えている。

クリダメェッ❤これ、イき壊れるっ❤ほおーーーーっっ!?んおおぉ❤クリ徒長しちゃうっ❤クリ腫れて、伸びっぱなしになっちゃうっ❤おっ、おぉおおおっっ❤んぃ⁄﹀\╱﹀▔︺\_︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/\︿╱\❤❤❤💢💢💢

ぶしょっ!ぶしゃっ!

へこ❤へこへこ❤

ビクッビクッビクンっ

下手くそな操り人形みたいに、体と四肢がメチャクチャな方向に曲がったまま痙攣している。オーガズムが継続し続けているせいで心拍数が落ちつかず、呼吸が暴れている。

目の焦点が合わず、視界はすべて二重に見える;イきヨリ目から戻せない。眼筋が死んでまぶたが垂れ、鼻から下が伸び口元もだらしなく開きっぱなし。股間から噴き出し続ける汁に比べれば、涙とヨダレと鼻水でべちょべちょになってる顔の惨めさなんか大したことはない、ただ知性が漏出してなくなったみたいな顔になってるだけ―だめだ。

い、いっかい止めて……クリの、いっかいろめ……れっっッ❤💢ヤバいからっ❤んおっ❤これッ、これまぢでヤバっ……い、かりゃぁぁあっっっ❤💢へぁぁぁ……❤

えっと……ご、ごめんなさい、まだちゃんと操作が、できなくって!と……とまらないです……

ハァッ!?本気で言ってんの!?冗談はよしてよ、こっちは本気でイッってんだよぉっ💢💢❤んぎゅっッ❤これ、マジでクリ終わるっ💢❤腫れて膨らんだデカクリで二度とぱんつ履けなくなるぅっ💢❤んおおおおおーーーーーーーーっっっっっ💢❤❤💢死にゅっ❤クリで死ぬ▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿__/︺▔╲▁︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿︿╱▔︺\/っっっ❤💢

これが錯覚であることを心から願う:三方向からの容赦ないクリ磨きが尿道を刺激する度に、その棹体に感じる重さがずっしりと重量感を持っているように思えてきていた。淫裂の口際に張り詰めた、ただの突起ではなく……明確に長さを持った外器官になったかのような。

まっへ💢クリ、変っ❤なんか変ッ❤💢伸びてない?💢❤私のクリ、でっかくなってない!?💢❤静しずるくんっ、ねえっ!?💢

感度拡大の効果は身体感覚の無駄な拡張を押し付けてくる。クリトリスに絡み付く締め上げ触手の巻き付き方や、クリトリス締め付けリングが上下に動いて扱いている様のつぶさまでが、しっかりと脳裏で再生できてしまう。当然、居並ぶクリブラシにマン汁が泡立つほど擦り上げられる様子も。そして何より、それらの触感は全てが強撃性感となって膣を歪め子宮を殴り卵巣を擽って、オーガズム命令を発効し続ける脳へ反撃している。脳と子宮が電流とホルモンでイかせ合いバトルを繰り広げていた。

クリ搾り、ヒっ❤ぴかぴかに磨かれたでかクリ、イボイボのクリ噛み筒触手でヘぇッ❤じゅぼられてるっッ❤クリオナホ、ヤバいっ❤勃起クリきもちくなゅっ❤❤❤

毒のせいで身体感覚を拡張され、見えてないものまで見えているような気になってしまうのは、昔の経験でよく知っている。そう言うのは大体思い込みで本当にわかっているわけではない。でも……そのときは本気でそう思っているのだ。

あは……それ、クリ終わる奴でしょ……知ってる、マジで戻んなくなって、女としての人生詰む奴だ……

今私のクリに噛みついているのは……さっきのブラシとは違う。私の膨らんだクリトリスの形にぴったりフィットした袋状の先端器官を持つたった一本の触手。でも私の肉豆に被さってぴったりと包み込む袋状構造の内側には、びっしりとツブツブの凹凸絨毛が敷き詰められた摩擦専用の肉筒。その絨毛は、絶妙な固さと弾力を持って粒立っており、さっきまで狂っていたクリブラシの進化系だとわかる。内側には陰圧が掛かっていて、吸い付かれた肥大クリは常に強制勃起させられる。快感を得る専用に備わった肉突起の無防備な神経が、びっしり生え揃った細かなぶつぶつで:削れるほど撫でられ:潰れるほど噛まれ:伸びるほど引っ張られる。

おっ、おおーーーーーっ❤💢クリ、ッ❤クリ変形しへるっ!💢❤デカクリにされて、んォっ❤デカクリ磨かれへっ❤お……んッッ❤デカクリにいっぱいブツブツきてるっ❤❤❤むり、これムリらっれぇ💢❤💢❤やめへっ❤クリぞりぞりいっぱい❤やめへぇぇっ❤💢❤💢💢おっ❤、おおおお……っ❤んおおおおおおおおおおほーーーーーーッッッッッ❤❤❤

ぶちゅ、ぶちゅっっ、と吸引クリ磨き触手が汚らしいクリ屁音を鳴らしながら私のクリをこそぐ度に、薬毒脳アクメとクリアヘの波が衝突して全身が致命オーガズムで不随意に踊る。腰が反ってマン汁噴水になり、持ち上がった臀部はクリ虐めを誘っている。

ぎゅむ。こりこりっ。シコり勃ったクリトリスが容赦なく粘液でふやかされ、ふやけた肉芽表面は充血と陰圧でより大きく強くつっぱって勃起している。その勃起はまるで筒触手に刺激をねだるようで、その有様の通り、倍増した感度が絶望的な快感を注ぎ込んでくる。

おーーーーーっ❤おおーーーーっ❤❤おっ❤❤❤おっ❤へっ❤へっ❤へっ❤へっ❤へおっ❤噛まないれッ❤ううん、噛んでっ❤ブツブツギザギザで私のマゾクリ、思いっッッきり噛み潰してっ❤ぷちぷち音なるくらいブッ潰して❤❤❤んおっ❤はへっはへっはへっ❤❤勃起クリ終わらせて❤おお、おぉーーーーーっ❤ぎゃああぇぇえええええっっ❤❤💢💢取れるっ💢ちんぽみたいに膨れてるクリ、つぶりぇてとれゅッ❤❤💢クリの裏っかわも、根本も、先っちょも、全部ブツブツ触手でっ❤ゾリッ❤ゾリッってぇ、そんなのクリ終わるでしょっ❤❤💢手オナニーでいけなくなっる……おおーーーーっっ❤💢❤💢ぱんつ履いただけで腰ヘコ止まらなくなる、ダメ人間になゆっ❤❤フザケんなっ💢こんな無様マンコあるかっ💢マンコの尊厳かえせっ💢❤💢❤イグ❤またイグっ❤クリ、引っ張られてッ❤じょりじょり扱かれて、んほぉ❤んほぉ❤おっ❤おお▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿︿╱▔︺\/\っっっ❤💢

§

テレビのスイッチが入ったみたいに、いきなり世界がONになった。意識はある、多分、命もある。アソコは乾きかけているけど、確かに濡れていた感触も残っている。横を見やると静しずるくんがいて、ははあ、あれは夢や幻や抜けの症状ではなかったらしい;本当のことだったのか。股間にそっと触れてみるが、記憶の断絶の向こう側に残っている、少し触れただけで脊髄液が蜂蜜に変わるような電流が走ったりはしなかった。幸い、毒の症状は消えたみたいだ。アレのサイズは……もとに、戻ってるっぽい。安堵の溜息が出た。

品質の悪いポルノ映画みたいな濡れ場だったし、ギャグみたいな連続アクメだったけれど……未だにあの快感の大きさはありありと思い出せる;まともな性感ではなかった。毒のせいだったのか彼の愛撫のせいだったのか、それともその両方だったのかはわからないけれど……頭の中の血管の一本や二本、切れていてそうな感じがしてなんとなく頭を押さえてしまう。解るわけがないけれど。

隣には静しずるくんが、泣きそうな顔で私を見ていた。泣きそうなのはこっちの方なんですが?💢

静しずるくん

ひ……あっ、あの……

ほんっっっっっっっっっっとに死ぬかと思ったんだけど!?

ひぁっ……!ごめんなさい……っ

周りを見渡し、一度は着直したのに自ら脱ぎ散らかした服をもう一度取り戻して、また着直そうとする……が、ぱんつは履けたものじゃないし、ブラはどっか行って見つからない。ノーパンでズボンを履いてみても、ズボンはズボンで濡れたままだ。正直よくない匂いがしている。

幸か不幸か一切人通りがない、あんな事が起こってもオマワリ一人来ないということは監視カメラも機能していなさそうだ。その範囲に限って言えば、裸で歩いてたって平気なわけだ。いやそんなチャレンジしないけど。着衣が少し乱れた人物が歩いていたところで平気そうだ。気は乗らないが、着られる範囲の服だけを着ることにする。静しずるくんの服はサイズ感が何一つ合わないので借りるわけにもいかなさそうだった。

手慣れてたねえ、女の子イかせるの💢

慣れてないですよ!何すればいいかよくわからないから、あんなことに……

まあ、そうか。いや、そうだとしてもさあ……💢

……その、ニンゲンの姿を得たのは、本当に最近なんです。ニンゲンの雄の身体性が、まだ、制御、できなくて

ふぅーん?

ごめんなさい

じゃあキミは何者で、元の姿は何なのか……と、今聞く気にはなれなかった。正直もう疲れ果てていて、どんな情報が入ってきても、重要なこともしょうもないことも含めて取り漏らすに違いない。脱水症状っぽい怠さもおさまっていないし、何も考えたくない気分だった。もう一本水を買った方がいいなこれは。

はーーっ。もーいいよ、あんな化け物に襲われても生きて帰れるんだ。あのキモいのに犯されるのと、キミにされるのなら雲泥さ。毒も、多分、消えたと思う。またぶり返したら……頼むね?

蓮子さんは、日孁呼ひるこがボクだったとは思わないんですか?

キミがニンゲンじゃないことはようく思い知ったよ。でも、生憎慣れてるんだ、そういうの:趣味柄ね。その勘で言うなら、キミとあの日孁呼ひるこ?は別物だ。証拠はない。直感。

彼は何も言わない。申し訳なさそうな表情を浮かべて、小さくなって隣りに座っている。何を、申し訳なく思っているのだろうか。私をあんなふうにメチャクチャにしたことだろうか、自分の正体を言えないことだろうか、それとも私を日孁呼ひるこに遭遇させたことだろうか。わからないし、何を言われたとしてもその発言の真偽を得ることは出来ない。

一旦全部棚上げ:性急に結論を出さず一切を棚上げしてやり直す。そんなことも、科学には必要なアプローチだ。勿論秘封倶楽部の活動においても。

キミのこと、ますますメリーに会わせたくなっちゃった。同じ趣味してるんだ。

同じ趣味……七夕坂を一人で探しに行っちゃう人、ですもんね

そうじゃないよ。性行為の好みの話。

あー……ぁぁぁぇ?

口をパクパクさせながら、顔を真赤にして俯いてしまう。

何だこの人外。隙が多すぎる。意図的にやっているのでなければ、余りにも天然だ。笑けてしまって、彼を悪い方に疑う気にもなれない。

帰ろっか。眠いわ。

はい

疲労で体が悲鳴を上げている、歩くだけでも余計に疲れてしまうくらい。それにここはそれなりに山だ、帰り道も山道だと思えばひたすら憂鬱だった。でも、そんな疲労も今この一瞬は麻痺していて余り感じない。毒のせいかもしれないし、余りにも鮮烈な性交渉故に精神的に落ち着いていないだけなのかもしれないが、それ以上に我が身に降り掛かった出来事の事件の関連性を考察せずにはいられなかったのだ。

御岩山で妙なバケモノに遭遇した。静しずるくんがいた。これは、どういうめぐり合わせだ?それをヒルコと言う?

結局、疲労と脱水で衰えたアタマでは、どんなに事件とアイデアの釦を思索の生地にぶちまけ直し釦同士を縫い糸で結んでみようとも、上手い形を描くことはなかった。どうしても何かが足りない絵にしかならない。私は溜息を付いて点いて空を見上げる。相変わらずまともな時空を返却しない空との通信を強制切断し、諦めて静しずるくんの手を取った。

彼はびっくりしたように声を上げていたが無視して、人外少年の下手くそなエスコートでホテルへの帰途につく。

火種を撒き散らしながら、このサカを歩いている。メリーに近づいているような、根拠のない確信があった。

§ 虚舟 §

ホテルに戻ってきた辺りの記憶が薄い。想像以上に疲れていたみたいで、泥みたいに寝ていた。静しずるくんの方も少なくとも私が目を覚ましたときにはまだ隣で可愛らしい寝息を立てていた。相変わらず無駄に沈む枕と寝心地の良くないシーツで体を捻ると、彼が寝息を途切れさせた。

ん……

ごめん、起こしちゃった

ひうっ!

眠そうな目をとろりと開いたのは一瞬、次の瞬間には顔を真赤にして飛び退くように離れた。ラブホテル仕様のダブルベッドでなければきっと転げ落ちていただろう。

もう。今更すぎるでしょ。

ごっ、ごめんなさい

なんであやまんのさ

昨日ので、彼が人間じゃないことははっきりした。何者なのかなんてわからないけれど、その気があれば私のことなんかあっさりと喰ってしまえるような、そんな存在だ。そんな彼がなんで大人しく私の横で人間ごっこをしているのか、理由はわからない。それに、彼は人間の姿でいることにこだわっているように感じられる。なんで人間のペースに合わせているのだろうか。遊びでやっているだけかもしれないけど。

神妖かみさまって、ニンゲンで興奮するんだなあ。なんて他人事みたいに感心してしまっている私がいる。

したことが、あのバケモノとおんなじだって?

あんなことしちゃった後だから、否定は出来ません

昨日のは私がシテってゆったんじゃん。なんで静しずるくんが責任感じてるワケ?

シテって言われて、シちゃったからです

なにそれ、ダッサ

はあ?

それって静しずるくんがニンゲンじゃないからってこと?あんまりニンゲン舐めんなよ。昨日はシたかったの。私が。静しずるくんと。なんかヘンな毒は食らったけど、解毒してくれたのもキミ。おーけー?

何だか不満そうな、困ったような顔をしたまま静しずるくんは黙ってしまう。本当に犯人ならそんな顔しないだろ。

あれこれと考えるのはもう面倒だ。考える事は、シンプルに数を減らしたい;つまり、メリーと七夕坂のことだけだ。他のことは、いちいち駆け引きだの先を読むだのリスクヘッジだの、するのがもう煩わしかった……というと何だか強そうだが、単に私が静しずるくんを信用していて疑いたくなくなっていたからだ。

ああ、寄生虫やウィルスや最近の類には、特定のものへの恐怖心を消してしまうことで宿主を都合よく操るものもあると聞く。もしかしたらそういう奴かもしれないけど……だったらもうそれでもいい。

でもそれ以上に、彼のくれる情報一つ一つがいちいちメリーに繋がっているような気がしてならないのだ。

眠い目がまだ本領を取り戻さない。裸足のままてんてんと歩いて、コーヒーを買う。自販機をビルトインしたような不思議な装置が、人工コーヒーの入ったカップを二つ、吐き出した。そのうちひとつを彼に渡して、ソファに腰掛ける。あんまり美味しくない人工コーヒーだが、目を覚ますには都合がいい。

そういえばさ、静しずるくんは静しずるくんで何かこの地域に用事があったんじゃなかったっけ?

思い出したので聞いてみたら、「ええまあ」と歯切れの悪い答えが帰ってきた。元はといえば彼が私と行動をともにするようになったのは彼がその「用事」とやらを足すのに彼の装備では不足だろうことに私が付け込んで、宿代を浮かせようと思ったからだ。いや、顔が好みの男だったのは否定しない。

私が御岩山に一人で行ったとき彼も自分の用事を済ませに行くと行っていたはずだが、蓋を開けてみれば彼は私と同じ場所にいた。結果的に助けてもらったのだが、だとすると彼は用事を済ませていないか、用事は私と同じ御岩山にあったことになる。

ニンゲンの女性に種付けするって用事だったって言ったらどうするんです?

その話はもう終わったよ。いっぱいシたでしょ、私もスッキリさせてもらったし。まだ足りない?

そういう意味では……

露悪的な言動がこれほど似合わない人物も珍しい。これほど条件が揃っていて本人の口からそうだと言われても全くそうだと思えない。バケモノにレイプされかけていたところを助けてもらったなんて都合の良い解釈の方が納得感があるくらいだ。彼が言っている事は全部ウソで、なにか都合の悪いことを隠している。自分が悪者になったほうがそれでも彼にとっては都合のいい何かを。

そろそろキミのこと、教えてくれてもいいんじゃない?私、これでも結構助けてるつもりなんだけど、あんまりキミの話聞けてないんだよね

メリーとの軽口合戦のクセが出て少し意地悪い言い方になってしまった;でも本心だ、少し焦りがあるのも含めて。彼がタナバタ、ひいては七夕坂についてのなにか重要なキーを握っているのは間違いがないのだが、それを引き出せないでいる。引き出せるものなのか、引き出して良いものなのか、引き出して手に負えるものなのか、彼が握っているのが鍵だけなのか、扉の向こうにあるもの全てなのかも含めて全くわからない。もしかしたら全く関係がない可能性だってある。メリーを見つけるまでの漠然としたタイムリミットが七月七日の夜、希望的観測をしてプラス二週間を見ても、時間的な余裕は十分に確保してきている。こうして観光じみたことと危ないグレーゾーンを歩く夜をあと何回も繰り返しても、それ自体には問題を感じていない。だが、だからといってただ祈って待つような性分ではない。どちらかといえば私が引っ張り回さなければ動かない方のメリーが、自発的に動いて(そしていなくなった)作り出されたこの状況だ、私が彼女よりも動かないなんて格好つかない。

もう熱くもなくなった人工コーヒーの水面から覗いたカップの底を眺める目線を上げて、彼の方をちらりと見る。ほとんど口をつけていないコーヒーを渋い顔で睨みつけながら、黙っている。時たまカップの取っ手に指を回して持ち上げ、口をつけようとするが唇に触れたところですぐに離した。コーヒー、苦手だったみたい。

ねえ?

私が返事を催促すると、渋い表情を更に苦そうに曇らせてから、私の方を見た。

くそ、メチャクチャに甘やかすか思い切りぶん殴るか、どっちかを煽るような顔。ずるい。そしてメリーもめっちゃ好きなタイプ。わかっているけど、今ばかりは焦りが迫り上がってきていた。

今、何時ですか?

十一時前だよ。

お昼になったら、海に行きませんか?

海?イクチでも眺めながらご飯でも食べて、キミの身の上とか聞けるのかな?

……ええ、まあ

歯切れが悪いとはいえ肯定の回答が来たので、正直驚いた。ようやくかという気持ちも間違いないが、わずかにでも出てくるだろう情報に逐一期待感が高まってしまう。どこの家出少年なのだろう。いや今更家出少年なんて方便は不要だ;彼は一体何者なんだ。用事と言っているのが、きっとお遣いだの親戚に会うだのでもない:なら何なのだ。私は巻き込まれただけなのか、あるいは……偶然を装っているだけで、元から狙われていたのか。

話す、と言ってくれた以上は、彼が話の口火を切るまでは私から問う事はしないようにした。コーヒー苦手だった?お昼は何を食べようか。トランスポーターでいい?そんな会話だけしながら、時間を潰し潰しで出かける準備をする。

私は山道を含めてそれなりの距離を歩く格好を用意した。多少暑くても日差しを遮る長袖と長ズボン、愛用しているトレッキングシューズ、非常用の食料まで入ったリュック。トランスポーターで海に行くだけと言われているけど、歴史文化保護地区の海沿いなんて今や人の手がほぼ加わらない荒々しい姿を取り戻している;砂浜であればよいが場所によっては軽装で歩ける場所ではない。

一方で彼は相変わらず近場に出る程度の軽装のままだった。昨日私が助けてもらったときだって、彼は玄関を出て五秒でここに来たみたいな装い。Tシャツの上から被って着るパステルブルーのパーカー、下ろしたてみたいに綺麗なままのジーンズ、汚れのないスニーカー、タブレットデバイスと幾らかの荷物が入っているだけのボディバッグ。舗装された町中以外を歩けるような姿ではないのだが、彼はいつもこの姿だった。今になって思えばたぶん……衣装など実際には何も気にしていない、気にする必要もない、ただ人間社会に混じるための擬態でしかないのだろう。

準備できたと言って出し合った姿の違いすぎる様子に、でも今更何も言う気はない。その察しを、更に察し返した彼もまた、いつもの澄ました表情のまま。

行きましょうか

おっけ

海に行くと言っていただけで、具体的な場所はわからない。彼に任せたまま黙ってついていくことに決めていた。

ホテルを出てしばらく歩き、流しのトランスポーターが見つかる太い通りに出た。道こそ太いが、この辺は観光客が来るような場所ではない、人通りはほとんどなく、流しのトランスポーターはこんなところで止められると想定されていないらしくまあまあな速度で飛ばしている。だが彼が手を挙げるとトランスポーターは存外にあっさりと捕まった。

配車中じゃないのがちょうど通って助かったね。アプリ起動しようと思ってた

そのほうがよかったですね

彼が呼び止めたトランスポーターは、確かに正しく機能していた。私が後を追う形で乗り込んでから、まずい、既に遅かった。ユーザー問合せは先に彼に向いたはずだ。静しずるくんは身分証を持っていないと言っていた。

こんな場所で人権レスの人間がトランスポーターに乗り込んだとあっては、通報待った無しだったから。だが。

えっ……パス……?

私が後から乗り込んで、私の認証が通る。その直前、彼の分の認証が、一瞬のエラー表示から承認済みへ切り替わったのを私は見逃さなかった。どういうこと?トランスポーターの無賃乗車なんて、トランスポーター社会実装当初に僅かに起こったくらいだ。今では誰でも乗り込んだすぐさまに個人番号とその支払情報に連携され、全くその処理を感じさせることがない。かつての切符や非接触式媒体支払くらいに浸透している。

でも、今目の前で起こったことは?降車時の支払エラーではなく乗ったときの認証エラーが、しかも途中で解消されて認証済みに切り替わるなんて。

何も問題がなかったかのように発車するトランスポーター。私はタブレットデバイスを取り出して手書きのメモを見せる。声は下手をすると顧客満足度口上のためと称してセキュリティのために録音されているかもしれないからだ。

今何したの?最初認証エラーだったよね

再認証で通ったから問題ないんじゃないですか?ちゃんと僕ではなくて蓮子さんが支払者になっています。すみません、何から何まで払わせてしまって

筆談を始めた意図を静しずるくんも理解しているらしい、彼もタブレットの上に指を走らせて回答する。

そんなわけがあるかと彼が指差すシステム表示を見ると、確かに〝支払:第二搭乗席のお客様〟となっている。

じゃあ問題はな……いやあるってば。

一応トランスポーターって、認証市民専用の乗り物なんだけど

システムにバグでもあったんじゃないですかね

涼しい顔で無賃乗車を成し遂げた静しずるくん。認証をパスする何らかの方法を持っているということなのだろう。これなら確かに男の身分でも一人で旅をすることくらいは出来たのかもしれない。

なるほど。ほんとに、私なんか要らなかったってわけか。一人で何ゆってたんだろね、私

そんなこと!

別に深い意味があったわけではない冗談みたいな皮肉だったけど、彼は跳ね上がるように声を上げた。そしてすぐ小さくなる。

ありません

男という生き物特有の声が低くなっていく途中経過らしい不思議な混じり声。飼い主にしゅんとさせられている小動物みたいな雰囲気で目を伏して少し俯く。

助かってます、ほんとうに

あー、くそ、やっぱ可愛いなこのガキ……。明らかにヤバい存在なのに、見た目で完全にやられてる。

彼が何か人智の範囲に収まらない存在だということは十分わかっているつもりだ。でも、だからって神妖かみさまの類を前にして言いなりになるつもりはない、秘封倶楽部の活動を続けてきたことの自負もある。化物に犯されそうになって流石に折れるかと思ったが、今となっては存外に平気だった。むしろ吹っ切れたような気もする。疑念や恐怖は確かに震え上がるほどだけど、それ以上に使命感のようなものがあると自覚できた。

この世の不思議を観測して解き明かす秘封倶楽部の大義と、何より、メリーを見つけること。それをなすためには、必要な無理も承知の上だ。

まあいいや。タクシー代浮いたからヨシとしよう

タナバタに関わる重大な何かが、きっと海にあるのだ。海に囲まれた列島である日本の中でも、この地域の海は、特殊だ;以前イクチの件で訪れたのも、そうした下敷きがあったからだ。この土地の海が異界との結界であることに、今更疑念など持っていなかった。海になにかがあるといわれて、またか、やっぱりか、といった思いはある。

変な、人ですね。普通あんな目にあったら、僕を疑いますよ

あんまりくどいと女の子にモテないよ?私を試してんなら無駄だからね;メリーの手がかりになるなら、何でもするのさ。そのためにはまず〝タナバタ〟だ。キミがなにか知ってるなら、何が何でも食らいつくまでだよ

それきり静しずるくんは何も言わなくなってしまった。静かな気配はあるが、沈んでいるというわけでもなさそうだ。

彼に隠蔽されては私も必要な情報を引き出せなくなる;機嫌を取るようなつもりはないけど、拒絶したり閉ざしたりしてメリットはない。旅の恥はかき捨てというけれど、重苦しいよりは楽しい方がいいしね。

それにまだメリーに静しずるくんのことを紹介する野望だって潰えたわけじゃない。尋常の存在ではない何者かを交えてメリーと3Pなんて、想像しただけでヤバい。いひ。

……っ、い、今なにか、良からぬことを考えてませんでした?すごい顔してましたけど

えっ、ソンナコトナイヨー。私は、変な人なんかじゃないよ?

うわ変な人だ……

§

こんな場所はトランスポーターの規定降車ポイントに含まれていない。後者地点選択のクオンタイズを解除して、点と点の間の微妙な位置へスライドさせて確定する。元より観光地付近でもなければ居住地区からも遠く離れた場所だが、輪をかけて周囲には何もない辺鄙な場所だった。舗道こそ走っていてギリギリトランスポーターの走行範囲内ではあったが、人が来ることは想定されていない地域だ。

道が通っていて最低限の道路設備があるだけで、後は野放図の自然。木も草もまるでものを喋るように繁茂していて、潮騒はまだ遠くにさえ聞こえない。

まーたしかに、歴史文化保護地区でもなければこんな場所はもう人間の管理領域内には残ってないだろうね。今どき人の手が入っていなさすぎなのが、逆に不自然だと思うけど。里山っていうものを勘違いした無管理原理主義みたい

人間の管理領域内にありながら、可能な限り管理を自然の手に委ねるというマージナルな性質が、この歴史文化保護地区の意義ではある。ただの自然であれば、人口減少が止まらず縮約政策も採択した日本の国内であれば、ぶっちゃけどこにでもあるのだ。そうした「非人間領域」と化した土地の奥には、かつて人間によって何処かに追いやられた存在が再び居を構えているに違いない。

トランスポーターを降りてギリギリ人間の営みを感じる道から降りると、一気に険しい。遠影にさえ海の姿はないが、地図アプリを見る限りは海岸線にはまあまあ近いことになっている。そこに行くまでにはほぼ山歩きのような険しい地帯が広がっていた。

こっから海に出るの?もうちょっと別の〝海〟じゃダメだったわけ?

ここの、予定らしいので

なんだかわからないけど、ちゃんと装備してきてよかったよ

体が小さいから、というのを差し置いても彼の足取りは軽々としていて険しい道程に不安を感じさせない慣れを感じる。おしゃれに振って実用性を捨てたようなスニーカーだけでひょいひょいと渡り、長袖のパーカーは流石に枝を引っ掛けていたけど、それでも器用にすり抜けていく。軽い山にも対応できるハイキング装備の私の方が危なっかしいくらいだ。

こういう場所じゃ、立場が逆転だ、ね。管理地域人間社会に、出ないで暮らしてたんだ?

この辺ではないですが、似たような場所です。人里を通らずにここに来る予定だったんですが、トラブルがあって徒歩だと間に合わなくなってしまい、やむを得ず。最初に会えたのが、蓮子おねーさんみたいな〝物わかりのいい〟方で助かりました

皮肉ってんねぇ〜

でも、助かりました

どうかな?厄介なお荷物を拾ったかもよ?

それは……ちょっと思っています

否定しろぉ

川まで渡る必要があったらちょっと嫌だなと思っていたが、地図アプリ上にあった川は今は水が少なくて濡れずに通り抜けることが出来た。そのまま高度を下げていくといよいよ海の匂い、やがてその姿も見えるようになってきた。

ひゅー、やっと海だね。開けたところに出たらちょっと遅いけどお昼にしよう。

はい。想定していた時間ぴったりです。トランスポーターっていうのは便利なものですね

わかってて認証クラックしたんじゃないんだ……

岩と木の根が絡み合ったような地帯を抜けると、波打ちに削られたなだらかな海岸が広がった。急峻な場所だなと改めて振り返る;まるで人の世と海を遮る壁のように岩場は威容を返していた。一度境界を通り抜け開けた空間では、まるで来訪者を招き入れるかのようにちょうどよく足踏みに都合の良い高さの岩面が出ている。その一つ一つを踏み外さないよう慎重に足場にしながら(静しずるくんは相変わらず軽々と)降りていく。

さっきまでの険しさが嘘のように、大きな岩が偶に転がっているだけの砂礫海岸が広がっていた。人の手が入っていない特有の荒々しさと共に、所々に描き出される穏やかな側面。

腰を下ろすのに手頃な場所を見つけて、昼食パッケージを取り出した。自販機コンビニで買ったものだから人工加工品ケミばかりだけれど、こういう場所で食べるならなんでも格別なもの。メリーともカップ麺一つだけ食べてうまいうまいと言い合っていたものだ。

えっと、ボクの話でしたっけ

それを期待して付いて来たんだけど?

合成デンプンから作った疑似米は、歴史文化保護地区で食べられる日本食の再現としてはまあまあだ。おにぎりと呼ばれる米を丸めてデンプンの粘りで接着した塊の中に好きな食材を詰め込んだメニュー……まあそんな大層な形容をしなくても普段日本で生活していれば珍しくも何ともないのだが、そのおにぎりに齧りつきながら、私は彼のしてくれるだろう話に期待をよせる。民俗学者という人達がいて、その中でもフィールドワーク、こと現地の人からの聞き取りを重視した人達が、実際に話を聞かせてもらうときのワクワクした感じとは、きっとこのようなものだったのだろう。

話をする、というより……まず見せなければならないものがあります。

はあ、焦らすねえ

次のおにぎりに手を伸ばして頬張る。

私が勝手に期待する一方で、静しずるくんの表情は何処か複雑そうだった。どこから話せばいいのだろうと迷っているようにも見えたし、何かそれ以外の不安を抱えているようにも。だが話すと決めてここに連れて来てくれたのだから、きっと期待してもいいはずだ。

信じられません。千年単位で誰も寄せ付けなかった境界が、こうもあっさりと踏み越えられるなんて。蓮子おねーさん、あなたは一体、何者なんですか

私は何者でもないよ。メリーのパートナー……ただのメリーの信奉者だよ。

境界といった。やはり、ここには何か……彼には何がが、あるのだ。私は不意にそれを、踏んだということだろうか。どの行為だ。星を見たことか、日孁呼ひるこを誘ったことか。静しずるくんに声をかけたことか。わからない。その答えが、知れるのだろうか。

時間です、来ました

きた?

こんな場所に、一体何が来るというのだ。海。海につれてきたということは、海から何かが、来るとでも言うのだろうか。

静しずるくんが視線を放り投げ続けている水平線の方に、私も目をやる。何か、違和感がある、見えているのは間違いない。船なんか無断で侵入できる海域じゃない。飾り気のない姿をしているが、小さすぎてなんだかよくわからない。小さすぎて何だかよくわからないのに、水平線を破って存在しているそのオブジェクトが、妙に浮いて見えていることに気付いた。船のような巨体に錯覚するのはその奇妙で強い存在感故だが、実際に見えているのはまだ「点」くらいの距離。静しずるくんが言っているのはアレのこと?

それは徐々に姿を大きく、つまりこちらに寄ってきている。沖合にその姿を明確に見せてきたそれは、しかし実際には正確には船の形をしていないことがわかった。お椀?さっき食べたおにぎりみたいな形?そして……デカい。距離は何となく分かるが、その距離と比して映し出されているオブジェクトのサイズ感は整合していない。浮かんでいるゴミとか、ブイとかそういうサイズじゃない。明確に「船体」を感じる。静しずるくんの言葉を信用するなら、あれが海を渡って来たの?

未管理浮遊物であれば、歴史文化保護地区の管理実態に従って回収される筈だ。船であれば、未申請で通過も進入もできるはずがない―一般の存在であれば。

こんなサイズのものが海警の目を抜けて入ってくるなんて、あり得ない。それに……なに、あれ

沖合に浮かぶ奇妙なオブジェクトは、ある種異様であった。そう思っているのは私だけなのかもしれない。目、といったのはその異様さが極めて画像的だったからだ;つまり、そのオブジェクトの姿はまるで動画を表示しているディスプレイの上に、物理的な写真を単純に貼り付けたような有り様で海上に突き立っていた。風があろうと波があろうと、奥に水平線があり手前には奥行きのある海面が続いていて、白波を立てて波打っているにも拘らず、その遠近の前後関係を無視してそのオブジェクトは前景として浮き上がって見える。全ての奥行きを無視して手前にあるように見えるのに、しかしそのオブジェクトはこの岸辺からははまだ遠い。映像の前後重なりが崩壊しているのにそのオブジェクトがまだ遠くにあるということがどうしてわかったのか、わからない。小さく見えるというただ一点だけ?人間の視覚認知に対して疑いが生じる。だから〝そう思っているのは私だけなのかも〟という表現しかできなかった。まだ距離がある:あるいは全てに対して前景である、と理解しているのは私の錯乱した理性の誤った越権行為でしかなく、他の人の目にはもうすぐ手前にいる:あるいは相応の前後関係が成立して、解釈されているのかもしれない。そう自分の正常性を疑うほどに、そのオブジェクトの有り様は異様だったのだ。遠くにあるものらしい色のくすみや輪郭のぼやけもまったくない、その姿だけがベクターデータで描かれたかのようにくっきりと浮き上がっている。全く隠す気のない合成写真が、疑いようもなく写真ではなく現実の光景としてそこにある:そう思わせる視覚情報は私の正気を削り取るような気分さえした。

幻目の解釈エラー障害が残っている?あんなの、初めてだったし。でも……

頭を振って目を閉じて深呼吸してから見直しても、やはり海上のオブジェクトはその異様な画像表現をやめない。しかもそれはカメラがズームインするように一定速度で大きくなっていく:安っぽい、これはあれが接近しているという表現らしかった。拡大速度が接近速度なら、尋常ではないスピードということになる。だが、そのオブジェクトは依然として万能前景であり、それが海を走ることによって海面に波が立ったり軌跡が残ったりもしない。合成映像よりも不気味な現実視界。

それはいよいよこの海浜へ……えっ、こっちに来る?見られたからって殺しに来る類の怪異じゃないだろうな。背筋が凍るのを感じたが、ほんの少しだけ感じていた心強さは……隣の静しずるくんもその光景を目にしているらしいことだった。クオリアの比較は不可能で、あのオブジェクトの接近を同じように認識しているのかはわからない;でも同じ方を見て近寄ってくるオブジェクトに対して足を僅かに引いたのを見た。私はもう何歩も後ずさっている。

大丈夫です、多分

後ずさる私との距離が離れたのを彼は察したのだろう。私の方を一瞥だけしてそう言った静しずるくん;でも、表情は安堵を誘うものではなかった。

速度に直せば尋常ではない拡大と接近の変換が、見ていて気持ち悪さを引き起こす。はるか彼方の船影のようだったオブジェクトは波風も何も立てることなくあっという間に、私達の立つ海岸に縁を突き寄せた:はっと気付いたとき、そのオブジェクトが突き刺さった海岸の砂石の幾らかは、そのオブジェクトよりも手前にあった。その姿の映像の前後関係は、突如として周囲との整合性を獲得した。全ての箇所に焦点が合っていたような姿が、見ていない場所は相応に意識から追い出され輪郭を失う真っ当な描写に変わる。平面的だった明暗はこのオブジェクトが本来的に持っている奥行きに従って明暗とピントを得た。海岸線の水面との接点では、手前では水が手前にあり、奥では水が奥にある、極めて常識的な前後関係になっている。

気味の悪さがなくなり尋常な映像に戻ったというのに、今でもその姿は浮き上がって見えるような錯覚を残している。一方で突如としてまともさを訴えてくる視覚情報に、疑念を払拭できない。

静しずるくん、これ、なにか知ってるの?

静しずるくんは何も答えない。だが私はそのオブジェクトを指す名詞を一つ、記憶の中から掘り当てていた;否、それは勝手に掘り上がってきた。

虚舟……なの?

海岸に打ち寄せられた再突入帰還モジュール:今の人間が見ればそうだと判るけど……この期に及んでこの光景を、「虚舟」以外のものと言う勇気は、寧ろ無い。虚舟が宇宙船だというオカルト話はもはや有名だけれど、目の前に帰還モジュールが落ちているのを見ると、仮にそれがそうだとわかっていてもこんな奇妙な光景はない。ここが仮にも歴史文化保護地区だからだというのもあるが、熱で焼けた後の残る金属質の大型オブジェクトは、緑と青の風景には合成写真のようにしか見えない。

もう十分に冷却されているようだ、海水に触れている箇所から湯気が出たりはしていない。これが大気圏再突入モジュールだとするなら、もはやこれが一連の七夕怪異に関わりのある……もっと言えば、ロケットを以て大気圏外へ出た古代の存在の再来なのだと疑う余地はない。然るに、中には誰かが、乗っていることになる。

御根様を回り突入艇虚舟で帰ってきたのは誰?……いや、誰、などと白々しく言うまい:天津甕星あまつみかぼし。

ちょっ、静しずるくん!?

隣りにいる静しずるくんは何も言わずに突入艇虚舟に歩み寄っていく。何が出てくるかわからない……でも、この形、ニンゲンの造形センスに通ずる部分がある。宇宙を支配する物理法則に従うのなら確かに、デザインというのは共通してくるのかもしれない、然るに科学技術がある意味での平行進化を遂げる可能性はあるのだろう。そうぼんやりと考える一方で、ニンゲンは、ニンゲンと同等か以上の知性のある存在を、ニンゲン以外の姿として描き出すことには、全く慣れていないとも感じる:剰え、それを受け入れることには。

静しずるくんが突入艇虚舟に近づきその側面に触れる;ほぼ同時に側面に描かれた四角い枠のようなものが僅かに外に浮き、やがて押し出されるように飛び出して上部に跳ね上がる。つまり、開いた。

開いた突入艇虚舟の口から、ゆっくりと何かが出てくる。それは人の足と似た形をしていた。縁にかけられた足のような部分からは直線状に一定距離を登って、その形は折れている。折れた部分は角度を持って伸びていた。膝?それと同じものが、横に並んでもう一本現れる。その頃には開いた口の中ほどに、やはり人間の手と似た形の器官が引っかかり、つまり奥にあるその身体全てを外に押し出そうとしているのが解る。

邪魔

がんっ、と音が響いたと思うと、跳ね上げ扉のように上に押し出されていた曲面部品が突然外れ、静しずるくんの直ぐ傍に落ちる。波打ち際の水しぶきが跳ねた。静しずるくんはそれを気にすることもなく、突入艇虚舟の口を見上げている。扉を蹴り落としたのらしい。だったら「じゃま」と聞こえたのは、中から聞こえた言葉?

現れようとするパーツ、扉を蹴り飛ばしたその動作、それにいよいよ姿を現したそれは……まるきり地球人の姿形をしていた。

葦原中津国:随分変わったわね、無理もないか。

発した言葉も、まるで人間。宇宙人が出て来ると思っていたのに、現れたのは服装が少し特殊なだけの地球人だった:少なくとも、見た目は。

もしかして穂多留比ほたるび?久しいわね。葦原中津国に戻って最初に会えるのがあなたなんて、運がいいわ。待っていくれたの?随分人間らしい姿になって

御冗談を。たまたま居合わせただけです。

静しずるくんが降りてきた人物と知り合いであることは予想外だったが、私にとっては虚舟うつろぶねの搭乗口からはそれ以上に驚くべきものが顔を出した。

それは、どう見てもメリーだった。長い癖毛のブロンド、バランスの良い筋のある卵型の頭にとろけたような甘い目、かぶりつきたくなる肉厚の唇。恐らく彼女用にサイジングされているだろう奇妙な衣装の上からでもわかる、凹凸が激しいにも拘らずつま先までが計算し尽くされて繋がったかのような絶妙な体のライン。

め、メリー!?

建葉槌たけはづち!?あの頃と何ら変わらない姿、なんてこと!

こんなところでメリーに再会できるなんて!と思ったのも束の間、彼女の口から飛び出した私の名前は、蓮子ではなかった。この行き違いを見た静しずるくんが口を挟む。

香香瀬織かがせお、建葉槌たけはづちはもう死にました:最期まであなたの帰りを夢見て。彼女は別人です。ここではあなたが旅立ってからもう幾星霜もの時が流れています。この星の技術は今でもさほど高くない。

ええ、ええ、そうね、わかっているわ

静しずるくん、どういうこと?見せたいものってこれ?建葉槌たけはづち?

単語それぞれの意味は知っている;それらは私の記憶の中でつながり合おうとするが、ここが現実世界であることが解決を阻害する。メリーそっくりの宇宙人が、私のことを建葉槌たけはづちと呼んだ。ただの人違いと片付ければそれきりの話だが、そうでない疑いを捨てるには余りにも―この言葉が適切とは思えないが―惜しい。

私が、似てるの?さっき思い切り間違えられたけど

ええ、正直、かなり。若い頃の建葉槌たけはづちにそっくりです

そんな重要なこと今まで黙ってるなんて人が悪いよ

すみません

謝るんかい。つまり、わかっていたということか。もしかして、私が声をかけてしまったのは……偶然ではなかった?

突然に建葉槌たけはづちに似ていると言われても反応には困る。たしかに個人的には古代の名神の多くは実在の人間だとは思っているけれど、だからといってそれと似ていると言われたところで。

っていうか、私が建葉槌たけはづちと似てるっていうのなら、静しずるって偽名を使ってるキミってどうなのよ?

次から次に言いたいことは浮かんでくるが、それを口に出す余裕がない。なんせ意味がわからなさすぎる。

建葉槌たけはづちは、香香瀬織かがせお……天津甕星あまつみかぼしを、この地球から逃がした人です。そして香香瀬織かがせおは、人間の歴史が文字として記録されるよりも昔に、この土地にいた人間です。

それは知って……え、地球?

地祇系は天神系に先駆けて日本列島に到来した人間の派閥だとは、一つの解釈として一定程度受け入れられている。地祇にも名を連ねずに、狭蝿なす神々、蛍火輝く神々、のように片付けられた者達もいる。だが静しずるくんが言っている事は……少なくとも天神系が日本列島に渡来したタイミングで、日本列島には少なくとも第二宇宙速度を獲得できる人間が住んでいた、と言うことになる。そして磐余彦いわれびこの系統が征夷鎮狄を進める中で天津甕星あまつみかぼしは地球を出たことになる。そしてその手助けをしたのが建葉槌たけはづちだと、彼は言っている。

香香瀬織かがせお:高天原から戻ったわ。天津瑞あまつしるしはここにある。葦原中津国の現王は、誰か?

あなたの帰還はこの星生まれの人間には隠蔽しています。察しているかとは思いますが、今のこの星は中途半端に文明レベルが高いので、騒がれると厄介です。

中途半端って。隠蔽?静しずるくんが?

それに、この星にあなたの旅立ちを記憶している者は、もういません。

あなたがいるわ。それに、じゃあその娘は?

この方は、ちょっと、事情が特殊でして……

……あらら、そういうこと。ふふ

ちっ、違いますよ!

え、なんだこれ。思った以上の普通地球人が出てきたな:普通じゃないのは服装くらい。宇宙服でもない、だが地球上のどんな服の素材とも違う。金属光沢はあるがしなやかで繊維質のヘアラインが刻まれている。ぼんやりと温かそうな光を放っていた。それは人間らしい身体パーツと適合するように分かれていて、つまり普通の服と同じように平たい何かを接合して作られている事は何となく分かる。前提なしにそれを見るのであれば、精々先鋭デザイナーのファッションショーでランウェイを歩くモデルが着ている特殊素材のエキゾチックな服装と言ってしまえる程度には、地球人の服装の範疇だった。

私がカガセオと呼ばれている女性と静しずるくんを交互に見ながら話に追いつけないでいると、流石に静しずるくんが助け舟を出してきた。

建葉槌たけはづちは経津主ふつぬしと武御雷たけみかづち同様、香香瀬織かがせおを服従させるよう命じられていました、それは伝承通りです。建葉槌たけはづちと香香瀬織かがせおは恋仲でしたから、中央は容易に近づけると踏んだのでしょう。

建葉槌たけはづちと香香背男かがせおが恋人同士……ねえ

どうしても倭やまとに従わないまつろわぬ、しかも経津主ふつぬしと武御雷たけみかづちという二将軍を退けた天津甕星あまつみかぼしを、職能神的な見立てが多い倭文しとり神が下し従えたという出来事の説明として、内通説はなくはない。だが恋人同士だったなんて話はなかなかぶっ飛んでいる。ていうかそれ以前に、この天津甕星あまつみかぼし……香香背男かがせお、おもっくそ女性なのだけれど。メリーにそっくりだし。

〝地球から逃がした〟って……それが宿魂石ロケットってこと?

宿魂石は当時の人々が香香瀬織かがせお達のやったことを後から神格化した偶像です。天津甕星あまつみかぼしという呼び名も、打ち上げの様子を見ての称号でしょう。概ね蓮子さんの推察の通りです。

そして戻ってきた。着水したロケットの乗員モジュールが虚舟うつろぶねってところ?

この星の伝承と符合するなら、そうなります

ああ、待って。一旦それはどうだっていいや。もっと前提の話があるでしょう、説明をするなら順番にお願いしていい?

えーと、難しいですね。善処はしますけど

実際に目の前にあるカプセルは虚舟うつろぶねと言う以外にはない。中から出てきた美女は箱を持っていて、中に生首ではなく天津瑞あまつしるしとやらが入っているのだという。

宿魂石がロケットであるとの察しを静しずるくんから得たときのような、冷や汗が滲んでくる。この先のことを、私は知ってもいいのだろうか。それを知ることが、メリーとの再会に本当に意味のあることなの?

静しずるくんが〝香香瀬織かがせお〟と呼ぶ女性は、現代のタブレットデバイスに似たようなものを操作しながら私と、それに静しずるくんを改めて見やり、問いかけてきた。

単刀直入に訊くわ。この星のニンゲンは、この星から高天原へ、メッセージを送ったわね?

メリーそっくりな、その唇から。

§ パンスペルミア §

アルタイル星系に向けて電文を送ったのは、その通りです。地球人が興味本位で打電したと記録されています。

メッセージ?アルタイル星系?

メリー似の暫定異星人に向かって一歩前に出た静しずるくんははっきりと答えた。送った、と。

人類には、地球圏外に存在するかもしれない知的生命体に向けてメッセージを送ってきた歴史がある。地球外知的生命体探査SETIの一環として、単純化された画像を金属板に刻んだものや電波を宇宙空間へ放出し、地球外知的生命体との接触をはかってきた。アルタイルに向けて発したものもあったはずだ。

アルタイルは、所謂一般的な七夕の上では擬人化されがちだが、宇宙人が住むような星ではない。なんせ恒星で、熱く燃えているからだ。アルタイル自体は決してハピタブルな星ではないが、アルタイルの周りに惑星がある可能性自体は認められている。ちょうど太陽と地球の関係のように、アルタイルの周囲にハピタブルな惑星があるかもしれないとは、昔から宇宙のロマンの枠として語られている。いや、勿論地球人類が想定していないタイプの生命活動がアルタイルそのもので行われている可能性自体はないわけではないのだけど。

静しずるくんの言う話の流れから言えばメリー似の香香瀬織かがせお(仮)はアルタイル星系人ということになる;そして当の女性は同じ文脈で〝高天原〟という言葉を使っている。それって、つまり、そういう主張ってことなの?

そこの建葉槌たけはづちそっくりのお嬢さんにもわかるように、説明してあげるわ。

私の狼狽を見て、エセメリーが気を利かせてきた。だがそれを本当に私は、知ってしまってよいのか?決心を得る間もなく、彼女は私に向かってメリーの声で主張を始めた。この場でそれを真実だと鵜呑みにするほどの信頼性はないが、恐らく今の私を揺らがせるには十分な言霊になるだろう。

あるたいる、と呼ばれているのかしら、高天原は

正確には、高天原はアルタイルの周りにある惑星ということになりますが、地球の人間はひっくるめてその名前で認知しています。あるいは、彦星。

そう。じゃあアルタイル、と呼ぶことにしましょうか。恒星アルタイルはあの太陽と呼ばれてる星よりも寿命が短い、ざっと十分の一と言われているわ。星に寿命があることは―

この星の技術は中途半端に高いから、それくらいのことはみんな知っているよ

結構;高天原にもその中途半端な時代はあったわ。それを解き明かす知性を得てしまった人々:アルタイル人とでも呼ぼうかしら:彼等はある時から、アルタイルの死による終末思想の恐怖に囚われている。

寿命気が長いのね。地球には太陽の寿命を憂いている人なんかいないわ。

羨ましいことね。でもこの星にだっていつかは訪れることよ。

この星の人間は愚かだから、太陽ではなく自分達が自分達を滅ぼすと信じているの。滑稽でしょう?

その時代は、私の母星にもあったらしいわ。女王の下で統制されているのはそれを解決したからだって、神話が残ってる。

神話なんだ

どの星でも、神話とは政治と結合しやすいものなのらしい。神の概念も。

私が旅立った時点では、あの星は、女王の統制の下で、星のあらゆる資源を胚種広布することに費やしている。到達可能性のある恒星の片っ端から、その傍にハピタブルな環境惑星があると信じてね。自分の星を削って次の星へ:まるで母が子をなすのに自分の命を削るようないじらしい姿だわ。これが、自己複製欲求を持つに至ったアミノ酸の成れの果て。

そう、自分のことを紹介するように自らの胸元に指を当てる天津甕星あまつみかぼしもとい、静しずるくんが呼ぶには、香香瀬織かがせお。

胚種広布パンスペルミア。また穏やかではない言葉が出てきた。

その頃この星はまだ、命らしいものは何もなかった。焼けた鉄の塊が冷えていく最中だったわ。この星の有機物の発端は高天原から私の祖先が撃ち込んだものよ。私達、似ているでしょう?

いきなり何だって言うの?〝そのころ〟って

この星に有機物がなかった頃よ

パンスペルミア思想なんて、馬鹿げてる

信じて貰う必要はないわ、寧ろ何も知られないほうが都合はいいもの。知られたところで何も変わらないけれど。

乞巧奠きこうでんを取り込む前のタナバタが何を指していたのか、朧げながら見えてきた。見えてきたものはまともなものではない:余りにも荒唐無稽で信じるに足らぬ馬鹿げたものだ。でも、秘封倶楽部がいままで観測し続けてきたものの中に、まともなものなんて一つでもあっただろうか。そして私はその現象一つ一つに辻褄を合わせるように過去の理論を拝借しながらツギハギで自論を構築してきたに過ぎない。現象ではなく、その本質を見抜く目を持っていたのは他でもない、メリーだったのだ。今、私の隣にその目はない。

天津甕星あまつみかぼしが、アルタイル人だったって?

アマツミカボシとやらが私のことを指した言葉なら、そうなるわね。私は地球人と〝種〟との混血。だから正確にアルタイル人、と表現していいのは、私の遠い祖先にあたるかしら。地球の、当時の日本の片隅で大人しく生きていた私達は、同じく日本列島に渡来してきた別の系統の人類に追いやられて、高天原に帰ったってわけ。私だけがね。

他の、あなたの系統の人類とやらは、どうなったの?

この星にいるわよ。皆殺しにされたってわけじゃないもの。あなただって、そうかも?

ぞっ、とした。私の体の中に、異星人の血が?女の見た目があまりにもメリーにそっくりなことが、無駄に真実味を補強してくる。あり得ない与太話にしか聞こえないはずなのに。

だから私は母星の人間ではない、宇宙人というわけではないわ。宇宙から帰ってきた混血児ってところよ。

種、混血。身に覚えがありすぎる。バケモノにヤられそうになったことを思い出した。少し記憶の引き出しに触れただけでも、未だに頭の中がチカチカするし奥歯が鳴る。恐怖からではなく、あの尋常でない快感を思い出して。

テラフォーミングされた後もこの星には、この星の人間の有史以前に私達と同じ遺伝子を自動的頒布する装置が先遣されていた。その打ち込まれた胚種頒布装置は、自動的にこの星の生き物に種を

香香瀬織かがせお!

静しずるくん、大丈夫……キミが助けてくれたから

思い出したい出来事ではないけれど、聞かなければならない気がする。重要な、決して目を背けてはならない事実がそこにあるような気がする。メリーへ続く、結界ジャンクションが。香香瀬織かがせおと名乗る女性が万が一本物なら。

……あの日孁呼ひることかいうバケモノ、死ぬときに姿も形もなくなるのは、化石として残るのを嫌ったから?本格的に入植が開始されるまで、その星の住人には事実に気づかれない方がいいから

そうなんでしょうね、私が作ったわけではないからわからないけど。驚いたわ:まだ機能している日孁呼ひるこがいたのね。

胚種広布弾から種を受けそうになるなんて、聖母マリアに比肩する貴重な経験をしたよ。生憎、私は交配してないけれど。

毒を投与され母胎にされそうになった人間を目の前にして涼し気に言う香香瀬織かがせおを名乗る女性:メリーにそっくりだっていうのが余計に腹が立つ。

そんな目で見ないでよ。私だって、そうやって生まれた地球人よ?謂わば同胞はらから。

朝廷があなた達を迫害した理由は、なんとなくわかったわ。バレていたのね、異星人の子だって。

それはどうかわからないけれど、異質なものだとは思われていたんでしょうね。

空を信奉する一族。倭の信仰や伝承とはあまりにも違う奇妙な伝統。きっと自分達との間にある違和感を、感じ取っていたのだろう。後発の渡来人から見て、どうやら同じように人間がそこにいたことも驚きだったろうが、その人間の中に自分たちと同じ特徴を多く備えていて同祖だと主張する者がいるとなれば、それはきっと心地良くなかっただろう。

必ずここに戻ってくると、言い残してこの星を飛び出したわ。それを助けてくれたのが建葉槌たけはづち。彼女は技術者で、地球脱出船の制御に必要なコードを作ってくれた。

コード?

倭文、として言語化されて残っています。

倭文?倭文って、織物じゃないの?

倭文という表現は当時の人々の認知の限界です。科学とも魔術ともつかない、特殊なコードです。具象化された姿を言えば、シルクプリントされた基板の姿が近かったと思います。それを織物や紋様として伝えたのでしょう。

ヤマト政権は愛濔詩えみしに対し、征討以外にも饗給によって懐柔する政策も積極的に織り交ぜてあたっていたことは知られている。が、倭文と呼ばれる織物が当時の愛濔詩えみしに対して有効な贈り物だったのかは疑問がある。大陸から新しい絹織物が入ってきた当時、倭文織自体は既に古臭いものになりつつあった筈だ。それを受け取ったからといって朝廷に恭順を示すというのは、確かに調子が良くない。一方で、倭文織というものは既に現物を失っており、どのようなものだったのかはほとんど記録に残っていない。神事儀礼に用いられる形で僅かに延命したようだが、それももう途絶えている。記録上のどこまでが本当に倭文だったのか、それが本当は何を指していたのか、わかっていない。だからといって静しずるくん達の言うことが本当だとはとても思えないが。

倭文神が天津甕星あまつみかぼしを下したというのは、織物という贈り物によって帰化を促したことではなく、香香瀬織かがせおが地球を脱出するのに必要なパーツを提供したという意味なの?

建葉槌たけはづちの編織したコードは香香瀬織かがせおの母星帰還装置には欠かせないものでした。建葉槌たけはづちは香香瀬織かがせおの無事と本懐を遂げるためにこの地球にある素材からそれを作り上げたのです。建葉槌たけはづちの死後、倭文を継いだ氏族はその本質を失っています。コードとしての倭文の大きく形骸化したものはモレウ、アイウシ、シクといったパターン、或いはシヌイェなどとして残っていたようですが、その本来の機能は建葉槌たけはづちの死と共に消滅しました。これが、香香瀬織かがせおがこの星を飛び立った以降、僕が見てきた記憶です。

アルタイル人さんは、自分が日本人の祖だなんていうつもり?

まさか。私達は追放された民よ。それに、ニンゲンなんて節操がないもの:当時から純血なんかじゃなかったわよ。そうでしょう、穂多留比ほたるび?

ええ、まあ、と口ごもる静しずるくん。目の前の香香瀬織かがせおという女性の言う事のどこまでが本当なのかわからない。それに、彼は彼で何を知っているのだろう。

何故、私達があなた達と似た姿をしているのか……不思議に思わない?

あなたが本当にアルタイル星人ならね?

確かに、宇宙人が地球人と似た姿をしているなんて、偶然の一致な筈がない。幾多の奇蹟を経て今のヒトの姿になったはずなのに、同じ進化が他の星でも起こっているなんて。でもそれを簡単に解決する別の説がある。香香瀬織かがせおを名乗るこの女が、実はただのイカレた現住地球人だって言う説だ。

他人行儀ね。あなた達は元はといえば私達と同祖。あの箱の中……天津瑞あまつしるしを見ればわかる、あれは天羽々矢と歩靭かちゆきに同じ;私達が同祖だと信ずるに足る分子構造物が封入されているわ。私はこの星のニンゲンとは兄弟と言ってもいい

虚舟から出てきた香香瀬織かがせおを名乗る女性が天津瑞あまつしるしといって示した小さな箱は、宝石箱と言うよりは移植臓器運搬用の小型冷凍庫のように見えた。地球に存在するのと同じように宇宙にも有機物が存在していることは、かつて日本の探査機はやぶさ2が示した。地球人と同じであることを示すというのなら、アミノ酸やタンパク質である可能性がある。あの箱の中にはヒトに近い精子か卵か、ES細胞のようなものが入っているのかもしれない。だが、それならばなおのこと、この女が頭のイカれたただの地球人だという説を補強するだけかもしれない。

あなたの言っていることには矛盾があるわ。自分が日孁呼ひることこの地上の生命体との混血であると、どうやって知ったの?本当にあなたが地球に流された胚種の子孫なら、それを教えてくれる存在はどこにもいないはずでしょう?

その子の一族が教えてくれたのよ

えっ?

女の指差す先には、静しずるくんがいる。彼は気まずそうに顔を背けて苦い顔をしている。

穂多留比ほたるびは、私達より先にこの星に来たもっと別の生き物。同じように胚種としてこの星に来たってこと以外は、ついに教えてくれなかったけど

それが、彼が言いたかった身の上だってこと?

……マジの神妖かみさまだったんだ

胚種という言葉を使うなら、香香瀬織かがせおと同様に、それは僕ではなく僕の始祖達を指します。確かにこの国の幾つかの磐舟伝説はそれにあたります:僕の始祖もそれに乗ってここに来た者です。でも、僕は神なんて大層な存在ではありません。

磐船伝説ね、よく宇宙人の来訪だったに違いないなんて喜んでいる人がいるわ。

僕の生みの親達は、恐らく高天原からの操作でテラフォーミングされたこの星に、香香瀬織かがせおよりも昔にこの土地に来ました。でももうこの世界にはいません。別の世界からきて、別の世界へ渡ったのです。僕はその時についていくことが出来なかった零落種です:神などではありません

別の世界?星ではなく?

〝幻想郷〟と呼んでいました。僕らの始祖は、特殊な渡り能力を持っていたようです。始祖達は、僕ら眷属種を置いて別の世界:幻想郷へ戻っていきました。

都合の良い環境に種を蒔いたら面倒を見ずに次の土地にっていうことね

そういうことだと思います。胚種広布の種子としてこの星に来た僕の生みの親は、既にこの星に存在した虫の類と生態が似ていました。僕は、始祖達とこの星の昆虫と……ニンゲンの混血児です。そういう意味では、僕と香香瀬織かがせおは同じ立場です。違うのは、僕はこの星に残っているというだけ

別の世界、とはまた大きく出た。彼の言う〝始祖〟というのは、宇宙際の膜を通過できたということだろうか。仮にそんなものがあるのなら異世界の存在を示す物証だ:メリーが欲しがったものは、これの観測なんじゃ……?

銀河パンスペルミアならぬ、世界パンスペルミアとでも呼べばいいの?それに、この世界の虫の中にキミの血が混じっているっていうの?流石にそこまで信じられるほど私は寛容ではないわよ

僕のではなく、僕の始祖にあたる、存在です。名前などありません、当時言語なんて存在していませんでしたから。始祖のことは便宜的に夜に蠢くものWriggle=Nightbugとでも呼べばいいでしょうか。この星の虫類の多くには、夜に蠢くものWriggle=Nightbugの血が混じっています:勿論、僕にも。

そんなの、信じろって言う方が無理だよ。

では。この星の昆虫類が進化の過程でどうやって飛行能力を獲得したのか、ご存知ですか?

そうだ。多くの昆虫が翅を持ち飛行能力を持っていることは余りにも日常的で見落としがちだけど、進化の過程で何の器官が翅となったのか、完全に判明していないのだ。六脚類の空白は埋まりきっていないし、翅を持たない虫と翅を持つ虫の中間化石ははっきりと認められていない。翅は、恐らく鰓や側背板から変化したものだろうと言われているが、今以てゲノム編集を駆使して由来を追い続けている程度の段階だ。何が原因で鰓や側背板が飛翔のための翅へ変化していったのかはまだ全容がわかっていない。一方で、地球上で最初に空中を飛行したのは恐竜でも鳥でもなく、虫類であることはわかっている。飛翔能力を持つ昆虫は、現代科学を以て尚、まさしくエイリアンであることを思い出す。虫の飛翔によって地球上の生態系にもたらされた影響は計り知れない。

ついでに言えば(それが本当であるなら、私の喰らったことなど本当に〝ついで〟だ)、静しずるくんの超常性は痛いほど思い知っている。彼の集めた蛍は、私なんかの眼力をいつでも潰せるくらいの力を持っていた。

静しずるくんの話を証明する材料なんかないよ。当然、香香瀬織かがせお、あなたのことも

別に、あなたに認めてもらうためにわざわざこの星に戻ってきたわけではないわ

なにか目的があって戻ってきたってこと?お前たちが追放した兄弟は異世界で超強くなった、って見せつけるため?追放に対する復讐って、そういうの、もう流行んないよ

私がここに戻ってきたのは、胚種広布の哲学からは外れた行為。播種とは、本来的には自分達の遺伝子、次の世代を次の星に伝えることが目的であって、移住ではないのだから。私がこの星に戻ってきたのは、もっと独善的な理由よ

胚種広布弾日孁呼をこの星にぶち込んどいて、そうじゃないなんて今更言われて、何だって言うわけ?あなただって、そうやって生まれたって言っていただろうに

散々パンスペルミアみたいなことを展開しておいて、その哲学からは外れた、なんて妙な言い回し。話が回りくどくて面倒くさい。回りくどいのは……話がデカすぎる証拠だとでも言うのだろうか。もっと独善的な理由?

母なる恒星の消滅を控え、自星そのものを舟に転化し続けることで質量バランスを失い終わりが約束された星では、文字通りに星を削って建造し出ていった船がどうなったのかなんて顧みなかった。女王に寄って播種の哲学は徹底されていたから。私が創造主の星に帰って見たものは、母なるアルタイルと共に滅ぶ運命を予見して、女王の下で何世代にも渡り一心不乱に胚種広布弾と播種船の建造に全資源を注ぐ民の姿。この星が終りを迎えても、この広い宇宙のどこかで、個ではなく種いや分子として存続することに賭けて、最小限の生態系をユニット化し播種船として宇宙に送り出すために。そうね、この土地にある言葉で言うのなら、もう少し持続可能性を高めた補陀落渡海ほだらくとかいといったところかしら

自分達の住む星を削って自分達の種を宇宙に撒き続けるだなんて、まるで一年草のようだ。自らの持続可能性が断たれたからと言って、そこまで「次世代」に託す意思を持てる知的生命体が、本当に存在するのだろうか。知性が個を持つというのは人間ゆえの妄想なのだろうか。女王というのは、人間の王ではなく、蟻のような真社会性でいうところの王なのだろうか。そうでなければ……人間の思考力ではその様な知性を想像さえ出来ない。その知性は一体何に注がれているのだろうか。

ではしかし、地球人類の知性が今何に注がれているのだろうかと考えたとき、ろくなことには使われていないのも知っている。社会の中で生きるためのコストの支払が極端に高くなり、人間が獲得した脳という知性の核はそのリソースを結局ただ生きることに浪費させられている。知性が産んだ社会が生存コストを上げ、その社会は集団知を確かに向上させているが、それは世界各所でもう頭打ちを見出している。この日本が縮約国家へ諦めたように。

それ自体は……この言葉が適切かはわからないが、気の毒に思う。だが、それはそれとして、何だというのだ。

女王の絶対性もあったけれど、星が終わるという〝絶望〟は全ての民を胚種広布と播種に駆り立てるパワーだった。ところが、あのメッセージが届いた。過去に放った胚種広布弾が望ましい形にまで育った星が、こんなに近くにあるのだとわかったから。資源も世代も星もすべて費やし自分の命も顧みずに胚種広布に殉じてようとしていた者達が、あのメッセージを受け取ったことで何を考え始めたか、この星の住人は知らないでしょう。

どういうこと?メッセージって?

メッセージとは、ある種のSETIのことを言っているのだろうか。生憎それにはあまり詳しくない。静しずるくんが、答えた。

一九八三年、地球からアルタイルに向けてメッセージが発信されています。それをアルタイル星系の惑星が受信しました。受信した惑星は……かつてダメ元でこの地球をテラフォーミングしようと胚種広布弾を放ったその星―香香瀬織かがせおの母星―でした。アルタイルの十倍も寿命のある恒星の傍にハピタブルな惑星があって、知性が発展するに足る環境がある。かつて自分たちが種を送った星が、準備ができたと自発通知してきた形になります。

そんなものを受信したら……思うわよね:「生き延びられるかもしれない〟って。それが自らの生存可能性を無視できない生命の本質だもの。浅はかな知性は、奇跡的な種の存続よりも、想像できる即席な未来を望む。そうして私は再度派遣された。今度は、追放ではなく、共存するためにね。

ぞっとした。もし地球人が同じような状態になったなら。今の人類は共通の目標に向かって一致団結する理性を、おそらく持たない。播種船という名の脱出艇に我先に乗るべく争いを始めるだろう。そもそも播種船と言えるような巨大で高性能な宇宙船を作り出すような技術は確立できたとしても、そのための資源の確保が利権などでままならないだろう。それが可能となるにはまず、地球規模の戦争を経なければならない。そして、そんな経緯を踏まえた上で母星の死滅と入植可能な星が見出されたとしたら、人類が取る行動はおそらく―

共存?侵略の間違いでしょう?

私が向こうを立つ頃、星では地球に星の住人の大半を運ぶための最後の播種船団の建造を始めていたわ。播種船、いいえ、その呼称はもう欺瞞ね。移住船

侵略船だわ

……名前なんて、どうだってよかったわね?確かに、兵器は搭載してあるけれど。安心して、地球人にはまだ、無駄な抵抗をしないように準備する時間がある。播種船はまだ惑星を飛び立ったばかりでしょう。船団がここに到達するにはまだまだ時間がかかる。でもそれも〝門〟を通れればあっという間だわ。播種船団が完成し門さえ開けば、一晩でこの星の宇宙は我々の船団で埋まる;そしてタクシーはもう予約してある。

門?

穂多留比ほたるびが、開いてくれる予定だから。

穂多留比ほたるび……?静しずるくんのこと?

今更だけれど、静しずる、いい名前ね?あなたにぴったりだわ。

静しずるくん、門って何?

彼は黙ったまま、何も言わない。ただ目だけを私から逸らせた。それは間違いなく……タナバタの〝合〟あるいは、狂ったパララクスに、関係している:私は確信した。それをするのに、彼が一体どういう役割を担っているのか。

彼の始祖が持っていた力の欠片を、私達のために使ってくれるって。彼がこの星と私の星の間のワームホールを食い通してくれる。私はね、穂多留比ほたるび。あなたにはこの星の、夜に蠢くものWriggle=Nightbugになって、欲しいの。

何もかもが荒唐無稽な作り話にしか聞こえない。この場所には、静しずるくんの言うことも、香香瀬織かがせおの言うことも、証明する材料は何一つない。ただの頭のおかしい二人が勝手に妄想話をしているだけにしか聞こえない。ただのぶっ飛んだSFだ:ふたりとも実際にはただの頭のおかしい地球人だ:例えば終末思想に染まったところまでは一緒だとしてもただのカルト教団の狂言だ:そう言う方がまだまともに聞こえる。照道しょうとう教なるカルト教団が集団自殺を図ったというニュースは記憶に新しい。

彼等はただの狂言者だ、その妥当な判断に舵を切るだけのことを、私のこれまでの秘封倶楽部の活動の経験が邪魔をしてくる。虚言と切り捨てろ:下らない狂人どものごっこ遊びに付き合う必要なんかない:私はさっさとメリーを探さなければならないんだ:と自分に言い聞かせる。メリーを探しに七夕坂の鍵を探り、彼女が到達したサカの上に私も追いつく必要がある。

タナバタ。

アルタイル彦星とベガ織姫の〝合〟。この土地では使えない目と狂った星のパララクス。

アルタイルはここに姿を見せた。織姫がここに現れたらどうなる。天湯河板あめのゆかわたなと織姫……倭文織の巫女……建葉槌たけはづち。

私はもう、この二人の狂言を捨て置けなくなっていた。

さっき私達は日本人の祖なんかではないと言ったわね。でも我々は、日本人なんて微視的な話ではなく、この星のニンゲン種の祖になろうと考えているわ。だって、この星の有機物は、私達の配布した胚種から生まれたものだもの。私はそのための先遣として帰ってきた。私に続いて、三二のA型、五のB型C型、二五のD型の播種船がやってくる:穂多留比ほたるびの門を通って。高天原の難民が乗り、一隻一隻が惑星機能を有し十分な武装と半永久の継戦能力をもっているわ。

地球人類は、きっと迎撃するわ

迎撃?Toast乾杯なんて歓迎メッセージを送っておいてそれはないわよ、兄弟?我々は自らを星系難民だと主張している。……まあ、迎撃拒否されたところで結果が変わるような技術力差ではないけれどね。万が一にもこの星が抵抗できるものではない。

荒唐無稽、そして反吐い話だ。故郷を追われた者ディアスポラと、故郷奪還思想。民族主義。地球上にはそうした思想で引き起こされた戦争は、数え切れないほどある。いずれの場合もロクな正義もなくロクな未来も切り開かず、ただ悲惨な未来だけを予約した。だがその時点で難民拒否することにだって倫理も正当性などなく、利己を通す以外には理路が成り立たない。人間は人間自ら築き上げた多頭の化物を飼い慣らせずにいる:現代でもだ。いつの日でも、どちらの立場であっても、力が強く勝ったものが正しい歴史と倫理観を描き直すのだから。

兄弟、我々は憐れな星系難民です。受け入れを要求します。かつて、あなた方が我々にしたように、共存しましょう?

あなたは……この星に新たな〝国譲り〟を迫るってこと?

あの頃はそんなふうに国を追われた者がたくさんいたわね;でも結局同化した。その復讐に来たと言っても、確かに過言ではないかもしれないわね。大丈夫よ、無駄に抵抗しなければ、出雲のように立派な自治区を用意してあげるから。あんまり反抗的だと、女王がどう判断するかわからないけれど……共存のために建設的な関係を築きたいものね

それはあなたの星の人々の総意なの?

高天原の難民がこの星に押し寄せたとき、この星は全く新たな〝ヒト〟を受け入れることになるでしょうね。それはヒト第四紀の終焉。便宜的にこう呼んでも構わないわ。ヒト第五紀……〝第五の季節〟と。

第五の季節……

安心して、ヒトの世は続くわ;ヒトの世には変わりないもの、中身が少し違うだけで。万世一系を謳っていても実際には断絶と再接続を含んでいる、どこかの国の王統と同じよ。

建葉槌たけはづちの伝承なんて、全く無力なもののように思えた。

ああそれと:香香瀬織かがせおを名乗る女が付け足す。その目は静しずるくんを、まるで慈しむ様に見ている。

これは私の個人的な願望;穂多留比ほたるび、あなたにはこの星で、新たな夜に蠢くものWriggle=Nightbugになって欲しいと思っているわ。

えっ

その言葉は、明らかに静しずるくんを動揺させていた。元々大きな目をますます大きく開いて、しかしその視線は狼狽えて定まっていない。その意味が私にはわからない;額面通り、アルタイル人が支配した後は彼の言う始祖のように振る舞ってほしいという意味だろう。が、それが彼をそこまで動揺させる理由はわからない。

確かに知らせたわよ、穂多留比ほたるび。これから始まる祭の前情報、どう使うかはおまかせするわ。ではまた次の機会に。建葉槌たけはづち似のお嬢さんも。

私がクエスチョンマークを浮かべ、静しずるくんがまごついている内に、香香瀬織かがせおは踵を返して海の方へ歩いていく。突入艇虚舟の梯子に足をかけて、じゃあね、と軽く手を上げた瞬間―

§ 第五の季節 §

!?

白昼夢、だった?いや、そんなはずはない。だが現実とは思えない。

ない……虚舟うつろぶねが

香香瀬織かがせお!?

あんな異様な登場を見せ威容を映して現れたというのに、砂利浜には突入艇虚舟の影も形もなくなっていた。さっきまで確かに言葉を交わしていたのに、香香瀬織かがせおの姿もない。夢だったのか?と一瞬疑ったが、突入艇虚舟が着眼し、鉄扉が落下し、香香瀬織かがせおが踏み出した足の痕跡はたしかに残っている。まるで瞬間移動で消え去ったかのように突入艇虚舟と香香瀬織かがせおの姿だけがなくなっていた。

香香瀬織かがせおの名を呼ぶ静しずるくんの声が、潮騒に打ち消された。

香香瀬織かがせお!!

いない。いた、よね?

いちいち当たり前なことを聞くなと言わんばかりに私の声をスルーして周囲に視線を巡らせ香香瀬織かがせおの姿を探し続ける静しずるくん。私もそうしてはいるが、メリーそっくりのあの姿を見失うはずがない。突入艇虚舟に至ってはあんな巨大なオブジェクトが一瞬の内に忽然と消えるはずがないのだ。

私も彼もしばらく辺りを歩き回ったり名を呼んだりして探したが、それが無駄な行為だということは、薄々どこかで察していた;案の定多少探したところで見つかりもせず、先程までの記憶は何だったのかと自他を訝しみながら合流する。足の裏に伝わる砂利浜の感覚まで、疑心暗鬼に疑ってしまうほどだ。だって、あれは、たしかに目の前にあった光景だ。その登場が如何に奇妙なものだったとしても。

地球海面への着水と着岸、奇妙な座標移動。これが高天原アルタイルの技術力の賜物だとすると、これは、確かに……。

静しずるくん、ええと、穂多留比ほたるび?って呼んだ方が良いの?

どちらでも

目に見えて消沈している静しずるくん。彼の香香瀬織かがせおへの対応は、明らかに私に向けている対応と異なる。旧知の間だからなのかもしれないが、それにしても温度差がすごかった。彼は香香瀬織かがせおを、一入に……信用しているようだった―この言葉が適切であるかどうかはわからないが。

彼にとっては、人類史をただの栞の一枚と言えてしまうほどの時間を経る中で、そのことを共有できる唯一の存在だったかもしれないのだ。何せ彼の口からは、彼の言うところの〝凋落種〟仲間の存在は出てきていない。他にこの地球に彼と同じ立場の同じ種族?の存在はいないのかもしれない。そうであれば、香香瀬織かがせおを待つことへの精神的な依存心は小さいはずがない。

それに、最後の言葉への狼狽。

香香瀬織かがせおのことを、ずっと待っていたのかな。まるで

まるで、七夕みたいじゃないか。

アルタイル彦星を待つ、彼はベガ織姫のようではないか。年に一度も会えていないのは彼にとって不幸な出来事だったのだろう。尤も、香香瀬織かがせおから見たときの静しずるくんがどうなのかはわからないが。

私をここに連れ出して、見せたかった、言いたかったことっていうのは、これ?

……はい。

さっきの、キミのマジックかなんかじゃないよね?香香瀬織かがせおってのは

高天原……アルタイル星系にある惑星から地球への入植、今聞いていたとおりです。あれは、高天原の船がよく見せる移動法です。原理は僕もわかりません。ただ、高天原ではポピュラーなもののようです。僕の協力の元で高天原アルタイルから葦原中国地球へのワームホールを開通できるというのは、ああした技術の基礎があるからでしょう。

メリーを探しに来たっていうのに、メリーに似た宇宙人がいただけだった。しかも地球侵略だって?まるで小説かなにかだ。

静しずるくんが宇宙人の侵略の手引をするって言っていたと思うけど

ええ。そうなります。

香香瀬織かがせおに会いたいがために、それを引き受けたのかもしれない。彼がアルタイル星系の付近から地球圏の付近に通ずるワームホールをどのように開通させるのかはわからない。いずれにせよ、いじらしさは認めざるを得ない。だが、香香瀬織かがせおの言っていたことが本当だとすると、イイハナシダナーで済ませられる話ではない。彼も「そうなる」と認めているのだ。

僕も香香瀬織かがせおもヒトとの間の子であの様な姿形をしていますが、香香瀬織かがせおが連れて来る住人がヒトと同じ姿をしているとは限りません。僕も香香瀬織かがせお以外のアルタイル人の姿を見たことはありませんから。DNAがほぼ共通であっても、それが身体としてどう発現するかはわかりません。ですから、アルタイル難民がこの星に押し寄せたとき、この星は全く新たな〝ヒト〟を受け入れることになります。それはヒト第四紀の終焉です。便宜的にこう呼んでも構いません。ヒト第五紀……〝第五の季節〟と。

第五の季節……

安心して下さい、ヒトの世は続きます。ヒトの世には変わりはありません、中身が少し違うだけで。万世一系を謳っていても実際には断絶と再接続を含んでいる、どこかの国の王統と同じですよ。

牙を剝いた、という表現が近いのかもしれない。彼とてそもそも神妖の類だ、人間に対して常識的な範囲での良心的倫理を持っている筈がなかった。それでも何か、彼の目の辺りに、どこか後ろめたさを残したような翳りがある……が、これは私から見た希望的な見方でしかないかもしれない。後悔があろうがなかろうが、彼が手を貸しているのは地球の危機だ。

最初の話に戻りましょう、蓮子さん。七夕の夜、ここに、禁忌の門を開きます。それが新たなタナバタです。七夕坂も新たにここに比定されるようになるでしょう。高天原アルタイルとのやり取りについては、彼女を追い出した地球人類の因果です……そちらでどうにかして下さい。

§ 星神社 §

小さな集落があった。自治体として登録こそされているが、縮約政策に従い緩やかな転居指示が出ている小さな村落。在住民には特例的にマイクロモビリティが割り当てられていてトランスポーターを使わないことが認められているらしい。なんせ家と家の間には必ず(休耕)畑がややしばらく続き徒歩で隣の家に行くのも、高齢化した住人では危険を伴うからだ。それも、政策上の転居指示に加えて元々の過疎化によって、住人のいる住居が一つ見つかればその二つとなりまでは空き家で廃墟、という有り様だ。生活の痕跡は見えるが生活臭が嗅ぎ取れないほどに過疎化した村落で、トランスポーターは圏外、マイクロモビリティの割当もない私達は、ひたすらに徒歩でこれを行くしかない。

星宮様か?その道を真っ直ぐいった山を登ってけばいいよ。ただ、今は誰も手入れしていないから、お参りなんか出来る状態じゃないし、今から行ったらもう遅いんじゃないかい?

見た目こそ小さい静しずるくんと、仮にも大学生の私が並んでいれば、保護者は必然的に私ということになる。私は「ありがとうございます」と応えて、村民の指さした山を見る。遮るものがないから見通せるだけで、山までは結構な距離だった。過疎の酷い村落でも住人自体は普通の人間だ。むしろ私達のほうが異星人に相応しい。現行の住居は探してやっと辿り着く位で、いざ会話を試みると、こんな場所まで何しに来なさったんだ、という反応ばかり。

村は山の中腹にあり、山頂近くに星神社と呼ばれる由緒不明の神社がある。不明、といったって恐らく、正体不明の異形の神仏が祀られているという意味ではなく、単にその由緒が人口減少で途絶えているだけだろう。星神社といえば大穴牟遅オオナムチの下に天香香背男あめのかがせおがいるというのが相場だが、こういう場合の大穴牟遅おおなむちは天香香背男あめのかがせおを戒めるために上に据え付けられている格好のことが多い。本質的には天香香背男あめのかがせおが主神であるか、天香香背男あめのかがせおさえ後付になるようなより古い信仰の名残のことが多々ある。こうしたケースでは「祭神が正体不明で由緒もわからない」とすることにしているが、この山にあるという星神社はどうだろうか。

私達はその星神社、村民からは〝星宮様〟とだけ呼ばれている社を目指している。私達?目指しているのは静しずるくんだ。私は追いかけて付いてきているだけ。

しつこいようだけど、待って欲しいんだ、静しずるくん

待ってどうにかなるんですか?

考え直して。困るんだよう、私も別に人間社会で上手くやってる方じゃないことはわかってるし、■が人間社会を敵視してることも知ってる;でも、一応地球人として、その、異星人?にこの星が支配されちゃうっていうのは

何だこのバカみたいな科白は。口をついて出てくる言葉の稚拙さを思い知っては、段々と尻すぼみになっていく。否、だからといって引っ込んでいいものではない。食い下がろう……にも、与えられている情報のなんとも荒唐無稽で取り付く島も浮いてこない具合に、言葉を選びあ、ぐねてしまう。

まってよぅ……キミと私の仲じゃないかよぅ

歩き疲れているわけではないが、どうしたものかと決着のつかない思考の堂々巡りは、脳の酸素と糖を消費する。数をこねくり回しているのは平気なのだが、こういったものはいつもメリーの援護射撃が決め手となる:そして彼女は今いない。

私が情けない声を上げると、静しずるくんは特徴的なジト目で私を見ながら私を振り返った。

四季が破壊された日本では、この時期は既に太陽が暴力的な暑さを叩きつけてくる。アスファルトで地面を殺した都市部と違い草の道は日熱を照り返さないせいで、天と地の間にある私達を焼いてくるのはおひさまだけだ。だからといって何一つ涼しくはない;日焼け止めは必須だし、水は大量に持ってきている。夜に目的地に着くことを想定して今は夕方なのが不幸中の一ミリだけの幸い。そんな外行きの格好の私の隣で、全く汗一つ流さずに歩いている彼はやはり普通の人間ではない。

神様みたいに拝んでお願いすれば聞いてくれるだろうか。

先程も言いましたが、これはあなた方の祖先が導いた因果です。香香瀬織かがせおの一族だけじゃありません、僕らだって

既に落ちかけの太陽に焼かれてひいひい言いながら、こんなショタを説得しようと彼につきまとう羽目になっているのは一体何の業なのだ;ああ、彼に言わせれば先祖の業なのか。

香香瀬織かがせおと名乗る女性が地球侵略の宣戦布告をしていった。香香瀬織かがせおと突入艇虚舟がいたあの浜辺を去り、後から考えてみたら、宣戦布告するんだったら正式ルートを通して欲しいと言いたくなってしまう。なんで私が外交官みたいになっているんだ。いやまあ本当の正式ルートなんか通された日には……狂人の戯言だと追い出されるだけか。

高天原……アルタイル星系から、かつて追放した血縁が地位の奪還を謳って戻ってくる;壮大な兄弟喧嘩だと言えばそれまでだが、社会の維持と拡大を常とする地球人類の宿痾とも言える。自分達が追い出される側にいないと思っているのは、ただの平和ボケに過ぎない。地球上に視野を狭めても、追い出される立場にある人々はたくさんいた、それをマクロ化しただけの話だ。

キミを敵性に見ることになるのは、嫌なんだよ。一応は良好な関係を築いてたと思ってるんだ。えっちまでしてさ。

で、ですから、それは人間の身体性に引きずられて

でも、理性は人間と交換できている

一応長く生きているんですよ。それこそ時間的な長さだけで言えば香香瀬織かがせおよりも長く生きています。蓮子さんから理性のように見えているものは、ただの獲得された反応です。僕には、人間の価値観も思考回路も、本質的には理解できていません。

でもでも、気持ちはよかったでしょ?私はよかったよ?

で、ですからっ

こうしていればただ可愛いだけの少年なのに。

彼は高天原アルタイル播種船団の来襲ルートを開くためにここに来た。アウトラインだけをなぞるのなら、イタい子供が学校での立場を苦にして悪魔を召喚するだのなんだのの真似事をしようとしているようにしか見えないのだが……私はこの目で見てしまったのだ。

地元にまだ残っている人から、星宮様と呼ばれる小さな神社はあの山の山頂付近にあるのだと聞いた。そこまで山道を、坂を登ることになる。

……悪い感情は、ありません。あなたに人里についての知識を教わらなかったら、こんなにスムーズに用事を足すことは出来なかったはずです。きれいな寝床で寝ることも出来た。蓮子さんに会わなかったらここに来るのも、香香瀬織かがせおの到着にも間に合わなかったでしょう。

寝床、きれいだったかなあ。けっこう、べちゃべちゃにしちゃったよね―

もうその話はいいですって……香香瀬織かがせおに口を利くことは出来ます。僕からあなたを、侵略で被害のないようにお願いすることは出来ると思いますが、実際のところ香香瀬織かがせおが高天原でどんな立場なのか僕は知りません。例外的な地球人を認めさせるだけの発言力があるのか

結構だよ。私は腐っても地球人だからね

あんな話を聞く前は、私の散策にくっついてきていた静しずるくんに、今度は私がくっついていっている。今になって思えば彼が私にくっついてきていたのは単に要注意人物の監視だったのかもしれないが、それで言えば今の私も同じだ。なんとか彼に、高天原アルタイルとの間のワームホールの件を思い留まってほしい。彼がワームホールを開かなければ、少なくともしばらくは猶予ができる。そのことを地球人が知ることはないだろうし、その猶予をどうするかも……私にはわからないけれど。

疲れを感じていなさそうな静しずるくんだが、いかんせん子供の体では歩くのが早いとは言い難い;疲れがある私とではさほど格差を生じないようだった。星宮のあるという山の入口に着く頃には日は沈み、夕焼けさえ引けた後に夜の帳の端に陽光の切れ端が滲み出ているだけとなった。

夜になるのは予定通りだと、彼は言っていた;ワームホール開通の儀式は夜にするらしい。

最初のときにも言った通り、僕は用事があってここに来ました。その用事というのは、これのことです。

それはもうわかってるつもりだけど

ミツキで見たものを、憶えていますか

えっ……虫まみれのキミ

わざとボケてます?

まあ、うん

彼が言っているのは間違いなく蛍の群が見せた怪奇現象ファイアフライ・フェノメノンと私が勝手に呼んだ、あの視覚エラーのことだ。あの蛍は彼が招き寄せたものだと、今は確信している。アルタイルへのワームホールが、蛍の群がによる怪奇現象ファイアフライ・フェノメノンの延長上の現象であることも、もはや想像に難くない。

そして、もう一つ確信していることがある。

あれが怖かったら付いてくるなって?

大枠では、そうです

蛍に食い殺されちゃうのかな

……それがお望みなら

の、望みってわけじゃないけど。キミの〝七夕〟を、メリーは予見していたんだと、思うんだよね。その巨大な結界を見るために七夕坂へ至ったんだって。キミがその門とやらを開くとき、彼女もそこにいる気がする。

先にここに来ているというのですか?

どうだろう、後から遅れてくるかも?でも遅刻するのはいつも私の方だからなあ

メリーは静しずるくんが開くワームホールをある種の境界と見做してここへ到達したのだと、今は思い始めていた。これだけの状況がクラスタ化されている、何かの引力か、あるいはその他の場所へ流出しない事象の静止点ラグランジュ点があるのだ。何か前兆があったに違いない、私が蛍の群で目をやられた時のような、メリーの目に映る何か予兆が。常陸国、七夕坂、異世界と結界というワードの地平に彼女が何かを見出して、ここにタナバタの旗を立てた。それは二週間前かもしれないし……もしかしたら二週間後かもしれない。結界がいつ現れるかはもしかしたら大した問題ではないのかもしれない。重要なのは、場所と、動機、それときっと……私の観測。

ここには、〝門〟を開きに来たんだよね?

はい。香香瀬織かがせおが向こう側からアクセスしてきているので、僕はこちら側からそれを迎えます。

共同作業ってわけだ

彼は〝七夕〟の呪シュにかけて、再現させたいのだ:香香瀬織かがせおとの再会を。彼が〝静しずる〟を名乗っているのも、そうした理由かもしれない。少々(いやかなり)女々しいけど、それが、逆に。

そのための儀式しくみを、作り続けてきました。

私に向けた言葉な筈だが、それはどこか虚空へ放り投げられているように聞こえた。放られた言葉を拾い直すのは彼自身。自分自身へ、振り返るように呟いた言葉だった。

今更、止めるわけがありません。

そう言われてしまえば私には、返す言葉がなかった。開門を肯定したわけじゃないが、彼を説得するための言葉が、高々二〇年程度の私の人生の中には、見当たらないのだ。

§ アステリズム・プリント §

地球が異星人に支配されるきっかけを、ただぼうっと見ているだけって、なんだか浮気現場を見てるみたい

とぼとぼと彼の後をついていく。ミツキとここは似た地形をしていた。山間の平地、そこからは緩やかでくねる上り坂を行くと古い参道の形跡が見える。所々に石畳が顔を出すがその殆どは土の下に眠り木の根で縛られていて、掘り出されるのを面倒くさがっているように見えた。一歩一歩と足取りが重くなるのは疲れのせいではなく、この道行きを達した末には、彼の言う〝儀式〟が開始されるからだ。それはもしかしたら地球人類に大きな痛手となるかもしれないイベントで、私はそれを黙って見過ごすという名誉を得ることになる。

メリーがいるかも知れないという思いを除くなら、静しずるくんの言う通りこれ以上彼について行かずに途中で降りればよいのだが、その決心もつかない。こんなに優柔不断なことはここ何年もなかったかもしれない。少なくとも、メリーが私の隣にいるようになってからは。

星神社。

ここが彼の目指していた場所だ。この社の祭神が彼の儀式に必要なものなのか、あるいはただの目印として利用しているだけなのかはわからない。ただ、やはり天香香背男あめのかがせおを祀っているようだった。この土地では特に珍しい訳では無い。

日も沈んですっかり夜だ、虫の声が高い。私はヘッドライトを点けて視界を確保するが、彼はその必要もないようでさくさくと前に進んでいく。

村人の言の通り、社の周囲は全く手入れされておらず坂を登り終えてから顔を出した社は丈の高い草に埋もれ道行きはまるで草の海を泳ぐような有り様。普通なら草を分けただけで様々な虫が飛び出し蚊やマダニへの注意が必要になるものだが、今ばかりはそうはならなかった。虫達は彼の歩みに従うように平伏しているのだ。夜を謳う虫達はしかし私への接触を、おそらく禁じられている。私の周りに殆ど見えぬ虫が、代わりに彼の周囲を取り巻くように、だが近付きすぎず、彼の背丈よりも高く飛ぶこともなく、彼を祝福していた。ミツキで見たことは夢ではなかったのだ。

社の周囲は見た通りの草の海だったが、地面自体は平坦で傾きもなく、ここが平地であることを示していた。樹木もここには立ち入っておらず、元は社のために整備された空間だったその名残だろう。彼は草の海を泳ぐように社の前へ進んだ。私は自分の居場所を探したが……適切な場所がない。

まだ腐ってはいないみたいですよ、立ってるよりはいいんじゃないですか

え、いいのかな

彼は社殿の端を指さして言う。まさか寂れても神社だ、腰掛けに使うなんて。

香香瀬織かがせおはここにはいませんから

そりゃそうか……いや、そういうものかなあ。本体を遠距離から祈るものなのだし

この神社の祭神が天香香背男あめのかがせおであるのなら、香香瀬織かがせおが実際にここにはいないことを私達は知っている。ましてそれが今は侵略者になろうとしているのなら。

なんだかどうでも良くなって、私は彼の横を通り過ぎて社殿に登り腰掛ける。なんとなく中を覗いてみたが、蛻の殻だ。神社らしい器物はすでに、安置どころか放置さえされていない。これはもうただのボロい木造建築だった。

私が神社の端に腰掛けて、社の前に立つ彼を見ている格好になる。なんだか私が奉納されている側みたい。彼にはそんなつもりはなく、恐らくこんな朽ちかけの施設とただの人間の女になんの感情も持っていないだけだろうけれど。その証拠に、彼は私のことを一瞥さえしない。

やがて、彼の周囲に光の粒が集まり始めた:蛍だ。この辺りに蛍がいるとは到底思えなかったが、もはや虫の関連で不思議なことに驚くのはやめていた。蛍の姿は少しずつ増えていく。光の粒が数を増やし、ヘッドライトはいらなくなった。彼の周囲には濃密な蛍の群が集まり、仮にここが蛍の里だったとしても、決してこれが尋常な光景であるということにはならない。

周りを飛び交う蛍光のひとつひとつに目配せするようにしてから、彼は顔を上げた。

始めますね。大人しく見ていて下さい

視線こそくれていないが、わざわざ私に断りを入れてくれたのに違いない;本来的に彼にはそんなことをする必要はないのに。

周囲を飛び回る蛍達が、一気にその輝きを増した。普通の蛍じゃ、ない?辺り一面を埋め尽くす光は蛍にありきたりな黄色ではなく緑色をしている:これは、この蛍が現代のものではなく古代種であることを示していた。

それはミツキで見た、否、それ以上に神々しい姿だった。足元の闇を食い尽くすほどに現れた無数の蛍は、まるでこの寂れた山道に光輝の絨毯を流し引いたかのように軽やかに波打ち地面を覆っている。光は地表のひと窪み、小石の一つ、茅草の一本、花芽の筋の一本にまで饒舌な言葉を与え、その有り様をありありとこの世界に描画し直している。地表を低く飛ぶ蛍光ばかりではない;空中を舞う蛍は周囲の木々葉蔦の細部までを明るく照らし出し、草木を歌うように輝かせていた。彼が現れ蛍を招き、その光でこの場を支配している。空気の流れ一筋一筋にまで彼の吐息がかかっているかのようだった。

静しずる、くん?

トランス:今の彼を言い表すならその状態だろう。この状況を作り上げているのが彼であり、それが平常の精神の下でなされているなら、あの生気のない表情と熱烈なオーラは説明がつかない。何を見ているのかわからない、何も見てさえいないのかもしれない虚ろだがしかし爛と光る目は、彼の表層意識が変性し入神状態にあることを物語っていた。何より―

彼の体は宙に浮いていたのだ。まるでワイヤーアクションのよう。高さを持ったものとして辺りに木は茂っているが、彼の体は辺りの木の背丈よりも高いあたりにあった。彼は夏の星空を背負ってまさに、浮遊していた。そして彼の浮遊を祝福するように、無数の蛍たちが彼の周囲を取り巻き光粒を巡せている。輝度の高い緑色の光が彼の体を夜空に沈み込むことを許さないでいた。溶け込むのは夜の闇ではなく、光片煌めく星空。

彼は自らを凋落種と称していたが、それでもこの姿を見て神性を感じない者はいないだろう。

辺りに流れ漂う生温い風は決して不快ではなく上質な酒香のように芳しい:この空間を満たしているのが尋常の空気ではない、なにか別の不可視のエネルギーを秘めた霊的な風であることを示している。それは私が空を見上げ星を読むときに仄かに感じる不可視の光の充溢感に似ていた。霊的な光波のゆらぎを秘めた風は彼を抱く蛍の群に導かれ彼の周囲に集まっている。

エーテルだ、と感じた。実際にその励起を目にしたことは数えるほどしかない。その時は必ずメリーが横にいたから、メリーの目力が何らかの形で貸与されているものだと思っていた。客観的に顕現する現象なのか:驚嘆とも畏怖とも、あるいはある種の狂気を感じながら、一歩とて動くことも出来ないまま静しずるくんの巻き起こす光の嵐に身を翻弄されてしまう。

現代科学に置き去られた、空間自体の持つエネルギーの実装形式:エーテル。光の触媒として定義され電磁波によって殺された幻想は、平衡状態では活性化されないポテンシャルを持ち、こうした神霊の働きと超常的なエネルギーに反応して質量を獲得するらしい。そうか、エーテルが死んだのは、神性の存在を欠いたからなのか。質量を得たエーテルは風のような流体として振る舞っている。エーテルの風は、彼の体を中心として地から天に向かい一本の柱が立つように軸を持った巨大な渦を巻き、天に向け高く登っていく。微かな発光は、蛍のそれではない。エーテルによって物的に励起されたマナと通常粒子との間に生じる摩擦光だろう。上天の閃光が、静しずるくんによって招来されていた。

始まる、タナバタが

まるでオーケストラの指揮者のように、左右の人差し指を伸ばして何事かを空中に描いている。それは恐らく蛍達への指示:しかも一匹や二匹を動かすのではない、この光の洪水となった大量の蛍達を同時に制御する、神妖のなす業だ。蛍群が全体にして意思を持った巨大な個のように動いて、彼の指示に応えようとしていた。

静しずるくんの指先の描く指示に導かれるように、地表に緑光の川を流す蛍の光が波打ちうねりながらその形を変えていく。空中で光背となって彼を祝福する蛍達も、彼の立ち位置を中心に新たな魔法円を象っていた。

今、彼が操る蛍は地上に投影されたプラネタリウムのように空の星々の配置を模倣している:これだ、以前私の目を灼こうとしたのは。この虚偽の星相が、実在の空と競合して目にエラーを流し込んだのだ。ただの蛍の光ではなく、それは地上にもう一つ用意された星の配列だった。地上にありながら大星空に欺瞞する、そして霊力に満ちた光の陣容:地上の恒星アステリズム・プリント。今はまだ、それぞれの蛍は思い思いのタイミングで明滅を繰り返しているせいでその正確なところは掴めない。

これがアルタイルの来襲を招く……本当は、止めないとだめなやつなんだろうな

足元を泳ぎ満たす無数の蛍の少しを足で払ってみても、全く影響があるようには見えなかった。この森に火を放てば変わるのかと余計な事も考えたが、満たされたエーテルと編織設置された巨大な魔術回路内にはそれを阻止する機能は易々含まれているだろう;念の為と持ってきたライターは、ガスも石も十分なのに何度擦っても火花の一つさえ飛ばなかった。

星空を背負い空中に浮遊し光を司る静しずるくんの姿は、無数の虫を体にまとって変容していた。見れば人の姿こそ維持しているが、腕が四本に増えていて、その頭部には虫の触覚のようなものが生え出ている。背中には、彼の始祖がこの地球の虫に与えたという翅が伸び、狭蝿な風切音が響いている;彼は自らの背翅で飛んでいた。彼の周りを漂っていた蛍もその翅の距離を保って飛び、それ故に彼を祝福する複雑な蛍光背はより巨大な文様を描いている。それは、彼が背負う星空と蛍光点でモアレを描いたような奇妙な映像を描き出していた。

この魔術がどうやってアルタイルへの経路短縮ワームホールを繋ぐのかはわからないけれど、それが完全に開通すれば香香瀬織かがせおに先導されたアルタイルの入植船団が地球圏にワープしてくることになる。それがどういった結果をもたらすのか、全く想像はつかないけど当事者たちが言うよりも良い結果になることはないだろう。

静しずるくん、この星に、侵略者への門を開くの!?

その動機については……きっと彼が言っていた通りなのだろう。香香瀬織かがせおを猿田彦の再現とすること。香香瀬織かがせおの先導によって高天原アルタイルから人類を葦原中国地球へ招き入れ、それが現生人類の歴史第四紀の幕引きとなる。

この星の環境が、大きく変わっちゃうかもしれない。キミだって高天原アルタイルの民がどんな奴らなのか知らないんでしょ?もしかしたらみんな日孁呼ひるこみたいなバケモノかもしれない

香香瀬織かがせおのことは、この星の問題ですから

彼にとっては、この〝七夕の儀式〟は香香瀬織かがせおとの再開を果たすための儀式なのだ。その他のことは関心の外にあるということだろうか。たとえこの地球の環境が、高天原のそれに作り変えられたとしても。

静しずるくんがそのつもりなら、私だって同じだもんね

私は私で、この儀式に別の希望を乗せている:メリーがここに現れるという可能性だ。

<おーばーらいど>

それは声、だったかどうかわからない。直接意味として認知に差し込まれてきた。静しずるくんの発したものだったが、それを契機に辺りを埋め尽くす蛍の大群が狭蝿さわがしく震えだした。光は細かに振動し明滅は次第に隣の個体と同期し始める;やがてこの大群全体の明滅が完全にタイミングをひとつにした。そうして、地上に描き出された星相の真意が現れる。

その精緻な光の配置は、まさしく今このときこの空にこの地点で見える星々の姿を生き写しのごとく地上に投影している。だがしかし、ある一部に限って実際の星空と姿を違えていた。

私は、地上の星々を躊躇することなく幻視みた、見なければならなかった;彼のなす業の真意を見落とすわけにはいかない。極力実在の大空を意識から排除し、地上の恒星達に絞ろうとしたが、それでも大量のエラーが神経を擦る。瞑ってしまいそうになる目を必死に開き続けながらその奥に見えたのは。

これは……〝合〟……!

アルタイルとベガが〝合〟にあった。重なり合っている。

蛍の大群によって地上に投影されていた星組においては、ベガとアルタイルが天の川へ入水した姿として描かれている。ミツキで目の奥に焼きつけられたのと、同じ映像だ。そしてそれは当然、空に実在している星とは違っていた。乞巧奠と接合した新たな七夕の、望まれた、しかし望まれていながら実現しない姿が、ここに仮定されている。

香香瀬織かがせおの帰還を再現する魔術儀式としての船渡御は、確かに香香瀬織かがせおをこの星に呼び戻した。だがアルタイルとベガの〝合〟は過去の再生ではない、そのようなことは歴史上一度だって起こったことはなく、そのような現象は地球人が勝手に描いただけの空想に過ぎない。が、今日日、七夕をオリジナルの意味で用いている人間はいない、なにせ失われているのだから。代わりに、乞巧奠と結合し織姫と彦星の邂逅として認識する人間がほぼ全員だと言っていいだろう。同じと言えるのは、人間が、同じ絵を見ているということだ。脱現実プロセスをキックする準備は整っていると言える。

天湯河桁あめのゆかわたなの……機織女はたおりつめ。キミがそれを演じるというの

これは魔術的なものですから、本当に星と星が衝突する必要なんてありません;天上のアステリズムの縮図が地上に描ければ十分なのです。星を動かす力なんて、僕にはありませんから。

地上に描く……

地上の恒星アステリズム・プリント:僕はこの営みのことをそう呼んでいます。ずっと昔から続けている、僕のライフワークのようなものです。飛光虫ネスト達を使って星相を地上に再現するだけのお遊戯です。空から見た地上なんてちっぽけなもので、この地上のこんな小さな空間に星空を本当に再現できるわけなんてありませんから。

でも、祭というものの多くは、同じく現象のミニチュア化だよ

そうかも知れません。祭は本質を、見落としているかもしれませんけどね

本質、と彼が言ったものが何なのか、私にはわからない。メリーの目に見えているものは、それなのだろうか。私には現象しか見えていない。本質は、数によって抽象化した姿でしか知ることが出来ない。私では。

その〝本質〟を、やろうっていうのでしょう?

静しずるくんは答えない。どちらにせよ、これはタナバタを取り戻す儀式として機能するだろう。

始祖である地球の旧支配者に比べれば、全く僅かな異能しか残されていない彼の集めた蛍達が計画的に配置されただけの、これはたかが光の配列に過ぎないと彼は言った。しかしそれは人類が人類として振る舞うよりも昔から、気の遠くなる時間をかけて連綿と蓄積された霊力と、日本の歴史に匹敵する時間を費やした計画だ;今や禁呪級の大規模敷設魔術インスタレーション回路へと編織されている。エーテルの閃光を伴い、地上に描かれた虚構のアステリズム。その光点一つ一つが自らの役割を知り接続先に向けて光のラインを伸ばす。光のラインもまた、彼に操作された蛍―彼はネストと呼んでいた―達の配列によって実装されていた。

それが最後のラインだろうか、一本の光の筋が別の蛍の光点に到達した瞬間、同期明滅していた蛍の内一部だけが、明滅を停止する。それは明滅せず継続発光し、明確に何かを描画しようとしている;俯瞰すれば恐らく、この夜に刻みつけられる呪文となっているだろう。今やこの山一帯が巨大な魔法円の中にあり、その魔法円の中に刻まれたアステリズム・プリントが魔術回路として機能しようとしている。その魔術的意図を知るにはこの大規模敷設魔術インスタレーションは巨大すぎるし私の目は脆弱すぎる。そうして彼の魔術が実行された。

乞巧奠の伝承である必要は……相手がベガである必要はありませんでした。星座の力を引き出しやすい相手であれば。ベガは僕がこの星に生まれて以来徐々にアルタイルに近づいてきている。それにこの星にはその出会いを祈る人間が割と多くいたので、アンプに利用できた。僕が七夕を利用するのは、ただそれだけの理由です。僕に建葉槌たけはづちのような優れた技術があれば、別にいつでも彼女をここに呼び寄せることが出来た。いつでも、こんなふうに

静しずるくんがそう言うや否や、エーテルの風がざわめき始めた。常在マナとの摩擦が激化してあちこちから青白い火花のような光が散っている。上天の逆巻に乗り、何かが、天へと上っているのだ。それは恐らく地上で、この蛍の光のアステリズム・プリントによって形成された、魔術的な成果物―

っ!

私は慌てて頭上の大星空を幻視みた。目から入ってきた強烈な情報量に、頭をハンマーで殴りつけられたような衝撃が走ったが、それでも見なければならない。

空から転写したものであるはずの地上のアステリズム・プリントを逆に写し直したように、空にある本物のアステリズムの方が書き換えられていた;地上の恒星と同様にアルタイルとベガが、重なりあっている。……だが、まさか本当に宇宙に所在する星の位置が変わったわけではないはずだ、そうであってはならない。ならばこれは。

この巨大な魔術でパララクスを極端化して……〝真の七夕〟を招くっていうこと?

この土地のパララクスの狂いは、何者かが真の七夕のために常に視差情報に手を加えて実験していたからだ。そしてその〝何者か〟とは、この土地に住まう虫達の王。その振る舞いを見せていたのは紛れもなく、静しずるくんだ。

彼は香香瀬織かがせおからは穂多留比ほたるび、と呼ばれていた。もはや避けては考えられない:それは〝蛍火輝く神〟を指している。

空が、歪んでいる。アルタイルとベガが合一し、それに引きずられる形で他の様々の星相も変容している。

う、ぁ……!

見るべき星空が二つあり、両方ともがまともな姿を描いていない。私の目が悲鳴を上げている、眼底から頭蓋の中央にむけて引き裂かれるような痛みが走り、強烈な頭痛は吐き気を催すが、目を離すわけにはいかない。この光舞う七夕祭儀の末に開かれたワームホールの向こう側に、人類の終焉が待ち受けているのか。香香瀬織かがせお率いる船団が姿を表し、地球全体に共存を求めるのか。

重なり合った二星、手前にあるアルタイルが奥にあるベガの光を背負い、輝きを増した。二星はまるで一つの星のように溶け合い、何かを叫びだしそうにその眩さを刻一刻と膨らませている。あの光の増幅が臨界を超えて爆ぜたとき、開くのだ、門が。

経路確立

虫の王となりその証たる翅で浮遊する静しずるくん、いや穂多留比ほたるびが、静かに宣言した。

古代蛍ネストの光は今はもう大人しくなっている。彼等もまた、これから開かんとする門を感じているのだろうか。

穂多留比ほたるびの宣言と同時に、満天の星を鏤めた誤謬の星空に一点、他の歪みを許容してさえ決して認められないエラーがあった。それは、この場にいて、パララクス極大の影響下にある人間ならば特殊な目など持っていなくとも絶対に気付く程の、誤謬。

月が……

なかった。これもミツキで見た異変だ;あれはやはり七夕祭儀の予行だったのだ。宇宙天蓋へ無遠慮に穿たれた虚空は、隣接する他の星の光を吸い込むように遮っている。まるでその箇所にだけ漆黒の円盤が打ち付けてあるように、月のあるべき空には代わりに闇があった。そしてその闇黒点が何であるのか、私はもう知っている:球状ワームホールの遠影。

仮に本当にあの黒点がワームホールだとしても、数式上は可能だが、地球人類の科学ではまだ正の質量を持つ物体を通過させる手段がない。それを高天原アルタイル星系の船は通過してくるという。本当に現れるのであれば、それだけで技術力の差が可視化される。そんなものが、害意を持ってやってきたなら。

あの月の姿はこの場所以外ではどのように映っているのだろう;この七夕坂を出れば何食わぬ顔でその輝きを取り戻すのだろうか。あんなふうにワームホールが存在しているのなら、流石にどの国も観測してしまっているはずだ。今頃各国の宇宙安全保障当局が大慌てになっていることだろう。もしかしたら、高天原からの来訪を待たずに地球は勝手に自滅戦争を始めるかもしれない。ミサイルの雨が大気圏内を覆ったあと、疲弊した地球を高天原は容易に支配できることだろう。それとも、それさえ上手く隠蔽するところまで含めての大規模敷設型魔術インスタレーションなのだろうか。

ここから見える限り、まだあの黒点を宇宙船が飛来する映像は見えない。それが現れるまでは、あの穴は辛うじてただの穴だ。ワームホールは開通し、彼は地上の恒星アステリズム・プリント魔術を運用フェイズへ切り替えるだろう。儀式は終わり。後は香香瀬織かがせお率いる播種船団がやってくるのを待って、彼のミッションは終了となる。

メリーがここにいるか現れると踏んでいたのだが、彼女はまだ現れない。こんなに大きな「境界」があるというのに、ここじゃなかったっていうの?

落胆、の一言で片付けられるものじゃない。随分色んな目に遇いながらここまで来たのに。静しずるくんとの旅に流されていただけ、という結末になってしまうのだろうか。私はまだ、これ以上の「結界」なんか今の常陸国にはないと確信している。

私に出来ることは……ないな。

取り繕う余裕がなくなったのもあるし、地上の恒星アステリズム・プリントを目で見続けた頭痛と悪寒もまだ引かず、たった十数分の出来事ですっかり疲労困憊、満身創痍だ。それに、メリーの居場所のアテをまた一から絞り直すのだと思うと心が折れそう。

でも、メリーを探す決心だけは、一層に強まった。本当にこのふざけた出来事が本当の本当で、本当に地球人類が危機に晒されて、もし殺されでもするような事態に至るのならそれは、絶対にメリーの隣でないと嫌だ。

ふざけてる……クソッ

何に対してそう思ったのか、自分でもわからない。やり場のない憤りは奥歯で噛み潰して、静しずるくんの方を見た。儀式のクロージングでも始めるだろうか……と思っていたのだが。

<おーばーらいど>

うん?

彼は古代蛍ネストに向けて更に何か別の命令を下していた。再び光の群が活性化し、蛍の配列による生きた魔法円がリライトされる。今度は何を描いているのか、わからなかった。これは、星の再配置ではない?

もう門は開いたんじゃなかったの?

私の問いかけに関わらず静しずるくん、もとい穂多留比ほたるびはまだ宙に浮遊し虫の王としての威容を示し、光虫達はその指示に従い巨大なマスゲームを演じ続けている、それは呪印シジルを象り魔術儀式が終わっていないことを物語っていた。勿論通過可能性については実際に船が通り抜けてこない限りはわからないが、私が見る限りでは、ワームホールは球体として既に顕在化している。門が開いていないようには見えなかった。それとも、次に隠蔽の手順があるのだろうか。

<るーてぃんぐ変更、せっと、F/T反転>

浜辺で見たあの香香瀬織かがせおの姿が、ただの立体映像だったのか一時的に大気圏内に降り立っていた実体だったかは今となってはわからないが、あの束の間の再会を本物にしようとして静しずるくんはきっとこの魔術を長い時間をかけて組み立ててきたのだろう。それは黒い月の出現で達成されたのだと思っていた。

それともワームホール開通だけでは足りないのだろうか。今も光の群は魔術回路を構築しマナの流れに応じて光の様を変え続けている。まだ何かを実行している。

七夕おめでとう。これで晴れて香香瀬織かがせおとの再会だね。

少し皮肉めいた言い方になってしまった。メリーがいなかったからって、意地の悪い。それを飛ぶ彼に向けて言葉を投げ上げると彼はそれをキャッチして少し転がすようにしてから打ち返してきた。彼の返答は、予想外のものだった。

彼女と僕が再会することはないでしょう

え?どういうこと?

§ 真の七夕 §

この七夕祭祀は香香瀬織かがせおとの再会のために組み立てられたものじゃなかったのか。再会することはない、とは一体どういう意味だろうか。

辺りを、霧が満たし始めた。夜霧の立つような場所だったのだろうか。鼻腔を潜り、肌に貼り付く水気を帯びた空気;不思議と土臭さはなく澄んだ水蒸気の底に、どこか蜜のような妖しい甘さを湛えている。足元を波打つ蛍の群を薄布の如く覆い、光を柔らかく拡散させて宵闇は溢れ出すような光輝で照らし出された。これは、尋常の霧ではない……?

甘い香りを感じながら、再会しない、という静しずるくんの真意を想像して様々な想像がフラッシュする。ワームホールを開くのに彼は生命力を使い果たした:播種船団が地球上の生命を一度焼き尽くす計画になっている:播種船団の来訪は実際には何万年も先:あるいは、本当はワームホールはすぐに閉じてしまう。泡のように湧いた想像はいずれも空虚で、それを検証する前に、甘い夜霧に立つが如く翔ぶ虫の王が答えを述べた。

僕の目的は、香香瀬織かがせおと逆だからです。香香瀬織かがせおに先導された船団がここに来るときには、僕はここからいなくなっています。

いなくなってる?逆って、アルタイルに行きたいっていうこと?あの星系は、地球よりも早く終るって

僕が行きたいのは、アルタイルではありません;僕の始祖の渡った先の世界:幻想郷です。

前に言っていた始祖のいる世界に自分も行きたい、ということか。だが、それがどうして?

霧が濃くなっていく;蛍の光を拡散して周囲を照らすどころか、光を遮りヴェールの向こうに潜ませるような不穏さを漂わせている。甘い香りは今や濃密に立ちこめていた。蜜薫がそのままに甘美な意味を持つとは限らない、毒が甘いこともある。蛍光の緑を映し出す筈の霧は、今や燻る紫煙のような色合いを帯びている。この霧は、何だ?この不自然な霧を、静しずるくんは認識はしているようだ。それが何なのか、理解づくの上で見ているらしい;見てはいるが気にした素振りは見せない。

始祖の世界際〝渡り〟の力は、僕にはありません。高天原のテクノロジーの助力で開拓したワームホール航路を、世界際渡りのための魔術的助走路に利用します。それで僕のような弱い種でも渡りを実施できるはずです。香香瀬織かがせお達がワームホールを通るときには、僕も渡り去っているはずです。だから香香瀬織かがせおには帰ってきてもらわなければいけないし、香香瀬織かがせおと再会することは恐らくもうありません。

行き違うってこと

言っていることはわかったがそんな事は可能なのだろうか。同一の宇宙に存在する空間二点を繋ぐワームホールまでは、ギリギリ物理の範疇だと言える。だが、異世界の実在云々となると……それはメリーの範疇だ。勿論私もアクセスしようとして論文を認めたりはしているが、それは可能性としての言及に過ぎない。その二者を連絡する理論があるのだとしたら、それこそ世界の秘密に他ならない。百歩譲って、静しずるくんの言う異界―幻想郷、以前夢の中で見たあの土地のようなものだろうか―が存在する可能性があるとして、それとは別の話で彼は驚くべきことを口にした。

彼は〝利用〟と言ったのだ。静しずるくんから香香瀬織かがせおに向いていた、一見信頼……ストレートに言うのなら好意のように見える対応は、そうではなく、香香瀬織かがせおは自分の目的のために利用価値があるからだと言っている。あまり知りたい事実ではなかったが、しかしどこか腑に落ちるところもあった。私達地球のニンゲンと香香瀬織かがせおが立場を異とするのと同じく、由来の点で言うのなら、香香瀬織かがせおと静しずるくんも別物なのだ。同じ価値観を共有して巨大な共同プロジェクトを約束できる者同士だとは、どうにも牧歌的な話に見えてしまっていた。実利害の一致によって利用し合っているだけだと言う方が合点は行く。

もしかして、僕が香香瀬織かがせおのことを待っていて、それこそ七夕の織姫と彦星のような再会を待ち望んでいて、そのためにワームホールを開こうとしていると思っていました?

……我ながら少女趣味だったよ

世界は可愛くなんて、出来てはいないものか。

しかし彼が開いた門は、宇宙規模の外患誘致であることに代わりはない。タナバタの星合によって開かれる門扉の裏口のようなものが彼には必要なのだろうが、その開門によって天津甕星あまつみかぼし率いる高天原アルタイルからの難民を招き入れることになる。しかも難民とは名ばかりで、実態は侵略だ。香香瀬織かがせお自体は地球のニンゲンとの混血生命だからあのように我々の似姿をしているが、高天原の民はニンゲンと同じ姿はしていないだろう。そうであれば有名な宇宙戦艦アニメよりもラディカルな宇宙戦争になってしまう。高天原に二重星があるとも限らない。

これが、彼の恋心がなす破滅的再会願望ならよかったのか、というとそういうわけでもないのだけれど。

それにしても、あなた方が一体どうやって七夕坂の再評価に至ったのか、わかりません。このことは、香香瀬織かがせおが地球を飛び立って以来、誰にも話していないのですから。蓮子さん、それに、蓮子さんのパートナーの……

メリー。マエリベリー・ハーン。

メリベリーさんは、僕のことを止めにでも来たのですか?

結界を見たかっただけだと思うよ

結界?

界と界が結合ジャンクションするその接合面……の事を言っているんだと思う。私には、見えないから:それは彼女の特権なんだ。

ワームホール開通試験は、過去にも何度か実施しています。〝渡り〟のシミュレーションも。いつでも利用できるように非活性にしているだけのファクターもあります。それを察知したっていうんですか?お二人は、何者なんですか。一体この世界の何に触れているのですか?

……何なんだろうね。自分達もよくわかってないんだ。ただのオカルトサークルだと、思っていたんだよ。私達を便利な小間遣いにする奴はいるけど、あれは明確な目的や意思を持っていない。殆どの時間は私達は自由な意志で動いている、つもり。何か特殊な点があるとするなら、彼女の目だっただろうね。

タナバタサカの言葉からワームホールの開通計画を予見していたということですか?

私もね、星の営みには目敏いのよ。あの蛍のマスゲーム。何故か星を見る私の目が、あれにやられたんだ。今でもなんでかはわかってないけど、何かではあるんでしょ?だから静しずるくん、キミの計画は……私達二人には知られるべくして知られたってわけだ。

静しずるくんは表情を変えぬまま、私の方を見ている。そこにどんな感情があるのかは私には計り知れない。彼がその気になれば、恐らくは私のことなどひと思いに殺せてしまうのだろう、ヒトの行動原理と異にする異能の存在が、自分に都合の悪い人間を長らえさせる理由は思いつかない。案外、ただのニンゲンなのではないか;そんな希望も浮かびはするが、頭痛の記憶がそれを拒否する。

ニンゲンの価値観などニンゲンにしかわからないものだ。

§ 相対的実在性肯定 §

蓮子さんは幻想郷……異世界について、随分素直に受け入れましたね。それも含めて、見抜いていたっていうんです?またそういう趣味だからと、言うのですか?

まあ……私とメリーが〝七夕坂〟の謎に巻き込まれることになった直接の原因は、それなんだ。私は〝実在性〟という言葉を幻想化するための理論を構築してた;一方で、メリーは他の人には見えない別の世界との接点が見える人間だから。彼女は別の世界、キミが来たっていう幻想郷をそれに含めるのかどうかはわからないけど、異世界の実存を主張してる。当たり前よね、実際に目に見えているのだから。

有り体に言ってしまえば、〝スピっぽい〟ですけど

否定はしないよ;ごく普通の人間に対して、それ以上の何の言葉にだって直せやしない。でも私は、彼女の目が本物だって思っているよ。

自分も、特殊な目を持っているから

そうだね。私の目なんて、テクノロジーで置換できるものに過ぎないけど、最終的にはそれが決め手になっちゃうかな。いくつかの特異点を除いてどこにいても、私には時刻と空間の現在地点を知ることが出来る。どんなに理論をこねくり回して否定されたって、見えるものは見えるんだから。私とメリーは異世界の片鱗の一部に実際に触れたこともある。……静しずるくんと交わったのだって、遠く言えば同じ。

メリーは、いわば〝生きた射影仮説の証明〟である。〝証明者〟ではない。彼女の存在そのものが射影仮説により発現される現象なのだ。彼女が、自らの目に従う形で、現実の現象と整合する形の多世界解釈を訴える;それは他の誰の主張とも違う。だが彼女のそのあり方は、コペンハーゲン解釈を言い換えているに過ぎない。それは彼女の論ではなく彼女という現象のあり方を測定する私の論だ。彼女はもっと……根源的なところにいる:私には、手を伸ばしても決して届かぬ場所に。私はそう考えている。彼女が私の論を古典的というのは、至極当然の評価だ。メリーという存在を目にしてはもはやコペンハーゲン解釈の復古以外に取りうる道などないのだから。デコヒーレンスは、ない。

あなたは自分の目の故にメリーさんの目を信じるしかないし、メリーさん自身のことも信じている。だのになぜ、実在性を疑うんです?この世界はただの夢幻で実在しない、虚しい幻想だって思想ですか?

そうじゃない。いや、それ世界の実在性を否定すること自体は否定しないのだけれど。私は、今まで実在性が否定されてきた時空の存在が、この時空の実在性と同じ権利を持つってことを言いたいんだ。粒子の非実在性が非実在なものの実在可能性を底上げすると信じている。

はい?

私の見解ではこの世界の一切には等しく実存性なんてない。根源たる粒子にはそれを支える実在性がない。ある特殊な点に限定して言えばその理論はほぼ完成していて、論文を書いていたところなんだ。幾つかの特殊な場所では、時空には連続性が担保されていなくて〝繋がっているように振る舞っている〟だけっぽいんだ:たとえば、こことかね。時空の連続性に一般性がないということは、この世界そのものが実在性に対する嫌疑を払拭できないことになる。そうしてこれまで何度も、連続性を失った境目を見てきた。彼女に見てもらった。連続が失われて確証がない代わりに、断続の向こう側に幻想の光景ファンタズマゴリアを見た。メリーの目が結界を観測する場所と私の予測する時空の特異点がどの程度合致するのかのデータを集めたい、私の目的はいつの間にか、それになっちゃった。でもこの土地で、私は自分の無力さを思い知ってる。

魔術的ですね。いつの間にか、というのはメリベリーさんがいなくなったから

もっと前、そもそもメリーが目を持っていたから。彼女は生まれながらの魔術師。いえ、魔法使いね:しかも無自覚の。彼女の力を借りれば、この世の不思議を現行犯逮捕出来る。新鮮な現象から状況証拠をかき集められる筈だから。

きっと、七夕坂はその候補を……メリーが私より先に見つけた場所だったのだ。

元々、秘封倶楽部はそんな活動のサークルじゃなかった。この世界の秘密とか裏側とか真実とかと称して、ただ超常現象とか心霊スポットとか見て、お茶のんでお菓子食べて帰るだけのバカバカしい活動だったんだ。でも、彼女の目に頼っていた時点で、こうなることは必然だったんだろうと思う。いつの頃からか、異世界は実在するのかを見極めるための活動に……今は、先鋭化してる。もしかしたらメリーはそれが嫌だったのかも。存在するんだから存在するんだってさっさとケリを付けるために一人でボスを倒しに行っちゃったのかもしれない。メリーを、ただの観測装置デバイスだと、思ってるのかな、私

メリーの目が私には備わっていない、だから。そう言われてしまうと否定できない。それでも、悔しいんだ。合理的で説明のつく再現性のある現象として説明できない〝結界〟のもたらす出来事が……私にはそれが、見えないことが。

それが、どうして実在性の否定に躍起な理由になるんですか?

この世界が現実世界か現実世界でないかなんてのは、相対的な話でしかないよ。美味しいものを食べて美味しいと感じて、セックスして気持ちよくなれるなら。世界っていうのはさ、セックスなんだよ。二人の肉の摩擦、ぬめりと、吐息の交差:場の干渉、結界なんだから

場の干渉結界?

その感覚そのものがこの世界内に閉じた明示的な下層の虚構でない限りは、実在に極限する。仮に下層の虚構だったとしても、それも大差はない。今まで自明に下層の虚構と認識されていた別の時空が〝自分たちと同じ程度に実在性を持たない〟と示されればそれは〝同じ程度に存在するかも知れない〟ということだ。自分達のいる世界にただの仮想環境として認知されていた箱庭が、実は自分たちも箱庭も同じく横並びのコンテナだったということ。でも、だからこそ、私達の世界が仮想環境で私達がコンテナ内の実装であるかどうかなんて、どうでもいい。そんなこと今と明日を生きるのに関係がないからね。コンテナって、呼出されて初めて機能するから。相対的で、極めて精神的:物理なのにね?私達自我は外界との関わりでしか、世界を実在させられないんだ。それが性欲だろうが食欲だろうが殺意だろうが妬みだろうが敵愾心だろうが復讐心だろうが何だっていい、それらは全部ひっくるめて世界を存在させるアイなんだから。干渉しろ、セックスしろ、全員!アクメして相手と世界を産め!……ってね

なんて論文に書くわけにはいかないので言葉を選んでいる。言葉を選ぶのにすごく時間がかかっている内にメリーがいなくなっちゃった。世話ない。

実在性の否定が、非実在客体の相対的な実在可能性の肯定になるということですか

静しずるくんの始祖とやらが別の〝世界〟へ渡っていったからって別の世界が実在するという証ではないけれど、同様にキミの始祖を空想上の産物と断ずるものでもない。客体とは仮定の理想状態でしかない、主体は等しく非実在であって、主体同士は同じレイヤーに同じゆらぎとして発現している現象で、場の実装形式なんだ。そして主体単一では非実在の存在であったとしても、二つ以上のそれが触れ合えば、干渉波が現れる。場の干渉によって生じる波は、主体そのものよりも、よっぽど実在的だよ:少なくとも主体と観測者のレイヤーが同じ場合はね。非実在性を肯定することが、私達の実在性を補強するんだ。キミの行きたいという幻想郷とやらも含めてね

例えば幻想郷にも根源的な実在性はないとおっしゃるのですか。……受け入れ難いです。

メリーとおんなじ事を言うね。当然か、メリーは世界を見る目を持っていて、キミはその世界に始祖を失った。どちらにとっても現実なんだもんね。数式の方がよほど幻想的に見える。でも、キミが幻想郷に行こうとはたらきかけるなら、その両者の間には干渉波が生じて、それが両者を現実たらしめる。君は始祖とのつながりで幻想郷とやらに実在性の可能性を与えてる。他の人にとっては、空虚なおとぎ話だろうけどね

まるで、祈りですね

そうだね。でも私は祈りで世界を変えられるという甘えが大嫌いでね。努力を捨てて願望だけで世界を変えられるなんて甘えのために、祈りという言葉リソースを消費して欲しくないと思ってる。この世界は水泡みたいなもので、すぐに消えてしまうかも知れないなんていう人もいるけど、ばっかじゃない?って思うよ。そんなの主体が自覚を生きるのに何の関係があるの?怖がるなら、正しく怖がるべきだ。そんな怖がり方は、祈りにも満たないよ。だから、キミの努力は……死ぬほど好ましく感じるよ。

祈りなんかで世界が書き換わるものか;いつもそう思って生きてきた。でも、彼女はいつも私の想定を裏切って、非論理な現実の欠片をくれる。彼女なりの数式はきっと、この世界ではない何処か別の世界の別の物理法則に則っているかのようで……私はそれが受け入れられなかった。羨ましかった。だから、愛おしかった。私の世界を、彼女に犯してほしい。

こんなデカいイベント、メリーに、隣にいてほしかったな。証明とかどうでもいいから。ただ一緒に結界とその現象を眺めてさ

湧き立つ霧は、いよいよ視界を阻害するほどに濃密に漂っていた。蛍の光さえ遮られ、光の拡散で一時的に明るくなったことが嘘のように暗くなっている。甘い匂いは強くなりすぎて、不快に転じている。静しずるくんもそれを認識していて、だが異常だとは思っていないらしい。空気よりも重い様子で、だが所々で明らかに不自然に渦巻いたり立ち上ったりしているそれを、手でかき混ぜるようにしている。

ところでこの霧、何?

この霧は、非活性化された負質量霧です。世界際渡りの入口に代謝物質として散布します。

負質量だって……?

無引力凝集封緘処理アイソレーションしてあるので、そのままでは普通の有効質量になっています。

負質量:一体何を言っているの?そうか。この霧は、エーテルの風が生み出しているものだ。モナドが組み替えられて……いや、それにしてもこの霧が何であるのかはわからない:負質量霧、というだけでは。

凋落種だなんて、とんでもない。時間をかけたところでこんな芸当、人間には真似出来まい。

アルタイル・太陽系間ワームホールは、この霧を作り出すための土台に過ぎません。古典的距離と鵲橋上距離の差異を別系の中継によって階層環状化し、二点間移動の間に生じる余剰なエネルギーを窃取して経路開通に使用します。この霧は、地上の恒星アステリズム・プリントによって、ワームホール付近からこの場所へ転写された窃取エネルギーの前駆態です。

ワームホール、から?キミの目的が香香瀬織かがせおと行き違いになることだっていうのと、関係があるの?

船団の様な大質量があのワームホールを通ることで、世界際の膜を溶かすエネルギーが獲得できます。僕には始祖のように上手くはできませんから……正規の手順は踏みません:無理矢理に穴を食い破って向こう側に行きます。

無理矢理に穴を……?世界際なんてものを適切なオペレーションなしに暴力的に開通させたら……どうなるか、わかってるの?

しりません

世界際に穴が空き対称性が不均衡となれば、キャパシティが異なる世界間ではどちらかが真空崩壊に至る可能性が高い、少なくとも準安定でいられる確率が変わって確率に変動が生じる。そして彼はそれをわかってやっている。恐らく……こちら側の世界にリスクを押し付けられると、計算づくなのだ。

もし彼の狙いが世界際渡りだったとして、その方法が孕む巨大なリスクを承知の上でのことならば、彼は最初から香香瀬織かがせおのことも顧みていない。大質量がワームホールを通過ことでエネルギーが黒字化する仕組みを講じ、それを摂取するために香香瀬織かがせおを利用している。再会できないということの真意は、行き違いなどという生温いものではない。

こっちの世界の物理法則が書き換わるつまり、滅ぶからだ。

止めないと。でも、どうやって

周囲を見渡し圧倒的な光の洪水に囲まれた中で、これを止めると言っても全く方法は思いつかない。

地上の恒星アステリズム・プリント側の、ベガとアルタイルに相当する古代蛍ネストを探して、場所を移動させる?それは、どこにいる?この山まるまる一つがこの魔術回路のフットプリントなのだ、探しきれるはずがない。目を開いて探そうにも、今の状態では長くは持たない。それを出来たとしても、直ぐに他の蛍が代わりを担うのでは?

道の方を塞ぐ必要がある。彼の地上の恒星アステリズム・プリントに干渉する、何らかの方法を……。

私はダメ元で何か使えそうなものはないものかと周囲を見渡す。蛍の光で照らし出された山道は草木まで饒舌に喋りださんほどに細部が見える。その中にふと目に飛び込んできたものがあった。

始祖。身許に、還ります。僕は―

お地蔵様……道祖神……ッ!

ワームホールにせよ溶けた世界際の膜にせよ、それは道に違いがない。道端に立つ地蔵の道祖神的性質、〝岐くなど〟の神性に訴えて……どっちに訴える?往来の峻別か道中の安全祈願か―いや、決まっている。

仏みたいな顔しやがって何が菩薩だ、澄まして見てるだけで役に立たねえ木偶の坊がッ!

路傍にあった地蔵に飛びかかって無理矢理押した;おまけに口汚い罵倒付きだ。歴史文化保護地区ではこれはれっきとした条例違反の行為だし……墓石を回すのよりも何だか背徳感が強い。はっきり言って自棄糞ヤケクソだった。今はこれしか思いつかない;我ながら貧弱な発想力。

抵抗、するんじゃねえっ……さっさと、たお、れ、ろっ!

罵倒のボキャブラリーもまるで薄っぺらく、禁忌を破り冒涜するには児戯の匂いが拭い去れない。

おまけに……重い。なんせ石の塊だ。力いっぱいに押したところで、長いことそこに収まりメタ安定にあった石像が容易にズレたり倒れたりはしない。渾身の力を込めれば何だか身体に引っ張られるように、恨み言に本気の念がこもってしまった。

地上の恒星アステリズム・プリントの機能にわずかにでも不全が生じれさえすればいい。この地蔵に道祖神の性質を見出し、お地蔵様をひっくり返し、何でもいいからとにかく現状の霊的場を引っ掻き回したかったのだが、なんと短絡的かと自分でも思う。太古の昔から粛々と積み重ねられてきたこの巨大な大規模敷設魔術インスタレーションに、思いつきで招いた〝お地蔵様の罰ばち〟で場に影響を及ぼそうなど。

テコの原理に自分の体重を乗じ、それでようやくのことだった;木の葉と土の柔らかなクッションに、どむ、と倒れ込んだお地蔵様。地面に突っ伏したまま何も喋らない:いや、喋ってたまるかよ、地蔵が。せめて霊的場に波でも立っていればと周囲を見回してみるが、どうせそうだよと思っていた:蛍達のさんざめきには、これっぽっちも変化はない。

やっぱこんなことでどうにかなるわけが……いや、それでも!

しかし。しかしその次の瞬間のことだった。ふと微かにエーテルの奔流に変化が生まれているのを感じた;鼻先に触れる風とも言えぬ風のような感触は、メリーが結界を指さし「あそこだわ」と発した瞬間によく感じるものに似ていた。それは足元から別の流れが起こり、近くの流れに乱れを生じさせている。霧に、乱れが生じていた。

もう一つの風は、湧き水が滾々と吹き出される様に似ていた;足元に倒れた地蔵の背に、何か裂け目のようなもの。石の背中に亀裂など、まして発光するような構造体が埋まっている筈がない。だがその地蔵の背中に開いた、甘美なまでに滑らかな曲線を舐める亀裂は、この世界への裏切りをして後ろめたさを孕んだ強烈な背徳感を煽り立ててくる。この亀裂を目にすることは、この世界を、この宇宙を、否定する裏切りの行為だとどこかで思わされてしまうような、強烈な甘さと恐怖の両接合な感情が湧き上がってくる。強い意志を持って対峙しなければ、この亀裂の存在を感じただけでこの場から逃げ去ってしまうだろう。その滑らかに切り割られたその亀裂は、内側から流れ出る光輝を滾々と溢れ漏らし続けていた。その光に触れれば無事ではないと、察したかのように蛍が避けた。

その異変に、静しずるくんが気付く。

何……ですか、それは

さあ、なんだろ。禁忌、触れちゃったみたいだね……!

蓮子さん、あなたはやはり、たけ

岐クナド!不適切な通行を、止めてみせなさい!

私は地蔵の背に開いた艶めかしくも冒涜的な裂け目の中に手を突き入れる。まるで地蔵が人間の血肉を宿しているかのように、その亀裂の中は温かく柔らかく、そしてしっとりと濡れているような錯覚を与えてくる。無数の細かなエーテルの奔流が腕を舐め、締め上げてくる。その奥に突き入れた手を思い切り伸ばした。掴み取れ、蓮子。向う側にある何かを。なんでもいい……いや、ちがう。私がこの土地に探しに来た唯一のものが脳裏をよぎり、それは脳内で爆発するように、イメージを膨張させた。そして、見えたのは。

えっ、メリー!?

紫霧の向こうに、彼女の姿が見えた。思わず手を引っ込めてしまう。地蔵の背中から抜き取った腕は濡れたように後ろめたく、絡み付くように温かい。背中から溢れ出す光が、紫の霧に別の映像を投影していた。これは香香瀬織かがせおではない、何度見ても生き写しのようにそっくりだが、私が見間違えるわけがない、メリーだった。けぶる霧に透ける彼女の姿はまるで異世界から降臨したみたいに、神々しくも怪しい。だが、なんだか様子がおかしかった。

ネットワーク越しの映像通話で音声がオフになっているときみたい。彼女の体は目の前にあって、メリーの手を取ろうと腕を伸ばすと、しかし私の手はメリーの手を空振った。目に見える映像の上では私の手は彼女の体に触れているのに、触れようとした指は彼女の表面に触れても抵抗を感じることなく、そのまま入り込んでしまう。さっき触れたあの指先の感覚は、嘘だったのか。裏切られたような憤りにも近い寂寞が襲ってくる。その映像に刺さり込んだり押し込んだりした感覚も、それどころか少しの触感も無いまま、私の指はメリーの体の厚みを通り抜けて、向こう側に現れてしまう。加えて、メリーからは、私のことが見えても聞こえてもいないらしかった。

彼女は私の背中の向こう側を見ていたり、あるいは振り返って奥の何も無い森の方を見たりしている。意図して無視しているのでなければこんなのはおかしい。まさに立体映像の再生のよう。

これ、なに?静しずるくん?

……繋がった!

射影機を探したがすぐに見える場所には見つからない;この草の海の中から草の海へ、あのように鮮明な映像を投影できる訳もなかった。ならば、あのメリーは何だ。この場にこんな不思議現象を起こせる存在は静しずるくんを除いて他にはいないように思える、これは彼の仕業で何かの動機もあるのだろうと彼を見た。だが。

香香瀬織かがせお!……じゃ、ない……?

メリーだよ。これはキミの仕業なんじゃないの?

メリーを見た彼は、メリーを香香瀬織かがせおと見間違えていた。無理もない、私が香香瀬織かがせおを見たときにも同じ反応をしていたに違いないのだから。

どうして、と聞きたいのはこっちの方だったが、静しずるくんの絞り出したような声は、逆に私が居た堪れなくなりそうなほどに悲痛で、私は自分の言葉を飲み込んでしまう。

その間にもメリーは何か身振りをしたり声を出しているような仕草こそしているが、私の姿に気づいている様子はない。彼女の目の前に体を差し入れてもやはり気付いた様子はなく、それどころか彼女の体は私の体をすり抜けて背中に通り過ぎてしまう。

事態を飲み込めずに静しずるくんに問うたりメリーの映像に呼びかけたりしている間に、濃紫の香霧が一層に立ち上ってきた。蛍の光は遮られ、乱反射する光は蛍光の緑ではなく霧の紫色。毒々しく甘い妖艶な濃霧があたりに立ち込め、そして不意に映し出されていたメリーの姿も、再び覆い隠そうとしている。

メリー!ああ、せっかく見つけられたのに、触ることも出来ないなんて!

ああ、始祖夜に蠢くものWriggle=Nightbug

霧がメリーの姿を包み込み、その姿を奥へ奥へと隠そうとしてくる。帽子を手にとって霧を払おうとするがそれは不気味なほどに重く、帽子で掻き出したくらいではその場から動こうとしない。あまりにも不自然だ、押し流されるようでいて、それは薄れて消えて同じ場所に湧き直しその霧の意思に沿って再び流れ始める。この霧は。古代蛍ネストの光に励起された重く垂れ込める紫の霧が、メリーの姿を甘く絡め取って夜の闇にマージしようとしている。

メリー!こっちに気付いて、そこはどこなの!?

霧の濃密な部分が彼女の映像にかかると、霧が重なり覆い隠した映像になるだけではなかった;霧の濃度が閾値を超えた箇所では色調が反転しその内側から炎なく写真を焼くかのように、メリーの映像を食っていた;彼女の姿などそこには無いかのように、向こう側の風景を透かしている。霧が、彼女の実在を、食っている。

紫の霧を、一方の静しずるくんは受け入れていた。私とメリーの間では川の奔流のように見えるそれは、彼の足元では意思を持ったように帯状に伸びて彼の体に巻き付いていた。まるで彼の体を這い登る巨大な百足。彼は体に幾筋もの百足化した霧を這わせながら、メリーが現れた様子を見ている。

静しずるくん、メリーは

安心して下さい、蓮子さん。あなたは向こうに連れていきます;お世話になったので。

そんなの、どうでもいいッ!

単純にこの世界が真空崩壊に至るという実感がなかっただけだが、私は彼の進言を突っぱねた。

所々に消失を穿たれた彼女の映像は、やはり私になど気付いていない。一人で七夕坂を登ってこの星神社に到りそして何かを見ている。これは過去の映像?それとも未来の予知?あるいはここではない何処か別の並行な宇宙?

これが穂多留比しずるくんの狙い通りなのかそうでないのか私にはよくわからないが、メリーがそこに見えるという事実だけは解る。ただし、実在性は、欠いているのかもしれなかった。

貪る霧が、私とメリーの間を遮るように入り込んでくる。私とメリーの間に立ち上って、私とメリーの間を二つの世界に分けるように。この霧は、何だ?この甘くて重い、不快な霧は。紫霧の濃度と量はみるみる内に増殖し、それはもはや堰を切った川水のように怒涛を打って私とメリーの間に流れ込んできていた。足許はもう見えない。彼女の足元に彼女の足はない。暈高は上り流れは重く速くなっていく。霧とは思えないほどの奔流、川……これは、世界が姿を得る以前に混沌と呼ばれていた無形、世界の溶液?霧:二つの世界を分かつと同時に、接合させるこの霧は。

まずい。

だめだよ、そっちに行っちゃ、メリー!

僕を、連れて行って下さい

映像みたいなメリーは、ふい、と私の方から視線を外し、私に背を向けてどこかに歩き去ろうとしていた。手前に見える風景はこの世界と共通で、でも彼女の実体だけはここにはない。分かつ世界の接近と肉薄とそして離別を、古代蛍ネスト達は冷ややかな光で照らし出している。穂多留比ほたるびは空からこの霧の噴出を眺めている。今や彼は全身に霧を纏っていた。彼の体を包み込む霧は凝集して無数の虫の形を取り折り重なりあいながら彼の体にびっしりと取り付いている、いや、彼自身がそうさせている。あらゆる〝虫〟の概念を飲み込んだ紫霧が具象化して彼の支配下で彼を支配していた。これが、彼の狙いなのか。

メリー、こっちみて……!そっち行っちゃだめ

僕を、受け入れて下さい

この霧は、この世界の裂け目の態だ。これが私の視線を遮りメリーへの認識が消えたとき、この世界は分岐する。彼女と私を、片方ずつにしか実装しない世界が、二つに。

もう霧とは呼べなくなっていた。世界を分かち二人を引き裂く甘く暗紫色の奔流。黒い天の川。跳ね回る濃紫の霧の合間に、先程までは元の風景が見えていたのに、今は違う。雲間切れ目を流れるそれは全く別の世界:その風景は眩いばかりに昼間だった。

彼は膜を溶かしている、と言っていた。この霧は混沌で、部分的に原始のスープに戻ったやわらかな点だ;それを彼は渡ろうとしている。メリーのいる側の世界は、彼の望む地平につながっているのか?メリーのいるあっち側は、どこ?

メリー、だめ、そっちに行ってしまっては!分岐した世界をはぐれてしまっては、私達はもう二度と……そんなの、だめ!

始祖……

踵を返し、霧の向こうへと歩き去ろうとするメリー。これが穂多留比しずるくんの思惑通りだろうが違おうが、メリーがこの場を立ち去り見えなくなったとき、天の川は鵲橋を失う―そんなの、だめ。

こっちを見ろ、メリー!!

僕を!!

ふっ、と風にでも吹かれたような仕草は、一瞬にも拘わらず何十秒もかけた演出のようにゆっくりに見えた。落とされた幕が世界を音さえも失ったスローモーションの海に沈める。霧を払う清涼な風が一陣通り抜け、彼女の長く柔らかなブロンドを遊ばせた。風に呼ばれたメリーはその方を振り返り、追いかける目線、モデルみたいに長い睫がはためいて瞬き、一つ、二つ;それから瞼の下の青い瞳がくり、と僅かに動いて、流れた:探した:見つけた、私の声と、姿を。僅かに大きく見開いた目が、しっかりと私を捉えた。

……蓮子?

メリー!

互いの声が交差した瞬間、その声を呼び水にして世界がすべての音と、そして時間の流れを取り戻し、紫の霧が再び私とメリーの間に流れ込もうと怒濤を打った。手を伸ばす、メリーも。だが私たちの手は空間を分かち合わなかった。幽霊みたいに触れ合わずに通り、そこには何もないように振る舞う。扉は開いているのに通れない。もどかしく、一度、二度、そして三度と互いの手に触れようと重ねるが、虚しく互いの像だけを切った。

どうなっているの?

どうもなってないわ

どこに行ってたの?

どこに行ってないよ

いつものバカみたいな会話なのに、なんだか切ない。せめてあと、この手が彼女を捕まえたなら。

混沌の紫霧は互いの世界を結い直そうとする私たちに無情に吹き付ける。

メリー、手を出して!

出してるわよ、でも……

そこから出して!

混沌の向こうに見える異界に(いや、それは本当に異界なのか?)メリーがいて、彼女が私に向けて手を伸ばした。そうだ、彼女から私を求めて伸ばされた手、それだけで十分……!

私の手に、混沌の霧と蛍光の中で伸ばされた手の、その指先が、触れた。

飽きるほど触れても決して飽きないその指先の触れる感触、体温、わずかに感じる動き方、知り尽くしてる;何かは問うまい:私は確信した:指先に触れたのは、探し求めていたパートナー。

蓮子……?

メリー!ああ、メリー!!会いたかった……旦那を置いて家出なんて、ゆるさないんだから!

今度は離さない。ぐい、と力いっぱいに彼女の手を掴んで引き寄せた。軽い:こんなにも探し回って、わけのわからない話に振り回されて、はっきり言えば死んだかもしれない細い線を渡ってまで求めた彼女の体は、愛おしいまでに軽かった。地蔵の背に割れた生温かい亀裂の感触をすり抜けて、彼女は現れた:まるで生まれ出たかのように。地蔵のサイズは私やメリーの体を収納できるサイズではない;これは、明らかに別の場所とこの場所とを結わう、結界であった。

まるで初めからそこにいたかのように、そうでなければ他に言いようの無いように、メリーは私の前に佇んでいる:私に手を引かれたまま。

……岐くなど様が、仕事をしたね

私、呼んだのよ、蓮子って。そしたら変なガスが出て、蓮子の声が聞こえた

呼んだのは私だよ、メリー。でも、こんな可愛い口が私の名前を呼んでくれたって言うのなら、それでいいや

そしてメリーがこの場に現れた代わりに……恐らくはこの場を去るつもりだった静しずるくんは、まだそこにいた。私が地蔵の背中から引きずり出した香香瀬織かがせおそっくりの女……メリーをみて、彼は呆然としている。

ニンゲンが、生身で〝渡り〟を……?

古代蛍ネストの動きが、変化する。地上の恒星アステリズム・プリントを施行していたときの光とは全く違う、鋭く敵意を秘めた光。私は思わず、銃口を向けられでもしたように手を上げる。

静しずるくんが私を見た。地上に波打つ蛍……古代蛍ネストの群が警戒しながら円を広げる。

メリーは今確かに境サカを越えてきた。手を伸ばして私に応えた。メリーは、向こう側から私は見えていた?

見えなかったわ。霧に包まれたみたいにぼやけていて……

今は?

えっ?蓮子がみえるかって?んむ……っ

私は証明キスしてみせた。

ぷぁ……も、もう、何よこんなところで……

場の干渉。

はぁ?

今は?私のこと、見える?

目の前にいて、見えないはずがないじゃない

そういうこと

どういうことよ……人が、見てるわ

静しずるくん?後で紹介するね。

メリーだ。自称宇宙人の空似じゃない、本当のメリーだ。もう一度、彼女の手を握る。指を絡める。ひんやりとした彼女の体温が伝わってくる。滑らかで上等な絹のような肌の柔らかさ、ほっそりと伸びる長い指、紛れもなくマエリベリー・ハーン。もう一回キスしたい。した。

メリーを取り戻した、この宇宙の悪戯から。彼女が狭間に落ち込んだ原因は知れない。キミなの?

静しずるくん

七夕異変、黒幕が彼だったことは今更振り返るまでもない。だが彼の動機にメリーを巻き込む理由は見つからない。まして、私なんか。

霧が、あれほど濃密にあたりに満ちていた紫色の香霧が、まるで巣を暴かれた虫のように散り、消え、晴れ渡っていく。辺りには、もう額面通りに受け取ることができる〝美しい〟蛍とその幽玄で幻想的な光の群がひらひらと舞っている。その光は今も穂多留比ほたるびへの祝福を忘れていない。彼は、その冷たく美しい光に照らし出され……その悲痛な表情を露わにしていた。

どうして、あなたが通れて、僕は

彼は、世界際を渡って、ここから去る予定だったはずだ。あの紫の霧は世界際を溶融させるエネルギーであり、それに助けられる形でメリーはここに戻ってくることが出来た。だが、彼はまだここにいる。

彼の落胆振りは、見ているこちらが目を伏したくなるくらいだ。顔色も悪く声も震えて小さい。目には涙が湛えられていて、一方で横に握りしめた拳が力強い。仮に彼が準安定を失ったこの世界の物理法則書き換えを前提にしていたのなら、彼は渡りに失敗して自死の確率を招いたことになる。まあ、私達も巻き込まれるのだけど……そんなのはまっぴらだ。

渡りは

……いませんでした

メリーに先を越された形になった彼は、しかし単に順序が入れ替わっただけというには見えない焦りの色を見せていた。単にメリーに割り込みされ、世界際溶融の溶着面を先取りされてしまっただけだというのなら、窃取エネルギーの充填を待ちもう一度渡りを試みればいいだけなのだ。しかし、そればかりとは到底思えない表情。涙まで湛えて震えるほどの慚愧を見るのは、一体何故だ。最初に通ることがそんなに大切なことなのだろうか。

いなかった、って?

始祖は、もしかするともうこの宇宙のどこにもいないのかもしれません……僕は……

幻想郷とかいう世界がなかったってことではなく?

あなたは〝ある〟と言ってくれた。始祖が存在するのなら、僕にとっては。確かに、接続自体はできたのです……でもそれは、始祖と僕がリンクを確立したからじゃない、メリベリーさんがいたからです。

メリー?

さあ……私よくわかってないのよ。ただこの山に来て〝ここが七夕坂だ〟って思って時間を待っていただけ。そしたらここで蓮子に呼ばれた。そしたら真空崩壊するなんて言われて、わけがわからないわ。私、寝落ちしてる間に幻想郷とか言う世界に行っていたの?それって前に蓮子と夢の中で見た場所よね、■の妄想じゃなかったのね。ほら、やっぱり異世界は実在するわ、蓮子。

その話は一旦おいとこう。今はその確率の話だわ。メリーは通れたけど、君は通れなかった、って言っている?

小さく頷く静しずるくん。

彼が〝渡り〟に失敗した理由が膜の溶融の失敗ではなく透過的転写の失敗だというのなら。私には無視できない説明があった。

この世界は色で満たされた場の構造だ;場に力を加えることで粒子が出力されるという理路は、ほとんどエーテル風の再誕だ、と私は考えている。彼の地上の恒星アステリズム・プリントに際して現れたあのエネルギーの流れがエーテルの風であり、彼の渡りの失敗が干渉相手の不在によるものなのだとすると、それは何かを示唆していた。

蓮子さんの言葉を借りるなら……僕には場の干渉を起こす相手がいませんでした。

キミの干渉の結果は……きっと、実体を主張していないんだ。キミと始祖とやらとの干渉が地点Aで発現しなかったのは、干渉波そのものが完全に閉路に折りたたまれていて、場へのエネルギー干渉が空間を押し出さないからだ。キミの渡り失敗が場の展開失敗だとして、それは幻想郷という世界が存在しないということではない、という主張は今の私の持論ととても近い:しっくり来る

すべての粒子に実存性なんかないって、蓮子の持論?異世界を否定する

私はあらゆる粒子とその場の存在を否定したいのではなくて、存在とは干渉が閉化せず未完結となる確率的な偶然の状態だと想定してる。この世界と別の世界を結界して俯瞰の線を得たとき、キミと始祖の干渉がキミの中で完結していて、閉じているなら質量を生まない

言いたいことを、理解しかねます

これは、あまりにも希望的観測に寄り添いすぎているかもしれない。でも、無視できない理路になってしまった。メリーが実際に、向こうに渡って、そして改めてこちらへ抜けてきたから。閉路:そんなことがあり得るのだろうか。これが本当なら、私は机の上に残してきたトラディショナルペーパーの大半を破棄しなければならないし、破棄したのと同じかそれ以上の枚数を新しく買い足さなければならない。

……キミが、始祖自身なんじゃないの?

はい?

私が言っていることに、さすがの彼も理解が追いつかない。いや、追いついていないからこそ、こんな壮大無駄な計画を練り上げて実行したのだ。それは、彼でなくとも、決してそうだとは思わないだろう、無理からぬことだった。この世界は不思議で満ちていて、それは誰かが解剖しない限りはずっと不思議のままなのだ。秘封倶楽部は、そのためにこそある。私は彼に事実を伝えるために……メリーの手を握った。不安だったんだ;それが、残酷なことだと私自身も自覚していたから。はじめから知っていられたのなら、どれほど救いだっただろうか。でも、そうではない。彼のような長い命を生きられる存在にとって、長い時間をかける忍耐を持った者にとっては、なおさらだ。

別の世界に個別に存在する同一の点、なんて仮想的にしか想定していなかったけれど……メリーが向こう側からこっちに来たことで真剣に取り上げなきゃいけなくなった。それは超光速航行用のワームホールの哲学と同じで、だからこそ、ワームホールを助走路に使えたんだ。それが一番整合する。

頓知勝負がしたいわけじゃないですよ

キミが何と思おうと、この世界の不思議は残酷なんだ。キミは渡りに失敗したんじゃない;もう、成し終わっているんだよ。君は始祖と非局所性を分け合っている、世界際なんか渡らなくっても。キミのような特殊な点でなければ、宇宙際渡りのための膜溶融なんて実装できるはずがない。

証明はない、でも、確信はあった。それであれば、全ての辻褄が合う。彼の渡りが失敗したことも、メリーがこうして現れたことも、彼女の世界から二週間が消失したことも、七夕坂の謎が曖昧なまま解けないことも、紫の霧の正体も、隠された月の理由も、遠回りながら説明ができる。そして、メリーの異常性については……認識が強化されたとも言える。

キミが求めていた始祖というのは、幻想郷とかいう世界に存在しているキミ自身だ。

彼の得た俯瞰は二つの世界にどの様な変化を及ぼすだろう。ファイアフライ:燃え尽きてしまうだろうか、単に。長い長い時間をかけてきた営みが、全く不要だったこと。自分の感情を押し殺し大願を言い訳にして感情を無視して来たこと。彼の半生が無駄だったかもしれないこと。

気の毒に思うのと同時に、少しだけ、その不憫さを愛おしく思ってしまった。

香香瀬織かがせおを犠牲にする必要なんて最初からなかったんだ。静しずるくんは香香瀬織かがせおを、殺さなくて済むんだ

殺、す……?

幻想郷に行って……香香瀬織かがせおを騙して、キミの手で殺して、それはキミの本望だったの?

静しずるくんの目が僅かに動いた。

殺す、という言い方は、わざとだ。間違いはないけど、敢えて棘のある言い方をした:彼にとって。

どう振り返っても、彼には香香瀬織かがせおに対する悪い感情が読み取れない。香香瀬織かがせおから彼に向けても。本当は……本当に出会いを待つ七夕だったんじゃないの?静しずるくん

香香瀬織かがせおが彼に向けた表情、香香瀬織かがせおが姿を消したときに見えた静しずるくんの反応。少なくとも香香瀬織かがせおを名乗る女からは、静しずるくん……穂多留比ほたるびへの信用は不思議なほどだった。彼を日孁呼ひることみなさなかった私の話ではないが、そんな命運をなんで何の見返りもなしに彼が引き受けるのか、腑に落ちない:普通ならば疑う。穂多留比ほたるびは確かに高天原アルタイルを利用している、が、どうしても彼の立ち居振る舞いが解せない。

香香瀬織かがせおはキミに、この星で夜に蠢くものWriggle=Nightbugになれって、言っていた。信用されてるんだね

信用されていようとなんだろうと、〝渡り〟は、他のもので代替できる価値ではありません。

物心付く前からのライフワークだからってこと?

そうですね、僕がいつから始祖のもとに帰りたかったのか、もう憶えていません。僕は生得の欲求として、始祖へ還ることを望んでいます。

ってことは、知らないんだね

何をですか

経験って、本能をねじ伏せることがあるんだよ。始祖への帰還と同じか上回る欲求は、別に不思議なことじゃない

こっ、子供扱いしないで下さい!

見た目が子供なものだから、そんなことを言われると可愛いとしか思えない。言っていることは幼稚であっても、動機としては十分だ。人間の心身を獲得してしまったというのなら、それは至極当然のモチベーションとさえ思える。

いいんだよ。別に親の元に還るなんて本能に従わなくても。もっと大切なものが見つかったらそっちを優先したって

言っている意味がわかりません

わかっているくせに

子供らしい頑なさは、長命を繋いでいるとはいえ何らかの点でまだ幼いからなのだろう。人間と同じ体を獲得したのが最近だからなのか、種としては本当にまだ幼年期だからなのか、それは私にはわからない。

香香瀬織あのおんな、本当に艦隊なんかつれてくるのかな

どういう意味ですか?

高天原アルタイル人なんて、静しずるくん、見たことある?人間と同じ姿をしてるわけが、ないよね

今更、彼女はただの地球人類だとでも?

ううん。ああいや、その可能性も考えはしたけれど、それを差し置いたって……この星で生まれた地球人と同じ姿をしている奴を、高天原アルタイル人は同胞と認めるかな。高天原アルタイル人がもっと違う姿をしていたら……例えば日孁呼ひるこを美的感覚的に問題がないと見做すようなそんな姿をしているなら、彼女がここを追放されて星に到着したとき……向こうでまともに受け入れてもらえたんだろうか。

地球での出来事よりも、明白だ。仮に同じアミノ酸から出来上がった生命体であるという点で共通だったとしても、高天原アルタイルの住人の姿が地球人と似ている可能性なんてほとんどないだろう。姿の違う異星帰りがどんな目に遭うか、想像に難くない。よくて腫れ物に触るような形式上の尊重、悪ければ―

彼女、播種船団を先導して地球に戻ってきたんではなくて、向こうでも追放されたんじゃないの?

明らかに動揺を示している静しずるくん。そんなはずがないと考えているのは、おそらく考えが……幼かったからだろう。

嫁に送られたのに不細工だって追い返された磐長姫イワナガヒメみたいね

案外そう言う話だったのかもね。こんな顔の佳いい女を醜女だなんて、見る目がないよね

だ、だから蓮子、子供の前で

そんなわけ……

香香瀬織かがせおという女、どうしてキミをそんなに信用しているんだろう?彼女にはキミしか頼れる人がいないのかもしれないけど、でも、そればっかりなのかな

静しずるくんの表情が、いっそう悲壮に沈む。

わかっています、そんなことは。わかっています

実際。私がやったことはなんだろうか。メリーを手元に取り戻したくて、世界の穴を開通させた;しかも自分の手は汚していない。全てを準備したのは静しずるくんと香香瀬織かがせお、最後に確率を貫いたのはメリー。私は、ただ呼んだだけだ。その祈りが通じたらどうなるのか、それをやったらどうなるか、想像も出来ていた。

それでも、と、私は……メリーを祈った。

〝そんなことは、わかっている〟。

同じだ。多分、それはみんな同じ。

§ 魔術師メリー §

……情に訴えても、もう手遅れです。メリベリーさんは世界際の膜を、トンネル通過しました。螻蟻潰堤、その小さな穴が。

わ、私?

触媒としては小さい筈なのですが……相当の現象を引き起こしています。

メリー。私達だよ。単為な世界なんてあるものか。

メリー一人のせいでないにせよ、それは何の救いでもない。彼女が通過したことでゆらぎが生じ、メタ安定が揺れ、真空崩壊の確率へ関与する関数に変化が生じたのだとすれば、もはや誰が悪いとか言っている段階ではない。今のところ私達は物理的な構造を維持できている;まだ崩壊はしていないらしかったが、恐らく時間と確率だけの話だ、どのスケールを以て〝まだ〟と言うかだけでしかないが。彼は壊すのをやめただけで、壊れるのを回避できたわけではない。

メリーの通過した確率の穴トンネルはヤバいガス漏れの脆弱性になってしまった。正規のエントロピー変化量なら一〇の六〇〇乗年かかるところだが、その可能性を跳ね上げるためのトリガーは、既に引かれるのを待っている。関数の参照先は、月。

月の扉を巨大質量が通過してエネルギーが供給されたら確率は大きく動き、メタ安定は安定区間から外れます。僅かなエネルギーでゼロ底に転がり込む。元々、そういう設計でしたから。

香香瀬織かがせおが通ろうとしたら、バックドラフトがドカン、ってとこね;なんて残酷なトラップかしら

流石に私の皮肉を受け取ったようだが、静しずるくんは何も言わない。今更、当たり前か。その瞬間の相転移のエネルギーを突破に使うのか、それとも崩壊は彼の突破の跡に計画されていたのか、今となってはわからないし聞くつもりもないが、彼は世界際渡りに失敗し、その原因がエンタングルメントの閉であった(と今は仮定している)以上、これからも成功する見込みはない。これらの点について、今更どうこうする意味はない。今はとにかく。

穴を、塞がないと……

お地蔵様は物言わずに倒れっぱなしだ。張り倒してメリーを通過させたのに今度は閉じろだなんて、聞き入れてはくれないだろう。現に、背中の光はすっかりと失われていて亀裂があるようにも見えない。

光の速さで波及する物理法則の書き換え、しかもどう変わるのかもわからない。少なくとも今の私達の空間世界がそのまま維持されるとは思えないし、そのコンテナの中で動作している私達が同じように維持される道理もない。死ぬ、と表現してもよいものだろうか。空間の形質は変わり物質の構成がならなくなるのだ、もしかしたらわずか須臾の間くらいには、既存生命体としての死を迎えることはできるかもしれない。そうした死はもっとも暴力窮まるものでありながら、ある種慈悲深い。苦痛なく、すべての生命非生命に別け隔てなく訪れる消失。

終末の足音が近付いている。すれ違うことさえわからない、恐らく終わったことにさえ気づけない、絶対的な終末。

静しずるくん、ワームホールを閉じて。もう、いいでしょう?

僕にもうそんな力はありません。地上の恒星アステリズム・プリントで、もう

宇宙にアクセスして禁忌の膜壁に作用する魔術:神話の主神クラスの芸当だ。使い果たした、ということなら無理もない。余力があったとして、むしろ再試行などされてはかなわない。弾切れでいてくれたほうがマシだ。

こうしている間にも播種船はワームホールを通り抜けるかもしれない。彼曰く「もうすぐ」なのだが、それがどこにフォーカスされたスケールなのかは、よくわからない。通った瞬間、目の前のこの一点から界面が失活し、無の泡が広がる。時空の終わり。

ちっ……祈ってなさい。メリー

な、何?

今、結界って見えているの?今通ってきた穴確率

今は、幽かよ。あれのほうが、よっぽど大きいわ。あれ、何?

メリーは何もない月を指さして目を見開いている。そうかメリーはワームホールのことを知らないのだ。知らないが、月にそれがあることを的確に再示した。やっぱり、彼女は本物だ。

詳細は後で話すよ。今はとにかく、あの月を表返さなきゃいけないんだ。メリーには月、見えてるんでしょ?

ええ……でも、結界としては、大きい;今まで見てきたやつの中でダントツよ

そう、だろうね

妖怪一匹が通ったり、向こう側に別の世界がほんのり見えたりするのとはわけが違う;星体クラスの召喚の門。でも別の星系から悪魔を呼び出すことが問題なのではない、現れる悪魔も可愛いもの;真の目的はそこから収穫される不正なエネルギーだった。七夕の星合に、星どころかそれほどの目的を重ねるなんて、途方もないことだ。

メリー、結界それを閉じて。小さくて微かにしか見えないけど、コンパクテーションされているだけでその中の不安定性は確かなんだ。ワームホールを播種船が通過したエネルギーが投入されてメタ安定の領域を踏み越えたら、ここから始まってしまう

そ、そんなこと私にできるわけ―

出来るくせに、いつまでも隠せると思わないで。

確かに私は岐クナドに訴えかけて腕を伸ばした。この世界の禁忌の膜壁を溶融させる紫色の霧は静しずるくんの仕業だった。だが、最後、決定的にあの確率の膜をトンネルしてきたのは、彼女の仕業に違いないのだ。膜壁を介在し私の呼びかけを取り出して、そこから腕を出し返したのは、彼女の無意識のオペレーションだった。もう言い逃れはさせない。

私達は場の干渉、世界同士の摩擦の中に生きてる。メリーの言う結界はきっと世界同士を結わう経路であると同時に、両者を遮る障壁と界面なんだ。結界の生じる摩擦が、世界同士の異質性の衝突による干渉が、世界の実在の本質なんだよ。そしてメリーには、それを見るだけじゃない力があることが今夜わかった。そうでしょ?

彼女なりに隠してきたつもりなのかもしれないが、それももう無駄なことだとわかったのかメリーは目を伏した。

月は……大きすぎるわ

それが罪だと思っているのだろうか。そう思わせたのなら……それこそが私の罪かもしれない。

私の見立てでは……彼女の祖の力は空間的なことを余り問題にしないはずだが、別の問題を提示して拒否しているようだった。それは遠回しでうっすらとした拒絶の意思の表現だと、私は知っている。私に比べて正直勤勉ではない彼女は、やらない言い訳を作り出すのが上手だ。それを今更どうというつもりはないけれど、きっと今回もなにか気の進まないところがあるのだ。しかし、何に?

世界が滅ぶということよりも嫌なことなんて、何かあるのだろうか。世界を滅ぼしたってあなたに会いたいっていう人間が、ここにいるのよ?

月は、僕がなんとかします

静しずるくんが、歩き出して……地蔵を戻そうとする。戻せない。そりゃ重いよそれ。本当は地蔵のことなんて彼にとってはどうでもよかったのかもしれない、ただ私達の方を見てそれを言うのを避けただけだろう。何か別の作業をしながら、独り言とも会話ともない言葉の投擲をよこしたのだ。彼にとって、それもまだ整理ができることではないだろう。

彼もまた、一つの世界を滅ぼしてでも会いたい存在があった者だ。今はだが、きっと違う。

もし……宇宙際の溶融点を離別させることが出来れば、回生エネルギーを回収できるかもしれません。そのエネルギーを使ってもう一度地上の恒星アステリズム・プリントを行います。〝合〟を解除し、月を解放して、ワームホールを閉じます。ですから

世界際溶融点を、切り離せっていうのね、メリーに。

……ワームホールがなければ播種船は、香香瀬織かがせおは恐らく地球には来られません。それでも

彼は答えない;説明のつく理由なんてないのだろう、出るはずがない。証明よりも大切な決定がある、数の世界を飛び出れば。

身勝手なことは、わかっています

ふふっ、今更。家出のために世界を滅ぼそうとした身勝手さに比べれば大したことないって!

慰めになってないですけど

なるべく明るく対応して見せる、決断を尊重したいから。悠久の時間を費やしてようやく開いた門を、目的を達成できぬまま彼は自身の手で閉じるという。私なら「せっかくだからもうちょっと開いといて」と言いそうなところだが、そうする余裕はもう無い。重苦しく描いて見せても彼への慰めにはならないだろう。

香香瀬織かがせおに〝始祖になれ〟と言われていた彼が、結果として本当に始祖になってしまった。そのことが、彼に何らかの心境の変化を与えたのかもしれない。自信、そう表現していいものかはわからないけれどもしかしたら、彼は堂々と香香瀬織かがせおに会う口実を獲得したのかもしれなかった。門を通らず、再び永劫の時間をかけることになっても、香香瀬織かがせおが言っていたことが本当なら高天原アルタイルの播種船は何世代も航行を続けて地球へは到達することになるだろう。その時に香香瀬織かがせおがまだ生きているかはわからないが、その覚悟ができたということかもしれない。

この子たちだって、消えたいとは思っていませんから

今や魔法円の任を終えただ美しいだけの光の大群も、王の決断を祝福するように軽快な舞を見せている。月なんかなくってもいいけれどあればあったで自分たちのミラーボールになる、そんなふうにいいたげにさえ見える。本来月の輝く空に星空のレイヤーを重ねていた。蛍だけではない、光こそしないが見れば様々な虫が騒がしく謳っている。蚊とかもいるから素直には喜べないけれど。彼等も今は収まったエーテルの風を待っている。

もうひとはたらき、してもらえそうです

一方のメリーがどうして拒否するのか、わからない。まだ自分の能力を隠すつもりだろうか。それは無駄だって、もう一押ししてやる必要があるのだろうか。どうやって向こう側に行ったのかもわからないが、もしかしたら世界際を渡るのには、門のようなドラスティックな通過は必要ないのかもしれない。それが決定的になったのが、あの日いなくなったメリーだ。確率が濃度に転写されるのかもしれない。そして、静しずるくんと始祖の関係が、それを補強する。

メリー、どう?

私は……嫌、なの。これを出来るようになったら、出来るって気付いてしまったら、私、蓮子と一緒にいられなくなる気がする

どうしてそう思うの?このまま消えてしまったら―

私と一緒にいられなくなる:それは、メリーが私の元を去った今回の出来事のことを言っているのではないのだろうか。今回の七夕騒動は、メリーに境界にアクセスする手段を仮定したときのミニチュアだと。彼女は暗にそう言っている。でもそれは、あくまでもメリーの表面上の主張だ。彼女の主張のもとで彼女の存在確率は別の界へトンネリング転写された。しかし静しずるくんの助けもあって、世界際の摩擦を見ることが出来た:世界とは何たるかの手掛かりを得た。私はやはり一部論文を書き直さなきゃいけない。

それに立脚するのなら、彼女の言うことは根底では消滅による離別のことを言っているのではない。

物理法則が書き換わったとき、宇宙は蛹から成虫になるように全く別の姿に再構成される。振幅して新しい姿を描く。そう思っていた。でも違う。

そう。そういうシナリオではなかった、この世界は。振り子のように右で出来上がり、それが消滅したら左で出来上がり、なんてメリー・ゴー・ラウンドなおとぎの国ではなかった。真空は、安定している:これ以上にないほどに。ひもの世界では確かに無の泡が予見されていて、これは時空の自由度を失った真の無だ。そしてその無に向かって安定しようとする。

一緒にいられないという彼女の直観は、彼女の目ゆえの経験に基づいたものに違いなかった。

私がそれを見てしまったら無の泡は仮説ではなくなるわ。古典解が得られるようになってしまう。一緒にいられなくなってしまう

なるもんか。メリーがそれをやらないと私達は個別の実在性の確率を失う、メリーが私達を維持するんだ。決してそうならないために。私達は溶け合わない別々の存在でなければ、一緒にいられなくなるんだよ。簡単なこと。メリーがこの世界を守るんだよ!そしたら、一緒にいられる!

だったら。と。メリーの手を取って指を絡めて握り締めた私に割り込んで、彼女は言う。まっすぐに私を射殺すような強い意思を湛えた、彼女本来の怜悧な目で私を見ながら。拒絶じゃない、これはきっと彼女なりの依存だ;その証拠に私の手を握り返す彼女の手は、ぎゅっと力強いのにひんやりと冷たい。

だったら、蓮子……私を想って。あらゆるものに実在性はないなんて言わないで。私を、絶対に蓮子の隣にいさせて!

それをするのは、メリー……

違うわ!私にそれをさせられるのは……蓮子だけよ!数式に甘えないで、眼の前の私この現象から、目を逸らさないで!!

久しぶりに聞いたかもしれない。いや彼女が傍にいなかった期間を除いてだ。一緒に秘封倶楽部の活動をしてフィールドワークのピクニックで死にかけたりもしながら、それでも彼女はこんなふうに切実な声を上げたことはなかった。どこか冷めていて、自分とは関係のない世界で起こっていて……何者も自分の根っこの部分には触れることは出来ないと物語っているような、飄々とした態度で私の後ろをくっついてきた。そんな他人事のような、ある意味で凛然とした様が、私にとってはまるで証明算式の塊みたいに見えて美しく思えていたのだ。でも、ああ、でも。私が、ダメだったんだ。この出来事の凶事はぜんぶ、きっと私の甲斐性のなさだったんだ。そんなふうに彼女を観測しているこの目が、彼女の気持ちを踏みにじっていたのだ。彼女は観測された形骸じゃない。証明も再現も不要な、歴然とした現象なのだ。なのに私は。

ごめんね、メリー。違うんだ。メリーをただの確率上の怪物だなんて思っていたのではないんだ。二人の世界を幻想だなんて言ったつもりじゃないんだ。■のよこしたお仕着せの関係だなんて思ったこともない。でも、それをちゃんと伝えられてなかったんだね。

数式なんて、何かを生み出すものじゃない。解剖するだけ解剖して、理由をつけて、もっともらしい顔で真実を語るけれど、その真実は何一つ生み出しはしない。見たものに名前をつけるだけの器械だ。彼女は現象の根源だったはずなのに、その根源の名前を探して彼女の深い部分をレイプしていたんだ。

本当は私は、それが余り得意じゃなかったはずだ。それが得意じゃないから……何でも再現と演繹できるようにして……安心しようとするクセがあって、そうしてこの学問に至った。彼女に出会えたのはそのおかげだったけれど、それは致命的に彼女の尊厳を損なうことだったのだ。

彼女は、現象さえ生み出す、根源だから。

ごめん

メリーは頭こうべを振る。ちがうの、とつぶやく。きっと違わないのだが、そうしたくないんだ。

でもちゃんと会いに来てくれたわ。私の名前を呼んで、手を取って、ついて来いって引き寄せてくれた。本当は、それだけでよかったのに。意地を張ってしまったの。私、蓮子の論文なんて、本当はこれっぽっちもわからないのに。

わかんなくていいよ。あれは、メリーに向けて書いたものじゃないんだから。どちらかといえば、メリーの可愛さを世界に証明するようなもの

そんな内容じゃなかったわよう

そんな内容なんだよ。

半分は冗談のつもりではなかったのだけれど、茶化されたのかと思って少し頬を膨らせるメリー。やっぱり、可愛い。堪らなくなって抱きついてキスしようとしたら、驚いたことに彼女の方から私にかぶりついてきた。メリーのほうが少し背が高いので、立ってキスするときは私はいつも上を向く形になる。本当は、これが本来の関係性な気がする。

舌、まで入ってきた。これ、結構マジなキスかも。こんなふうになってるメリー、久しぶり、かも。さっきまでは私の方から軽率にちゅーしていたのに、逆転して急に恥ずかしい。だって、口開かせて舌入れてくるようなのって……。

し、静しずるくんが見てるよ?

今は……見せつけちゃいたい気分

またすぐに口付けてくる。めちゃくちゃ積極的だ:こんなメリーも好き。余計に離れられなくなる。それに〝私にそれをさせられるのは蓮子だけ〟なんて、ふふ、気分いいじゃない。私の絶対者が、私を必要としてるなんて、最ッ高。

ようやく口を離して解放してくれたメリーが宣言する。いつものふわふわした天然少女じゃない、めったに見ない魔術師マジのメリーだ。元々の作りは、こうなのだ。高身長、抜群のスタイル。東洋人から見ると羨ましいばかりの金糸のロングヘア。細めれば鋭ぐ目にエロチックな唇。ヤバい、惚れ直す。スラリと長い腕と手指が、改めて私を抱いた。

私が結界を……場の相違を、維持するわ。別れましょう、蓮子

ええ。メリー。私が、あなたを、神にしてあげる。この世界を他の世界と差別化し、界面の摩擦と場の干渉を生み出す、この世界の実在性の守護者。

世界なんてどうでもいいの、蓮子;私はあなたのために、結界を操作するわ。あなたが私を祈ってくれるから、あなただけは絶対にこの世界に実存させる。

だめだよ、メリーも一緒じゃなきゃ。私はあなたの隣に立つ別個の有様になるんだ。出来る?私の神様

わかっているわ:それくらい、やってのけてみせる。私の、ただ一人の巫女。

もう一つ、キスが降ってきた。それで、とどめだ。

§ 八重結界 §

西洋人がそうして指を組んで祈っているのを見るとキリスト教か何かのように見える。が、そもそもキリスト教の祈りのポーズはこれだと決まっているわけでもない。指を組むのは比較的新しい仕草だ。では彼女は何をしているのだろうか。メリーは不思議な呪文を唱えながら指を組んだ手を胸元に添えて目を閉じている。何も言われなければ本当に教会の祈りのシーンにしか見えない。

そやついや

のえまずく

やがごもも

えきめやた

がつにえつ

きく、が。

をる、き。

ごく短い呪文だった。いや、呪文なのかさえわからない、意味が聞き取れなかった。それが終わると目を開いて、何かそのヘンの一点を見ている。私には見えないがきっと、そこに彼女が通ってきた可能性の穴結界があるのだろう。掌を合わせたまま指を伸ばし、その手を少しだけ回転させるようにずらす。九〇度。ずらすと言うより……掌の間にあるものを揉み潰したような……。

ふわり、と一陣風が吹きメリーの綺麗な金髪を揺らした。この風は彼方から来てどこかへ流れるものではなく、目の前の、目に見えない何処か一点から放射状に小さく爆ぜたものらしい;そうであればその中心に、可能性の穴結界があったということだろうか。

ふう、と息をつくメリー。それで祈りの姿勢も解いてしまった。これでよし:メリーは小さく呟く。

……えっ、今ので終わり?口上とかポーズとか無いの?領域展開!みたいな。キラキラした光害演出は?えっちな変身とかしないの?

なにいってるの……?マンガじゃないんだから

祈りの仕草はポーズといえばポーズだけど、なんかこう、あるじゃない?メリーがやっていることはマンガよりよっぽどファンタジーなことなんだけど。

光も出ないし音もならないし、静しずるくんのみたいにマナ摩擦も発光もない。エーテルの風は感じられない。まるで何も起こってないみたい。

まあ、まだ小さな穴だったから。本当に開いてたら、もっと大変だったかも。いつも見てるのは、ばっくり開いたやつでしょう?

でしょう?とか言われても私には見えないし……。世界同士の結界なんてヤバい穴だと思ってたけど、いつも見てるやつの方がヤバい?これ大したことなかったの?これじゃメリーの信奉者としての威厳が

威厳って何よ……。境界亀裂の危険度は、何と何の結界なのかによるでしょう;トンネルしてくるものが何なのかの方が問題よ。ちなみに今回のは……ヤバかったわよ?

溜め息を吐くメリー。何もしていなさそう、何気のない仕草に見えていたけれど……そこで急に彼女の体が崩れた。その場にへたり込んで、肩からがっくりと脱力している。

メリー!?

抱きかかえてわかった;肌が蒼白に沈んで心拍数が低い、体温が下がっていて冷や汗が滲んでいた。私も時問時答Order Byeを行使したときにはへとへとになる。髪の毛が真っ白になって、おばあさんみたいとメリーに笑われたっけ。それと同じものであってほしい。

やっぱり、疲れるなぁ。大丈夫、少し休んだら治るわ

少しは演出を派手にして、バランス悪いよ……

そう言われても……。それより、あっちはどうなの?

あっち?

少年

ああ、どうかな……静しずるくんー?

少し離れたところで古代蛍達に指示を配っている静しずるくんが振り返って、両手で大きく丸を作って返してきた。よくわからないけど問題なさそうだ。世界際溶接に比べれば、地上の恒星アステリズム・プリントは複数回の実績があるからだろう、彼なりに確信があるようだ。ワームホール埋塞は静しずるくんに任せることにしてメリーを看る。

ほんとにただ疲れているだけ?

そうよ、たぶん

多分って

あれ、そんなにやったことないのよ、ほんとうよ?

そっか……無理させちゃった?

無理もするわよ、あんなふうに求められちゃったら

ごめん

いいよ、とか、しょうがないんだから、とかそんな言葉を返す代わりに、腕を伸ばして私の顔を両手で挟んで引き寄せる。吸い寄せられる口唇。抱き寄せてくっつくと、不安になる薄い温もりが伝わってきた。強く抱きしめても、その間に横たわる絶望的な境界線。二人であるという事実。私達はそれを受け入れて、いや、それを喜ばなければいけないのに、どうしてかこんなにも求めすぎて弱い。一つに溶け合いたいという甘美な毒望が世界さえ溶け合わせてしまうかもしれない。

全身が一つになれないのなら、せめて唇だけ舌だけ手だけ目線だけでもくっついていたい。いややっぱセックスくらい許してほしい、なんてよからぬ肉欲を沸かせていると、甘く唇を噛まれた。

悲しいわね、結びつける存在が、拒絶する界面だなんて

彼女が穂多留比ほたるびと香香瀬織かがせおのことを言っているのかどうかはわからない。もし私とメリーのことを言っているのなら……私は全力で彼女を否定する。メリーがここに来る前に私にしたように。そうして彼女をまた、私の元に取り戻す。世界の有が決して安定しないというのなら、振幅を作り出して絶対安定を拒否する。ここではない何処か別の世界に、私とメリーはきっといる。

拒絶が断絶だなんて限らないよ。こうやって、メリーの手を感じられるのは、私とメリーが別物だからだよ。別物だから、愛せるんだよ。

ありきたりな歌ね。私は……こんな壁はなくなってしまえばいいのにって、思うわ。それは……愛としては間違っているのかしら

メリーは私の指に指を絡めてきた、触れ合う肌の感触を得ている。心地よいと感じるのはただ人間の思い込みに過ぎない、それは情にほだされて可塑性を得た異物感の別名なのだ。私とメリーの間にある絶対に爻まじわることのない自我肉体霊魂あらゆるわたしとあなたとその間に横たわる絶対の結界を、礻咒っている。

私は、頭を振る。

多分……私がまだ、そこまで達観できてないだけ、かな。もしかしたら、世界すべてが、本当の愛を知らないのかも。

そうなのかもね、とメリーは小さく笑って、もう一度私に仮初の愛をねだった。

§ 閉幕 §

もう一度、彼は蛍達に命じた。この山全体を星空のミニチュアとして、その改変を空に再描画する。穂多留比ほたるびという名前は、歴史書や神話に登場こそしないけど、きっと為政者に都合が悪かったからだけなのだろう;やはり何度見ても神妖かみさまと呼ばざるを得ない。波打つ光の洪水が、巨大な一つの意思に従って展開していく。見事な複製星空が山体に描き出されている。

何も知らずに見ていたら、ただの綺麗な夏の風物詩なのにね

こんな密度で飛んでたら流石に異常現象を疑うけど……綺麗なことには変わりないかしらね。蛍だから綺麗というより、クリスマスのイルミネーションを見ている気分

ふふ、ちがいない

眩いほどの緑光の洪水に祝福されながら、エーテルの風に巻き上げられて紫色の霧が天に上っていく。地上に描き出された星座の呪力が再び空を書き換えていた。パララクスは再調整され、星の姿:主に月と天の川の七夕三星について、あるべき姿を取り戻していく。ベガとアルタイルは光同士の抱擁を諦めて離れていく。七夕は、終わり。

うわ……星が動いてるの、見える……

ヤバいよね

これがもう害をなさず、その仕掛け人のこともよくわかっていて、喜ぶべき変化だと知っているから、純粋にピクニック気分で天体ショーを見ることが出来る。少々地上が明るすぎて星が見づらいのが難点だ。ここにサンドイッチと紅茶でもあれば最高だったのだけれど、あるのはへとへとに疲れた女子大生二人だ。一定程度の登山姿だけれど、今は疲れてウェアも靴も脱ぎ捨てて、山の地面にひっくり返りたい気分。

最初にこれをしたときと違って、今の静しずるくんは完全に人間の姿で蛍達と交信している;触角もなければ翅もなく、地上に足をつけたまま光のレギオンを操作していた。さっき言っていたことは本当で、きっと本当は力を使い果たしているのだろう。メリーが溶断した世界際からの回生エネルギーで地上の恒星アステリズム・プリントを行使しているだけで、彼自身はきっとまた幾千年の時間を待たなければ元の力を取り戻すことは出来ないのかもしれない。

悪いことしちゃったかな

なにが?

一〇〇〇年とか二〇〇〇年とか、無駄にさせちゃったから

えっ、そうなの?怒られない?

怒られる、ときたか。彼女らしい表現で嬉しくなる。ああ、メリーが隣りにいるんだ。

あはは。そうだね、普通の神妖かみさまなら罰があたって死んでそうだ

あの子、普通じゃないの?

ハーフ異星人だからね

……はあ?

事情を知らないメリーに全部話すのは結構骨が折れそうだ。でも、それもまたいいかな。いつも一緒にいると、自分の内部を改めて相手に伝えることに、怠惰になってしまう。その怠惰は……幸せかもしれないけれど、決して褒められたことじゃないんだ。そして容易に……すれ違いを生むようになってしまう。私にそれがちゃんと出来るだろうか。また彼女に家出させてしまったり、しないだろうか。

もしそうなったとしても、絶対に彼女を探しには行く。絶対に見つけて、また謝るんだろうな。そんな離合が年に一回もあっては堪らないけれど。

おつかれさま

ご迷惑をおかけしました

あははっ、もうそういうの、もう通り過ぎてるでしょ?〝ご迷惑〟って。世界消し飛んでたかもしれないのに

神妖かみさまらしいズレ方ね

蛍達が、配列して一斉に輝きを増し……そして静かに消灯した。終わったのだ地上の恒星アステリズム・プリントが。

メリーのこめかみに、とんと自分のこめかみをあてて、視線を束ねる。月を見て、と促すと彼女はその方を指さした。裏返って失われていた月影が、取り戻されている。私にもその姿が、きっと同じ月が見えていた。

§

疲れて動きたくない、なんて言いながら背負子の中の非常食を取り出す。人工甘味料と凝固剤で作った対して美味しくない疑似羊羹。メリーも同じ物を持っていた、そりゃそうか、こういうときの装備一式を作っているのは私だ、同じものを突っ込んでいて彼女もそれを持ってきたのだろう。半分食べる?なんて静しずるくんに差し出すと、顔色を変える。嫌なのかなと思ったら、嬉しそうに頬張り始めた。甘いものが好きだったのか。可愛いなあ。

星空の動きが落ち着き、古代蛍達が姿を消し、山間の辺鄙な空間は元通りの辺鄙さを取り戻していくのを見ながら、所謂積もる話というのの端緒を口にする。そう簡単に話し終えられるものではない、ここで話しきれずにきっと、帰宅してからどちらかの家でお酒でも飲みながら続けるのだ。私が終わればきっとメリーはメリーで彼女の世界の出来事を教えてくれるのだろう。そうした互いに欠落したものを交換する交流が久しぶりで、酷く楽しみに思えた。

ねえ蓮子、彼の言っている〝幻想郷〟って

ええ……恐らくあの時のドリームランドのことだわ

メリーが扉を通って失った二週間、やっぱり実は幻想郷に行っていたのかな。それとも並列する近似世界?

何言ってるの。私は、常陸国にきて待っていただけだもの。扉を通ったのは蓮子よ。

ええ……?流石にそれは無理がない?

手を出せと言って出してきて、その手がこちら側に通行してきたのだ;開いたのはメリーだろう。私の嫁は、途方もない。一体何の加護を受けてそんな力を持っているのか、知りたいようで知りたくない。私の目なんかメじゃないっていうか……ああ、私、彼女の傍に居続けるためにこの目を授かったんじゃない?なんて運命をでっち上げるイタい女になりそう。

今のメリーになら、幻想郷への扉、開けるんじゃない?

だから、通ってきたのは蓮子だってば。地蔵を倒して扉を開けたんでしょ?

ポジショントークだわ。大丈夫だよ、きっとまたメリーが開けてくれるから。今すぐとはいかないけど。

ねえ蓮子、あなた私のことを買い被ってるわ。そう何度も何度も上手くいくものでは

買いかぶりじゃないでしょ;さっきやったこと、この場にいる全員見てたんだからね。

全員って、たった二人で地球人類の総意ぶらないで

たった今、地球に人類が生き残ってるのだってメリーのせいなんだから

せいって

なんでこんな事やってんのよ、と叱られながらメリーと一緒に地蔵を立て直す。重い。誰だよこんなアホなことしたの。私の顔しか浮かばない。

立っているときはあんなにも座りがよかったのに、一度倒してから元に戻そうとすると何度やっても不安定だ。土台の方にゴミが乗っかったかと思って払ってみても全然噛み合わない。ズズズ。ダメだ。逆に小石とかが挟まってたことで安定してたんだとするともうお手上げだ。

静しずるくんがなんかちょうどいいサイズ感の小石を差し入れながら、呟く。地蔵は安定した。

門を閉じたから香香瀬織かがせおはここには来られないって言っていたけど……考えてみれば彼女、ワームホールの開通を一番早く知ることが出来る立場だったんだよ。通過には十分な時間があったでしょ。先導だったわけだし。今度は物理的な本物の突入艇虚舟で、どこかの海に漂着しているかもね。あんなこと言った手前、常陸国の海辺ではないだろうけどね。外国かも。

メリベリーさんが膜壁を通過したときのポテンシャル変化は……香香瀬織かがせおが通過したときの……?

キミが用意したエネルギーじゃなかったんなら、どこから湧いてきたのかって話だけど

地蔵が安定したのとあわせたように、きょとん、とした顔で停止している静しずるくん。

香香瀬織かがせおのこと、ちゃんと考え直したら?キミだって本当はそうしたいんでしょ?

そんなの……少女趣味です

そうだよ?世界は可愛く出来ていないとダメなんだ。誰かとの関係性でないと許されない、それは残酷なくらいに。

安定したように見える地蔵を、少しばかり左右から力をかけて確かめてみる。ぐらつきは収まっている。ふっとばしてしまった赤い頭巾と前掛けをつけ直す。背中に亀裂は……よかった、本当に割れたわけじゃなかったっぽい。

香香瀬織かがせおはなんで、地球を侵略するなんて事を言う必要があったんでしょうか。

大義名分が必要だったんじゃない?向こうでも追放されたからもう一度受け入れてくれ、なんて言えなかったとか。もしくは、播種船団の建造自体は本当だったのかもね。それが来るのはいつになるかわからないけど、その警告だけしにきたとか?

乙女心よ、これだから物理屋は。わかってないわねぇ

適当に乙女心とか言っときゃそれっぽくなると思ってるでしょ

なによ、嫁の探索に二週間もかかったくせに

こんな意味不明な謎掛けを自力で解いてここに来たことの方を評価してほしいわ

この子のおかげでしょう?

そうだけど!

地団駄を踏むが、こういうときのメリーには私の思考パターンじゃ何を言っても躱されるのをよく知っている:相手にするだけ無駄だ。引き分けを提案する。ああ、さっき潤んだ目で私の唇を奪い去ったメリーは、また幻想郷に行ってしまったのだろうか。

彼女の真意は本人に問い糾さないとわからないね

そう。実際のところは、何もわからない。本当はもっと深刻な状態なのかもしれないし、香香瀬織かがせおは地球にはいなくて扉の向こうに追い出されたままかもしれない。今はもうここでそれを判断することは出来ない、それが判明するのは―

彼女を探すんでしょ?この星の何処かから、出会えるまで。

彼は小さく、でも力強く頷いた。

七夕の伝承、もうしばらく続くね。

私達のせいだといえばその通りだけど、下手をすればこの世界の物理法則全てが書き換わってしまっていたかもしれないし、そうなれば香香瀬織かがせおと彼は再会どころの話ではない。私達の生存を独善的に喜ぶにせよ、ある意味では大団円と言っていいでしょ。

私が「何時なり也Order Bye」を問うた時のように、結界を見るのではなく「見えるかたちに」組み替えて見せたメリーには、隠しきれない疲労の色がある。あの紫の霧から押し出された空間を実際に実在させたのは宇宙が持つ超統一的な物理の作用に他ならないと考えているけど、それをトリガーして乗りこなしたのは紛れもなくメリーだ。穂多留比しずるくんは、失敗した。閉路に気付かなかっただけかもしれないが、もしかしたら本当は成功していたのにメリーがインタラプトしたという可能性もなくはない。

それも、今となってはどうでもいい。彼がもう一度試みるというのならそうすればいいが、きっとしないだろうなという気がする。きっと、ここで香香瀬織かがせおを探して待つ筈だ。

あー、色々あったけど、メリーも見つかったし丸く収まったってことで……。宿、期間で取ってるから。とりあえず帰投しない?

賛成。あ、前に来たときのラブホ?

そ。人数変更効くかな

受付の人ガバガバだしなんとかなるんじゃないかしら

途中で自販機コンビニスポット寄ろう。ご飯と……呑まないと無理だわ。積もる話もあるし。

始まったわ、酒乱蓮子。程々にしてよ

今日は許してよ、打ち上げみたいなものだよ?メリーも呑むっしょ?

まあ……それより私の二週間、何処に消えたのかしら……

私が使ったよ、そういうことにしていいからさあもう

ともかく、メリーの疲労感は間違いないし、私も疲れた(いろいろな意味で)。静しずるくんに至っては……途方もない時間がここで水泡に帰したのだ、これが神話の世界なら苦に思って神様も自殺するシーンだし、本当にそうされてはかなわない。これはもうさっさと日常に逃げるしかない。

すっかりくたびれてしまった三人、とぼとぼと坂を下る頃には、もう朝ぼらけ。黒かった夜の帷は濃紫ににじみ始めていた。

よーし、かえろ、かえろ!

バンザーイと両手を上げて事態の完結を宣言する。これ以上事態が複雑になってほしくない。一応目下の問題は収めたのだ。残るのは、何年後になるのかさえわからない、高天原からの来訪。その頃まで人間社会がこの地球に残っているかどうかもわからない、核戦争とかで自滅でもしていなければ、一旦申し送り事項でいいだろう。申し送る相手なんかいないけど。地球人類、頑張ってね。

§ 宅飲み §

ぷはあ!!生きてる、私生きてる!

思わず魂の声が吐き出されてしまった。

世界の秘密なんて暴いて回っていたら正直命が幾つあっても足りないのだが、こうしていつも命からがら生き延びている。スリルが欲しくてやっているわけではないけれど、結果的にそうなってしまうし……そうしている内に段々と生の実感が甘美に思えるようになって生きているのは確かだった。

西暦二〇〇〇年代くらいまでは冒険家なんて人が生き残っていたらしい。この地球には今日今現在でも未踏の土地はある。山の中にもあるし海の底はほとんどわかってない。海の底の更に下なんてぜんっぜんわかっていないのに、放置して宇宙に行っちゃって、まあそれも冒険みたいなものだとは思うけど……そうして宇宙に手を広げた挙句が今回の秘封倶楽部フィールドワークにも繋がっている。でもそろそろマジで縮小しようかな。縮小したくても■がさせてくれるかはわからないのだけれど。あれは、宇宙だろうが地球だろうが、今やもはや近所を歩くだけでも冒険になるようなやつだけど、それ故にその境目がないのだ。隣町に行くのと隣の銀河に行くことの区別がついていないクソだ。

蓮子その科白、何回目?

生せいの実感なんて、何回噛み締めたって味するでしょ!乾杯toastと同じだよ

かんぱーい

かんぱーい!

か、かんぱーい……

直後にからん、とテーブルの上に放り投げられた缶が軽快な音を立てた。軽快なのは音ばかりで、それを投げ捨てた本人は完全にできあがっている。私よりもよっぽど飲んでいるのはメリーだ。

安いのだか気取っているのだかよくわからない感じのソファに三人で腰掛けて、酒を煽っている。メリー、静しずるくん、私。女の間に挟まった男の可愛いのはお店とかでよく見る光景だが、これが完全プライベートなんてちょっと贅沢。まあ、この子ニンゲンじゃないんだけど。

そ、そんなペースで……

メリーって飲み始めるとこうなのよね

あによ、呑ませたのは蓮子でしょお

静しずるくんにしなだれかかりながらも器用に次の缶を開けているメリー。

店で飲むときはともかく宅飲みではビールを呑まない人間のほうが厄介だ;お酒を〝嗜む〟のではなく〝酔う〟ために呑む人にむけて作られたような凶悪な市販品が数多く存在し、ビールはそれに比べれば遥かに優しい。それなりの店に行けば美味しい酒をちみちみ飲んで上品に振る舞うメリーは、宅飲みではぶっ壊れる内弁慶そのものだ。

なにが〝まあ呑むけど〟だよ、毎度これじゃん〜

呑ませてるのは蓮子!私は付き合ってるだけなんらから

付き合うなんて言いながら、私が一缶呑む間にメリーは二缶目を開けている。どっちが酒乱だか。

で。静しずるくんは飲んでるの?なんだよう、こんな可愛いのばっかり。これメリー用に買ってきたんだけど

えっ、そうなんですか?すみません

果実主体の低アルコールなやつはメリーに呑ませようと思っていたのだが、それを飲んでいたのは最初の二缶だけ。三缶目からはもう〝凍結〟シリーズ、もしくは無糖のハイボールをスコスコ開けている。

減ってないじゃん。元神様なんだからお酒なんて飲み慣れてるんじゃないの?

ですから、人間の身体にしたのは最近のことで……人間ってなんでこんなアルコール分解能力低いのにアルコール摂るんですか?馬鹿なんですか?

好きだからに決まってるでしょ。弱いから美味しいんだよ、お酒強い人ってお酒で気持ちよくなれなくて可哀想って思うけど?人間は自分の好きなものしか神様に捧げないからね。神様ってニンゲンなんだよ、体のせいにしちゃダメだぞ。ほら飲んで飲んで

いいいいいいですってば

静しずるくんの飲んでいる〝ぷちよい苺〟を取り上げてメリーの前に置き、代わりに新しい缶を幾つか並べる。

どんなのが好きなのさ

あんまり良くわかんないんですけど……前に飲んだのだと、漢方養生酒ってやつが

それってお酒じゃないよ……いやお酒だけど。ああ、じゃあこれは?〝ドクターイエーガー〟。自販機コンビニにあるの珍しくて買ってきちゃった

あ……これ、好きかもです

神様のくせに米より草なのか。それ結構強いからね。好きじゃない人は強く感じるけど、好きな人は平気だから行き過ぎるやつ

はあ

蓮子ー、これ冷えてないんだけどー

へいへい……

カランと空き缶が転がる音がして、また新しく開けている。

……メリベリーさん、すごい飲み方……見た目とのギャップが

酒は人を変えちゃうからね。まあ、想定内といえば想定内なんだけどさ。メリーはいつもこんなだから

いつもっていうなー、いつも奥さんに呑ませてる悪い旦那は蓮子でしょおー

そうだよ、悪い旦那だよ

顎を掴んでアルコール味のする口の中を味わう。酒を飲むと声が大きくなるメリーが、口一つでくてんと大人しくなる。これが堪んないのよね。

ごちそーさま

……もうっ///

ぷりぷり膨れるメリーの頭を撫でて静しずるくんを見るとメリーと私の方を見ないようにしながら顔を真赤にしておつまみの人工イカゲソを頬張っている。イエーガーにイカゲソは合わなくない?

あー……少年クン、いいのよぉ、減るもんじゃないから。こういう時に人に見せつけるの、蓮子の性癖だから気にしないでね

き、気にしますってば……!

男の子の反応って新鮮だね。……すぐわかって、可愛いぃ❤

わ、わちょっっ……

静しずるくんの股の間で、男の子のそれが大きくなっているのがすぐに分かってしまう。本当に、男っていう生き物はセックスアピールが強すぎる。なんでこんなに減ったんだろう、絶対たくさんいた方が面白いのに。

彼の股間に手を突っ込んで固くなったそれの先端を指先でくすぐると、静しずるくんはお酒を持つ手をブレさせないように無理に庇って逆に体を強くよじって、そうして身悶えた結果辛うじて缶をテーブルに逃した末に体を倒した。倒れた先はメリーの膝の上。手は、彼女のおっぱいに埋まっている。

あらいらっしゃい❤

あ……いや、これは……!

すごいだろー、私の嫁のおっぱいは。街の中歩いたら、みぃんなこれを物欲しそうな目で見るんだよ。そりゃあ、目の前で揉んで私んだって見せつけたくなるじゃん

もう……あれ恥ずかしいのよ……?

なんて言いながら、メリーは前を開はだけてその暴力的な乳房を静しずるくんの目の前に晒す。釘付けになってる静しずるくん。本当、男ってこんな肉の塊のどこが好きなのかわからないけど、覿面だよねえ。これ、赤ちゃん用なんだけどな。

ほら、少年クンも、見てみる?さわってもいいよ❤

えっ、あ、え……

目を白黒させて狼狽えているけど、その視線はしっかり彼女の爆乳に吸い寄せられている。メリーもメリーで、優越感の混じった表情で目を細めながら彼を見ている。ああ、これ、やっぱり気に入ってるな。

静しずるくんの目がメリーにばっかり向いているのが、何だか悔しい。メリーは私の嫁だし、静しずるくんに先に唾を付けたのは私なのに。

ちょっと。こないだいっぱい楽しませてあげた女のことをほっといて、初見のデカチチに目移りしてるんじゃない、よっ

メリーに対抗して私も見せちゃう。さすがにメリーには及ばないけど、それなりに自信あるし!

わ、えっ、ちょっと……酔っ払ってるからって!

んふふ、酔っ払ってたって、えっちなことは、下半身クンがちゃんとわかってるねえ?

素直でかわいーでしょぉ、このおちんちん❤私が見つけてきたんだよ?

なぁに?独占欲?それって重たくない?

えぇー?メリーといっしょに食べようと思ってさぁ❤

旦那が男ツレて帰ってくるなんて、嫁としては対応に困っちゃうわねぇ〜❤

そう言いながら静しずるくんの顔面におっぱいを押し付けながら、半ズボンから覗く少年のナマ太腿に手を乗っけるメリー。メリーの手って、そんな綺麗でスラッとしてるのに、すごくスケベだからなあ。あ、ほらもう静しずるくんの太腿愛撫してる。

私も負けじと彼の手を取っておっぱいを触らせる。ズボンの下で張り詰めてる先端を、もっと意地悪く撫でてあげる。

あッ……❤

えっ、なあに今の可愛い声。もっと聞かせろ❤ほらほら、女だぞぉ♪

男ってほんと、可愛いわよね。恥ずかしそうな声出して置きながら、目がだんだん怖くなってくの。かわい❤

わかる〜❤

それっ、って静しずるくんの体を押し倒すソファーの上で足を開かせる。可愛い声を出してひっくり返った彼の股の間に、ソファーから降りてたメリーが入り込んだ。私は横から彼の太腿に抱きつくみたいにして頭を寄せる。上半身を起こして体勢を整えようとした彼からは、美女二人が自分の股間に顔を寄せてる画えが見えるだろう。その反応が見たくて、私も、メリーも、上目遣いで彼の起き上がるのを待つ。

ふ、あっ……!?

もうお酒はいいや。こっち飲も❤

私も〜

メリーが静しずるくんの綺麗な脚を通して、ズボンをするっと脱がし取とった。ぱんつも要らないわよね、って有無も言わさず剥いてしまう。

あは❤さきっちょもうガマンしてる……愛液?で濡れてるわね❤ちゅっ

ひゃぅっ!?

静しずるくんのおちんちんを躊躇なく咥えてしまうメリー。指で髪を耳にかけながら口を大きく開けてるの、えっちだな……って。

ちょ、ちょっとメリー、抜け駆けズルいっ!

少年クンのおちんちんがおっきくなったのは、私のおっぱいの威力だもの。私が先に味わうのが順番ってものだわ

そうとは限らないでしょ、私のかもしれないじゃん!静しずるくん、どっちのおっぱいが好きだったの?男の子の素直な感想!

えっ、そ、それは……

むう……

あんなに大胆なえっちをした仲なのに、煮えきらない静しずるくんにちょっと不満。メリーが美味しそうに彼のペニスを舐めているところに私も鼻先を突っ込んで舌を伸ばす。メリーの吐息と静しずるくんのおちんちんの匂いが一緒に鼻の中に広がっていってくらくらする。欲しい。

ちょっ、蓮子……

わらひもっ!

メリーが先っぽから咥えてるから、私は竿の部分の横にハーモニカみたいに唇を被せる。舌でちろちろ舐めると、ぶら下がっているふわふわの袋がひゅっひゅって動いて可愛い。メリーが首でストロークを加えると、ふくよかな唇が静しずるくんのペニスでめくれ返って、その間から唾液が垂れてメリーの舌が顔を出す。えっちすぎ。彼のおちんちんを伝うように舌を遡らせてメリーと横キス。メリーの鼻息、荒い……多分私も。彼女の綺麗な顔には許されないような荒い鼻息、いけない物を見ているみたいで興奮する。目線を上げると、鼻の下を伸ばしてトロンとした表情で静しずるくんのペニスを見つめながらしゃぶりついているメリーの淫蕩顔。堪んない。

れ、蓮子

メリー、チューしよ……メリーのフェラ顔、エロすぎるって

もう、彼へのご奉仕は?

ちょっとだけだから……

んっ

ちゅっ、ちゅっ……れろっ。

仕方ないんだから、と困ったような顔をしながら私の唇を受け入れてくれるメリー。舌から静しずるくんのカウパーの味する。メリーが男のものをしゃぶってた、その口とキスしてる。

ふーっ……ん、メリー、はふっ……んっ❤

蓮、子っ❤

メリーの舌が入ってきた。いつもみたいな控えめな舌入れ。これは彼女が控えめなんじゃなくって、私の舌を誘っているのだ。芳しい唾液を絡めたメリーの舌は、私の前歯の辺りを行き来して歯茎を舐める。そうしていると焦れた私が、思い切り吸い付いて舌を奥まで差し込んでくることを知っているから。メリーがそれをお望みなら、してあげる❤私を煽るメリーの舌先をねぶってから、口を大きく開けてメリーの顎を誘う。私の開口に促されて彼女も大きく口を開けた。首をひねって……交差した口唇を重ねて顎を交え、舌を押し入れた。容赦しない、メリーの舌を遡って、その付け根まで舐めあげて、歯と歯茎をなぞり回す。唾液を注ぎ込んで有無を言わせずに嚥下させると、切なそうなメリーの声が鼻から抜けて響いた。食われる側の女の声。

男の股の間で、男に見られながら女の子同士で、本気のベロチューしてる。静しずるくんの目線が、私達のオーラルを無遠慮に見つめている。こども特有のくりくりした目が、欲情に煮えて、でもどこか切なそうに、私達のレズキスをガン見してる。

横目に滑りこんで来た彼の泣き出しそうな欲情顔、可愛すぎてもっと煽りつけたくなる。わざと唾液を飲み込まずに垂れ流したまま口を離して、べっとり汚らしい口元を見せて、舌なめずり。私が静しずるくんを見ると、メリーもまた同じように淫蕩な顔で静しずるくんを見上げていた。

静しずるくん、見て❤私達の本気のキス、だよ❤

少年、クン……どお?お姉さんたちのレズシチュ……❤こーふんする?

あ……うっ、は……はい……っ

素直でかわい♪

もっと見せつけちゃいましょ、蓮子。一緒に、おちんちん、しゃぶって❤

静しずるくん、私達のえっちな姿見ながら精子いっぱい作ってね❤

れろっ、ちゅっちゅっ……ちゅるっっ……❤

あむ……ん……れろれろれろっっ……ちゅっ❤

メリーとキス、その間に静しずるくんのおちんちんがある。舌を伸ばしてメリーの舌と交わろうとして、間にある熱い肉棒を一緒に舐め回す。唾液をまぶして舐め回すと、そこにはメリーの唾液が垂れていて、それは一滴も逃さない。メリーも同じように、私が静しずるくんのおちんちんに垂らした唾を、舌と唇と、スケベな吸入音を使って捕まえていく。竿。裏側。根本。玉袋と竿の付け根のY字の筋。亀頭とエラの境目、裏筋との縫い目。ありとあらゆるところで、私とメリーは、互いの名前と、たまに静しずるくんのことを呼びながら、唾液と吐息を交換する。

れろっ……はーっ、はーっ❤えっちな味ぃ……❤メリーの唾も、静しずるくんのおちんちんも、美味しいっ❤

ちゅるるるっっ❤ちゅっちゅっちゅっ❤蓮子の顔もスケベで可愛い……男の子のおちんちんごしのキスもドキドキするわね❤

う、あぁっ……蓮子おねーさん……メリベリーさんっ

あら、私のことはおねーちゃんって呼んでくれないのかしら?かなしいなぁ

おねーちゃんっ……

よくいえまひらっ♪

クチュ、ちゅっ、ちゅぱっ、つぷつぷつぷっ

くちくちくちっっ、くちゅっ

響いてる水音はペニスの麓からだけじゃない。メリーの口と静しずるくんのおちんちんの両方に交互にキスしている内に堪らなくなっちゃって、私、四つん這いで静しずるくんのおちんちんにしゃぶりついてメリーとキスしながら、オナってる。それにこの音は……きっとメリーもしてる。

静しずるくん、この音、何だと思う?くちゅ、くちゅっってぇ❤

こっちからも聞こえるわよね?ほら、すっごくエッチな音、聞こえるよねぇ?

えっあ……

ぴくんっ、って静しずるくんのおちんちんが跳ねる。わかっちゃったんだ、私達の下半身で何が起こってるのか。それを想像して、男の子としての威厳がぴょんってしたんだぁ♪

少年クン……かわい❤あむっ……ほら、おっぱいもさわって

ぐぽっ❤ちゅぷ❤れろっっ❤

メリーが亀頭を飲み込んで、私はそれを羨ましいと思いながら竿を舐めて玉袋を口に含む。口の中で、ひゅるひゅるとゆっくり上ったり下りたりしている睾丸は愛おしいけど、それはそれとしてやっぱり男の子にとって一番のところを可愛がってあげたい。

静しずるくん……❤

もう、蓮子ってばさっきから横入りばっかり……

だって……だって……

だって、と言いながら静しずるくんのおちんちんから目が離せなくて二人が堪え性のない私のことをどんな目で見ているのかわからない。左手で彼の玉袋を触りながら、右手で自分の陰部をかき混ぜている。メリーの唾液の匂いと静しずるくんの先走りの匂いが鼻の中を通る度に性欲が膨らんで行く。顔面全体で静しずるくんのおちんちんの根本に押し入って、メリーのえっちな唇から、彼のペニスを奪い取ってしまう。私だって、してあげたいもん。

スイッチ入った蓮子ってばほんとスケベ❤そんなにがっつくなら、ちゃんと彼のこといじめてあげなさいよ?

いじめないよ、かわいがるだけだよぉ

……うそばっかり❤

ぎゅぼっ、ぐぼっ、ぶちゅっ、じゅるるるっ!ぶちゅっ、じゅぽっ、じゅぼぼっっ!ずろろろっろろろ……ぶちゅっっっ!

ひ、あ!あっっ❤!

頭の上から静しずるくんの可愛い喘ぎ声が降ってくる。そんな可愛くてエッチなサウンドシャワー浴びたらおまんこしたくなるっ❤

れろっ、れろれろっっ、ちゅっ、ぐぼっ、ぐぼっ、ぐぼっ、ぐぼっ、ぐぼっ❤びゅちゅっ、ぢゅーーーーーーっっ!

ふーーーっ❤ふーーーーっっ❤ひふふうんしずるくん、ひもひひぃきもちいい?ふぶっ❤ん❤

訊きはしたけど答えはどうでもいい、決まってるから。可愛らしい、しっかりオスの匂いのするおちんちんを、無心でしゃぶってしまう。先端からとろとろ出てくる甘苦い汁の味と風味が……口中に広がると喉の奥に広がって、鼻の奥から後頭部にシビレを広げる……病みつきになる❤

男……男好きっ……メリーも好きだけど同じくらい、男も性欲の対象になっちゃう❤

口で静しずるくんのおちんちんに吸い付いて舐め回しながら、鼻呼吸で匂いを堪能する。横から入ってきたメリーが玉袋を舐め、竿をなぞり、私の頬にキスして:蓮子のスケベ:科白で煽ってくる。全部が、下半身に響く。右手でかき混ぜる淫裂がとくんとくんって心臓みたいに脈打って汁を垂らしてしまう。オナニー止まらない❤

っ!め、メリー……!

もう……おちんちん取られちゃったから、私はこっちを可愛がってあげる

私の手を穴から引っこ抜いて、代わりに……メリーのひんやりした指が入ってきた。

あーあ、こんなにしちゃって……❤こっちは私に任せて、ちゃんと彼にご奉仕して上げなさいな❤

ちゅっ、指を引き抜かれて寂しがっている淫裂にメリーがキス、その直後、彼女の指が……私の膣内の弱いところを知り尽くした嫁の指が、容赦なく私を可愛がってくる。

おっ❤め、り……あん……っ❤だ、ダメだよ、メリーは、私の弱いとこ全部しっ……んっ❤知ってるからぁ……❤

ダメじゃないでしょ?

イイっ❤おっ、指ちんぽっ……❤メリーの指ちんぽぉっ❤しゅきっ❤そこっ、そこそこそこっっ……❤

私の旦那様は、本当にザコマンコなんだから……❤ほら、少年クンがオスの目で蓮子のこと見てるわよ♪見せつけるのが好きなんだから、蓮子のスケベなアクメ顔、見せてあげましょ❤それが嫌なら、先に彼をイかせてあげて❤

い、いひわぅいぢわるぅっ……❤ぁむ、むぐっ❤

じゅるっ、ぶぼっ、ぶぼっ、ぐぼっ、じゅるっ……ちゅっ、ちゅっ、ぢゅるっっ!

くちゅっ、くちゅくちゅっっ、ぶぷっ、ぷちゅっ

私が静しずるくんのおちんちんを舐める音と、メリーの指が私の股間をかき混ぜて立てる手マン屁が、汚いハーモニーを奏でている。

私の口の中で彼のペニスが跳ね、腰が奥に逃げたりあるいは浮こうとするのを抑えているのがわかる。抑えなくていいのに。両手を太腿に乗っけてさり気なく逃げられないように押さえると可愛い声を上げて、逃げ場のない腰を前に押し出して……私の喉の奥に押し込んだ。

んぶっ……❤おっ……んーーっ❤ふーっ❤ふーっっッ❤れろっ……ちゅっっ、ばっ……❤

ご、ごめんなさい……蓮子、さんっ……すご、で、射精ちゃいます……❤

ごめんなさい、なんて言いながら静しずるくんは、私の頭を掴んで股間に押し付けてくる。彼の引ける腰を逃さなかった、仕返しと言わんばかり。子供のくせに、女の子をオナホ扱いすること、知ってる……っ❤

どぷっ!びゅ、びゅーーっっ、どぷぴゅっ……びゅぶっ、びゅっ、びゅびゅっっっっ……どくんっっ!

んっぐ……んおっ……ご……

は、ふ……ぁ……❤

押し広げられた喉に、直接精液が流し込まれる……彼の射精量が半端ないことは知っていて、喉の中で射精が始まった時点で私の体中がそのことを思い出していた。記憶も、感情も、全身の細胞一つ一つが彼の射精オスに対して、メス本能を呼び起こされる。喉の中で震える感触に、彼のペニス絶頂がそこにあることを教えてくれる。ああ、彼は、ここで、イッたんだ。私の体の中で、男としての性を私に向けて開放したんだ。注ぎ込まれる精液の感触が喉を通ってくのを感じる。胃に彼の重たい精液塊が叩きつけられる。そんなふうに注ぎ込まれたら、その場所が子宮だって体が勘違いしちゃう……❤

んご……っん……!

あ、あは……蓮子……すっご……イッてるのね……❤

背後からうっとりとしたメリーの声が聞こえる。メリーの指は私の膣を撫でていなかった、静しずるくんが射精に合わせて私の頭を押さえつけたのを、きっと驚いた顔で見ていたんだ;そのタイミングで膣の奥の弱い部分を押し込む感触が、途絶えた。でも、びりびりと性感が炙りつけられる感覚は止まらない、疼き捩れ、締め上がってそこにありもしない男性器への愛情表現は、止まっていない。それは喉に注ぎ込まれた精液塊の存在感が、全身に伝えた愉悦と幸福感と、その臨界突破。

ぶしゅっ、ぶしっっ

腰が跳ねる:さっき静しずるくんの腰がそうだったみたいに、快感から逃げようとして腰を引く一方で快感を貪ろうと割れ目を前に押し出すように腰を踊らせて、ふるえる。淫裂は勝手に広がって蠢いているのが解る。彼に頭を押さえつけえられたときにもう、下半身は変容していた。男の性欲の受け皿として。

おしっこするときに似ているけどもっと短くて、もっと圧が高い。尿意ではないけど近い、液体が噴き出した。潮吹き、メリーにされたから?違う。メリーの手マンが仕込みになって私、静しずるくんに喉を犯されて、胃袋を子宮にみなされて、注がれた精液を私の体は子作りの契のように感じて……達した。

シーツに派手な飛沫を描く。腰が跳ねて、なおも吹き出す液体が下品なシミを広げていく。

うわ……

ヤバい、ヤバい、ヤバイヤバイヤバイ……!マンコ止まんない、今のでイッちゃったって事実がブザマすぎてまた感じる……!メリーに見られている目の前で、こんな子どもにマジイキさせられて、喉だけで潮吹きアクメで敗北して……❤

両手が勝手に股間に向かった。口を開けて疼きまくってる濡れ肉襞を撫で回し奥に指を突っ込んで、メリーがしてくれるのも待てずに、そのままわがままオナニーしちゃう。

くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ……ぶっしゃ!ぶしゅーーーっっ!

んご……ん、ぐぶっ……❤

蓮子ったら……下ッ品……❤

メリーの、汚いものでも見るような、低い声が聞こえた。見られてる、イラマチオで喉まんこに射精されただけで潮吹きアクメする淫乱女のアクメ股間を。きっと蔑んだような目で、私のザコまんこを見てるんだ。

彼の手はまだ私の頭を股間に押し付けている。息が苦しい、喉が圧迫されて、鼻からの呼吸も自由ではない。喉の奥に存在し続けるオスの証。静しずるくんは、そんなレイプちっくな行為を続けながらも「ごめんなさいっ」と可愛らしいショタボイスを震わせている。あーもう、メチャクチャ……めちゃくちゃ、感じる……っ❤

ぶばぁっっ!えほっ、ゲホッッ……げほげほっ!がはっっ

喉からペニスが引き抜かれ噎むせこんでいると、まだ硬いままの彼のペニスが目の前に現れる。すごい:その文字が脳裏に描かれた瞬間口を開け舌を伸ばしたまま彼のペニスを手で扱いていた。

射精して❤射精して❤精子射精して❤

れ、蓮子さん……いま、はっ

彼の射精を煽るように舌をれろれろ動かして先っちょで亀頭を軽く舐めたり踊らせたりしながら、手で彼のペニスを扱く。左手でキンタマを優しく撫でながら、右手で亀頭を包む指リング。一度私の喉まんこで射精してからまだ落ち着く前だったからか、続けてすぐに射精。

どぷどぷっ、どぽぽっっッッ……!びゅーーっ、びゅっ、びゅーっっ❤

わ……ぷ……❤

口に狙いを定めさせていたつもりだったけど、想像以上の勢いで髪の毛に、額に、鼻に、そして口の中に。一拍置いてからまた立ち上がって、髪の毛。口で追いかけたけど上手く捕まらなくて、ほっぺた、鼻面、ほっぺた。瞼。顔面にたっぷりと吐き出された精液は、半固形で細長く形成されて私の顔面に線を引いている。

す……ご……

すごいでしょ、静しずるくんの……❤

メリーが驚きの声を上げているのを、私はまるで自分のことのように誇らしく思いながら、顔面にこんもりと乗っかった精液を指ですくい、舌を伸ばして舐め、口の中に流し込んでいく。鼻の穴に侵入してきたそれが、小さく提灯を作った。

くっさ……❤んく……い……イくっ……顔射だけで、また、イけそ……❤

はっ、はあっ、はあっ……れ、蓮子さん……ごめんなさい、僕

ふはっ……ん❤えへへ、もうっ、相変わらず、すごいん、だから……っ❤

飲み込んだザーメンの感触を喉で感じ、匂いのシビレを頭蓋に貼り付けて堪能していると、メリーが後ろから覆いかぶさってきた。私のだらしないアクメ面に顔を近づけて、迷いなくキスする。私にキスしてる……というより、私の顔面にへばりついたザーメンゼリーを舐めとって食べている。口の中で転がして味わいうっとりしたり、私に口移ししたり。オーガズム余韻でふわふわしたまま、メリーの口を迎えようと舌を出した瞬間……

げぐろろろろっ……っっぷ!

深くて長いゲップを響かせてしまった。胃の底から上がってくるザーメンの匂い。それを、メリーの顔面の目の前で。またも下品すぎるブザマを晒して、ぞくぞく身を震わせてしまう。

ザーメンゲップなんて、男性が登場する古典文学でしか呼んだことがないわ……すっごいのね。それに蓮子のそんなイき方、久しぶりに見たかも。ちょっと……嫉妬しちゃう❤

そう言って、ゲップといっしょに逆流しかける精液を飲み下し直している私の口に、もう一度舌をぶち込んできた。メリーの誘い受けじゃない、ガチ攻めのディープキス。脳味噌削られてるみたいで気持ちいい。

ふーーーっ❤ふーーーっっッ❤〜〜〜〜〜〜〜▔\_⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿……っッ❤❤❤

ガクッ、ガクッ……ぶしゅっ

また、アクメ。まだ性器セックスしてないのに……喉と口だけで、何回もイッちゃってる……❤

普通なら絶対ありえないのに、二人にされてるって思うと、何でも快感で、何でも何倍も感じちゃって……こんなの憶えたら、この3Pでしかイけなくなっちゃうよ……❤

メリー……しゅき……❤静しずるくんも、だいすきだよぉ❤

れんこ、おねーさん……ッ

うちの旦那様はエッチのときは本当に可愛んだから❤

えへへ……❤

酒入ってるのにスタートダッシュで何回もトばしちゃって、ちょっとグロッキー。彼の股の間でおちんちんに顔を添えるように脱力する、ちゅっ、って玉袋にキスすると、ひゅひゅっ、て迫り上がった。愛しくなっちゃう。

もー、蓮子ったら、見せつけてくれちゃってぇ……私のことなんか忘れてイキまくって、ひどいわ

ごめんってぇ、と答えるけどもうヘロヘロ。静しずるくんの細い太腿に抱きついたまま座り込んじゃって動けない。

蓮子のことはしばらく休ませときましょ。ね、あんなの見せられたら、たまらないわ。

わわ……っ

メリーは服を脱いでベッドに移動して静しずるくんを手招きする。ふらふらと光に吸い寄せられる虫のようにベッドへ向かう静しずるくん。メリーは彼の手を引いてベッドに引き倒すと、そのまま上に覆いかぶさって、見事な長乳を彼の顔に乗っける。

うわっ、あ

うふふ、いらっしゃい。今度は私と遊んで?

疲れちゃった私はソファーから二人の四肢が絡み合うのを見ている。なんていうか……艶めかしい。休憩したら私もまた混じるんだから。テーブルの上のお酒の缶を適当にとって飲み干す。あーしみる。セックスしながら呑むアルコールって堪んないよね。あんまり呑みすぎると気が緩まりすぎて落ちちゃうけど。呑んで気が大きくなっていないと出来ないことってあるもんね。メリーのあんなの、シラフでベッドに連れ込んだって普段は絶対しないし。特に男相手なんて。

今まで男の人ってあんまり経験がないのだけれど……可愛い顔しているのにすっごい射精だすのね。男の人ってみんなこうなの?

わ、わかりません……多分、そんなことない、と思います

蓮子の言うとおり、少年クン、メチャクチャ好みなの。私の相手も、してもらえる?

もらえる?なんて聞いといて、メリーったらもうレイプみたいなキスしてるじゃん。口の周り舐め回して、鼻まで唾液でべっとべと。あんな下品なキスされたらコーフンするよね……。

ぶちゅっ、べちょっ、ちゅるるるっっっ!

見てるこっちまで聞こえてくる、強制ベロチュー。静しずるくんのちっちゃい口から唾液ダラダラ垂れてるの、可愛いなあ。メリーにされるがまま。それに、さっきあんなに私の口に射精したのに、もうすっかり復活してる。

ねえ。私、香香瀬織かがせおって人と似ているのでしょう?いいのよ、その人の代わりだと思っても❤

や、やめて、ください……っ

メリーったら悪趣味。でも、効いてるなあ……静しずるくんのおちんちん、バキバキに復活してるじゃん。やっぱり、本当は恋しかったんだね。メリーのデカ長乳を顔面に乗っけられて、耳まで真っ赤にしてる。

ふふ、香香瀬織かがせおって人は、こんなことシてくれたかしら?乳輪までおっきいのはちょっと気にしてるのだけど……気に入ったら、吸っていいわよ❤私、おっぱいされるの好きだから❤

か、香香瀬織かがせおは、こんな風には……っ、しな、いですっ

どうかしら。女性なんでしょう?みんなおんなじよ。相手の遺伝子が欲しいと思ったら、こんなことだって、するものよ。だからあなたも私にしたいことをしていいのよ、穂多留比?

そっ、その呼び方……その顔で、しないでくださいっ……

どうして?

あなたは、香香瀬織かがせおじゃ、ない、からっ

今だけだから。今だけ、私、香香瀬織かがせおになるわ。穂多留比ほたるび専用の……お・ま・ん・こ❤

うっ、あ……かが……っ❤

びゅっ、びゅっ……!びゅーーっ!がくっ、がくんっ!へこっ、へこっ……

あら……おっぱい見てるだけで興奮しちゃったのね。ちょっとコスっただけで、こんなに射精して……すごいわ、お腹にびちびち活きのいい子たちが❤おヘソをおマンコだと思っちゃった?

ちが、っ……僕……

泣かないで、お腹にあたってた射精、力強くて、かっこよかったから❤男らしかったわよ、穂多留比ほたるび❤

で、ですから、その顔で、そんなこと……っ

メリー、もしかして本物の香香瀬織かがせおから、静しずるくん寝取るつもり?ガチじゃん(笑)

静しずるくんの上に跨って、立ち上がっているおちんちんがちょうど割れ目をなぞる位置に腰を据えるメリー。入りそうで入らないを保ったまま腰をくねらせている。

ヌルヌルしてるの、わかる?欲しいのよ、あなたの。蓮子にはお口に射精したけれど……私には、ココに欲しいわ

う、うあ……っ❤

蓮子が気に入るわけだわ。あなた女の子のおまんこイライラさせる天才でしょう。香香瀬織かがせおって人もきっと同じだったわよ。あなたのこと、スケベな目で見て、こんなふうに股の間濡らしてたわよ

ふーっ、はっ、はっ、はあっ

言葉を発さないまま興奮で暴れる呼吸で答えている静しずるくん。暴発したペニスには精液の残滓が絡みついていて、そのヌメリごと舐めるようにメリーは濡れた陰部のスジに沿わせて動く。

ほら。ココ、で、あかちゃん、つくろ❤穂多留比ほたるび❤

〜ッ!

びゅっ、びゅっ……!

あはっ、そんなに欲しがってくれるのね、嬉しいわ❤

ふ、あっ、メリベリー、さんっ……❤

メリーが、自分の巨長乳の先端を静しずるくんの口元に寄せる。あの暴力性器のデカチチ巨乳輪で顔面圧迫されて、静しずるくんってば幸せそうにおちんぽ勃起させてるじゃん……。まあメリー相手じゃ無理もないか。

赤ちゃん作るんだから❤おっぱいもちゃんと開発してね❤ほら、これよ、赤ちゃんにおっぱいあげる練習、させて❤ほら、ほら、しゃぶって❤さっきあなたのおちんちんにしてあげたみたいに、乳首、フェラチオして❤

ふあ、む……んぐ、むぐっっ❤

さ、最初は優しくよ?いきなり歯立てたりシちゃ……んいっ❤いきなり強いのは、だめよおっ❤えっちっ❤エッチな赤ちゃん、おっぱいがっつきすぎっ❤乳輪ごとコリコリかむの、ナシっ❤気持ちよすぎちゃうからっ❤ふーっ、ふーっっ❤かと思ったら舌、やさしっ❤くるくる丸くなぞってきて、スケベな舐め方……やさしくてえっちよぉっ❤

ぁむっ……むぐ、はむ、はむっ、ちゅっ、ちゅるるるっっ、ちゅぱっ、メリベリーおねえちゃんの、おっぱい、おっきくて……柔らかい、ですっ❤

マエリベリーよっ、ちゃんと呼べないのなら、香香瀬織かがせおって呼んでくれたほうがマシだわっ、ほら、穂多留比ほたるび、もっと吸って、おっぱいもっと強く吸って、噛んでっ❤

ちゅっっ、ちゅうっっ、かりっかりかりかりっ、ぎゅっ……ぢゅっぢゅーーーっ

あんっ……すっご❤おねーちゃん、そろそろおまんこのイライラがゲンカイ……❤するわよ、セックス❤子作りセックス❤おちんちん、またおっきくしてね❤

圧迫授乳ポーズから、種受けプレス姿勢に移行したメリー。静しずるくんの小さい体は、おちんちんを挿入しながらメリーの乳肉に埋もれて潰れている。呼吸も辛そうなのにメリーの割れ目に重なったおちんちんはガチガチに硬いまま。静しずるくんってば、見た目によらず変態くんだよね……❤

ぱくぱく動くラビアで肉棒を咥え込んだメリーは、べとべとに濡れて糸を引くお腹の水気に気づいた。

うふふ、おっぱい吸いながら、これ、何回射精したのかしら?べっとべとで……すっごい匂いよ❤

うう

ほら、何回射精したのかおっしゃい

そんな、こと

言わないと、いれてあげないわよぉ……?

メリーがねっとりと絡みつくような声で静しずるくんに警告しながら、ゆっくり腰を動かす。空撃ちしてヌメリに包まれたおちんちんと、ショタ喰いの興奮で濡れたマンスジがぬるぬると擦れている。ゆっくり腰をくねらせ、でも挿入せず、彼にやらしい告白を迫る。

さ、さんかい、しました……っ、おねえちゃんのおっぱいで潰れながら、三回射精しましたっ

よく言えました。いいこいいこ❤じゃあ、もっといっぱい、射精させてあげるわね……おまんこで❤

軽く腰を持ち上げたあと、正確に静しずるくんのおちんちんを飲み込むメリーのおまんこ。既によだれを垂らして開ききっていた穴は抵抗なく彼のペニスを飲み込んだ。

肉厚の淫唇が、ショタちんぽをレイプまがいに食い散らかしている。無遠慮に腰を振って、少年の性を貪るメリー。下半身に体重をかけて牝凹と牡凸を打ち付ける。

ばちゅっ、ばちゅん!ぱんぱんぱんぱんっ!ちゅぶっ!ぐぼっ、ぶちゅっ、ちゅぶっ!

大きく柔らかな穴に、小さくて硬い肉棒を激しく出入りさせる、空気を巻き込んだ汚らしい肉水音がホテルの室内に反響する。音もすごいし、匂いもすごい。ソファーの二人の営みを見せつけられて……正直アテられちゃう。休憩してたはずなのに……メリーと静しずるくんのセックス見ながら、またオナニーしちゃう……❤

んっ、ふうっ❤少年クンっ、気持ちいい?私のおまんこ、気持ちいい?いつでも射精していいからね、膣内で思いっきり❤これは子作りセックスなんだから、外になんか射精しちゃダメよ?おっ❤ん❤あっあっ……んあっ❤おンっ❤ちんちんすごいっ❤固くてっ、たくましいっ❤かっこいいっ❤男の子っ❤射精せっ❤射精せ射精せ射精せ射精せっ❤絶対子種もらうんだからっ❤精子膣内に射精せっ❤孕ませなさいっ❤

少年の腰の上で暴力的な腰振り、相手のことなんか考えてない肉摩擦の強制。和姦風のレイプ。メリーの淫乱腰振りに肉を伸ばして静しずるくんのおちんちんに絡みついて離れたがらないマン肉。腰を打ち付ける度に新しいマン汁を分泌して二つの肉が絡みあう。長く垂れた巨乳が静しずるくんの顔面を覆い潰している。上半身は乳圧に潰されて自由が制限されているが、静しずるくんは乳肉の海で溺れながら、痙攣するように腰を上に振ってメリーの膣内へ還ろうとしている。メリーがちんぽを貪る腰振りと、静しずるくんがまんこに還ろうとする腰振りが、激しく打ち付け合いながら匂い立つ汁を撒き散らしている。

んグぅぅっ❤❤❤ちんぽいいっ❤ショタチンポじゅぼじゅぼするの好きぃっ❤❤❤ふーっ❤ふーーっっ❤❤❤ほらっ❤ほらほら、ほらほらほらっっ❤さっさとイけ、いっぱいイけっ、射精だせ、射精だせ射精だせ射精だせ射精だせ射精だせ射精だせ射精だせっっ❤私に種付しろっ❤子宮が赤ちゃん作りたがってるの❤グッ、おっおっ❤オォっン❤危険日のまんこに孕ませ汁注ぎ込めっ❤女孕ませて男らしいところ見せろっっ❤❤❤おっ、おっ、んぉおおおおぉぉっっ、お▔\_⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿イグ、イグ、イグイグイグっ❤❤❤

むぐっ、むっ、んぐーーっ❤❤ふぶっ、ふーーーっっ❤❤❤

びゅっっ、びゅーーーーーーーーっっ❤ぶしゅっ❤

人形みたいに可憐な見た目、美少女と言うに相応しい端麗な容姿の口から聞こえちゃいけない、野太い汚声。仰け反りながら絶頂宣言を叫んだメリーは、肉を跳ね付かせて余韻に浸っている。長いアクメ波に揺れながら、静しずるくんのペニスを飲み込んだワレメ肉をゆっくりと動かして……わかる、あれはおちんちんの中に残ってる最後のザーメン残りまで全部吸い出すための動き……メリー、本気で受精しにかかってるんだ……❤

膣の中に彼の濃厚半固形ザーメンを受け入れながら、尿道から絶頂潮を吹き散らかしているメリー。淫汁スプレーを噴霧する度に腰を前に跳ねさせて、その動きが絶頂の上に更に摩擦を掛ける形で互いの性器をオーバーキルしている。

お……ぅ……❤んお、んおぉぉ……❤❤おーーーーっ……❤ほぉっ❤❤❤

鼻の下を伸ばし涎を垂らす下品な発情顔で、静しずるくんのカラダにマウントしたまま絶頂余韻に酔っている。あんな顔のメリー見てたら、こっちのまんこまでもらいイキしちゃう……❤やがて下品な長乳をひり伸ばして彼のカラダに被せるように倒れ込んでベッドに二人仲良く横になる。

キス、してる。落ち着かない呼吸。暴れまわる心音。きっと二人は肌をくっつけてそれを分かち合いながら、絶頂後の快感余波を楽しんでるんだ。

羨ましい。私も……私も……っ。

むーーー!

わっ、起きてたの、蓮子

寝てないよ!ずっと二人のセックス見てたよ!なんかイライラする!次は私だよ、静しずるくん!香香瀬織かがせおはおしまい!次は恋敵の建葉槌たけはづちをやっつけて!ほら!

私もベッドに向かった。アソコは薄らほんのりのもらいアクメで、欲求不満状態。喉でイッたあと、ちゃんとココでイッてないのが、切なかった。メリーと静しずるくんのあんな激しいのを見せられたら、なおさらだ。

私はメリーを挟んだ反対側、静しずるくんの隣で、でーんって大の字になって見せる。我ながら馬鹿。

でもバカみたいな態度のセックス要求に、静しずるくんは私の上に乗っかってきた……マジな顔して。オスって、女なら何でもいいのかな……❤

蓮子さん……

たけはづちだよ!

ふふっ……

あっ、笑ったな!こっちはこれでも必死なんだよ!?だってズルいじゃん、メリーが元カノとおんなじ顔なんてさ。そんなの静しずるくん絶対メリーとやるじゃん

だってさ?

メリベリーさんは香香瀬織かがせおじゃありませんし……そ、それに蓮子さんだって……じゅ、十分……魅力的、です……

男らしく可愛らしいマウントを取ってきた静しずるくんの体を、全身で抱き包む。まだペニスを受け入れられていない膣が、きゅんきゅん疼いている。喉まんこでイキ、手マンで空イキしただけの絶頂飢餓が、本番セックス欲求を堪らなく高めている。

メリーほどの業物ではないけど、私の胸も結構なもんだと自負してる;メリーとのセックスでおっぱいの扱いを覚えた静しずるくんは私の胸も同じように触ってきた。……結構、乱暴❤体重をかけるほど乳肉袋を押しつぶして、中にある乳イきスイッチを探るみたいに揉みしだく。乳輪のこりこりと乳首を一緒くたに掴んで、搾るみたいに捻る。無遠慮に噛みつく。

おっ❤こ、こらっ❤そんなおっぱい弄り、私やメリー以外にやっちゃダメだぞ❤そういう乱暴な愛撫はマゾ乳にしか気持ちよくないんだからっ❤

そう言いながら、彼の頭を乳肉に沈めるように押し付ける。乳肉の中で彼の呼吸音と喘ぎ声が振動した。それだけでも気持ちいい。そして吸い付いた乳首にかりかりと歯を立てて噛みつく。

んっ❤お❤アんっ……❤おっぱ、い……っ❤

蓮子、おねーさん……っ

……そーやって、たまにお姉さんって呼ばれるの、すっごく好きかも……❤

性欲とも母性本能ともつかない強烈な愛着が、バグって子宮を加熱させている。彼に触れられるだけで前進を愛欲が駆け巡って臍の下に戻ってきた電流は卵巣に何らかの司令を与えている。排卵?しちゃうの?女同士でのセックスじゃ絶対に不要な機能。本物のオスを目の前にして、自分は牝なんだって、牡に与えられてその役目を果たす生き物なんだって、じわじわと染み込んでくる。

細くて小さい彼の体が精一杯にオスを主張している;その様に、下半身は強烈に反応していた。このオスから、遺伝子を受け取らなければ。本能が訴えてくる。

卵巣から発情ホルモンがドバドバ出てるのが理解わかる。性欲高まりすぎだし……感度マシマシになってる。今ちんぽ挿れたら、絶対ヤバい❤欲しい❤

セックス、セックス❤セックス❤やっとセックス❤❤❤本番セックス❤❤❤

ペニスを入れようと体を起こして股の間に体を割り入れてきている彼に向かって、濡れてぐじゅぐじゅになったスケベ穴を、くぱぁと開いて見せつける。欲情しまくった膣口も、潮を吹きまくった尿道も、きっと下品に口を開いて濡れそぼって、オスを誘っている。その証拠に……静しずるくんの目が私の股間に釘付けになっていた。見てる……オスが、私の性器を……❤

相手は神様とはいえこんな小さな少年、腰を浮かせて波打たせ子供相手に本気の牝煽りをして、見られて感じて、性行為をせがむなんて……私、女として最低❤それとも、これが男っていう生き物の力なの?

じゅく、じゅく、と股間で汁が湧き出すのが自分でもわかってしまう。指で広げた肉ビラがゆっくりとうねって、入ってくるはずの肉を待ち構えてる。早く❤早く❤

ねえ、来て、静しずるくんっ❤私のおまんこ、準備万端すぎて……切なくなってるから❤

にゅる、と何の抵抗もなく私のそこは、彼のものを飲み込んだ。初めて入れたわけじゃないはずなのに、メリーが見ているからなのか、それとも色んなものに片が付いた後だからなのか、彼のカタチをすごく素直に感じられる。膣内で、エラの出っ張った感じとか、竿の中程がほんの少し膨らんでいる具合とか、私の膣粘膜で彼が感じてぴく、ぴくと動いてるのも、伝わってくる。

蓮子、さん

いいよ、好きなように動いて❤今日は、静しずるくんのかっこいいところ、見たいよ

正常位で結合しても彼の小さい体は私の脇腹あたりで手を突くことになる。キスなんか出来なくて、挿入したまま体を倒しても彼の頭はおっぱい辺りに落ちてしまう。

ちゅーしたいよ……可愛いショタとキスハメしたいのにぃ❤

それを口に出しては、おまんこがさみしくなっちゃう。キスはグッと我慢して、下半身で彼と精一杯交歓することに集中する。そう思ったら、きゅっ、って締まった。

我慢している、というより今にも泣き出しそうな切ない顔で私の膣内を動く静しずるくんのおちんちん。体ちっちゃいのにおちんちんは長いから……すごく深い❤

奥、届いてるよ❤この前したときより、ドキドキする……❤

すっごいイチャラブじゃない。妬けちゃうわ

むー、さっきは私が妬いてたんだから、おあいこだよ

どっちに?彼?私?

両方っ!完全に寝取られ気分だったんだから!

鬱勃起

してないっ茶化さないで。今、本気で、疼いてんだから

じゃあ……私にもしてよ。私、蓮子としてないのよ?

あ……うん

メリーもベッドの上に乗ってきて……じっ、って一瞬私の顔を覗き込んでから……唇に吸い付いてきた。舌が入ってきて……すごく積極的、私の中を舐め回してくる……❤

メリーのアグレッシブなディープキスに驚いていると、今度は私の手が握られた。手を握ってキスなんてロマンチック、と思ったらメリーは自分の股の間に私の手を導き入れた。

すごく、ぬれてる

静しずるくんの精液の感触も混じっているけど、メリーの欲しがり汁だ。指をく、と動かしたら、彼女の頭が跳ねてキスしていた唇が外れてしまう。追いかけようとしたらメリーの口から可愛らしい喘ぎ声。私の指の動きに合わせて、それをエスカレーションさせるように腰をくねらせて、私の愛撫を待っているのだ。れん、こ……っ:なんて掠れた声で呼びながら切ない目で私を見ているメリー。嫁が……可愛すぎる……!

メリー……んっ……

潤んだ目で見て何も言わずに、もう一度キス、貪るみたいなやつ。こっちからも貪り返して、手では彼女の女の子の部分を愛してあげる。女の子同士は指がセックスだもんね。

腰が動いてるの、メリー、堪らないんだ、もっと欲しがってるんだ。四つん這いのまま上半身だけ覆いかぶさって、腕を回して抱きついてくる。キス。キス。キス。またキス。唾液が甘くて、吐息が切なくて、またキス。

くねり続ける腰を追いかけながら、指の腹で、湿った溝の上でちょこんと自己主張している突起を撫でてあげる。びくっ、と腰が跳ねたけど、すぐに触れた指を追いかけるように迎え腰を差し出してきた。彼女のアソコを潤す蜜を掬って、突起に塗って撫でてあげると、キスどころじゃなくなっちゃったみたい。口を離して、半開きのまま浅い呼吸を繰り返し、目を閉じたまま腰を前後に振って私の手にこすりつけてきた。私の指で、クリオナしている……ううん、私からも触っているから、これはセックス。

れん、こ、れんこっ……

メリー、えっちで可愛いよ

そう言うと、彼女の腰の動きが一層激しくなる。クリに触れるのを指一本の腹から、二本束ねた合間にしてあげる。突起を指の間のスジにハメて前後に撫でたり、たまに挟んであげたり。もうワレメから愛液を掬って補給しなくても、勝手に流れ込んでくるようになった。すごく、溢れてる。

あっ……あんっ……ん、ふ、ぁぁっ……!蓮子、れんこっ……んっ、アッ、アッ、アァぁぁッ❤

私の手を受け入れる彼女の股が、より深く開いていく。膝が耐えられないのか、もしくは脚を開くことで快感がより強く感じられるのか、その両方かもしれない。またを大きく開いて腰を沈めて私の手に擦り付け、一方でその腕を左右から挟んで埋もれさせるほどの巨乳が私の直ぐ側でひしゃげ、デカい乳輪と勃起した乳首が品性下劣な姿を見せているのは、とんでもなく淫靡だ。

そして私の股の間でそんな様子を見ている静しずるくん。膣内でおちんちんがガッチガチに固くなって、お臍の下の内側でゴリゴリに存在感を増している。彼の目線が、私と、メリーを一心不乱に捉えている。私達のレズプレイが、彼のペニスに響いてるみたい。

静しずるくんも、動いて……❤メリーを見て、こんなふうにエッチな腰、して❤

れんこ、これ、ちが……

違わない。メリーのエッチなの、私大好きだよ

〜〜〜〜おっ……あっ、あっ……!

私の声で、彼女の腰が大きく跳ねる。指に広がる汁感が一気に増えて、彼女の口からくぐもった声が聞こえた。上半身が崩れて私の上に乗っかる。

イッちゃった?

私の胸の上で、こく、と熱に浮かされたような表情で頷くメリー。彼女の愛液で濡れた指で彼女の頬をなぞり、唇をよこせと顎を撫でると彼女は素直に口を寄せて舌を出す。その舌を、食んだ。

ん……

ちゅっ……。ふふ、こんなに、濡れちゃって。ほんとに切なかったんだね

答えを聞いているわけじゃない;彼女が開きかけた口に、愛液まみれの指を添えてやる。目を逸らして、頬を染めて、彼女は自分の愛液で濡れた私の指を舐める。指の先、腹、爪の間、指の股、舌を這わせて丁寧に、私の指を掃除する。どうせまた、すぐに濡れちゃうのだけれど。

一頻り私の指を舐め尽くして舌を離した彼女の口をもう一度引き寄せて、キスをした。舌を入れて唾液を注いで、思い切り乱暴に。そしてちらりと、静しずるくんの方を見る。

っ

私の視線に気付いた彼は、慌てて目を逸らした。私とメリーを熱い目線で追いかけていたからだ。取り繕うように視線を彷徨わせる彼に。

ねえ、私達に見とれてないで、動いてってば

は、はい……ぅ、あっ、あ、あっっ……!

メリーと二人で、彼に目線を送る。彼はあっという間に射精してしまった。私とメリーのレズをみてて、よっぽど興奮したらしい。射精で震える腰とペニスを必死にこらえながら、耳まで真っ赤にした可愛らしい顔を後ろめたそうにする。

膣の中に注がれた精液は、驚いたことに始めた頃よりは流石に少ないものの、お腹の中の古い精液を全部洗い流すくらいには、まだまだ大量。これ絶対孕んじゃう……❤

ふふ、射精ちゃったぐらい、なんでもないのに。ね。ほら。またしてよ。私が骨抜きになってぶっとい声で喘いじゃうやつ❤……今度はメリーに見せてあげよ?私がダメになってるとこ

お腹の下にふれて、力を込めてみる。彼のペニスの存在感が強くなった。膣を締めて、下腹部を押して、圧迫が強くなった状態で、静しずるくんを見る。動いて、激しく:呟く。

一方で、私の上に崩れてるメリーの乳房を撫でて、乳輪をなぞって乳首に触れてみる。嫌がっていないのを確認して、もう一度彼女の股の間に手を差し込む。まだ濡れっぱなしのワレメに指で触れて、今度は入れるからね、のメッセージを送ると、メリーは片膝を上げるカタチで股を開いて、それを受け入れた。静しずるくんの目線から私を奪い取るように、キス。腰は波打っている。

入れるね、メリー

もう一回ね、と言い聞かせるみたいにクリを優しく撫でて、そしてもう濡れてほぐれきっているヌメ肉溝に指を埋める。ぬる、にゅる、素直に入る、一本、二本。中指と薬指でしっかりメリーの膣壁を無で回せることを確認したが……彼女はまだ腰を押し出してくねらせている。手マンをねだる仕草かと思ったが、違う。

えっち……❤

メリーの意図を読み取った私は、そう一つだけゆって、人差し指を増やした。メリーは顔を伏せ私の視線から逃げるが、股間は逃げていない。それどころか喜んできゅっ、きゅっと三本束ねた指ちんぽを嬉しそうに締め付けてくる。愛液は増して、指と指の間から垂れてきそうなほど。

れんこっ、れんこっ、もっと……ッ❤

メリーのスキなやつ、シテあげるね

指をくの字に曲げて、裏返った辺りを撫でてあげたり押し込んであげると

ア、ああああああああああああああっっっ❤❤❤そこなのっ、蓮子に開発されたとこっ❤蓮子と付き合う前は知らなかった、一番エッチになるとこッッ❤押してっ、もっと、もっと押して、コスってぇっっ❤

ぶぼっ、ぐぼ、ぶぐぼっ!コリ、グリグリっっぞりぞりぞりぞりっっっッ❤

びゅしっっ、ぶしゅっ

お〜〜〜〜〜〜〜〜っっ❤死ぬ、そこ、ソコ死ぬっ❤きもちよすぎて、しんぢゃうっっ❤❤❤オンッ❤まんこ溶けるっ❤頭まっちろになるぅっ❤❤❤

しょわわわわ……

メリーは私の体にしがみつくみたいにして仰け反りイキを耐えているけど、その分私の腕におしっこをかけてくれた。ひんやりと冷たい中にも冷水じゃない温かさがあり、これがメリーの体温だと思うと嬉しくなってしまう。アンモニア臭はあったけど、それはそれでこんな美少女の汚物だと思うと興奮する。

と、とまんにゃい……っ……っっ

もらしちゃったね……❤メリーのおしっこのにおい……❤

や、やだ……ぁ……❤

顔を隠しながら、ひくっひくっ、と太腿を跳ねさせている。静しずるくんが、驚いたような顔でメリーの股間から流れる弧を見ているが、お腹の中に入っているソレのことは私に筒抜け;メリーの失禁を見ながら静しずるくんは興奮している。私の中でペニスが跳ねて、前後に動きたいのをこらえているつもりみたいだけど少し動いちゃってる。浅い吐息がぴんくになっているのが、解る。

香香瀬織かがせおは失禁なんかしない?めちゃくちゃ見るじゃん。私の中にちんこ突っ込んだままじゃ、全部わかっちゃうんだからね?

えっ……あう……

ほら、かっこいいとこ、見・せ・て❤目の前の女の子をダメにしちゃえ❤

ずく、ずく、と下半身が疼きを増す。静しずるくんのおちんちんのかたちを、膣粘膜だけで舐め回している感触。私の腰も浮いて、彼の肉棒に暴れていいよ、とメッセージを出す。

蓮子、さんっっ……!

ずんっ、と響くようにさえ思える、重たい一撃が、深いところに突き刺さった。長い彼のペニスが、奥に潜んだ深いスポットを押し潰したのだとわかったのは、絶頂に仰け反ったその後だった。

「く、ヒっ……❤おっ?❤ぁ……ぁあ、〜〜〜〜〜〜〜ﮩ٨٨ـﮩﮩ٨ـ❤ﮩ٨ـﮩﮩ٨ﮩ෴ﮩッッッ❤❤❤」

子宮の入り口から百会に向けて一直線に、高圧電流みたいな快感が突き抜けた。彼のペニスの先端がPスポットを押し潰したらしい。子宮の底に女の本能の塊が生まれて爆発する。両脇に備わった卵巣がオスの存在に悦び震えている。痙攣したみたいに膣の中の熱いものを締め付けて愛を訴える肉体、そのうねりが排出する圧倒的な快感、法悦、絶頂。

ビクンっ!ガクッ、ガクッ!びしゅっ

絶頂で勝手に跳ね回る腰、飛沫。不随意の運動でも、その動きが新たな摩擦と圧迫を生み、幸か不幸か、静しずるくんの肉棒の先端を更に強く、奥に押し込んでしまう。ごり、とたった今押し込まれて絶頂したスイッチを、もう一度更に深く。

おンっ❤んぎ、ぃっ❤ダメ、ダメダメっ❤それえっっ、んおぉぉ……ふ、深、ヒぃ……❤静しずるくんっ❤すごい❤ソコ、すごいぃっ❤ゾクゾク、くるっっ❤❤❤

僕……まだっ……

ぱんっ、ぱんぱんぱんぶぷっぱんぱんぱんぶぷっッッ!

肌と肌がぶつかり合う淫らなクラップ音に混じって、マン屁の音が下品に響く。こんな汚い音を、少年に、嫁に聞かせて、自分は快感に踊らされているなんて、なんて最低なのだろう。その事実だけでも膣が締まり上がる。

ンッ❤イイっ❤はげし、つよっ、いッ❤

蓮子さん、蓮子さんっっ❤

ぐりっ、ぐちっ、ぐりぐりっ、ごりゅっ

奥に弱い部分があるというのを彼はもう知っている。頭の良い子だ、あっという間に私のザコ堕ちスイッチを覚えてしまった。自分のおちんちん快楽に夢中になっている最中でさえ的確に私を悶えさせてくる。快楽が骨盤を溶かして、頭の中にかすかに残る理性を溶解させてしまう。メリーが見ているのに、嫁の前だっていうのに、おちんちんに負けて、剰えそのさまを嫁に見られて……見せつけようとしている。腹の底から叩きつけるような重苦しいほどの快感が迫り上がってくる。男だけがくれる、本物の性欲……❤

おーーーーっっ❤❤❤んぃっ、おおっっ……❤❤アっっ❤アぁっ❤んーーーっっ❤❤❤奥スキ❤奥スキ❤奥スキ奥スキ奥スキ奥スキ奥スキスキスキスキスキっっっッ❤❤❤

私の終わらせ方を憶えちゃった静しずるくんが、後はもう自分の射精に向かって上り詰めるだけと言わんばかりに腰を暴れさせる。ガチガチに硬いままのおちんちんが容赦なく私を攻め潰して、お腹の中がアクメでいっぱいになる。液化した絶頂がぶちゅぶちゅ下品な水音を立てて、彼の腰使いで奥に押し込まれたり掻き出されたりして、シーツに汚いシミをぶちまけていく。

喉も緩んで締まらない、可愛い声で喘いでる余裕なんかぶっ飛んで、絶叫しないと快感が逃せなくて狂っちゃいそう。叫ぶ、女の子が出しちゃいけないぶっ太い下品イき声。

んおぉぉ〜〜〜〜❤❤❤イく、イクイクイクイく、イッぐぅ▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/\_〜〜〜っッ❤❤❤おーーーーっっ……んほ、お、オ……ッッ❤❤❤

静しずるくんの腰使いはもっともっと激しくなる、彼もただ射精することしか考えてない、獣みたいによだれを垂らしながら私の牝を貪ってる……牡っ❤

イってるっ❤私イッてるっっ❤もうイッてて、気持ちいの、ツラい、からぁっんおっ……んおオーーーーーーーーっっ❤イ、イく、イき重なっちゃうっ❤野太いイき声でる〜〜〜〜っっ❤

れ、蓮子さん……すご、い……えっち……です

えっぢにしてるのはぁ、静しずるきゅんだよぉっ❤奥っ、奥のとこ、イッグぅっ❤

簡単にイかされる、イきクセ付けられてる……メリーといっしょに開発したところを、静しずるくんに進化させられてる……❤

胸の上に上半身を放り投げたまま、それでも下半身だけをヘコヘコ動かしてピストンを続ける静しずるくん。おっぱいの間に沈んでる可愛い少年をおっぱいでくるんであげる……のとは別に、下半身は簡単にアクメしちゃう。腰の動きだけの簡単な中ホジなのに……ううん、奥じゃなくても、感じやすくなってて……イきやすいっ❤

……蚊帳の外みたいで、さみしいわぁ

メリー?

静しずるくんとのえっちに夢中になっていると、いつの間にかベッドを立っていたメリーが不満そうな声を口にした。彼女は静しずるくんの後ろに立っている。「着替えてきたの」というのは、おもらしをしたからだろうか、でもその姿は着替えてきたというよりも。

ひゃっ……えっ、メリベリーさん、何ですか、それ!?

蓮子とのえっち、お手伝いしようかと思って❤

正常位で私の上に乗っかっている静しずるくんの後ろにピッタリと寄り添って、彼の後ろから腕を回して抱きついている。着替えてきたと言っていたが上半身は裸で、単に濡れたぱんつを脱いできたということだろうか……と思ったところで静しずるくんが変な声を上げた。

ひゃっ、つめた、い

メリーの悪戯だろうか、一体何を?だがすぐに分かった。メリーは手にボトルを持っている。お酒かなと思ったが違った。

ちゃんと濡らしておかないとね

な、ななななんですかそれ、ヌルヌルします……!?

あー……メリー、気早くない?

むしろ盛り上がってる今でしょう?

メリーが手に持っていたのはローションで、静しずるくんが冷たいと言ったのは、それを塗られたからだ。

ちょっ……メリベリーさん、どこ触って……ひゃう!?

力まないでね

着替えてきたというのは、メリーの股間についている玩具のことだった。男がほとんどいなくなった現代に男を懐かしんで、同時に男を形骸化したものとして、受け継がれている玩具。セックスがほぼ女同士の営みになってからは、ポピュラーなアイテムとも言える。つまりペニバン。

メリーは合皮のバンドで組み上げたボンテージライクなパンツに固定された樹脂製の張り型にたっぷりローションを垂らして、静しずるくんのお尻に宛てがった。

えっ!?えっ!?えっえっ!?うああっ!?

はいちからぬいて〜

あああああああああああ!?

ちからぬいてってば。力むと余計に痛いよ?

なななななな何入れて……

おちんちん、の、ニセモノ

ええええええっっっや、ややややめてください、僕一応男なんですけど!?

?……これって男性に使うものでしょう?

メリー、それは偏ってるよ

男にはものをいれる穴なんて―

あるよねぇ?こ・こ❤

ちょっ、と、まっ……ふぎゅっっ!

メリーが静しずるくんのお尻にペニスバンドを押し込んだ。

うわあ、男にペニバン入れるシーンなんて、一生見ることないと思ってたなあ。

男の人って、お尻でするの、好きなんでしょう?

そんなことないですけど!!……おっ……❤

バレバレ〜❤静しずるくんってば、才能ありすぎね……年の功なのかしら。

年とか、関係っ……ああっ!

じゃあなおさら素敵よ。こんな可愛い顔してて、しかもお尻の才能あるなんて

後ろから挿入して結合したまま、メリーは静しずるくんを横向かせて、唇を吸った。

ほら、蓮子に入れてあげて。私も入れてあげるから。穂多留比ほたるび

っ!や、ぁっッ!❤んっ、オあぁっっ!?

びゅーっ!

メリーのおちんちんをケツマンコに迎え入れた状態で私と正常位で繋がっていた静しずるくんは……メリーが少しお尻の穴をホジッただけで射精してしまった。しかも、それは一度に留まらない。

あっ!うあぁぁ……んぎっ……❤ふあ……ふあ、ああぁっっ!?おっ、おっ……❤

すごい、脱力の仕方が素人じゃないわ。

ぢ、ぢりまぜんっ……んほぁ……っッ❤

じゃあ少年クンのホモイきポイント、探ってくわね。

えっ、ホ……んぎっっ!?おっ!?んあ、お、お、ふぎゅッ❤へっ、へっ、へっ、へっ❤ま、まっへくら……っんおッ!?

探っていく、とかいってメリーったらもうガチで掘っちゃってるじゃん……❤

ずぼっ、ずぼっ、ごん、ごんっっごりごりごりっっ!

メリーの腰使いは荒々しくて、静しずるくんが未開発だなんてことは全く考慮に入れていないみたい。

少年クンばっかり蓮子とシて。蓮子は私の旦那様なのよ?あんまり調子にのらないでねっ❤

ごっ、ごべんだだいっ……❤蓮子ひゃんは、メリベリーしゃんの、だんなひゃまなのにっ❤僕が

いや、いいよ。メリー、あんまりいじめないだげてよ

もう。蓮子に言っているのよ?蓮子の一番は、私なんだって、ちゃんと行為で示して、よっ!

ぼすっ!ばすんっ!ずぼっ、ぐぼっ!

んいっ、おおーーーーーﮩ٨ـﮩﮩ٨ـ❤ﮩ٨ـﮩﮩ٨ﮩ෴ﮩっっ!❤❤❤

びくびくびくっ、ぴゅっ、ぴゅるるるっ!

あっ、また膣内っ❤わ、わかってるわよ、メリーの相手はちゃんと一番たくさんするよ❤

それを聞けて安心だわ。……あ、すごい、もうイけちゃった。少年クン、才能の塊〜〜❤

ひへ……な、なんれ、しゃせ……おしりでっ……ぼく……ッ

アハッ、すごい、私が少年クンのお尻掘るたんびに、蓮子の中に精子が注がれてるわ。私の代わりに、蓮子を孕ませてくれるのね。穂多留比ほたるび、可愛いわ

メリーが意地の悪い表情で静しずるくんにキスを押し付けながら、一緒にペニバンで彼の中をホジる。メリーはもう彼の弱点を見つけたんだろうか、それとも彼……どこでもイけるクチ……?

いっ、あやぁっ……❤で、でるの、なんれ……とまらにゃ……か、がせ、ッ❤

エッロい声でてるよ、男の子が出していい声じゃないよそれ❤

あっ、っンし、静しずるくんっ、頑張ってっ!メリーに負けないで、私の中で男の子の威厳、見せてっ!❤……まあ、見せなくても……いいけどっ❤

大丈夫よ。メス男子になったって、ちゃんと管理すれば射精は出来るわ。スイッチが後ろにあるだけ、でしょ?ほらっ❤

はひっ……❤そ、そこっ、そこ、むずむずって……お尻の中から、おちんちんに、ぞわぞわ、クる……っ、からぁっ❤

びゅっ、びゅびゅっっ

静しずるくん、すごいっ!さっきより、固くてっ、はげし、っ❤やんっ、メリーに、イかされちゃうっ❤

ほらほら、男らしいとこ、蓮子に見せてあげて?がつっがつって蓮子の弱いところちゃんと探して

はっ、はへっっ……わ、わかん、にゃ……っ❤おっ、そこっ、そこ、ヘン、ですっっ!だめ、だめ、だめだめだめ❤そこぐりぐりするのだめれすっっっ❤❤❤

ふうん、ここグリグリするのが、イイんだね❤先に私が見つけちゃった、穂多留比ほたるびの、女の子のスイッチ……❤

にゃに、いっへ……おっ❤なん、れひゅ、こ……れ……❤おンっ❤

ぐりっ、ぐりぐりぐりっっ……!

びゅーーーっ、ぶしゅっ、ぶしゃっ

メリーがペニスバンドで静しずるくんのお尻を掘ると、静しずるくんは可愛い声を上げながら私の中に射精した。メリーが掘るたびに、何度でも、何度でも。

お……ッ❤アっ……❤❤❤ま、また、射精……ッ❤

ふうん……。少年クンったら、メススイッチ押されてオスイキしちゃうなんて、贅沢なカラダね。私のペニスバンド代わりになる?蓮子に私が種付けシてるみたいで、最高だわ❤そら、……イきなさい、穂多留比ほたるび❤

ほた、って……ッ……⁄▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿︿╱▔︺\/っっッ❤❤❤

びゅーーっっ!どぷっ、どくっどくどくっ……こぽぽっ……びゅっ、びゅっっっ❤

またすっっごい、射精てる……❤あっつい、ぷるぷるのザーメンゼリー、お腹の中にいっぱい……とぐろ巻いてるよっ❤

ええ、たっぷり出すわよ、蓮子。私の精子、受け取って、孕んでね……旦那様❤

おっ……んほ……っ❤メリーのザーメン大量すぎて、こぽこぽゆってる……❤妊娠するっ❤お嫁さんメリーに種付されちゃったぁ……❤えへへ、これ、幸せかも……男の子とのえっちって、いいものだね……❤

静しずるくんが、私の上に覆いかぶさるように倒れ込む。お尻からペニスバンドが抜ける。メリーがその穴を慈しむように眺めてから指で触れ、そして静しずるくんといっしょに私の上に折り重なる。静しずるくんにちょっかいを出しながら、私に抱きついて来た。私も腕を回し返す。が。

お……おもい……

メリーの乳袋の重量は半端なものではない。スタイルの割に体重が重いのだ。それを言うと怒るのだけど。

そりゃあ、蓮子は旦那様、一家の大黒柱ですもの。重くっても頑張ってね

……おーまじか

中身のない会話は、疲労感の裏返しだった。そりゃああんな大冒険した後で、今度はこんな節操のない3Pに興じたのだ。元気の電池だって切れる。メリーは特に、だ。彼女はそのまますやすやと寝息を立ててしまった。静しずるくんは……自分にあんなことシといてさっさと寝るとか信じられない、という表情をしたけれど、結局疲れてるのはおんなじで。彼も私の上でうつらうつらとして、そのままベッドにスライドして寝落ち。

二人とも寝ちゃったので、私は誰に言い訳する必要もなく、大っぴらに寝られるというわけだ。私もこのまま寝ちゃおうかとも思ったけれど。こういうときに一人だけが起きていると妙に目が冴えるというもので。

……くさいかも

ベッドは、メリーのおしっこの匂いがする。その匂いに包まれながら、睡魔を迎えることにした。

§ リグル §

あー堪能したねえ!

そうね、男の人を間に入れるのって、いいわね❤

え、ぇぇ……女の人、こわ……

堪能した;その言葉に全てがこもっていた。昨日の夜は本当に……ヤりたいこと全部やった気がする。メリーも静しずるくんのこと気に入ってくれたみたいだし、男混ぜて3Pなんて夢みたい。

静しずるくんはなんだかお尻をおさえてるけど、まあ蛍の親玉みたいなものらしいし、お尻は強くしておかないとね。朝起きて、酒の缶で大散乱な上に一晩中あんな行為に耽っていたことを思い出して一番後悔していたのは静しずるくんだった。次はおもらししたメリー。一方で私は。

我が生涯に一片の悔い無し!

さすが蓮子、おめでたいわね……

うう……

流石に三人で、昨日のことは憶えていたとしても積極的に触れるのはナシにしよう、なんて事になった。私は反対したんだけど……プレイ内容が恥ずかしすぎるってことらしい。私が悔いなしと言っているのは勿論プレイ内容も含めてではあるのだけれど、それ以上に、私達三人が恨みつらみなく今回の出来事を振り返えらるかどうかということだ。特に静しずるくん。

その点については、部屋を片付けながら話はしたものの……明確な答えはなかった。当然だ、私のせいで(いやあんまり責任を一人で負いたいとは思っていないけれど、こんなことは……)千年単位の時間の浪費を強いてしまったのだ。その代わり、彼にはエンタングルの閉の可能性を提示できた。もしそれが本当であれば、彼の呪いは解けるかもしれない。あとは香香瀬織かがせおの問題だ。

チェックアウトするよ、忘れ物はない?もうトランスポーター呼ぶけど

ないわ

えー……尊厳、でしょうか……

お尻をさすりながら情けない声を上げる静しずるくん。

安い尊厳ね。男なら〝一皮むけました〟とか言って欲しいわ

主犯格が言うと味わいが違うなあおい

ひんひん……

ホテルの前に伸びた、細くとも管理区画内である道へ出てトランスポーターを呼ぶと、ややしばらく待たされたが目の前に文明の利器たるものが現れる。宇宙船なんか懲り懲りだ。目の前で開かれたドアに乗り込むメリー。そして順番は彼。

なにしてんのほら、ちゃんと詰めれば三人乗れるから。こないだの認証ハックの魔法、またやってよ

ぼうっと突っ立ってる静しずるくん。先に乗り込んだメリーが、三人行けるかしら、と詰めている意図があまり伝わっていない彼は抵抗する。

いや、お二人とも、帰られるんですよね?僕は

そうだよ帰るんだよ。早く乗ってって

いえ、送って貰う必要は

私の家知ってるの?京都だよ?〝特急ひたち〟に乗って、更に乗り継がないと帰れないんだから

……はい?

痺れを切らして静しずるくんの背中を強く押すと、うわ、とトランスポーターの中へ押し込まれた彼がメリーの膝の上に頭を乗っけるように倒れ込んだ。逃さない:その直後に体を滑り込ませて、扉を閉める。

ちょっ、えっ

ほら、あんまり暴れるとポーターの犯罪防止アラームが鳴っちゃうよ、困るでしょ?

身を捩るWriggle静しずるくんをメリーがさり気なく取り押さえている。さすが嫁、以心伝心だわ。顔面の上にあのでっかい乳袋を乗っけられて息苦しそうにしてる。

まあ確かに、順当に考えるのなら、七夕異変が収拾して解散だとなるのなら、彼は元の居場所に帰るという話になる。彼の元々の住まいがどこなのかは知らないけれど、きっと常陸国の中かその周辺なのだろう。でも、私もメリーも、そんなつもりはサラサラなかった。

しばらくはお姉さん達が、ちゃんと養ってあげるから

……へっ?

いやー、これは?責任?っていうか?

キミがこんな状況になっちゃったのは、私達が原因みたいなものだから

あぁ〜、やっぱりメリーも気に入ると思ったんだよねえ。こんな状態の子を、外に放り出すなんて良心が許さないし?

えっ、はいぃ!?って、ちょっ、どこ触ってるんですか!?

骨折り損と言っても過言じゃなかった今回の探検。秘封倶楽部の活動と言うにはスタート地点は別々で、まあレポート次第ではこれもフィールドワークとして綴じてもいいかもしれないけれど、一旦はそういう扱いにはならない。ただただくたびれた旅行、嫁がいなくなったので探しに行った、というカタチ。でも、ただでは起きない。今回の収穫は、この度の冒頭でもう決心した通り……なんて、いや、これはただの成り行きだけれど。

巨大な設置魔術を失敗して根こそぎ力を失った、ほとんどただの子供、静しずるくん。彼に対する償いの様な心持ちだ。

私がいない間、羽伸ばしてたんでしょう?実際、私いない間にどんなことシたの?

色々、したよねぇ?

やっぱり。今度から昨日みたいに私も混ぜてね?

それは静しずるくんのコレに、聞いて❤

ど、どういう流れですか!?ちょっ、むぐ

そんな事言いながらぁ❤静しずるくんってば、メリーのおっぱいに釘付けじゃぁん?

あらぁ、そうなの?

ち、ちがいますけど!こんなふうに乗せられたら、そもそも不可抗力ですって!

無理しなさんなって。やばいよねぇ、メリーのおっぱい。女の私が見ててもムラつくもん

うふふ、じゃあ香香瀬織かがせおとかいう女の子?が見つかるまで、私が代わりにちゃんと可愛がってあげるからね

事態が理解できていない、いや言っている意味はわかっているけど、納得がいっていない。静しずるくんの顔に浮かんだ表情は困惑と……少しの笑顔だった。悪いことには、ならなさそう。ぜひそう願いたい。なんせ彼は……神妖かみさまなんだから。

トランスポーターでどんぶらこと駅前の繁華街までひとっとび。なんでこんなに狭い区画で、あんなにくたびれるような出来事に出くわしてしまったのか、それともそれは私やメリーや■の宿命だったのだろうか。彼はまた原理のわからない個人認証パスをやってのけた。感心しているメリー。今度一緒にこれで中華街まで行こうなんて言っている。

ねえ、静しずるって名前、偽名なんでしょ?そろそろ名前教えてよ

えっ……偽名なの?蓮子が自然に呼んでるから、馴染みすぎてるわよ

私が付けたんじゃないよ

そう、「内藤静しずる」は宿を取ったときに知っただけの仮の名だったはずだ。家出少年……ずいぶん規模のデカい家での計画だったけれど、それはあえなく失敗したのだけれど。

本当の名前なんてありません。僕には親もいませんし、今日の今日まで継続的な人間社会との接続は持っていませんでしたから

でも、ヒトの姿をするようになったんだし、うち来るんでしょ?名前は、ないと不便だよ

別に、内藤静しずるのままでいいですよ。困りませんし。

まあ名前という呪が機能するのなら〝静〟の名前を抱いておくのはいいのかもしれないけど、もっといい名前があるんじゃない?

もっといい名前?

君は始祖とエンタングル閉路だったんだから。つまり、君は始祖を名乗っていいんだ、少なくともここでは。香香瀬織かがせおの願いでもあるんじゃない?

〝始祖〟って名前じゃないですけど

名前を言っていたじゃないか。夜に蠢く者、だっけ。

リグル=ナイトバグですか?

そう〝内藤静しずる〟改め〝リグル=ナイトバグ〟。リグルくん、どう?旅行者っぽいし、メリーの〝少年クン〟よりマシでしょ?

うーん……?

静しずるくん……リグルくんは、複雑な顔でトランスポーターの窓から外へ視線を放り投げ、口の中でその名前を転がしている……まんざらでも、ないみたい。そりゃあそうだ、それが彼の本当の目的だったはずなのだから。

よし、決まり。これから、よろしくね、リグルくん❤

よ……よろしくお願いします……いいのかなあ……

騒動は、一応の集結を見ようとしている。シテは穂多留比しずるくんかメリーか;いずれにせよワキ巫女の宇佐見蓮子わたしは、ちゃんとシテの念慮を晴らすことが出来ただろうか。常陸国で演じられた、これは七夕坂夢幻能。幕は、団円として降ろされただろうか。それがわかるのは……きっともっともっと先のことだ。私が生きている間に結果は出ないかもしれない。今はただ、それぞれがそれぞれの思いのままに、まだ生きている。生きている?生きているのならこれは……現在能なのか?いいや私達は……生きてはいてもきっと、確率と夢幻の幽霊のままなのだ。生きていることと幽霊ではないこととは等しくない:それが世界のまことのあり方だ。合一を求め、別離を礻咒うことこそ幽霊の願いに違いないのだから。

静しずる……リグルくんだって、始祖とやらに会いに行きたかっただけ。香香瀬織かがせおはこの地球に住まう誰か……もしかしたら穂多留比ほたるびに会いたかった。私はメリーに会いたかったし、メリーもきっと私に会いたかったんだと、思っていいんだよね?ベガとアルタイルが出会いを求め合ったみたいに、きっとみんな引力を持っていて、引力に逆らう運命も内包してて、その振幅を受け入れている。そうでなければ世界はきっと失われてしまうと、心のどこかでわかっているのだ。〝合〟だけが望んだアイの実装ではないって。本当のあいが解るまで、私達はきっと、ずっと、求めているのに別れを望んでしまう。世界を滅ぼしてだって一つになりたいっていう切実な祈りが、でも世界を振幅させて、絶対安定の底に終わらせない。

七夕。みんな、誰かに会いたかっただけなのだ。